黄昏の邂逅
父とは、互いに折り合いがつかない関係だった。
これは大変、柔らかい表現である。
彼が晩年になったら、その枕元で延々と、文句を言うつもりでいた。
しかし、父は、平均寿命よりだいぶ早い年齢で、あっという間にこの世を去った。
文句を言う時間も、持てなかった。
仕方ない。
いずれ、子どもが父親に復讐する話でも書こう、そう思った。
父の回忌供養を、何回か越えた頃のことだ。
その日の午後、自室で調べ事をしていた。
睡眠不足が続いていたためか、ウトウトしながらパソコンの電源を入れる。
立ち上がった画面には、一面の菜の花。
蕪村の俳句を思わせる、春の景色である。
昔遊んだ故郷の風景に、よく似ていた。
いつしか私は、菜の花の中を歩いていた。
歩いていくと、小高い丘の上に、一軒の家があった。
緑と花に囲まれた、童話に出てくるようなお屋敷だ。
門をくぐると、花と果物の香り。蝶やてんとう虫が飛んでいた。
そこに父が立っていた。
生前には見たことがないような、穏やかな笑顔で、父は私を迎えた。
父はあれこれ、屋敷を見せてまわる。屋敷内の一室には、父より先に逝った、母も住んでいた。
庭のはずれに、屋敷とは別棟の、華奢な建物があった。
「あれは、誰の家? 誰が住んでいるの?」
父は笑顔のまま答える。
「近々、越してくる人の家だ」
それを聞いた瞬間、目が覚めた。
夕陽が部屋全体を、朱色に染めていた。
スマホが鳴っていた。
発信者は、久しく会っていない、親戚だ。
用件は
聞く前に分かっていた。
その後。
たまに、父は夢に出てくる。
何かを伝えたいらしい。
だが面倒なので、私は無視している。
すると、お彼岸やお盆前になると、父によく似た雰囲気の男性と、しばしば遭遇するようになった。
クソッ!
こんな搦め手を、使うようになったか。
遠回しに、ちゃんと供養してね、と言いたいのであろう。
悔しいので、そのうち、父親の霊体を現世に縛り付ける、息子の話でも書こうかと思っている。
一部フェイクあり。




