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11・ママ友をやめてご近所さんに戻ると決意する


夫は自室に行ったまま出てこない。

結局その日はそのまま終わった…。


考えるって、一体何を考えるんだろう?

そんなに時間かかるかなぁ?




今まで家庭に背を向けてゲーム三昧だった人に。

どうして家族が必要なの??


困っている妻を更にドン底に突き落とす人が。

夫として何を悩むの??




離婚を決心して夫に切り出した私は。


すごーーーく、すっきりしていた。


どうにか関係を維持しようと、ぐだぐだ悩んで努力している間のほうがつらかった。




んで。

翌日も返事を待ったが、音沙汰なし。


・・・もしかして。

このままフェードアウトして誤魔化す気、なの!?




★親になっても、大人になっても


夫と衝突した翌々日は、朝から雨だった。

昼過ぎから次第に晴れ間が広がり、いつものママ友が集まる時間になった。


また外で声がしはじめた。


(あんまり顔を合わせたくないな…。)


もう。

反射的にそう思ってしまう。




ほんの数週間前なのに。

仲が良かった日々が遠い昔の出来事に感じる。




ひらりがご近所さんの声を耳にして、窓から外を覗いている。


お外に出たいみたい…。


午前中が雨で外出していなかったのを思い出す。


(仕方ない、行くか!)




ひらりと手をつなぐ。


私は意を決して玄関をでた。




玄関を出ると。

いつものように三津屋さんと堀内さんがお喋りをしていた。

「えーーーっ!」とか「またぁーーー!(笑)」とか、黄色い声をあげてはしゃいでいる。


桃亜ちゃんは、三津屋家の玄関先でシャベルを持って遊んでいた。

斗輝くんはおんぶされて寝ているようだ。




「こんにちは~」


できるだけ明るく声をかけてみた。




返事はない。

2人は楽しそうに会話を続けている。


(あれ…?聞こえなかったかな?)




ひらりと手をつないだまま、もう少し近づく。


「こんにちはー!」


さっきよりも大きな声で。




一瞬。

ほんの一瞬だけ、堀内さんと目が合った。


気付いてないハズがない。

2人の視界にも入っている。




それなのに・・・。


更に声のトーンを上げて、三津屋さんと堀内さんはお喋りし続けた。


「そういえばさー、昨日○○が出てる番組みたぁ?」


「みたみた!ずっと○○のファンでさ。超かっこよかった~!」




そうか。

もう挨拶もしませんってことなんだ。




・・・あぁ、この感じ。

なつかしいなぁ。

と思った。




あれだ、あれ。

小学校時代のいじめ。




空気の濁った教室の様子。

子どもなのにオバサンみたいな顔をした意地悪いクラスメイトの姿。

それらが私の脳裏に生々しく浮かんできた。




大人になってから、再びこんな体験をするなんて思ってもみなかった。


ましてや三津屋さんも堀内さんも、子どもの親。




こんな姿を子どもに見せられるの?

そんなことやってて、親として胸を張れるの?




それに加えて、私たちはこの住宅街のご近所同士。

簡単に引っ越しもできない状況で、これから何十年もご近所として住み続けるのに。




無視。悪口。仲間外れ。




大人になってまで「いじめ」に興じるんだ。


その事実を目の当たりにした私は、嫌悪感で胸が重くなった。




★子どもを無視して足蹴にする


そんな私とママ友2人の様子には全く気が付いていない、ひらり。


まだ2歳のひらりにしてみたら。

ママ友関係が悪化した今でも、三津屋さんと堀内さんを変わらず「仲の良い大人」だと認識していたのだろう。




私とつないでいた手をするりとほどいて。

ひらりはトコトコ駆け出した。


三津屋さんと堀内さんに向かって。


その距離、約2メートル。




「もあしゃんまま~~~~」


そう言って、ひらりは走って近づき。

三津屋さんの膝のあたりに触れた。




すると三津屋さんはチラリとひらりを見た後。

視線を堀内さんに戻して気がつかないふりをして。

お喋りを続行したのだ。




そう。

三津屋さんはひらりを無視した。




まだ2歳の子どもを。

自分の子と、同じ歳の子どもを。


無視した。




そして次の瞬間。




三津屋さんは面倒臭そうに足を横にスッと動かして。

その足でひらりを払って足蹴にしたのだ!!!




まだ2歳のひらりは、きょとんとした顔のまま体勢を崩し、三津屋さんの足元で「トスン」と尻もちをついた。


三津屋さんは。

ためらう事なく。

まだほんの2歳のひらりを足蹴にした。




尻もちをついたひらりに。

ママ友2人は目もくれない。


彼女たちは「何事もありませんでした」と言わんばかりに、キャッキャとお喋りし続ける。




し、信じられない・・・!


あり得ない・・・!!


尋常じゃない。

これは。

これは異常だ!


頭の中でカンカンカンカンと警鐘が鳴り響く。




私の事が気に入らなくて「無視」ならまだ分かる。


でも子どもまで巻き込む??


相手は2歳だよ??


坊主憎けりゃ袈裟まで憎いってやつ??




だめだ、だめだ。


この人たちと何とか関係を保とうと思ってたけど。

それはだめだ。


尻もちをついたひらりに、すぐさま駆け寄り、抱き上げる。




立ち上がりながら三津屋さんと堀内さんを見上げたら。

2人とも(ニタァ…)というドス黒い笑みを浮かべていた。




胸がドキドキする。

それでもって気持ちが悪い。


怒りなのか、戸惑いなのか、悲しみなのか、驚きなのか。

色々な感情が溢れ過ぎてて、もう分からない。


ひらりを抱いたまま、私は急いで家に戻る。




この人達と・・・。

この人達とお付き合いしてたらいけない。




キッチンに寄りかかりながら。

私はグイッと1杯、水を飲む。




少しだけ落ち着いた。


これまでの事が頭に浮かぶ。




ママ友だなんて思って、浮かれていた自分が情けない。


色々な胸の内を語ったあの日々が、今は悪夢でしかない。




怖い。

本当に怖い。




・・・・。


ただのご近所さんに戻ろう。

ただのご近所さんに戻るんだ!


私はそう固く決意した。




★夫の歩み寄り


その日の夜、夫から話がしたいと声をかけられた。

「考えさせてくれ」の答えが決まったらしい。


ひらりを寝かせてから、時間をとることにした。




まだ2歳とはいえ、夫婦がこじれてゆくのを見せたくない。


離婚届にサインしてくれるのか、それとも仕事をやめて主夫になるのか、私はリビングで夫の返答を待った。




だけど。

夫の話は予想外の内容だった。


目に少しの涙を浮かべながら、緊張した面持ちの夫。

心なしか手も震えてる?


こんな夫、見たことない。




夫は意を決して、この数日間考えたことを話し始めた。


内容はこうだ。




家族に対しておざなりで、気持ちが足りていなかったことに気が付いた。

今までの行いを後悔している。

家事・育児をしてくれるお前に、感謝の気持ちが足りなかった。

父親として、ひらりともっと関わるべきだった。




この辺までは、まぁ言ってくるかもと思っていた。


でも次の言葉が私には驚きだった。




「ご近所さんとのトラブル。もとはと言えば、俺がいけなかったよな。俺が家庭を大事にしてれば、お前達を守れた。ママ友にのめり込むような事にはならなかったはずだ。」




俺に責任がある。

同じ間違いは起こさない。

もう一度チャンスをくれ。


あの夫がそう言った。




・・・そう。

そこまで考えてくれたんだ。


そう思ったら、私の冷えきった心も。

ほんの少しだけ暖かくなった。

鼻の奥がツンとして。

ほんのちょっとだけ、感動してしまった。




ここで「あなた!」「お前!」って盛り上がったら美しいのかもしれないけど。


私は正直なのでね。




出産してから2年間放置の黒歴史は、確実に私たち夫婦の間にあるわけで。


夫がここまで言ってくれて嬉しい反面、どこまで本気かと信じきれない自分もいた。




そしてこんな提案もあった。


近くの公園、近所のスーパー、近くの支援センター。

行動範囲が狭いのも問題ではないか、と夫が指摘した。




ひらりを連れてもう少し遠出したらどうか。

行動範囲を広げて、もっと楽しい毎日を過ごしたらどうか。


「だから車をもう1台買おうと思うんだ。お前は免許持ってるだろ。子連れの移動なら、電車やバスより車の方が便利だし。」




そう。

私とひらりのために「車を買おう」と提案してくれたのだ。




そこまで考えてくれたなんて。

まるで出産前の夫に戻ったみたいだ。




確かに、車があればご近所さんと顔を合わせる機会も減る。


また別の人間関係もできるだろうし。

ひらりと今までにない新しい経験ができるだろう。




この提案はありがたかった。


素直に。

素直に夫に感謝した。


「ありがとう。そこまで考えてくれて。」




ママ友と距離を置こうと決めたその日。


ママ友とは心が離れて、逆に夫との距離は縮まった。


離婚届まで書いてたのに。




人生って不思議だ。




ママ友トラブルがきっかけで衝突し、崩壊寸前だった私たち夫婦。

そのママ友トラブルのおかげで、私たち夫婦はまたやり直すことになった。




ひらりを産んで2年半。


2年半かかってやっと。

私たちは、家族としてはじめの一歩を踏み出すことができたと感じた。


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