表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/16

5話 オッサン


 ゆっくりと目を覚ますと、そこは何もない真っ白な空間だった。床と天井は確認できる。だが、地平線の先は確認できない。俺は何回いろんな所に召喚されればいいのだろうか。


「……ハルフィーさーん!」


 声を出してみたが、反応は無い。ずっと白い空間が広がっている。段々怖くなってきた俺は、辺りを見回すことに躍起になった。


「誰か、」


 言葉尻が震える。

 もしかして、これは罠だったのだろうか? 俺が元の世界に帰らないよう、ここに閉じ込めておくつもりなのだろうか?


「誰かいませんか! 誰でもいい! いたら返事をしてくれ!」


 どれだけ声を上げても、反応はない。なんで、どうしてだ。さっきまでハルフィーさんと楽しくお喋りしていただけなのに、こんなところに放り出されるなんて。


「頼む! 誰かいないのか! なぁ! いたら返事を、」


「うっせーぞ静かにしろクソガキ!」


 突然耳元で声がした。と同時に、左頬に熱い感覚が走る。

 何かに殴られた、そう理解した後、体はオモチャみたいに吹っ飛び、バウンドした。痛い。ナツキと殴り合いした時か、階段から落ちた時ぐらい痛い。


「ったく、久しぶりに誰か来たと思ったら、綺麗なネーチャンじゃなくてお前みたいな可愛げのないクソガキだとはな~。しかも男……王族としての品もない……最悪だ、帰れボケ」


 この仕打ちにこの暴言。酷すぎるだろ。なんだコイツは。一発殴ってやる。

 そう思って飛び起き、声のする方へ向いた途端、俺は怒りが飛ぶぐらいには驚いてしまった。


「な、なんだ?」


「なんだとはなんだ。失礼なヤツだな。俺を偉大な大妖精サマと知っての無礼か。殺すぞ」


 それは光だった。ただの青い光。フワフワと空気中に浮かんでいる。他に人影もないので、多分この光が喋っているのだろう。そう予想はできても、俺はあまりの非現実的な出来事を飲み込めないでいた。


「妖精、なのか」


「大妖精って言ってんだろーが、もっかい殴るぞクソガキ」


「オッサンみたいな大妖精だな」


「……死にたいのか?」


そう聞こえてから、俺はまた地面を転がった。さっきと同じところを殴られたらしい、めっちゃ痛い。図工の時間に彫刻刀で指をぶっ刺した時ぐらい痛い。


「さっきから何すんだよお前は! 俺だって元の場所に帰りたいわ! 帰せよ!」


「あ~~~~?? クチのききかたが全然なってないクソガキだなぁ~? 3発目いくぞ?」


 そう言ってヒュンヒュンと俺の周りを旋回しだした自称大妖精に、俺は3発目が怖くて情けなくも身を縮こませた。ハエ叩きでもあればバシバシにシバいてやるのに。畜生。


「……あれ、お前、なんだ? 王族じゃないのか?」


 恐る恐る目を開けると、自称大妖精は目の前でピタリと動きを止めていた。目と鼻の先すぎて驚いた俺は、盛大に尻餅をついてしまう。「情けねぇなぁオイ」という言葉に、俺は頭に血が上り、我慢できずに叫んでしまった。


「俺は王族じゃ無い! 別の世界から召喚された、いたって平凡な一般市民だ! 分かったかこのオッ」


 言い切る前に3発目が入った。落とした箸の如く、俺は転がってゆく。


「いってぇぇ……」


 多分これ鼻血が出たな……鼻を手で拭うと、手の甲に血がついていた。うん、鼻血出てる。え、このまま元の場所に戻されたら鼻血出てる姿をハルフィーさんに見られるの? 嘘だろ? 最悪だ、マジで許さんあのオッサン。絶対始末してやる。


「次オッサンって言ったら4、5、6発連続でいくからな」


「ぐぅ…」


 でも悲しいかな、これ以上顔を腫らして変顔になるわけにはいかない。ハルフィーさんに笑われる。しぶしぶ俺は大人しく正座した。決して4、5、6発目が怖いわけじゃ無いぞ。違うぞ。


「異世界、異世界ねぇ……ホントかぁ……? いや、でもなぁ、ここは王族しか入れねぇしなぁ……」


 ブツブツ喋っていたオッサン妖精は、フワリと飛んで俺の方を向いた、と思う。動き的に。


「とりあえず不法侵入のクソガキ、お前、とんでもないぐらい身の程知らずみたいだからな、ここがどういうところか教えてやるよ」


「いや結構です。早く元いた場所に帰してください」


 淡々と告げると、オッサン妖精は怒ったようにブンブン飛んだ。完全にハエである。叩き落としたい。


「とにかく聞け。いいか? ここは王族しか入れない超絶神聖な場所だ。しかも王族だからって全員入れる場所じゃねぇぞ……王族で、魔法の素質がクソ高い奴しか入れねぇんだ」


 なんか自慢げにオッサンが喋っている。俺は聞き流しモードをオンにした。


「そして俺は、この空間に入ってこれた王族に魔術を……この世界のどこにも記されていない大魔術を、伝授しているわけだ」


 早く話が終わらないだろうか。俺はこんなオッサンとではなくハルフィーさんとお話がしたい。


「そうなんですね~すご~いマジ卍~……はい、ちゃんと聞いたので帰してください」


「あぁ!? そこはテンション上がるだろ!? 『え~じゃあ俺もすごい魔法が使えるのぉ~!?』とかよぉ! 反応悪ぃな、イ○ポかお前!」


 こ、このオッサン妖精、クチ悪いし下品だしどんな教育受けてきたんだ!? 王族はこんな下品の塊から魔法を学んだっていうのか!?


「ホントさっきから口汚いし下品すぎるだろ! 神聖な場所で不適切な言葉吐くの止めろよ! 汚れるぞこの空間!」


「ハンッ何言ってんだオメー、俺ほど神聖で高貴な存在はこの世界にゃ俺しかいねぇぞ」


 たった今、「オッサン」「下品」の他に「嘘つき虚言野郎」も加わって、俺の中で三重苦妖精と化した。そんな俺の脳内会議に気づくはずもなく、オッサン妖精は勝手にベラベラと喋り続ける。


「しっかしまぁ、そんだけ殴られてギャンギャン噛み付いてくんのは面白いな、うん、マジで面白ぇ。ここに人間が来るのも久しぶりだしなぁ……50年ぶりぐらいか」


「人をオモチャみたいに言うなよ。っていうか50年?」


 つまり、ノエル王子はここには来ていないのだろうか。魔法の素質? が無かったのかな……まぁいいか。


「ところでクソガキ」


「俺は長谷川柊弥だ」


「わーったよ。それでだな、クソガキ」


「名前教えたんだから名前で呼べよ!」


 チッ、メンドクセーガキだ! と喚きながら、オッサン大妖精はブンブン飛んだ。



「なぁ、ハセガワトウヤ、俺と取引しないか?」



 多分こいつに顔があれば、悪人面をしていたのだろう。そんな声の調子だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ