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敗北

 運ばれてきたサンドイッチは馬鈴薯とスノーバードの肉が挟まれていた。


 スノーバートは寒さに強く暑さに弱い鳥ので、皇国の気候だと打ってつけの生き物だろう。


 ひょっとしたら主食になっているのかもしれないなと思う。

 馬鈴薯は寒さにも強い救荒作物の代表格なのは言うまでもない。


 使われてるパンについてはさすがにわからないな。


 有名な美食家は見てにおいを嗅いだだけである程度のことを言い当ててしまうらしいと聞いたことあるけど、そんな芸当は無理だ。


 俺とスーはひと切れずつスーに差し出し、彼女は両手で受け取ってパクリといってしまう。


 可憐な少女の口に一瞬でふた切れが消えてしまったのはシュールな光景だけど、アイオーンドラゴンだという正体を知っていれば落ち着いていられる。


「どうだ? 美味しいだろう?」


「うーん……栄養をとることを目的にしたような味だな」


 スーの評価は手厳しい。


 意識したわけじゃないだろうけど、周囲には聞こえない声量だったのがせめてもの救いだ。


「サンドイッチはそうなのかもしれませんね」


 ルーは淡々として彼女の評価を受け入れる。


 言われて食べてみたら美味いことは美味いけど、気に入らなくても仕方ないかと思ってしまった。


 もっとも、同時にスーの舌はけっこう肥えているんじゃないかという疑惑も浮かびあがってくる。


「次はパンケーキにしようか」

 

 サンドイッチを食べながら俺とルーはうなずきあった。

 パンケーキは少しの間をして運ばれてくる。


 パンケーキの材料は馬鈴薯なんだけど、果物や蜂蜜も使われている嗜好品タイプだ。


 甘味を抜けばメインにもなるから便利な料理であるらしい。


 俺たちの前に出されたのはイチゴ、リンゴ、ミカンが乗せられていて、蜂蜜がかけられている。


 少し高かったけど、果物と蜂蜜の量を見れば妥当だったとわかった。

 俺とルーはそれぞれパンケーキを少し切り、果物を乗せてスーの前に出す。


「あーん」


 ルーに言われてスーは口を開けてぱくりとケーキと果物を食べる。

 もぐもぐと口を動かして飲み込む。


「美味しい」


 さっきサンドイッチを食べた時とは、うって変わって幸せそうに表情がとろけている。


「これは美味しいな」


 スーはくり返して言うと、ちらりと俺の手を見た。


「パンケーキは甘さひかえめだが、蜂蜜と果物の取り合わせがたまらない」


「おかわり欲しいのか?」


「ああ。これならまだまだ食べる気になる」


 彼女はこちらの質問に答えながらも、じーっと俺が手にしているパンケーキから視線を外さない。


「じゃあ俺たちの勝ちでいいよね?」


 これは勝負だったということを彼女に思い出してもらう。


「……そうだな。わたしの完敗だ」

 

 スーは素直に自分の敗北を認める。

 そして俺とルーを交互に見た。


「負けを認めたんだから、もっと食べてもいいか?」


 目は輝いているし、口からよだれがちらついているのはたぶん目の錯覚じゃないだろう。


 どうやらこのパンケーキをすっかり気に入ってしまったらしい。


「そうだな。何なら自分で頼んだらどうだ?」


 ひと切れやふた切れで満足しそうにない雰囲気だったので、そうすすめてみる。


「そうするか」


 スタッフを呼んだスーはさっそく注文した。


「このパンケーキを三枚ほどくれ」


 三枚!?

 いったいどれだけ気に入ったんだよ!


 思わず唖然としてスーを見つめると、彼女はちょっとバツが悪そうに目をそらす。


「別にいいだろ。わたしの負けなんだから」


「まあいいけど」


 まるで甘いお菓子に目がない年頃の女の子みたいな態度に、ついつい笑いをこぼしてもらう。


 尊大な態度が似合っているスーに、まさかこんな可愛らしい一面があったなんてね。


 パンケーキを頼んでみて正解だったな。


 スーは意外と言えば意外なことに、頼んだパンケーキが来るまでは素直に待っていた。


 ソワソワしていたし、ちらちら厨房のほうに視線を向けていたが、それくらいはご愛敬だろう。

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