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ジビエ会ご一行自分の能力の一端を知る

朝食を食べながら皆で今分かっていることを整理する。

元々、別荘というほど大きくはない小屋ではあるが、悪天候で山から下りられなくなった時の備えとしていくらかの備蓄食と水、ガスコンロはある。

電気と水道は死んでいたが、数日は何とかなるだろう。

持っていた携帯は電波が入らない上に、地図も起動しない。充電を節約したところで数日もしないうちにただの棒になるのは目に見えていた。


「とりあえずは水の確保を優先、その後にこの辺りの調査だな」


猪野の言葉に頷く。食料はともかく、水はなくなると危ない。そして、現在地が分からない以上、下手に動くのは得策ではないだろう。


「外に出るなら二人一組にして出るべきだな」


そう言って猪野が取り出したのは小さめのサバイバルナイフだ。


「木を折る、もしくは傷つけてこの小屋に戻ってこれるようにした方がいい」


山に入りなれているとはいえ、初めての場所だ。迷子対策は必要だ。

相談しながらいくつかの装備を整えて、小屋に乳木を連絡係に残して二組に分かれて昼には一度戻ってくる約束をして小屋を出た。


俺とバディになったのは昆野だ。

元々昆虫採集で頻繁に山に入っている昆野はこういう時、とても役に立つ。今も枝を折って目印を作りながら地面に目を向けていた。


「アリでもいればその巣の場所から水を見つけられたりするんだけど、見たことない虫ばっかなんだよなぁ」


ひょい、と昆野が持ち上げたのはアリによく似ているが、大きさと色が見たこともないアリっぽい何かだった。威嚇しているのか前足を大きく広げたそいつは、なぜか全体的に赤色をしていて腹だけが透明で十五センチはあるように見える。


「海外のアリでもこの大きさはないぞ。新種か? ああー……詳細が知りたい!」


その途端、昆野の手の上で何かがキラリと光った。


「へ?」


同時に昆野が目を見開く。


「どうした?」


慌てて近寄るが、光ったものの正体は分からない。混野は光った辺りを凝視した後、更に大きく目を見開いた。


「こいつ、アリじゃないっぽい……」

「なんでわかるんだ?」

「なんか情報が、こう、ポップアップ? してきた」


訳が分からない昆野の話を整理するとこういうことらしい。


この虫を詳しく知りたい、と好奇心から強く願うと同時に、虫の隣に情報を書いたカードのようなものが現れたらしい。

カードには種族名らしきものと特性、何故か可食の有無も書いてあったらしい。

俺にもできるかと思って試したが、カードのようなものは見えない。

虫以外にも出るのかと思ったが、カードが見えたという昆野も植物や鳥なんかには一切カードは出現しないようだった。

その代わり、虫には知りたいと思えばことごとくカードが現れ、ありがたいことにそのうちの一匹が水場付近に巣を作るタイプだと分かった。


「幻覚かもしれない」

「まあ、ついていってみようぜ」


水場に巣を作るオケラのような虫の後をついていく。ちゃんと迷わないよう目印もつけながらだ。

そう歩かないうちにザアアア、という水音がし始め、水の匂いと湿度が感じられるようになる。

焦らないように歩いていれば、いきなり視界が開け、大きな川が目の前に現れた。


「まじか」

「幻覚じゃなかったのか、あのカード」


恐る恐る川に近づいて水に手を付ける。幻覚ではなくちゃんと手は冷えた水の温度を伝えてくる。

携帯してきた空のペットボトルに二人で水を詰める。ペットボトルを持ち上げて日に透かす。特段、妙なものは浮いていないが、帰って煮沸はした方がいいだろう。


「おっ!」


浅瀬にきらりと光るものが目に入る。日光を反射しながら動くそれは、魚だった。

素早く手を伸ばしてその魚を鷲掴みにする。持ち上げたそれは鮎に似ていたが、体の形はともかく体色が違う。鮎より大分黒っぽい。


「なんだこいつ」


そう口に出した途端、魚の隣にカードのようなものがいきなり現れた。


「は?」


出現したカードには


名:苔魚

特徴:川の浅瀬に住む。苔を主食にしており、動きは鈍く捕まえやすい。非常に繁殖力が強い。

可食:可。毒はないが独特の臭みがある。


と書かれていた。


こちらの様子に昆野もカードが現れたのを悟ったらしい。


「な? 言った通りだろ」

「……おう。こんな風に見えるんだな」


便利なもんだと思いはするが、なぜいきなりこんなものが見えるようになったのだろうか。

昆野と二人で不思議だ、不思議だ、と言い合いながらとりあえず小屋に戻る。

他の連中も同じようにカードが現れたかどうか、確認するために。



結果から言えば、他の連中も同じようにカードが見えたやつがいた。

そしてカードが出るものに関しては個人個人で違っていた。

俺は魚、昆野は虫だったが、畑山は植物全般、猪野は獣全般に出たらしい。どうやら仕事で扱っていたものに関して出るようだった。


「見えてないのは俺だけかよぉ」


乳木が持って帰った水を煮沸しながら悔しそうに零すが、こいつもそのうち、発酵食品関係なら見れるようになるんじゃないだろうか。


「水と食料はなんとかなりそうだな」


沸かした水で茶を入れて一息つく。

このカードが見える能力があれば、確かに食事には困らない。ありがたい話だが、食事の心配がなくなると今の自分たちがどこに居るのか俄然気になってくる。


「保存食をいくらか作って山を登ってみるか」


猪野の言葉に頷いて、さてまずは昼飯を作るか、と腰を上げた。

主人公で漁師:船戸ふなと

昆虫食職人:昆野こんの

猟師兼食肉解体業:猪野いの

発酵食品職人:乳木ちぎ

農家兼野草食職人:広畑ひろはた

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