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ジビエ会ご一行第一村人を発見する

「塩が心もとない」


肉や魚を燻製液につけていた乳木の言葉に皆が顔をしかめる。

水もだが塩がないのも死活問題だ。

今拠点にしている小屋は何度も運び込むのが面倒、という理由で長期保存可能な調味料は一度に多めに持ち込んでいる。

ただ、良く食う男五人の胃袋を補う、となると甘く見積もっても、二か月持てばいい方だろう。


「町が近くにあれば買えるんだろうが、あるのか?」


「わからん。俺らはこの周辺だけしか動いてないし、地図もないからなぁ」


そもそも町があるかどうかも怪しい。それ以前にファンタジーの世界なのだ。下手すると町があっても人間以外の町かもしれない

それでも塩が無いのは痛い。


「保存食もある程度できたし、登ってみるか」


猪野の声に頷く。山の上から見れば町の痕跡や道くらいは分かるかもしれない。


「そうだな。何も見つからなかったら一度小屋に帰って考えよう」


ここ数日は近場で肉と魚の確保に費やしていた。

節約しながら登れば小屋に戻ってくることも考えても四日は持つだろう。


その日は味見も兼ねて干物で食事を終え、早々に眠りについた。

干物は一夜干しだったためか、身がふっくらしていてとても美味しかった。


日が昇ると同時に目が覚める。皆もそうらしい。各々起き出して顔を洗い、畑山が作った小麦で焼いた硬いパンをかじりながら山登りの準備をしていく。

水と食事を手分けして運べるように分け、寝袋や上着、使えるかどうか分からないがコンパスなんかをリュックに詰めた。


「じゃあ行くか」

「おう!」


小屋に一応鍵をかけて全員で山へ登り始めた。


上に上に足を進めながら、広畑が茸やら何やらを軽く採集していく。食えるものをある程度確保しておこうという姿勢はありがたい。


「んん~?」


広畑の声に皆の足が止まる。


「どうした?」


「いや、この間からもしかしてと思ってたんだが、間伐されてるっぽいな、ここ」


皆の目が見開かれる。間伐されているならば、この森を管理している人間がいるはずだ。人でなくても間伐する知識がある生き物がいる可能性がある。

それはイコール、なんらかの町なり村があるということになる。


「よし、早く登ろう」


人がいる可能性に皆の足が軽くなる。目印をつけるのを忘れず、スピードを上げて登っていった。


二度、休憩を取ってそれでも昼前までには山頂にたどり着いた。

それほど高くない山ではあったが、思ったよりも良いスピードで進めていたようだ。

ぐるりと辺りを見渡す。山の畝、川のそばに屋根のようなものが見えた。

昼時だからか細い煙も上がっている。


「あそこに行ってみるか」


方角を確かめるべく、コンパスを出すが針の動きは安定せず大して役には立たない。

それでも川の側というのも言うのは分かった。

方角を全員で確認して、まずは昼飯だと食材を取り出す。

広畑のとってきたヒラタケに似た茸を一口サイズに裂いて、同じく一口サイズにした干物と一緒に飯盒にいれた米の上に乗せる。水を入れて焚火の上で炊いてく。

その側では猪野が取ってきた肉を味噌漬けにしたものをさっと水で洗って串にさして炙り始める。

飯盒の隣にポットを置いてドクダミに似た葉で作った茶を沸かした。

早々に沸いた茶を飲みながら肉を回転させる。

良い香りが辺りに満ちてぐうと腹が鳴った。


茶を飲み肉を食い、炊けたご飯をとりわけ始めたところで、背後の森がいきなり騒がしくなった。

人の声、しかも子供の悲鳴のようなものが聞こえる。


「猪野! あっちだ!」

「おう!」


猪野がライフルを片手に立ちあがる。音に関してはソナーの能力を手に入れたせいか、俺が一番正確な音の発生源を特定することができた。

音は正確にこちらに向かってきている。しかも人の声に混じって大型の獣の足音がした。


「広畑、例の罠お願いできるか!」

「わかった!」


音で位置を追いながら広畑と猪野に指示を出す。


「もうすぐ人がこっちに来る! そいつが出てきたらすぐに広畑頼む!」


広畑は植物の成長を操れる。それはそのまま、獣の足元に突然段差を作ることができると言うことだ。


「うあああああ!!!! たすけてえええええ!」


子供特有の高い声と共にうっそうとした林を抜けて、小さな影が躍り出る。同時にその背後からイノブタに似た、けれど、大きさは何倍も大きい獣が現れた。


「ブギッ!?」


その獣が前のめりに倒れる。広畑の作った草の隆起に足を取られたらしい。同時にその額、ちょうど眉間に鈍い音と共に穴が開いた。

さすが猪野。タイミングを逃さずしっかりと仕留めてくれた。


「大丈夫?」


昆野が倒れている人影に声をかける。その手には冬虫夏草もどきとよもぎもどきから作った、傷薬が握られていた。

試しに作ったものだが良く効く。かすり傷程度なら塗っただけで跡形もなく消えてしまう、まさにファンタジーの傷薬だ。


「あ、ありがと、ございます……っ」


声をかけた子どもは荒い息を繰り返しているが、大きなけがはないらしい。

水を渡してやればごくごくと音を立てて飲み干した。

12、3歳くらいだろうか。質素な服に身を包んだ男の子の頭には、獣の耳が生え、その肌は毛皮のようなもので覆われていた。


昆野がその子を抱え起こしてやって介抱し始めたのを横目に確認して、猪豚のようなものの血抜きを始めている猪野の側に向かう。


「なあ、あの子」

「耳、あったなぁ」

「どうするよ」


いよいよファンタジーじみてきた状況に不安以上にワクワクが止まらない。それは猪野も同じらしい。


「あの子に事情話して、こいつを土産に塩もらうか」


にやりと猪野が笑う。放血用のナイフを持っているせいでえらく凶悪に見えたが、心底楽しそうな笑顔に同じように笑い返した。

評価もいただいていたようで、ありがとうございます。

とても嬉しいです。

のんびり書いていくのでお付き合いいただければ幸いです。

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