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王国魔剣奇譚アイン-勇者セーマと焔の英雄-  作者: てんたくろー
第三章・ゲットオーバー『VOLCANO』
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戦闘開始、冒険者たちの死闘

 ヴィクティムを一振りするごとに数人、首と言わず手足と言わず胴と言わず切断されて死んでいく。

 『オロバ』に与した、平和を受け入れられない程にまで戦争に浸かりきった者たちの、最期の戦い──救いを求めるがごとく飛び掛かってくる者たちを、セーマは次々に物言わぬ肉片へと変えていった。

 

「……良かったな、お前たち」

 

 後方に下がりつつバルドーが、どこか慈しむように呟いた。戦後間もなく、宛もなくさ迷っていた彼らを引き込んだ張本人として、彼らが望む終わりを迎えられたことを喜ばしく思う。

 

「バルドー。お前も逝くのか?」

 

 そんな彼に、今にも飛び出しそうなうずうずとしている亜人が問いかけた。まるで餌を前にした飢えた狼だと思いつつ、バルドーは答える。

 

「いや、私は行くよ。どのみち今日明日の命だろうが、私には私の……『オロバ』すら関係ない悲願がある。それがようやく達成されるかもしれないのだから」

「そうか……分かったよ。ありがとうな、今まで。お前の下で悪さしてた数年、楽しかった」

 

 その言葉に、バルドーは苦笑した。彼は彼らを利用して、彼らは彼に利用された。その果てがこうして、客観的に言えば虐殺の憂き目であるというのに……あべこべな関係にも程がある。

 それでもどこか清々しい気持ちで、バルドーも言葉を発した。たった数年だが目的を同じくした、駒ではあったがたしかな同志に向けての、最期の言葉。

 

「私もだ。ここにいる皆、死んでも忘れない。ありがとう、地獄か来世か、またいつかどこかで会おう」

 

 そしてバルドーは獣化し、跳んだ。クレーターから脱出し、戦線を離脱したのだ。

 てっきりこの場で玉砕するかと思っていたセーマもさすがに驚愕し、叫ぶ。

 

「逃げるだと!? 光を放てっ、ヴィクティム!」

「くっ……!」

 

 即興で放ったため十分なエネルギーは込められてはいないが、それでも受ければ手足くらいは吹き飛ばせるだけの熱量で、セーマはヴィクティムから極光を放った。

 背後から迫る攻撃。手足の一本くらいならばくれてやると咄嗟に身構えるバルドーだったが──

 

「お困りのようだね、バルドー」

「……首領か! 助かる!」

 

 突然虚空から現れた『オロバ』首領がその手を掴み、回避の手助けをした。二人揃って無事、クレーターから脱出して着地する。

 

「ちっ! 首領、貴様っ!?」

「俺たちを無視すんな、勇者ぁっ!」

「心を込めて丹念に殺してくれ! じゃねえと俺たち、死んでも死にきれねえんだよぉっ!!」

「──、分かってるよっ!」

 

 首領の姿まで確認し、いよいよ逃がすものかと追撃にかかろうとするセーマだったが……哀願するように叫び、死ぬために突撃してくる亜人たちにそれを諦めた。

 せめて彼らの望むように死なせてやりたかった。無念なぞ一つとて残らぬように、完璧に完全に、彼らの戦争を終わらせてやりたかったのだ。

 

「死にながらで良い、一つだけ聞かせろっ! あのバルドーはお前らとは別なのかっ!?」

「そうだっ!」

「あいつだけは元々『オロバ』だった! 俺たちはあいつに拾われたんだ!」

「『オロバ』の目的なんざどうでも良かったが、あいつ個人の目的は面白そうだったからな!!」

「……バルドーはバルドーで、個人的な目的のために『オロバ』に与しているということかっ! ありがとう、さよならっ!!」

 

 答えながら死んでいく亜人たちに礼を述べる。バルドー自身が持つ、『オロバ』とは関係のない目的……それについて考えるのは後として、彼は亜人たちを切り捨てていった。

 

 全員殺し尽くすまで一時間とかかるまい……しかしそれだけの時間があれば、あのバルドーや首領はどこへなりとも行けるだろう。とは言え彼らがすんなりと動けるわけでもないようだ。3つの気配がそれを示している。

 

「……任せたぞ、三人とも」

「集中しろよ勇者ー!」

「ぞんざいな感じで殺してくんじゃねえー!!」

「注文の多い死にたがりどもだ……っ! まったく!!」

 

 今はひとまず、この連中を余さず討ち取るまでだ。

 セーマは『オロバ』幹部たちを頼れる仲間たちに任せながら、この憐れな死に損ないたちを丁寧に迅速に滅ぼしていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月照らす真夜中の荒野の大地に、一陣の風が吹いた。寒くはないが、暑くもない──丁度良い気候だと冒険者は、眼前の敵を前にして笑った。

 

「へっへっへぇ……セーマさん、私らに大物を残してくれてるたぁ粋だねぇ」

「ずーばーり! 大勢を相手に乱戦するよりよほど助かりますねえ……油断ならない相手であるのはたしかですが」

 

 軽口を叩きながらもその意気はすっかり油断も隙もなく戦闘体勢に入っている。『クローズド・ヘヴン』の二人、ゴッホレールとカームハルトはそれぞれの得物を構え、クレーターから抜け出たところで鉢合わせた亜人二人と相対していた。

 そしてもう一人、老翁が杖を放り投げ、上着を脱いで上半身を晒しながら呟く。

 

「ふむ……スーツの男は例の首領じゃな? そしてそちらのワーウルフ、そいつがバルドーか。ことの発端が揃っとるとはのう」

「かくいう君たちは……ええと?」

「『クローズド・ヘヴン』が二人に『タイフーン』ロベカルだ。いずれも単独で亜人と渡り合える実力者……まさかこんなところで会うとは、な」

 

 誰何を問う首領にバルドーが答えた。その顔は多分に焦燥を含んでいる。一刻も早くこの場を離れなければ、直に勇者が亜人たちを皆殺しにしてやってくる。

 それだけは避けねばならないというのに、このタイミングで厄介な連中が現れたことに舌打ちを一つ。対して首領は鷹揚に頷いた。

 

「ああ……なるほど有名人がお揃いで。私たちを止めに勇者と共に来たのかな?」

「そういうこったぁ……『クローズド・ヘヴン』No.9、『翔龍』ゴッホレール!」

「同じく『クローズド・ヘヴン』No.5、『凶書』カームハルト!」

「……ん、わしもか? あー、『タイフーン』ロベカル」

「我らが友、勇者セーマと共に魔剣騒動を解決するため! てめぇらまとめてあの世行きだ、オラァッ!!」

 

 名乗りと共にゴッホレールが突撃した。手にした鉄棒を勢いよく振り回し、亜人二人をまとめて薙ぎ払おうとする。いたってシンプルな鉄製の棒だが、それを操る女の筋力は尋常のものではない。

 

「っ、と。お、お……?」

 

 首領が漆黒の魔剣を抜き放ち受け止める。横薙ぎの一撃ゆえ、受け止めてなお吹き飛ばされかけた自身の身体に彼は驚く。

 バルドーが吼えた。

 

「貴様らっ! 邪魔をするなぁっ!!」

「ずーばーり! それはお断りです。『81ページ・静寂の聖者、聖夜に生誕す』!」

 

 手にした分厚く大きな本を開き、そこに仕込まれていた武器を取り出す──『凶書』カームハルトの戦闘法、それは本に仕込んだ無数の武器を駆使しての敵の封殺!

 今まさに『81ページ』に仕込んだ、現状に最も適した得物を放つ。鞭だ……バルドー目掛けてしなやかに振るわれる。

 

「っしゃあっ!!」

「むっ……?! いかん!」

 

 亜人相手にしてはいささか威力が低い。牽制か?

 そう考える理性と裏腹にバルドーの本能は直感的に回避を命じた。直撃するスレスレのところでも難なく回避する。そしてすぐ傍まで迫る鞭から漂う異臭を、ワーウルフの鋭敏な嗅覚が察知した。

 目を見開いて叫ぶ。

 

「……毒かっ! 貴様、まさかレンサスも!?」

「対亜人用致死性猛毒! ずーばーり! 触れれば即死、逃れる術はなし!」

「くっ……!」

 

 更に鞭を振るうカームハルト。毒の効力については実際のところ精々半年寝たきりにするのが精一杯という、つまりはハッタリなのだが……どのみち亜人さえも行動不能にする点では変わらない。

 どうにか戦線を離脱したいバルドーとしてはたとえかすり傷とて受けられない攻撃だ。それゆえ、回避に専念せざるを得ない。

 見事に足止めされている……ワーウルフは歯噛みしていた。

 

 一方で首領。そんなバルドーを横目にしつつ、ゴッホレールに皮肉げに笑う。

 

「亜人を浮かせるとは大したものだ、お嬢さん……年季の賜物かな?」

「お嬢さんとは嬉しいねぇっ! 年季ってなぁ余計だがなぁっ!!」

 

 追撃に、今度は鉄棒での刺突に切り替えてくるゴッホレール。そのいずれもが烈帛の気迫を感じさせる、鋭くも繊細な技だ。

 

「うらうらうらうらうらうらうらぁぁぁっ!!」

「やかましいな、君は……っと、隙あり」

 

 とは言え亜人ゆえ、受けたところでそうダメージはない。毒が仕込まれている可能性も考慮して剣で鉄棒を打ち払えば、ゴッホレールは体勢を崩す。

 

「これで終わりだ」

「な……めんじゃねえぇっ!!」

「ぬ……?」

 

 その隙を逃さずに振るわれる剣──しかし彼女は体勢を崩したことさえ利用してそれを避け、反撃に転じた。

 無理矢理に身体を反転させて、振るっていた鉄棒で地面を叩く。

 その反動で天高く跳び上がれば、釣られて空を見上げた首領の目に映るは鉄棒を大きく振りかぶる、天駆ける龍のごとき雄々しき姿。

 

「『翔龍』……!」

「その名の由来、とくと見せてやらぁっ!! ──『天楽陣勢・乾坤一擲』ぃっ!!」

 

 全体重、落下速度もすべて込みで放たれる剛力の一撃……ゴッホレールの奥義。数多の亜人を血祭りにあげてきた、『クローズド・ヘヴン』においてもトップクラスの破壊力を持つそれが放たれ、首領は漆黒の魔剣を盾として構えて衝撃を受け止めた。

 

「うっ、ぐっ!?」

 

 ここに来て、初めて首領の顔色が変わった。凄まじい威力──受け止めた瞬間、衝撃が首領の身体を通じて大地を揺るがせる程だ──によって、たしかに彼は焦燥したのだ。

 

「これ、は……余裕ぶっていられんな……?」

「はっはぁっ!! どうせその剣もろくでもねーんだろ、へし折ってやらぁねぇっ!」

 

 勢い込んで叫ぶゴッホレール。敵を確実に追い詰めていることに手応えを感じ、ここで決めると力が篭る。

 更に強まっていく威力を前にして、首領は一つため息を吐いた。

 

「やむを得んな。消費が激しいものばかりで、完成するまでは使いたくないのだが」

「くたばりやがれえぇっ!!」

「そうはいかん──! 『パーフェクトドライバー』っ!!」

 

 そして発動する、魔剣の威。漆黒の魔剣に埋め込まれた純白の石が闇を纏い、プラズマを放つ。

 勇者の……セーマと同種の圧力。ゴッホレールは慄然と叫んだ。

 

「何ぃっ!?」

「『タイプ"アルマゲドン"』!! 終わりだお嬢さん!」

「させぬ。隙ありじゃ、小僧」

 

 魔剣がいよいよ発動し、放たれる殺意の闇にゴッホレールが漠然とした死を予感した、瞬間。

 わき腹に突き刺さるがごとき衝撃を受け、首領は横へ吹き飛ばされた。

 

「っ!?」

 

 予想外の衝撃。さしもの彼も驚きに顔を歪めつつ、体勢を取り直して着地する。

 完全に不意を突かれた。ゴッホレールの息をもつかせぬ連打連撃とその対処に集中したところを、物の見事に攻撃されたのだ。

 

 ──『タイフーン』ロベカル。ここに至るまで気配を消して機を窺っていた老翁の、的確なアシストであった。

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