第2話 「面白いもん見っけ♪」
舗装された道ではのどかな空気が流れている。
遠くで川の流れる音や鳥の囀りも聞こえる。暖かな気持ち良い風が草木に活力を与え、静かに音による歌を奏でている。
そんな道の横にある森で歩いている男が1人。
……やらかした………
あれから1週間と2日経った。
意気揚々と国を出たのは良かったが…迷った……
舗装された道もあったが、お尋ね者に恐らくなっている以上、隠れて行かなければならない。そのことを考え、森の中を歩いて行くしかないと思い入ったが、一向に森を抜ける様子がない。
よくよく考えたら、この世界の事何も知らねぇ。殺す前に情報吐かせるなり、あのメイドさん達に聞くなりすれば良かった。
そこまで考えられなかったなんて……幾ら何でも楽しみ過ぎたなぁ。
最初の内は景色や魔物?で楽しんでいたので気にしてなかったが、今は早く町や村に行きたい。さすがに味無しの肉や魚は堪える。しっかりと味の付いた美味いメシが食いたい。
一応、爪や牙、皮を取ってある。金になるかもしれないからだ。
それにしても…最後のナイフも壊れちまったなぁ…
壊れる前に弓と矢11本作れたのは良かった。……もう無くなったが。
4日前から森の中素手でサバイバル生活だ。
素手で狩りは問題ないが、解体が問題だ。この辺の石は丸っこいのしかない。必然的に手や歯で千切るしかない。これだと雑だし、菌による病気になるかもしれない。まぁ、今の所そんな感じの前兆はないけど。
魔物みたいな奴はビジュアルがとても面白い。目が3つ、角が大小異なる2本ある巨熊や背中から鋭い尻尾を生やした2メートルぐらいある蜂、子猫ぐらいの大きさで火を吹く緑色の集団ドラゴン、人の顔と手を持つ高層ビルぐらいの大きさのムカデなどなど様々だ。
知能も少しあり、戦闘方法も変わっていてちっとも飽きない。強い人間だけではなく、魔物もいるかの情報も欲しいな。
しばらく歩くと森を抜ける。
眼前に広がるのは壁だ。円形に守るよう、高い壁が目に飛び込む。
中から賑やかな声が聞こえる。街に着いたみたいだ。
「…………やっと着いた…」
街だ。テンション上がる。長かった…
もう夕方か?そこは変わらないんだな…
とりあえず…
「金と念願のメシだ。」
意気揚々と気分良く門へと向かう。
すると…
?「待て!!!」
鎧を着た騎士のような出で立ちの男に止められる。人数は2人。どうやら門番のようだ。2人は睨みつけ、品定めをするかのように見ながら、近づいてくる。
門A「この辺りじゃ見ない顔だな。何処から来た?」
門B「……その服装は東の国[シヴル]に少し似てるな。」
門A「あのクッソ遠いとこか?!」
黒のTシャツに黒のズボンという出で立ちだが、水場で洗濯したりしていたので血はほとんど消えてる。変に怪しまれないだろう。
情報が限られているが、シヴルという国の人間に似ているという情報はかなり有難い。
…さて……こういう趣向でいってみるか。
「……実は森の中で目を覚ましまして…どうやら記憶を無くしてしまったみたいなんです。」
さぁ、これでどう出る?
門A「!?………そうだったのか。それは大変だったな。」
門B「ダリル…多分こいつ魔物に襲われて……」
ダリル「あぁ、そうとしか考えられないだろう。」
上手くいったな。良きかな良きかな。
門B「不躾な態度すまなかった。前に盗賊が街に入ろうとした事があったから警戒してしまった。俺の名はルフス。こいつはダリルだ。」
ダリル「悪かった。そして、ようこそ。[コルトス]へ。よく無事で来られた。」
「ありがとう。いやぁ〜、俺もよく着けたよ。」
ルフス「本当だよ。よく死なずに済んだ。して、それは魔物の素材かい??」
「そうだ。目が覚めたら目の前にあった。分からないが、恐らく自分のだろうと思って持ってきた。」
ダリル「そうか。良かったら、宿まで送るが、どうだろう?」
「迷惑でなければ、宜しく頼む。済まないが、ついでに常識も教えてくれないか?不便にならない程度で。」
ダリル「構わんぞ。じゃ、ルフス、ちょっと行ってくるから暫くは頼んだぞ。」
ルフス「はいはい。行ってらっしゃい。」
予想通り記憶喪失のおかげで違和感なく情報を聞き出せる。旅をするにしろ、最低限は知っておきたい。特に!食いもんの値段と地形、あわよくば強い奴の場所!これ、すごく大事。
宿屋の一室。
中は木造の質素な感じでベットとタンス、コンセントの無いボタン式のランタンがある。因みに押すとちゃんと光る。電池式みたいなオチかと思い、探したが、特に入れたりするような開閉部分は無かった。
取り敢えず部屋が取れた。
ベットに横になる。
常識を教えて貰いつつ、ひとしきり街を案内して貰って、宿屋の入り口で別れた。特に金銭に関してかなり強く教えても貰ったのは有難い。
価値が低い順に銅→銀→金→プラチナ。銅100枚で銀1枚、銀100枚で金1枚、金100枚でプラチナ1枚らしい。安い宿屋は朝食無し1泊で銅が10〜15枚ぐらい、朝食付きでプラス3枚ぐらい。
他にも色々明確な価格を教えて貰った。これなら多少生計が立てられる。
宿に着く前に魔物の素材を売った。危険度が中の下といったところで一つ一つがそれ程高くは無かったのだが、中堅者なら未だしも、初心者ではまず無理という事で驚かれた。腕が立つんだなと言われた。あれで強いとか言われたら、萎えてたが良かった良かった。
売った合計が銅86枚。宿屋の2泊分(朝食付き)を差し引いて現在57枚(宿屋のおばちゃんが1枚負けてくれた)。
「…さて……金銭的問題があるが、それよりもメシだ!」
ベットから立ち上がり、足早に部屋を出る。
受付のところで声を掛けられる。
「あら、お出かけかい??」
宿屋のおばちゃんだ。優しそうな笑顔を振りまく、ちょっと…ぽっこりお腹のふくよかな方だ。偏見かもしれないが、腕力がありそうなぐらい腕がぶっとい。
「えぇ…軽く街を回りながら夕食探しをと思いましてね。」
「そうかい。夜は危ない連中がよくウロつくから気を付けるんだよ!」
「ありがとうございます、お姉さん。」
その言葉を聞き、顔を赤く染め、明らかに上機嫌になる。
「良しなよ!あたしゃ、そう呼ばれる歳じゃないよ?あたしの事はマリーさんって呼んでおくれ!」
「そうですか。では、マリーさん。行ってきます。」
マリー「はいよー!行ってらっしゃい!!本当に気を付けるんだよー!」
おばちゃんの威勢の良い声を背中から感じながら宿の外に出る。
店の前で顎に手をやり、考えている男がいる。
あれから色々廻り、聞き込みをして夕食場所を決めた。肉料理がオススメらしい。店の名前は…りゅむゅ……なんちゃらだ。……名前なんてどうでもいいか。
美味いもん食えりゃ何でも良い。
中に入る。
中はとても騒がしく、繁盛しているのが分かる。従業員が忙しなく飲み物や食べ物を運ぶ。
「いらっしゃいませー!!」
元気な営業挨拶と笑顔をもらう。
なるほど。一人一人のレベルは高そうだ。良い店だ。
空いている席に座る。
エプロンをした制服姿の若い女が近付き、水の入ったコップを置く。
「御注文は如何致しますか?」
一応メニューらしきものがあるが……読めない。
指輪のおかげで言語は分かるが、この世界の文字が読めない。まぁ、恐らく重要書類を読まれたりしたくないからそうしたのだろう。
「…そうだな……オススメを頼む。大盛りで。」
「かしこまりました!時間掛かりますので、申し訳御座いませんが、少々お待ち下さい!」
笑顔でそう言い、足早にキッチンに行く。
15分ぐらい待っただろうか。
巨大な肉料理と形と色が見たことない米が運ばれてきた。
「お待たせ致しました!」
米は薄茶色で六角形の形をしている。肉は5種類の肉がある事が分かり、香ばしい匂いが鼻を刺激する。シンプルに焼いたり、煮込んだりしたやつで、上から茶色のソースがかかっている。
「ごゆっくりどうぞ!!」
自然と唾液が分泌されているのが感じる。
「ではでは…」
実食だ。
……なんだこれは??
めちゃくちゃ美味いじゃないか!
口に入れた途端、口の中で味が広がる。焼いた肉はしっかりとした歯応えで、煮込んだ肉は柔らかくて口の中で溶ける。何の肉かは分からないが、一種類毎に味が違い、飽きない。さらにまた、米が合う。見た目は違うが日本の美味い米とあまり変わらない。柔らかくなく、少し硬めなのが良い。自分は少し硬めぐらいのが好きだからちょうど良い。
「最高だな」
ゆっくりと味を味わいながら完食する。
店を出た。
良い店だった。高級店ではないのにも関わらず、従業員の質が高いだけでなく、料理の味も良かった。あれだけ食ったのに値段も安く、日本じゃ考えられないものだ。
また来てぇなぁ。
宿へと向けて、歩き始める。
今日は気分が良い。
なるべく遠回りで、人通りが少ない裏路地を使う。暗くて静かな所が好きなのと、気に入らない奴がいれば殺したいからだ。
しばらく歩くとフードを深く被った男が話しかけて来た。
「あんた、奴隷に興味はないかい??」
釣れた。
しかも、大物だ。それなりの人数がいるのだろう。全く以ってツイてる。今なら神という奴に握手をしてやっても良い。それ以上は御免だが。
それよりも、まずは…
「あぁ、今いるのも大分飽きてきたしな。そろそろ新しいのが欲しいと思ってたとこだ。」
フード男は卑しげに微笑む。
「でしたら丁度良かった。良い奴隷が手に入ったんですよ。オークション、見に行きませんか?」
「予定もないし、見に行かせて貰おうか。」
「では、こちらへ。」
そうして少し歩き、明かりのついていないボロい民家へ入る。そして、仮面とカツラが付いた物を渡される。歌舞伎並みにあるカツラで、舞踏会みたいな口は覆われていない仮面だ。
「こちらをお付け下さい。素顔を隠せます。」
言われた通り付けるが、少しゴワゴワする。
外してぇ。
付け終わるとフード男は床の下に手を伸ばし、開ける。地下があるのか。
何かぶつぶつ呟いて、指先から小さな光る玉が出る。
「足元に気を付けて下さい。」
魔法か…
光で足元が照らされる。
4〜5分くらい降りると薄暗い光が見え始める。中に入るとやはりそれ程明るくなく、同じ仮面を付けた奴らが何十人もいた。
正面にステージがあり、転々とテーブルがある。テーブルの上には様々なお酒がある。
オークションはまだ始まってなく、お酒や雑談を楽しんでいる。
「あと1時間ほどでオークションが始まります。それまで少々お待ち下さい。」
そう言うとフード男は側を離れる。
しかし、困った。
…酒は飲めねぇし……食いもんがないのは残念だ。
まぁ、いい。今の内にここにいる人数の把握と部屋の構造を把握してよう。
「もし…そこのお方?」
不意に後ろから声を掛けられる。
振り返ると体型がかなり横長のおばさんに話しかけられているのを理解する。派手に宝石の付いた赤いドレスを着て、でかくギラギラした石を付けた指輪やネックレスをして、如何にも金持ちのような出で立ちだ。
「……私でしょうか?」
取り敢えず下に構えた話し方にする。
「えぇ、貴方です。聞きたいのですが、その服は何処で買いましたか?見た事ない生地を使っているみたいですが…」
…この場所じゃ少し目立つだろうか?
しかし、唯一の自分の私物だ。着慣れているんだが……。
「……遥か遠くの東の国、シヴルの出なんです。知ってますか?」
目をこれでもかとまん丸に見開く。
「まぁ!?あんな遠くから??此処まで大変でしたでしょう。」
心の底から労っているのが分かる。何だかここに似つかわしくない様に感じる。
「えぇ、大変でした。お気遣いありがとうございます、マダム。」
すると、ホワッホワッと大きな声で笑い出す。
「マダムだなんて……キシュナ・ログラムよ。気軽にキシュナでいいわ。貴方の名前は……いえ、ここでは名前を聞くのはNGね。ミスターと呼ばせて頂きますね。」
見た目がギラギラで嫌いだが、性格は中々好感の持てるな。
「ありがとうございます。マダム・キシュナ。…失礼かも知れませんが、貴方はここにいる様な方には見えないのですが?」
マダム・キシュナ「そういう貴方もそうでしょう?だからこそ、話しかける気になったの。……少なくとも奴隷目的では無さそうね。」
鋭いな。女の勘ってやつか。
「…すみませんが、ノーコメントでお願いします。」
マダム・キシュナ「気にしないわ。貴方だから言うけど、私は奴隷反対派なの。力が無い分、お金はあるからお金を払って故郷に帰らせているの。帰れない人は働き口を紹介してるの。」
「……素晴らしいですね。尊敬に値する行為です。」
マダム・キシュナ「尊敬されるような事じゃないわ。正義のカケラもない、単なる自己満足に過ぎないわよ。」
と少し皮肉交じりに笑う。
「それでも救われる人間がいる。」
マダム・キシュナ「……ありがとう。そう言って頂けると助かるわ。時々、自分の行為に疑問を感じてしまうから。……何か用事があるんでしょ?引き留めて御免なさいね。」
「いえ……では、御言葉に甘えて失礼致します、マダム・キシュナ。また後で会いましょう。」
マダム・キシュナ「えぇ、また後で。」
手を振るマダムにお辞儀をし、その場を離れる。
なるほど。彼女の事が気に入った。これは、対象外だな。
目と耳、気配を察し、人数と部屋の構造把握に努め始める。
さて、そろそろやる事やりますか。
良し。こんなものかな。
部屋の隅で壁に寄りかかっている。
人数は客・従業員・奴隷を含めて54人。内殺害対象は43人。今回、売りに出される奴隷3人、キシュナ・ログラム、奴隷従業員7人が対象外となった。
気に入った奴と分からない奴は基本殺さない主義だ。まぁ、殺しにかかってくる奴は別だが。
出口は俺が入って来た所含めて3ヶ所。一般出口、奴隷商が使う出口、隠し出口。部屋数は少ないから、そこを抑えれば逃がすことは無い。
オークションは5ウェーブあって、これからやるのが最後だ。ウェーブ毎にオススメの奴隷が出るらしい。キシュナ・ログラムが来たのは4ウェーブからで、5人の奴隷、全てを手に入れたらしい。すでにかなり他から注目を集めている。その前のに参加出来なかった事をかなり悔しがっていた。
「それでは!大変名残惜しいですが、今宵、最後のオークションを始めます!皆様、壇上に注目して下さい!」
キシュナと話している間にオークションが始まった。
「残りの数は3人です!最後という事があり、一人一人、かなり質が高いので何としても手に入れましょう!」
黒いフード被った男が大声で話す。
まるで熱い格闘技実況者のような声を出している。
おぉ!という声が辺りに響く。
「では、1人目の登場です!」
ステージ上にスポットライトが当たる。
まず最初に目に付いたのは女だ。褐色、黒髪で巨乳。服は奴隷御用達の白布1枚。首にごつい首輪をしている。目に光は無く、完全に諦めている。
「彼女はとある大きな街でかなり有名な歌姫でした。彼女の歌声は……」
長ぇなぁ…
興味がねぇんだよ…もっと短く説明できんのか……
こちとら、全員紹介し終わった後、歓びやリベンジに燃えてるとこなど、様々な感情を抱いているところを殺してやりてぇんだから……やっぱ殺すなら、上げて落とすに限る。次もあると考えているんだろうな。
「では、お待たせ致しました!金貨10枚からスタートです!」
21!!
金貨30だ!
45出すぞ!!!
48!!
50!
おぉ、競ってる競ってる。
マダム・キシュナ「金貨90枚。」
隣にいたマダム・キシュナが発言する。
「おおぉぉっと!前回に引き続きマダムが独占かー!!他にいませんかー??」
残念そうな声が上がるが、これ以上張り合うことは無さそうだ。
「では、ここまで!!金貨90枚で彼女はマダムの物となりました!
まだ残り2人分います!どんどん参りましょう!!次の奴隷はこちら!戦闘力が高く、夜のお供にも良し!色白の大狐族の中でも珍しい髪色が青!そして……」
まーた目が死んでるな。つまらん。
溜め息を吐いてしまう。
てか、こいつらも悪どいことしてんなぁ。
俺を誘った理由が分かる。
明らかに金がない奴を最後の方で誘って、何が何でも金を作って奴隷を手に入れたいという気持ちを持たせるのが目的か。
あわよくば、そいつの家族・親戚・友人も上手く巻き込ませて仲良く借金。奴隷行きにさせたいのだろう。友人の中に女が入ればなお良しって感じだろ?
嫌だねぇ…今までどんだけ罠に引っかかったのかねぇ…
「またまたマダムがやりました!プラチナ2枚で締めます!!皆さん、落ち着いて下さい!次が最後ですが、本日の目玉商品でございます!」
再びスポットライトが当たる。
長い銀髪を持つ青眼の14歳くらいの女ダークエルフ。その目は一瞬眩しそうにし、驚いた表情になった。が、すぐに憎しみや怒りの籠もった目になる。
「ただでさえ希少種のダークエルフ!!その中で青眼は絶滅危惧種です!見た目は幼く見えますが、現在17歳!さぁ!財布の心配せずに!!いきましょう!金貨70枚からスタート!!!」
競りが始まった。
が、どうでもいい…
気に入った。いい目だ。負の感情が入り混じった憎しみの念が最高に良い。奴の復讐を手伝ってやろう。
思わぬ面白い拾いもんがあるとはね。
さて、そろそろ動き出すか……