手腕
ダリオルを三個、大銅貨6枚で買ってスーに保存してもらった。
「晩ご飯の後で食べようかな」
ちょっとした楽しみができたと言えるだろう。
「いいですね!」
賛成してくれたルーと微笑みをかわす。
「人間は大変だな。腹がすくまで時間が必要か」
なんてスーには言われる。
「スーはどうなんだ?」
聞いてみると彼女は胸を張って答えた。
「食おうと思えばまだまだ食えるが、食いたくなければ何も食わなくても平気だぞ」
「なんて便利なんだ」
さすがドラゴンというべきか。
人間とは根本的に作りが違うんだね。
「ふふん、そうだろう?」
スーは得意げに鼻を鳴らした。
こうして見ると年頃の少女が背伸びしているように見えて可愛い。
道行く人たちが彼女に向かって微笑ましそうな視線を送っているのも、同じような理由だろう。
「人間どもがちらちらこっちを見ているな」
スーが眉を寄せる。
「知らなかったし、気づいてもいないんだろうけど、人間好みの容姿なんだよ」
と俺が指摘した。
「ほほう、そうなのか?」
スーはにやりと笑って俺を見る。
「おまえもわたしが好ましいのか?」
からかわれていることがよくわかったので、あえてズレた回答をした。
「ルーのほうが好みだよ」
「ふえぇぇ!?」
突然引き合いに出したからか、ルーは仰天して珍妙な声を出す。
「ふ、フランさん!?」
動揺の激しい彼女をじろじろと見て、スーは言った。
「ふむ? フランはルーみたいな女が好きなのか」
どこか意表を突かれたような表情になっている。
「ルーは美人だし優しくて気が利くし、俺の足りない点を補ってくれる理想的な相棒だよ」
「あ、そういう……」
ルーの声が何か聞こえた気がするが、聞き取りにくい声量だったので自信がない。
「ふむ。ではわたしはおまえたちができない点を補ってやるとするか」
スーはにやりと不敵に笑う。
「その辺は期待しているよ」
主に物資の保存関係で、とても頼りになるだろうと思っている。
「保存係なんて思ってないだろうな?」
まるで心を読んだかのようなことを言ってきた。
「もちろん思っている」
「思っているのか!」
スーは笑いながら手刀を作ってびしっと俺の胸を叩く。
「食料関係を保存して持ち運びできるっていうのは、冒険者にとっては生命線の一つになる。一番大事なポイントだと言えるんだよ」
俺が説明すると彼女は少し固まる。
そして小さくうなずいた。
「なるほど、そういうものなんだな」
彼女は満足を浮かべながらこっちを見る。
「これからはわたしに任せるんだな。……おまえたちの言葉だと要塞に逃げ込んだつもりでいろ、になるのだったか?」
「そうだね」
皇国だと薪と食料の備蓄が充分な家にこもっているつもりでいろ、になるんじゃなかったかな。
たしか国ごとで表現が違っていたはずだ。
「スーならとても堅牢な要塞だから安心だね」
「ふふん、当然だ!」
俺の言葉を聞いたスーは得意そうに何度もうなずく。
視線を感じたのでまじまじとこっちを見ているルーに聞いた。
「どうかしたのかい?」
彼女の表情的に何か俺がミスしたってわけじゃなさそうだけど気になる。
「フランさん、リーダーとしての手腕がお見事ですね」
彼女は感心したように言った。
「手腕?」
俺は何かしただろうかと首をかしげる。
「お気づきでないなら、それこそフランさんの素晴らしいところだと思います」
「そうなのか?」
よくわからなかったが、ルーに褒められていることだけはわかった。
「なかなか鈍感らしいが、そこが長所とはな」
スーのほうは称賛半分、あきれ半分といった雰囲気だった。
俺、鈍感扱いされるようなことって何かあるっけ?
疑問に思ったけど、スーもルーも教えてくれそうにない。
だが、俺たちの冒険はこれからだ。
完結です、お付き合いいただきありがとうございます。
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