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4話 そっくりさん


 食事が終わり、王様と王妃様は王族としての職務があるそうなので、晩餐まで一旦別れることになった。

 ひとときの別れだが一生の別れの如く、王様と王妃様には去り際に惜しまれてしまった。


 そして今、俺は驚愕を隠せないでいる。


「それでは、ここからは私がご案内させていただきます。ハルフィーと申します」


 そう言って、目の前にいる人はペコリとお辞儀をした。


「……ハルカちゃん?」


「……? ハルカちゃん、とは?」


 そう、顔も、声も、多分胸の大きさまで、ハルカちゃんにそっくりなのだ。違うのは髪の色と瞳の色ぐらいか。ハルカちゃんは黒髪黒目だったが、この子は明るいブラウンヘアーにエメラルドのような鮮やかな緑の瞳をしている。

 ノエル王子と俺が瓜二つなら、もしかしたら俺の知り合いで他にも似た人がいるんじゃないか、とは思ってはいたが……しかしまさかハルカちゃんのそっくりさんがこの世界にいたとは。いや、もう、本当に似ている。ドッペルゲンガーと言っても過言ではない。


 目の前にハルカちゃんそっくりな人が、メイド服に身を包んで、コテンと首を傾げている。ぶっちゃけると本気でかわいい。かわいすぎる。今手元にスマホがあれば連写していただろう。

それぐらい、俺はテンションが爆上がりした。


「すみません、急に。あの、俺が元いた世界で貴方にそっくりな方がいて、すげー良い人で、はい、なんか知ってる人に会えたような気がして、えっと、嬉しいです、」


 あああ、何を言ってるんだ支離滅裂すぎるだろ、絶対なんだコイツ急に早口で喋りかけてきて気持ち悪いなとか思われてる。チクショウ語彙力が来いよ、ううう恥ずかしい……


 ハルカちゃんに似た人……ハルフィーさんは、少し呆気にとられた表情になったあと、微笑んでくれた。


「そうでしたか。それは驚きました。ハセガワ様の世界には、私とよく似た方がいらっしゃるのですね。……差し支えなければ、案内する道中の間だけで構いません。ぜひ、ハセガワ様の世界について、教えていただけませんか?」


 それを聞いた俺は、沈みかけたテンションがまた爆上がりした。


「いいよ、全然良い! です! かわりに、俺のことハセガワ様、じゃなくてトウヤって呼んでくれると嬉しい!」


「え、しかし……ハセガワ様をそのように馴れ馴れしく呼ぶ訳には……」


「お願いします! どうか!」


 多分この時、俺は鬼気迫る顔をしていたのだろうと思う。


「わ、分かりました。トウヤ……様、でよろしいでしょうか?」


「うん、うん、じゅうぶん! ありがとう! よろしくお願いします!」


 勢いよく手を差し出した俺は、ハッと我に返った。またやってしまった、と内心落ち込む。

 いつもそうだ。肝心な時にいっぱいいっぱいになって、後悔するのだ。あの時ああしていれば、この時こうしていれば、と寝る前に思い出してモヤモヤし、寝つけない日が何回あったか。これは今日も寝つけなさそうだ。


「こちらこそ」


 しかし、ハルカちゃん……じゃなくてハルフィーさんは、優しくそう言って握手をしてくれた。柔らかい感触が手を包む。なんて良い子なんだ。俺は今日、絶対手を洗わないと心に決めた。


 そして俺はハルフィーさんに連れられて、城内を歩き回った。


 コンサートホールのような場所に案内されたときは、国お抱えっぽい音楽家の人たちがオーケストラを聴かせてくれた。邦楽しか聞かない俺にとっては、またとない経験だった。ピアノ、バイオリン、指揮者、他にも沢山の奏者が演奏している様子は、とてもかっこいい。俺も音楽始めようかな、と思わされるほどだった。


 次に厨房に案内された。晩餐の準備をしているからか、とても慌ただしい様子だった。そんな中、料理長だと名乗る人がいろいろ説明してくれたのだが、この国の料理は他国と比べてもレベルが高いらしい。俺は昼御飯がとても美味しかったことと、晩餐も楽しみにしていることを伝えると、すごく嬉しそうにお礼を言われた。内緒ですよ、と俺とハルフィーさんに飴のようなお菓子もくれた。それも非常に美味しかった。


 あと、中に入ることは出来なかったが、王様と王妃様の部屋、ノエルの使っていた部屋も案内してもらった。

 部屋を見るたびに、俺はあまりの広さや規模の大きさにリアクション芸人よろしく毎回驚くこととなった。だって広すぎる。掃除が大変だろうな。


 こんな感じで城内の探索は進んでいった。楽しいけど、それよりも俺はハルフィーさんと一緒にお喋りできる時間の方が楽しかった。ハルカちゃんについてや、学校での生活、流行りの音楽や、向こうは魔法ではなく機械や科学が発展していること、話は全然尽きなかった。


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「まぁ、では向こうの世界の私は、ヒロユキ様が惚れていると知らないとはいえ、酷いことをしてしまったのですね……」


 笑い話程度に、と俺の失恋の話をしたのだが、逆効果だったようだ。ハルフィーさんにすごく申し訳なさそうな顔をさせてしまった。


「あ、いや、全然笑ってくれていい話ですよ。うん、笑い話だからさ。ハルカちゃん…じゃなくて、ハルフィーさんは全然関係ないですし!」


 ああ、俺はまた失敗してしまった。顔も性格も良いナツキなら、こんな状況もうまいこと切り抜けるんだろうな。くっそ~あのイケメンめ。そうだ、アイツが全部悪い。


「悪いのはナツキ…そう、俺の友達ですよ! アイツほんとに俺の恋路の邪魔ばっかするし! 本人は邪魔してるつもりないのが1番たち悪い!」


 イーッッと怒る俺の様子を見て、ハルフィーさんは笑ってくれた。つられて俺もニコニコしてしまう。本当にかわいいなぁ。


「ふふっ。あら、お話をしているうちに、次にご案内する部屋に到着しました。こちらへどうぞ」


「うわ……」


 案内された部屋には、所狭しと本が並んでいた。部屋は吹き抜けになっていて、天井がとても高い。中央には地球儀のようなものがグルグルと回転している。その上には複雑に絡み合った歯車が、さらにその上には時計の針のようなものが、一定の間隔で動いていた。

 今まで案内された場所の中で、ひときわ目を奪われるほど幻想的な空間だった。


「ここは、書庫ですか?」


「そうですね。さらに詳しく言うと、魔法書の書庫になっています」


「魔法書……これが全部そうなのか。すごい」


 この空間に見惚れてしまった俺は、どんどん部屋の奥まで進み、地球儀のようなものの前まで来ていた。


「こちらは、この大地を球状にかたどった模型です。通称『ノア』と呼ばれています。世界に4つ存在しているうちの1つです。地形はリアルタイムで描写されるので、もし災害などで地形が変わってしまった場合は、すぐに確認できるようになっています」


「ええ!? そうなんですか。この世界の技術は素晴らしいですね」


 そう言うしか他に無かった。リアルタイムで描写って、すごすぎるだろ。俺の世界にはさすがに無い。


「魔法の技術を集約した王家の家宝として、この部屋に保管されています」


「そんなすごいもの、俺なんかが見ても大丈夫なのかな」


「王様より、トウヤ様が興味を持ちそうなものは絶対に見せるように、と仰せつかっていますので」


 うわ……王様、俺をこの世界に留めておきたい気持ち満々だな。でも確かに、未知の技術は憧れる。どうやったらこんなものを作ることができるんだろう。


 俺は改めて『ノア』を眺めた。


「ん? なんだこれ」


 台座のところに綺麗な石……宝石だろうか、が埋め込まれている。やけに目を惹かれ、釘付けになる。

 何の気なしに、青く輝くそれに触れてみた。


「……! トウヤ様!!」


 瞬間、俺は目の前が真っ白になった。

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