フェニックスは知能が高い
「引き受けてくれるなら、これを渡そう。私の署名を記した依頼書だ」
町長はそう言って羊皮紙を立派な黒筒に入れて、それを執事が俺に手渡す。
「それをソルトレーに行って、冒険者ライセンスと一緒に見せれば後は向こうが必要な対応をしてくれるだろう」
「ありがとうございます」
礼を言って受け取ると町長は微笑んだ。
「礼を言うのはこちらだよ。下調べすら引き受けてもらえなかったからな……」
そして小声で愚痴めいたことをぼやく。
何回か他のS級に打診したけど断られたので、俺たちに声がかかったという敬意らしい。
アイオーンドラゴンなんて相手だと、腰が引けても仕方ないと思う。
不思議と今の俺はそんなに怖くは感じなかった。
さっきからずっと沈黙を守っているルーが契約してるフェニックスも、人間基準だとアイオーンドラゴンと同格だからだろうか。
「最善を尽くします」
何にせよ名をあげるためのいい機会だ。
俺たちはまだS級になったばかりだから着実にステップアップしたい。
「ああ。そうだ。地図の写しを持っていくといい」
町長がそう言うと執事の一人が手書き地図を渡してくれた。
ざっと確認したら移動する際に欲しい情報がだいたい描かれている。
地図をしまって部屋を出たところでルーに話しかけた。
「念のために確認しておきたいんだが、反対じゃないよな?」
「ええ。アイオーンドラゴンを放置できない理由はわかりますし、私たちにとってはよいチャンスだと考えられますから」
ルーは気負わずに回答する。
彼女も俺と同様、アイオーンドラゴンに対して恐れを抱いてはいない。
「大丈夫だと思うが、大人のすごい強い個体だったら無理せず撤退しようね」
確率としては一万に一つもないと思うが、念のため最悪の展開を言う。
「もちろんです。アイオーンドラゴンの【クロノスロア】は一万年近く生きた霊亀を一瞬で赤子に戻す効力を持っているそうですし」
ルーの発言にうなずいた。
もしも俺たちが食らったら、生まなかったことにされてしまう危険が高い。
「このまま向かいますか?」
「買い物、まだしてないだろう? 朝食をすませた直後だったからな」
ルーの問いに答えると彼女はあっと声を漏らす。
「服とかいろいろ買おうよ。その後で出発したとしても、ベンちゃんに乗れば今日中にソルトレーにはつけるだろう」
馬で五日程度なら、ベンちゃんは半日以下でついてしまう。
移動が多い冒険者という職業においては圧倒的なアドバンテージだ。
「すっかり忘れていました」
ルーは恥ずかしそうにうつむく。
ちょっと抜けているようなところがあるのも可愛いかよ。
「風呂はどうする?」
「……できれば入りたいです」
ルーの希望を考慮して、まず風呂屋に行ってそれから着替えなどを買いに行く。
女子の買い物は長いとばかり思いこんでいたが、ルーは欲しいものをすぐに決めて迷わず買うタイプだったせいか、そこまでじゃなかった。
こういうところで個人差って出るもんなんだなぁと思いながら町の外に出る。
「それじゃソルトレーに向かって出発ですね」
かなり離れたところでベンちゃんは召喚され、ルーは地図を見せた。
「今はここで私たちはここに行きたいの。よろしくね」
彼女の言葉にベンちゃんはこくりとうなずく。
指示が理解できるだけじゃなくて地図を読めるなんて、やっぱりフェニックスは知能が高いモンスターなんだな。
ベンちゃんのおかげで州都ソルトレーに着いたのは昼過ぎくらいだった。
「まずは昼ご飯を食べないか?」
お腹をさすりながら提案すると、ベンちゃんを帰還させたルーは賛成する。
「いいですね。この街じゃ何が食べられるのか楽しみです」
「州都だって話からな。いい食材に期待できそうだ」
俺たちは期待を抱きながら州都の門をくぐった。




