王女
結構なスペースオペラ臭のするSFです。
基本SF好きなので、思い切ってやってしまっている感じと、やりたい放題な感じもあります。
深く考えず、読んでいただけたらなぁ、と思うわけでして……
序章
時の流れはゆるやかに、ゆるやかに、往きつ戻りつただ廻る……。始まりは終わりであり、終りは始まりである。人と人は呼び合い、そしていつかその地に還る……
-オリオン腕-
銀河に、星が煌めいていた。
星の煌めきに混じり、一瞬、鋭い光がほとばしる。
「第5、第4隔壁閉鎖!酸素流出止まりました!」
再び突き上げるような振動。この30分、耳を突き抜ける警報が熄むことなく危機を告げていた。
「後部第8区画直撃!」
……ここまでか。
艦長席に着くエドワード・フェスト。顔面半分を血に染めた彼は、腕に抱く女性をそっと床に降ろした。もう動くことのない、彼の妻……エリシア皇后。
「機関出力60%に減!」
「カーター、現在位置は!?」
「ケンタウルスαより0.2パーセクです!」
「成る程……青の星はすぐそこだな」
エドワードは奥歯を噛みしめた。
……ジョーカーに賭けるか。
「セリアをここへ。イゾーデを起こせ!」
「陛下……まさか!」
「そのまさかさ。ジョーカーに通信繋げ!」
突き上げるような激震に、エドワードは膝を着く。
「魚雷直撃!左舷スラスター30%消滅!」
「繋がりました!」
コンソールに縋り、立ち上がる。
「よぅジョーカー、元気か?」
血の滴る口元に笑みを見せた。
『待ってろ!すぐに出撃する!』
「あと一歩だんたんだがな……エリシアはもう……」
『エド……』
エドワードはかぶりを振った。
「来るな。お前に任務を与える」
『来るなって……』
「ゲィツは揃っているんだろ?」
『待て、トリストラムを発動させる気か!?』
「もう、待つことは出来ない」
「陛下、お連れしました!」
振り返ると、10歳になる娘セリアが駆け寄った。
「父様、母様は……」
エドワードは何も言わず、セリアを抱きしめた。
「父様痛い……」
「すまん、許してくれ」
そのまま壁面の非常用カプセルへ押し込んだ。
「何?ねぇ父様一体……」
「お前だけは生き延びろ。いや……決して死なせやしない」
「陛下、システム繋ぎます!」
カプセル内の生命維持装置が作動。セリアの瞼が重くなる。
「いや……私も父様と一緒に……」
「イゾーデ、娘を頼む!」
カプセルが格納庫へ送られた。
「ジョーカー、娘を保護してくれ」
『王女を?……俺に何をさせようってんだよ!』
「時が来たら……私を呼べ」
「イゾーデ射出!」
『エド、待ってくれ!』
「酒を飲む約束だったな。すまん、少し延びそうだ」
エドワードは通信を切断した。
「トリストラム起動!臨界まで上げろ!」
……私にはもう、何もない。
エドワードは傍らに眠る亡妻へ目をやった。
「臨界突破!」
……国も、妻も、娘も。
「諸君、祈ってくれ……」
大きく息を吐いた。
「龍皇最大加速!」
亡国フェスト。その最後の秘宝、旗艦龍皇が加速。
その速度は、通常空間で限りなく光の速度に近付いた。
後方に陣型を取る連邦軍の艦を振り切り、その数秒後……龍皇は0.8光日にも及ぶ光の航跡を残し、消失した。
多くの憶測と、伝説を残し……