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四季の歌  作者: 秋本そら
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春風と新芽の舞 —春の章—

 春を司る者が、一人。

 うねる黒髪に挿さる花。

 優しい眼差し、宿るは光。

 歌うその声は鳥のさえずり

 北風を追い出し春風と舞う。

 その者の名は——。

 まだ少し寒さの残る東京。

 男の子は、病気のおばあちゃんのために、病院にお見舞いに行くところでした。手には花束があります。

「えーっと、病院は……どうしよう、迷子になったかも」

 男の子はおろおろしながらあたりをやみくもに歩き回ります。そのせいで、ますます病院がどこか分からなくなってしまいました。

 ひゅーう、とまだ冷たい風が吹きすぎます。

「うう、どうしよう……」

 男の子が困り果てた、その時。

「——あら、どうしたの?」

 女の人の声がしました。

 ふりかえると、そこには黄色のトップスに長いピンク色のスカートを履き、黄緑色の薄手の上着を羽織った、白い靴の女の人がいました。くるくるっとパーマのかかった黒い髪に綺麗な桜の花が挿してあります。

「あ、あの。迷子になったんです。市民病院って、どこですか?」

「市民病院? ……私も知らないのよね。ああ、ちょっと待って。大丈夫、なんとかなるわ」

 女の人はそう言って、何故か空に向かって、「ハルカー、ちょっと来てー」と叫びます。

 すると、「キョウコ、呼んだー?」と、空からかわいらしい、幼稚園くらいの女の子が舞い降りてきたのです!

「……えーっ⁉︎」

 男の子が叫ぶと、女の人は「驚かせてごめんなさい」と謝りました。

「私は春を司る者。芹沢(セリザワ)響呼(キョウコ)って言うのよ。この子は私の髪から生まれた春の子。春花(ハルカ)って言うのよ」

 響呼は「春花、市民病院がどこか分かる?」と尋ねます。

「うん、分かるよ!」

「なんとか仕事を中断しないで案内できないかしら?」

「うーん……うん! 出来るー」

「じゃあ、この子を案内してあげて」

「おっけーい」

 春花はそう言って、空へ舞い上がりました。

「それえー!」

 そんな声が聞こえたかと思うと、突然辺りの花が咲き始めます。

「市民病院までの道に生えてる木や花だけに、新芽を出して花を咲かせたから、その道を通って行って! 道を間違えたら春風の追い風が吹くからね!」

 春花の声に、男の子は「うん! ありがとう!」と叫び返しました。

「それじゃあ芹沢さん、春花さん、ありがとうございました!」

 男の子は、花の咲く道を走って行きました。

 それを見届けた響呼は、道を歩きながら、北風を追い払って行きました。

「留美、いつまで遊んでるのよ。さっさと撤退なさいな」

 響呼がそう言うと、冬を司る者、立花留美が現れます。

「なあに、響呼。私だってもうすこし冬を楽しみたいのよ?」

「だあめ。もう神様から春のお告げが届いたんだもの。往生際が悪いんだから。春一番で全部北風を追い払ってやるから、覚悟してなさい」

「もう、分かったわよ……」

 ぶつくさと留美が呟いたその時。

「男の子が病院に着いたよー」

 と、春花が帰ってきました。

「よおし、本領発揮ね!」

 響呼は空へと舞い上がり、「ほらっ、北風はもういなくなりなさいっ!」と言って、春風を吹かせました。

 あたりには突然、暖かな風が吹き始めます。

 春一番です。

「さあ、共に舞いましょう。この素敵な春の訪れを祝福して!」

 響呼はそう言って、春風と共に舞ったのでした。

 暖かな日の光を纏い、温もりを与えながら。

 春を司る者が、一人。

 うねる黒髪に挿さる花。

 優しい眼差し、宿るは光。

 歌うその声は鳥のさえずり

 北風を追い出し春風と舞う。

 その者の名は、芹沢響呼。

 温もりの春を、祝福する者。

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