ジビエ会ご一行能力の可能性を知る
「こいつ、試してみていいか?」
昆野が持ち上げたのはアリによく似た、腹部だけが透明な虫だった。
「いいけど、食い方わかるのか?」
「似たアリなら食ったことがある。ミツツボアリって言う腹に蜜を溜め込むアリだ。カードを見る限りこいつも特性はそうらしい」
拳大に膨らんだ腹は確かにたっぷりと液体で満たされている。どうやって食うのか、と思っていれば、昆野はナイフでその腹だけをアリから切り取った。
途端に皿の上にとろみのある液体が溢れ出す。
ふわ、と立ち上るのは蜂蜜に似た甘い匂いだ。
手近なスプーンを取り、昆野がその液体をすくって口に運んだ。
「あ、うまい」
蜂蜜に似た外見同様、味も似た感じだったらしい。ただ、と昆野が続ける。
「かすかに酸味がある。なんか発酵してる可能性があるな」
発酵という言葉に乳木が反応した。
「蜂蜜に味が近いなら酵母によるアルコール発酵かな? 見せて」
乳木が皿を引き寄せると同時にチカっと光が現れる。カードが出た時の特徴だ。
「っ!」
話には聞いていたが初めて見るカードに乳木が目を見開く。皿の上を何度も確認した後、それはもう満面の笑みを浮かべた。
「これか! 便利だな!! 何の菌で発酵してるのか、おおざっぱに分かる!! 発酵か腐敗かの判断がしやすい!」
めちゃくちゃに興奮しているのが分かる。カードが見えるのは確かになんかのゲーム画面ぽくて興奮する。が。
「腹減ったし、まずは昼飯を作るぞ。蜂蜜があるなら保存食作りも捗る。とりあえず残った肉を腐らさんうちに燻製にでもしよう」
猪野の声に頷いて全員で食事と保存食作りに取り掛かった。
料理を作りながら乳木が発見したのだが、どうやら、乳木は菌をある程度自分の意志で管理ができるらしい。
というのも、さっきのアリの蜜を見てぼんやりと
「ああ、これもう少し菌が活発に動いてくれたらミードになるのになぁ」
と思ったら、いきなりカードに変化があり、名称と説明が
「アリの蜜。一部がアルコール発酵しつつある」
から
「ミード。アリの蜜から出来た酒」
に変わったらしい。
全員で味見してみたが、アルコール度数は低いが酒の味に変わっていた。
それを飲みながら、料理をつまむ。
やはりジビエは酒にあう。軽く塩コショウをして焼いただけの鹿肉だが熟成が進んだのか、昨日のシチューよりも美味く感じる。
「しかし、一気に酒になったってことは菌を操れるってことか」
「多分ね。まあでも便利な能力だと思う。こういう生水あるだろ?」
乳木が持ち出したのは川から汲んできた煮沸もまだしていない水だ。
「僕が見る限り、ある程度の雑菌は見える。身体に害はないけどね。それでもさっきと同じように念じれば」
水が薄く発光する。発光と言ってもごくごく弱い光だから目を凝らさないと見えない程だ。
「無菌化できる」
ちゃぷんと音を立てる水はさっきと変わりない。それでも蜜を酒に変えた乳木が言うのなら本当なのだろう。
「サバイバル向け過ぎるだろう」
「お前の能力最高だな」
口々に褒めれば照れ臭そうに乳木が笑う。まあでも皆本音だというのは伝わっているらしい。
皆、それなりに水の大事さと雑菌の強さは知っている。だからこそ乳木の能力の尊さは良くわかっていた。
「水と食料の管理は任せてくれ」
そう言う乳木に全員でお願いします、と頭を下げた。
「ところで」
食事が一段落着いたところで全員に声をかける。
「カードの出現はそれぞれの得意分野に偏ってるってのは分かった。でもって、乳木に至っては得意分野の能力をある程度自由に操れるってのも分かった」
「おう。ありがたい話だな」
猪野の相槌に頷きながら、ある可能性を口にした。
「ってことはだ。俺らも、なんか操れる能力があるんじゃないか?」
皆がハッとした顔をする。
それはそうだ。全員が全員カードが見れる。そこから一歩進んで乳木は能力が現れた。ということは、全員条件は同じだ。得意分野ならば、何らかの能力があってもおかしくはない。
「……試す必要があるな」
広畑の声に全員で頷く。
この後は各自、食料の確保をしつつ、能力を確認しようと決めた。






