新しい依頼
中で待っていたのは初老の男性で、背後に二人の初老の執事を従えている。
「呼び出してしまってすまないね」
上等な青い服を着た男性はそう言って立ち上がり、近くまで歩いてきて俺の手を両手でつかむ。
「君たちのおかげで街は無事だった。どうもありがとう」
心の底から言っていると直感的にわかる温かい言葉がかけられる。
「冒険者としての務めですから」
トップの中にはこんな人もいるんだなと思い、上手く答えられなかった。
「モンスターの討伐報酬は冒険者ギルドから支払われると思うが、それとは別に町長として謝礼を払いたい。金貨5枚と多くなくて申し訳ないが」
「いえ、充分ですよ」
街だと言ったところで大都市ほど発展していないのだから、財力には限界がある。
そのことは汲んでおきたい。
「ありがとう」
ウーラの街の長は答えて微笑むと椅子に座る。
「失礼。足に不安があるのでね。座って話を続けさせてもらうけど、かまわないかな」
「どうぞ」
彼の俺たちに対する敬意と好意は充分に伝わっていた。
生まれ故郷のトップがこういう人だったら、俺は冒険者になろうとは思わなかったかもしれない。
「宴会をと言いたいのだが、交流のある領主様から相談事があってね。ぜひとも君たちの力を借りられたらと思うんだよ」
なるほど、わざわざここまで連れて来られたわけだ。
できれば他人に聞かれたくないって理由もあったんだろうね。
「お話の内容次第だと思うのですが」
俺たちは基本戦闘専門と言ってもいい。
ルーはもしかしたらサバイバル能力に長けているかもしれないが、俺のほうはあんまり自信がなかった。
「ああ。依頼内容はモンスターの調査、もしくは撃退なんだ」
町長は言ってから詳しい話をはじめる。
「この街から北東に馬車で五日ほど先に州の都ソルトレーがあってね。そこから徒歩で半日の距離にソルトレー湖と呼ばれる湖がある。ここまではいいかい?」
「ええ」
州都ソルトレーの近くに湖があって、そこにモンスターが出るのかなと見当をつけながらうなずいた。
「その湖でドラゴンらしきモンスターが泳いでいるらしいという目撃情報が出たんだ」
「ドラゴン……? 州都の近くで?」
不思議に思って聞き返す。
ドラゴンは基本的に人間のことなんて眼中にないはずだから、わざわざ人里に近づいたりはしないだろう。
もちろん眼中にないからこそ、人里だろうが何だろうが平気な顔してやってくる可能性だってあるんだが、あまり例としては聞かない。
「今のところ大きなダメージは受けていないんだが……」
そこまで言って町長は急に言葉を濁した。
「どうかしたんですか?」
「いや、地元民の証言によると持っていた時計がくるったという話が複数出ていてね」
町長の言葉に俺は彼がためらったわけを気づく。
時計を狂わせるような力を持ったドラゴンは二種類いる。
一つは砂鉄や鉱物を操る能力を持つと言われるメタルドラゴン。
もう一種は時の流れを支配する能力を持つとされるアイオーンドラゴンだ。
前者は撃退するのに最低でもAA級五人必要という説がある。
対して後者はSS級が必要とされるくらい強さが違う。
「口ぶりからするとメタルドラゴンじゃなさそうですね」
メタルドラゴンならS級が二人いれば撃退は可能と考えられるので、依頼者がこんな態度になるのはおかしい。
「うむ……被害らしい被害は出ていないので、S級に調査依頼をしたいというのが先方の目的のようだ」
まあアイオーンドラゴンが人間に敵意を持っているなら、州都一つくらいとっくに滅んでいるはずだからね。
個体の実力次第じゃ皇国が滅ぼされる可能性だってあり得る。
「もちろん断ってもらってかまわない。SS級にも依頼が出ているんだが、到着まで時間がかかるとのことだ。早い話、君たちはつなぎ扱いされているんだ」
町長は申し訳なさそうに言うが、無名に近いS級とすでに名をとどろかせているSS級じゃ信頼と期待が違うのは当然だ。
「危険を感じたら逃げてもいいという条件でなら、請けたいと思います」
俺が言うと町長は立ち上がって頭を下げる。
皇国だとたしか目上の人間に敬意を表す時にやるんだっけ。
「すまない。ありがとう」
町長の言葉は個人の感情から出たとしか思えなかった。