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2話 とある理由


 見たことがないぐらい大きな扉を開けた先には、これまた豪華な空間が広がっていた。

 国旗だろうか?高い天井から旗がぶら下がっており、床にはずっと先まで赤い絨毯が敷かれている。道ゆく左右には、甲冑を装備した兵士が並んでいた。

 私語を絶対許さないような、緊張した空気がビリビリと肌に走ったような気がして、少し冷や汗が滲む。

 そんな俺を知ってか知らずか、スタスタと魔術師は先に進んだ。後ろからついてきていた2人が、先に進まない俺を怪訝に思ったのか初めて声をかけてくる。


「……この先で王が貴方を待ちかねております」


「どうか先にお進みください」


 ハッとした俺はギクシャクしながら足を進める。声からして、2人は女性だったんだな……そんなことを思いながら、高級そうなフワフワの赤い絨毯を汚いスニーカーで踏み締めていった。汚してしまって本当に申し訳ない。


 道中、兵士たちが兜の下からジロジロ見つめているようで落ち着かず、自然と顔が俯いてしまった。しっかし本当に俺のスニーカー、汚れてるな。卒業式のあと、グラウンドでいろんな奴と写真撮ったりはしゃいだからか。

 そんなどうでもいいことを考えながら、足を進める。緊張からか王様に会うのが怖いからか、王座まで道のりがとても長く感じた。


 そしてついに、俺は王の御前に辿り着いた。魔術師が跪いていたので、俺もならう。


「王様、召喚は無事成功いたしました」


「おぉ、大儀である。異世界より召喚されたお主、顔を上げよ」


 その言葉を聞いて、俺は恐る恐る顔を上げた。

 王様はいかにも王様って感じの王様だった。頭の悪い説明だが、そうとしか言いようがないのだ。かなり年配のようで、顔には深いシワが刻まれている。白髪で髭が長く、頭には王様だと示す王冠が輝いていた。

 そして王様の横には、恐らく王妃様だろうか、王様と似たような王冠を被った年配の女性が玉座に座っていた。


「これは……まさに……」


 王様は目を見開くと、立ち上がらん勢いで俺をまじまじと見つめた。王様の持っていた杖がガタンと落ちる。

 王妃様も、驚いたように口に手を当てて俺を見つめていた。

 なんなのだろう、そんなに珍しい顔なのか?


「……取り乱してすまない。わしはこのグレンヴィル国の王、シオドア・グレンヴィルである。お主、名はなんという」


「は、はいっ、長谷川柊弥と申します」


 声を上げるだけでこんなにも緊張したことはあっただろうか。バイトの面接でも学校のプレゼンの授業でも緊張したことのない俺だが、さすがにプレッシャーで声が上ずってしまった。すごく恥ずかしい。


「ハセガワ……トウヤか。良い名だ」


 王様は長い髭を片手で撫でながら、俺をまじまじと見つめ、改めて俺と向き合った。


「まずは突然お主を召喚した無礼を詫びよう。こたびは誠に申し訳なかった」


 そう言って、王様は目を伏せる。

 俺は王様に謝罪された衝撃で、さらに緊張が加速した。王様ってこの国で1番偉いんだろ、そんな人がこんな俺に謝罪って、とんでもないことじゃないのか。


「いえ、そんな、別に大丈夫っていうか……なんか理由があるって聞いた、いえ、聞きましたので、そんな謝らないでください、王様」


 落ち着いて話そうと思えば思うほど焦ってしまい、ついタメ口が出てしまった。あああどうしよう、「口のききかたがなっとらん!」とか言われて投獄されるかもしれない。もっと日本語の勉強しとけば良かった、と思ったが、王様は全く気にして無い様子だったので安心する。


「寛大な言葉、感謝する。まずは、何故この世界にお主を召喚したのか説明させてもらおう。でないとお主の不安は拭えないだろうからな」


「は、はい……」


 王様の仰る通りだった。俺は今、自分がここにいる理由を何よりも知りたい。不安すぎて吐きそうなのだ。頼む、早く教えてくれ。俺は姿勢を正し、王様の声に耳を傾けた。


「お主は亡くなった我が息子、ノエル王子に非常に似ておる。いや、似ているという次元ではない……生き写しと言っても良いほど、ワシの息子と瓜二つなのだ」


 そう王様が言った途端、隣の王妃様が涙を流した。涙を止めようとしているのだが止まらないようで、従者が駆け寄り涙を拭うための上等そうな布を渡していた。

 え? つまりどういうことだ。


「息子さん……いえ、御子息様が亡くなられたのですか?」


「そうだ。1週間前のことであった。原因不明の病が原因でな。治療する間も無く逝ってしまった」


 悲痛そうな顔を浮かべた王様は、重いため息をついた。そして、すすり泣く王妃様を宥め、もう一度俺を見つめる。


「一目でいい。息子にもう一度会いたい一心で我々は手を尽くしたのだが、やはり死者を蘇らせることは叶わなかった。そこで我々は、召喚に頼ることにしたのだ」


「えっ、でも……」


 そこで俺は困惑する。いくら似ているからといって、中身が伴っている訳ではない。俺は俺であって、この世界で亡くなった王子とは全くの別人だ。


「ハセガワよ、お主の言いたいことは分かっておる。見た目がどれだけ似ていようが、お主は息子ではない。だが、それでも、ワシは息子に会いたくてな……」


 そんなことを言われてしまっては、こちらも何も言えなくなってしまう。

 しかし、そうか……俺が召喚されたのは、亡くなった息子に会いたいが為だったのか。


「王様、1つ朗報がございます」


「おお、なんじゃ。申してみよ」


「この者の魔法適性は水と氷でございます」


 沈黙していた魔術師が、俯いたままそう話した。それを聞いた途端、王様は嬉しそうに笑い、泣いていた王妃様もニッコリと微笑んだ。


「そうか、そうか! それは僥倖! 見た目もそっくりであるが、まさか魔法適性までノエルと一緒とはな」


「王よ、あまりはしゃいでは威厳が損なわれますよ」


 嗜める王妃様に、王様は咳払いをした。俺はどういった反応をしていいのか分からず、王様と王妃様を交互に見つめることしかできない。

 しかし、王妃様はとても優しい声色をしているなぁ、なんか声に安心させる効果があるように思える。


「ははは、すまぬ。いやしかし、共通点があればあるほど、嬉しく思ってしまうのだ。まさに息子が帰ってきたように思えてならんのでな」


ん? 待てよ、この流れは……


「ハセガワよ。ワシからの提案なのだが、この国で王子として……ワシらの息子として生きていくつもりはないか? 何不自由なく生活できることを約束するぞ」


 やっぱりそうきたか……!

 いやいや、確かに超金持ちだったらいいな~なんて思ったことはあるけど! なんなら今日ナツキと話してた馬鹿話そのものだけど!

 俺は冷や汗を流しながら、どうしてこうなった、とグルグル考えてしまった。

 もし俺がこの世界に召喚されてなければ、今頃カラオケでナツキや同級生たちと騒ぎ、そのあとファミレスに行ったりして、楽しい時間を過ごしていたはずだ。春から散り散りになる友人達との別れを惜しみ、また会うことを約束し、それから……最後の思い出として、めちゃくちゃ好きだったハルカちゃんと、思い出にとツーショットぐらい撮れたらと思っていたのに……


 それに何より、ここに残ると父さんや母さん、妹や愛犬のハチ、ナツキ達友人に心配かけると思う。

 でも王子としての生活もすごく、惹かれる。正直この話に飛びつきたい。

 考えすぎてだんだん青ざめていく俺に気づいたのか、王様は穏やかに声をかけてきた。


「ハセガワよ、なにもワシは王子として生きていくことを強要しておらぬ。あくまでお主に選択してもらいたいのだ。安心するがよい」


「そ、そうですか。よかった……」


 異世界召喚という名の拉致ではないと分かり、俺は心底ホッとした。


「ただ……今日1日、ここで生活してみてくれないか。その後、お主にはもう一度問わせてもらう。ここで生活していくか、元の世界に帰るかを」


 それを聞いて、俺はまたひっくり返りそうになった。

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