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”愛も解らずして死を迎えられない“

 

 創世者と幼き子


 神は言う—。からはじまる、世界を創りし、者はよっぽどのっせっかちだ。

 基礎から生物までを六日と一日の休息で創り上げたのだ。計算高き作品であろうこの世界。しかし、その時間軸は誤差がある。

 遥か遠くの天から創られたのならば、此方側の時間はかなり遅いであろう。その者はワタシたちをじっくりと見ている。

 何光年から先、コンパスでどれほどの円を重ね描いたのかのか。物好きな創世者は—。


 *


 物静かに流れる水の音で、幼き子は息をスッと吸って目覚す。

 青く輝く瞳に映る森の間に、薄霧を纏う分岐した川の中央、座るのに丁度良い岩場にその子は座っていた。肩まである艶めいた濃い灰色の髪に白いチュニックを身に纏っている。

 青い瞳はその場の光景を目にして疑問を抱いた。冷たい水に浸っていた素足と両手を動かしたり、顔を触れたりして感覚を知る。手を広げ霧の纏う白い天に翳し、声は出さず心の内で小さく呟く。


 〟此処に居る〟


 子は苔の生えた岩場に立ち、ぐるりと周囲を見渡す。

 ひたひたと流れる水の音と風に煽られて葉が擦れ合う音が鳴る。それと共に遠くから聴こえてくる鳥のさえずりが共鳴し、体内に響き渡る。

 ぐるりと、ぐるりと廻る。

 生きている、全てが生きている、生きている……。

 幼き子は舞うように傾斜のある小川の岩や木の根をリズミカルに転々と飛び移る。手の先から足のつま先まで器用に鈴の音が鳴るような動きで軽やかに艶めいた髪と白い服が翻る。

 岩場に足が着いた途端、子は何かに気づき急に動きを止めた。音が止まる静寂。


 自分は、どこからどうやって生まれたのだあろうか…?

 そう想いながらまた、足元を器用に使ってぐるりと一周した。その時、一つの羽が目の前に舞っていた。薄い灰色の羽。子は自分の背中に手を触れた。背中を覆うほどのふわりとした翼があった。思っている以上に

 軽くてあることの存在が分からなかった。ならば自分は—。

 もしかしたらもっと高く飛べるかもしれないと子は想い、大きく跳ねて飛んだ。


 しかし……。

 一気に急降下した。霧の下の下。無かったはずの泉に勢いよく落ちて行った。大きな気泡が上へ上がってゆく。光の差す天上の水面を見つめながら飛んだ一瞬を思い返す。片側の翼が動かなかった。というより折れていた……。それならば落ちても仕方がないと虚無のまま落ちてゆく。何故か苦しくない。寧ろ、暖かく安心感があると子は身を委ねた。

 水音と心音が鼓膜に響く。もっと深く落ちてしまったら遥か天上と同じじゃないかと思いを巡らせた。

 

 生まれた意味とは?自分は地に立てないのか?それでは意味がないじゃないかと、幼き子は初めて怒りを覚えた。

 その瞬間、体中に青い炎が身体中を包んだ。

 水の中だというのに燃え盛る炎の向こう側、目の前には一つ同じような色彩を持ち輝く鉱石。

 

 それを手にした〟彼〟は、青い炎の矢を放つ。

 

 二


 絶望の淵。精神的な悲惨状態が絶頂に達した時なり得る。それは生きながら死に近い状態を指す。人は救済を求め探し歩く。救済もまた、死してることが条件に成立っているのだ。


 *


 カタカタと器用な指使いでⓁとⓇのグリップが離れたゲームコントローラーを操る。あらゆるコマンドや動作で刺激的な光を放つ画面の先にいる敵を次々と倒していく。

 年を重ねる毎にゲーム機器の性能が変わり、グラフィックもより一層リアルさを増している。幾度に現実に近くなる非現実的な画面の向こう側。主人公はボスのいるステージに辿り着いた。

 ムービーシーンが流れる。異様で体格も倍以上あるボスは威勢を張った威嚇の声を発し

 主人公を圧倒される。しかし、折れずに立ち向かう主人公は敵の方に目掛けて武器を構え走り出しゲームがスタートする。

 操る主は、より一層コントローラーを動かす速度が増す。リズム良くコマンドを打ち込み必死に駆けて攻撃を喰らわせていく。しかし、不意を突かれダメージを喰らってしまう。だが、怯むことはなくすぐに立て直しまた立ち向かう。相手の攻撃が来るパターンは決まっている。それが分かればこっちのもの。

 もう少しでコイツを倒せる……。 

 プレイヤーの主は威力の一番強い武器に持ち替え、弱ってきたボスに一撃を喰らわせる。するとムービーに切り替った。ボスを倒すことを達成したのだ。

 全てのエンドロールの先が本番。戦ってきた全てのスコアが順に出てくる。命中率、クリティカル、ダメージ数、タイム……諸々悪くない数値の高さだ。主は画面を睨みつけるようにランク判定を待つ……。

 ゆっくりと効果音と共にランクが表記された。それを見た主は目を丸くし、口を開けたまま唖然としていた。

「AA……ランク……」

 少しの沈黙、3カメで彼を見るような感じで。

 秒針が一つ進んだ途端、彼は椅子を倒すほど勢いよく立ち上がり持っていたコントローラーを窓に向かってぶん投げた。見事にガラスは割れて投げたそれは綺麗に落ちていった。

「AAだと……⁉︎おかしいんじゃねぇの3週目だぞ⁉︎⁈そろそろトリプルかSランク来いよ‼︎」

 彼は壁を殴ったり、頭を何度も打ち付けたり、壁に向かってボソボソ言い始めたり、挙げ句の果てにそのまま床に倒れ込んだ。

「もう、無理……次のランキング戦で顔出せねぇ……ダサッ…」

 口の悪さが目立ついい歳して体格も良い男が自室の床の隅でメソメソしている異様な光景が広がっている。割れた窓から風が入ってくる。しばらくすると、部屋の扉が開く音がした。

「あら、また良い成績ではなくて?」

 淡々とはしているが優しい口調の女性が入ってきた。彼は何も言わずに床に転がっている。

 黒い身なりの女は彼が見ていた画面を覗いた。

「ゲームに関しては疎いので解りませんが、ハードモードでAAを出すのはすごいことかと思いますよ?毎度暴れているのは存じてますが……ランクとは大事なもので?」

「ハードでSを叩き出すヤツがいるから畳み掛けるんだよ……」

 男は床に伏せたまま絞り出すように言葉を発した。

 黒衣の女は理解し難いのか首を傾げた。

「昔からやってるのは知ってますが数字や成績なんてこだわりのはずでしょう。貴方は」

「それとこれとは別だ」

 男は気怠そうにゆっくりと上半身を起こした。

「荒れた顔では出れませんよ。そろそろお時間ですので身支度を」

 彼女は持っていた衣類を手渡す。

 午後二時前。

 彼は渡されたキャソットを羽織る。先程まで無理とか言っていた男の顔付きは変わっていた。

「すぐに向かう」

 そう言って、袖を通す彼の目は鋭く青く輝く。



 


 

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