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王国魔剣奇譚アイン-勇者セーマと焔の英雄-  作者: てんたくろー
第三章・ゲットオーバー『VOLCANO』
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少年に、未知なるモノは宿りて

明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いいたします。

「そら、転移するぞお前ら。手ぇ繋げ繋げー」

 

 マオが促す。ドロスの奸計によってアインと分断されたことに気付き、慌てて村へ戻ろうとするセーマの意向を受けての物言いだった。つまりは転移魔法『テレポート』にて、一気に村へ向かうのである。

 そのためにもその場の全員が手を繋ぐ必要があり、マオの言葉に皆が顔を見合わせた。

 

「まさかって、感じだよなあカームハルトくぅん。魔王と力合わせるなんて、何べん生まれ変わったってそうあるこっちゃないぜ」

「ずーばーり! しかも魔法を安全な形で体験するというのですから驚きですね。いやはや、世の中分からないものです」

「ごちゃごちゃうるさいなそこ。さっさと行きたいんだから早く手を繋げよ」

 

 思わぬ形で、思わぬ相手の協力を仰ぐこととなった奇縁を驚く。そんな『クローズド・ヘヴン』ににべもなく言い放ったマオは、自分はさっさとセーマの手を握った。

 

「ほら、どうせ私の手とか握りたくないんだろ? 早くセーマくんと手ぇ繋げ。筋肉爺さんでもゴリラ2号でもずばりマンでも誰でも良いから」

「筋肉……」

「ず、ずーばーり! 言われても仕方はないですがずばりマンはちょっと」

「ちょっと待てゴリラ2号ってなんだよ、1号いんのかよ」

 

 ぞんざいな呼び方にそれぞれ複雑な反応を示す。とはいえ言われたようにぐずぐずしていられないので、それぞれが手を繋いだ。

 ゴリラ1号ってたぶん、フィオティナのことだろうなあ……と内心で推測しつつも、セーマもまた手を繋いだ。マオ、セーマ、ゴッホレール、カームハルト、ロベカルという並びになる。

 両手をセーマとカームハルトに繋がれることとなったゴッホレールが、にわかに顔を赤らめて微笑んだ。

 

「いやあ、へへ。男と手を繋ぐって中々ねえから、結構照れるな、はは」

「ずーばーり! まだ好い人いないんですかゴッホレールさん」

「うるせえ。いつも言ってんだろうが、最低でも私より強くねえと問題外だ問題外」

「そんなじゃから中々浮いた話が出てこんのじゃないかのう……」

「う……!」

 

 滅茶苦茶な基準を同僚と先輩に呆れられ、ゴッホレールは言葉に詰まった。普段は男勝りだが、少ししおらしくすれば引く手あまただろうになあと思いつつ、セーマは気持ちを切り替える。

 夜襲を開始してもう数時間が経つ。未だ深夜だが、逆に言えば寝込みを襲うのに絶好のタイミングだ。あるいは既に、ことは進行してしまっているのかもしれない。

 早くアインと合流しなければという思いで、彼は急かした。

 

「とにかく急ごう……マオ、頼む」

「はいよ。じゃあ村のすぐ近くに跳ぶ。一瞬だからそう身構えなくて良い、行くぞ……『テレポート』」

 

 そしてマオは転移魔法を発動した。荒野から村へ、一瞬でかき消える姿。

 後に残るは底知れないクレーターに大災害の痕跡。勇者と魔王、二人の爪痕だけが残る夜の大地であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──セーマたちが村を出た日の夜。村に残ったアインたちが皆、夕食も食べ終えてのんびりと身体を休め、鋭気を養っていた頃合いにまで時間は遡る。

 皆が一部屋に集まって休息を取る中、アインは一人、ベッドに腰掛けてじっと炎の魔剣を見詰めていた。

 漆黒の刀身に、赤い宝石が煌めく。吸い込まれそうな美しい真紅……ソフィーリアが声をかける。

 

「どうかしたの、アイン?」

「え? あ、いや……うん」

 

 問われて少年は曖昧に頷いた。他の者たちも何かあったかとアインを見つめる中、彼はぼんやりとした感覚を覚えて言い出した。

 

「自分でもいまいち、掴みきれてないんだけど……この魔剣の、何かが分かるような気がしてきてて」

「何か?」

「うん……この魔剣の、いや、この魔剣を通して出る『力』が、何だか、ぼんやりと見えるような気がして」

「……アイン少年?」

 

 じっと魔剣の真紅から目を離さず、どこか虚ろにアインが呟く。怪訝に思いアリスやミリアが近付いてまじまじと見るも、やはりどこか上の空でいる。

 

「何だろう……込み上げてくる。誰? 僕に、何を望んでいるの? ……え」

「お、おいおい少年、どうしたっちゅうんじゃ?」

「み、ミリアさん? さっきの注射、もしかして」

「変な物を射った覚えはありません! ただの栄養剤です!」

 

 ジェシーの怪しむ視線を受けてミリアが慌てた。たしかに先程栄養剤を注射したが、別段幻覚の類を引き起こすようなものを入れてはいない。

 それではこの、明らかにおかしな様子は何であるのか……アインは徐々に剣を握る力を強めていく。

 

「星……の力? 僕に? いやそんな、無理ですよちょっと……え。はあ……えぇ? それは……」

「何かと交信しとる?! ええい、魔剣を放せアイン少年!」

「……うーん。そりゃあ、あればあったに越したことないですけど……え、そんな大変なこと!?」

「大変なのはお前の頭だアイン! こら、手ぇ放せ!」

 

 果たして譫言か、はたまた何らかの存在との交信か……突如として虚空との会話を始めたアインに戦慄しつつ、アリスとラピドリーが魔剣を手放させようと奮闘する。

 しかして中々、手から離れてくれない……亜人であるアリスをして引き剥がせない、不可思議なまでの握力。

 たまらずリムルヘヴンも加勢した。 

 

「おい赤いの! オーナーを煩わせるな、発狂するならあのハエ野郎を始末してからにしろ!」

「アホか! そういう問題とちゃうわ!」

「はい……そうですね。それは、はい」

「アイン!? ねえアイン、アインってば!」

「そういうことなら。ええ僕だって、あの『オロバ』の奴らは許せないですし」

「……『オロバ』!? こやつ、幻覚や幻聴ではない! 何者かの干渉を受けておる!?」

 

 アリスが叫んだ。『オロバ』を巡っての何らかの会話だと気付き、これは発狂や錯乱ではないと確信したのだ。

 同時にアインの持つ魔剣から、不可思議な光が溢れた。真紅がアインを包み、彼の体内に収束していく。

 それと比例して彼の気配から放たれる『圧』が強くなっている。気配感知を持つアリスとミリア、リムルヘヴンは察知していた。

 

「何じゃ!? 何が起きとる!」

「……あ、はい。分かりました。それじゃあよろしくお願いします。はい、はい……それじゃ」

 

 そしてアインは、誰かに挨拶するように頭を一つ垂れ──そこでふと、我に返ったように周囲を見て驚いた。

 

「え? どうしたんです皆さん、いきなり集まって……」

「ど……どうしたもこうしたも、お主」

 

 まったくそれまでの不穏な素振りを感じさせない、いつものアインの表情、言葉。しかしそれが余計に不安を掻き立て、ソフィーリアはアインに飛び込むように抱きついた。

 

「アイン!」

「え──わわ、ソフィーリア!?」

「どうしちゃったの!? さっきのは何だったの、誰と話してたの?!」

「誰、と……?」

「覚えておらぬのか……お主はついさっき、魔剣を見つめて一人、ぶつぶつと何かを呟いておった。明らかに誰かと話しているように、な」

 

 きょとんとするアインに、深刻な面持ちでアリスが告げた。実際、覚えていないとなると質が悪い……本人に自覚がないのであれば確認のしようもないのだから。

 危惧通り、アインは首を傾げていた。ついさっきの己の行動を、少しも覚えていないというのだ。

 

「僕、ずっと魔剣の手入れをしてたと思うんですけど……上の空だったかもしれませんが、そんな独り言なんてしてませんよ?」

「マジかよ……どうなってんだ?」

「ええと、とりあえず身体に異常がないか調べるわね」

「は、はあ」

 

 やはり深刻な面持ちのミリアに促され、診察を受けるアイン。ひとまず二人は置いておいて、残る一同で話し合いが行われた。

 

「どういうこったよ……ありゃ嘘ってわけでもないだろ」

「うむ。間違いなく先程、アイン少年は何者かと接触しておった。意識が半分、その何者かのおる領域に飛ばされておったのかもしれん」

「だ、大丈夫なんですか、アインは?!」

「分からぬ……今は様子を見るしかない、か」

 

 それよりも、とアリスは魔剣を見た。今はアインのベッドの傍に、鞘に納められ立て掛けられている。

 これを見ていた時にアインの意識は飛んだのだ。彼女はいよいよ無視できぬと告げた。

 

「この魔剣を通じて、何者かが干渉したとわしは見る……元より使用者に、能力の引き出し方をレクチャーしてくるというではないか。ご主人も危惧していらしたが、あまりにも不可解すぎる」

「私も、そうでした……この魔剣を手にした時、不思議な感覚に襲われました、オーナー」

 

 リムルヘヴンが、腰に提げた水の魔剣を軽く撫でた。アインもそうだったと言うのだが、使い始めの頃、その秘めたる力の行使について、魔剣から精神への干渉が行われているのだという。

 

「漠然としたものでしたが……『ウォーター・ドライバー』の発現の仕方をイメージで示されたのです。先程の赤いののような、明確な干渉はありませんでしたが」

「……ここに来て重大な問題が発生したのう。今後も魔剣を使う限り、アイン少年やリムルヘヴンにいつ何時、先のような干渉があるやも分からぬ」

「戦闘中とかに意識が飛んじゃうと、それこそ大変ですよね……」

 

 ジェシーが怖々と呟くのを、アリスは肯定して頷く。タイミングによっては命に関わる……こうなるともはや、魔剣を扱うこと事態が重大なリスクとなってしまうのだ。

 

「クロードとの決着を付け、ご主人とも話してみてからじゃが……ことが済み次第、魔剣はすべて破壊した方がええかものう」

「あ、それ賛成です! アインがあんな風に変になっちゃうようなもの、危ないですもんね!」

「そもそも一部とはいえ、魔王が使ってたっていう魔法を扱えるような代物なんだろ? 危険性を考えればどのみち破壊するのが道理だわな」

 

 提案するアリスに、ソフィーリアとラピドリーの二人が両手を挙げて賛同の意を示した。アインの心身を最優先にするソフィーリアと、魔法を行使できる点を危険視したラピドリーとで理由は異なるが結論は一致した形だ。

 ジェシーもリムルヘヴンも特に異論はないと頷く。アリスが意外そうにリムルヘヴンに言った。

 

「ほう……お主なら固執しそうなもんかと思うたんじゃがな、ヘヴン」

「たしかに惜しくはありますが……リスクを高めてまで得る力でもないでしょう。ヘルに迷惑をかけるなど、二度と御免ですから」

「……そうか。ちったぁ前に進めとるな」

 

 優先順位を明確に、かつ正しく定めているリムルヘヴンに目を細めて、アリスはその頭を優しく撫でた。

 まるで親が子を褒めるような仕草だ。リムルヘヴンもくすぐったそうに、嬉しそうに笑うのだから余計に周囲にはそう見えるのであった。

 

 ともあれ話は一段落付いた。アインの方も診察は終わっている。どこにも異常はないとミリアが首を横に振る姿に、益々魔剣への不信感が募る。

 アリスは先の提案をアインへ示した……すなわち魔剣騒動の終結後、魔剣を破壊するというものだ。

 

「せっかく手に入れた力を手放せと言うのは酷じゃがのう、少年」

「分かってます……『ファイア・ドライバー』にしろ『プロミネンス・ドライバー』にしろ、普通に生きていく分には大きすぎる力ですしね。ああ、でも」


 年頃の少年だ、多少駄々を捏ねられるかとも思ったのだが……アインは予想以上に素直に提案を呑んだ。

 けれど、とその顔を曇らせる。そんな少年に、ソフィーリアが尋ねる。

 

「どうしたの、アイン?」

「いや、その。魔剣を手放しても、たぶん……僕はもう、手遅れかも知れないって」

「……何じゃと?」

 

 その言葉に、どこか取り返しのつかないヒヤリとしたものを覚えてアリスが聞き返そうとした、その時。

 大きな音を立てて部屋のドアが開かれた。

 

 全員が視線を向ける、そこには。

 

「こんばんは皆さん──英雄らしく、真正面から決戦を挑みに来ました」

「……な、に!?」

 

 風の魔剣を操る、『オロバ』の手先。

 魔剣士クロードがいたのである。

「王国魔剣奇譚アイン」ももうすぐ最終章、1月中には終わるかと思います。

どうぞ最後までよろしくお願いいたします。

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