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変わった生き物

 ルーはそのまま金貨を自分で管理するが、スーはと言うと俺に差し出す。


「あいにくと人の金の持ち方など、わたしにはわからん。おまえが持っておいてくれ」


「それはかまわないが」


 パンケーキを自分のもので食べるために用意しただけで、金そのものにはさほど興味なさそうだった。


 財宝や宝石のたぐいは収集しているくせに、人間の通貨になったとたん扱いがやや雑になるのか。


 興味深い変化だなと思うが、ひとまず受け取っておく。

 スーなりの信頼の表明と思えたからだ。


「じゃあ晩ご飯まで時間をつぶすか」


 まだ夕方と言える時間だから、三時間くらいはあき時間があることになる。


「問題はどうやって時間をつぶすかですね」


 ルーがそう言ったということはアイデアがないってことだろうか。


「近場で依頼をこなすのはありかもしれないね」


 と提案してみる。


「今日だけで二つ仕事をすませたのにまだ受けるつもりなのか?」


 スーが意外そうに言った。


「まあヒマだし……」


 何となく困って答えても彼女は納得しなかった。


「おまえたち、別に金に困ってないだろう? なのにまだ仕事をするのか?」


 彼女の場合、単純に疑問に思っているだけだろう。


「言われてみればそうだね」


 彼女の疑問は正しいように思えた。


「私たちは皇国に来たばかりですし、名前を売るという意味で仕事をする価値はあると思いますが」


 ルーが自分の意見を話す。


「名前が知られているかどうかで、違ってくることはありますからね」


 俺はなるほどと思ったけど、スーはやっぱり納得しない。


「一日に二つ依頼をこなして前代未聞って言われていただろう。それで充分ではないのか?」


 改めて聞かれたルーは答えに詰まってしまい、困った顔をしてこっちを見る。

 

「言われていればその通りかも」


 金に困っているわけじゃないし、目的地が離れた距離にある依頼を二つ日帰りで達成してインパクトを残すこともできた。


 今日のところはこれ以上仕事をこなす理由はないと言えるよね。


「別に仕事をしたいわけじゃないからいいかな」


 必要なら頑張るんだけど、今頑張る必要なんてないんだから。


「やることがないから仕事って、人間は変わった生き物だな。それともおまえたちが変わっているのか?」


「どうだろう?」


 スーの問いかけに答えられなかった。

 ルーと二人で顔を見合わせて、お互いにあいまいな笑みをかわす。


「俺たちどっちも普通じゃない気はするね。そもそも普通の人間は冒険者にならない気がするよ」


「そんなものか」


 俺の答えを聞いたスーは鼻を鳴らす。


「そう言えばわたしは冒険者以外の人間は知らないな。冒険者なら知っているわけでもないが」


 彼女はふと気づいたように言う。


「まあね。スーに近づく機会がある人がいるとしたら、基本的に冒険者か旅人だろうね」


 俺はうなずいた。

 スーの正体はアイオーンドラゴンだ。


 気づかれ次第情報は一気に広まって、不用意に近づく人間はいなくなるだろう。

 

「その通りだ」


 スーは認めてこっちをじっと見る。


「わたしのことを少しも恐れていないのはお前くらいだよ、フラン」


「えっ」

 

 そう言われて俺は反射的にルーのことを見た。

 彼女だってスーのことは恐れていないと思うんだけど。


「その女はわたしを恐れているというわけではないが、多少警戒はしているだろう?」


 スーは見透かすような目でルーを見た。


「否定はできませんね。フランさんほど大らかに受け止める勇気が私にはないものですから」


 彼女は真剣な顔で吐露する。

 単に俺の警戒心が彼女より低い無防備な奴ってだけな気がするけど。


「はは。ちょうどいいバランスだな、二人で」


 スーは特に気分を害したそぶりもなく朗らかに笑う。


「それにやることがないなら私にこの街を案内してくれたら、それでいいだろう?」


 そして彼女は提案してくる。

 たしかにその通りだ。


 仲間になったスーには人間の社会について知るという目的がある。

 信じて仲間になってくれたんだから協力したい。

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