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王国魔剣奇譚アイン-勇者セーマと焔の英雄-  作者: てんたくろー
第三章・ゲットオーバー『VOLCANO』
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解き放て極光、荒野を裂く刃

 荒野へ向かう際もやはり、移動手段は馬車を用いてのものだ。

 駆け抜ける双馬は未だ疲れ知らず、いやむしろ、ようやく体が温まったと言わんばかりに嘶きも高らかにあげて快走している。

 御者台にてセーマが手綱を引く中、車内にて人間の冒険者が三人、すなわち『タイフーン』ロベカルと『翔龍』ゴッホレール、『凶書』カームハルトが打ち合わせをしていた。

 

「まずはセーマさんが地下アジトに奇襲をかけて、泡食って地上に抜けてきた連中を各個撃破……か。セーマさんの負担、大きいな」

「ずーばーり! 我々もある程度地下に潜るべきでは? というかそもそも荒野は広いですから、アジトがどこにあるかも知れませんが」

 

 ロベカルからざっくばらんとした説明を受け、即座に二人が意見を出した。セーマが切り込み三人が後を詰める形なのだが、それではセーマばかりが矢面に立つ。

 それはどうかと思っての主張に対して、老翁は答えた。

 

「いや、奇襲は地上にいるまま行う。勇者殿は何と言うべきかの、大地の広い範囲を一度に攻撃できる。それを利用して一気に地下アジトを探り当てて燻り出すおつもりじゃ」

「……地上の広い範囲を一度に?」

「ずーばーり! とんでもない話ですね……本当なのですかセーマさん?」

 

 勇者の存在は元から知っていたし、なおかつ憧れとも思ってはいたが……まさかそのような大規模な破壊まで可能とは思わなかった『クローズド・ヘヴン』の二人。驚いて御者台のセーマへ問いを投げれば、彼はあっさりと肯定した。

 

「まあ、一応ね。広範囲に影響を及ぼすから戦場でも滅多に使わなかったけど、できることはできるよ」

「何とまあ……何でもありだなあ」

「そんなことないって。できることをやってるだけだよ、皆と変わらない」

 

 何でもないことのように呟くセーマ。実際彼にとっては本当に大したことでもないのだろう……けれど常人にとってはそれでも次元の違う領域である。

 さすがは勇者だと畏敬を込めて『クローズド・ヘヴン』の二人が感嘆の息を漏らせば、ロベカルは続けて言う。

 

「ま、というわけでの。勇者殿の一撃にてまずは奇襲をかけ、混乱しておる連中を倒していくわけじゃな」

「シンプルな作戦で良いねえ……注意することはあるかい?」

「そうじゃな……魔剣士がおるかも知らんで、出てきたら注意すべきじゃのう」

「風の魔剣士クロードと、もう一人『オロバ』の首領が魔剣を持っている。特に首領の方は俺にもよく分からない力を持つようだから、見かけたら気を付けてくれ。スーツ姿の中年男性だからすぐに分かる」

 

 ロベカルとセーマは特に、魔剣士を警戒していた。バルドー以下亜人連合の亜人たちは正直なところ手の内とて知れた分かりやすさがあるが、クロードと首領の二人は魔剣を扱うこともあってか得体が知れない。

 ゆえにゴッホレールとカームハルトにも十分な注意を払うように言い聞かせれば、二人もその危険性を認識して頷く。

 

「そろそろ荒野が見えてきた。車内で難だがウォーミングアップでもするならしといてくれ」

「分かりました。さて二人とも、よろしく頼む……組むからには足を引っ張らんようにするでな」

「あいよ。まあお互い命がけさね、そうそうヘマしないようだけ、気を付けようぜ」

「ずーばーり! 一瞬の油断が命取りですからね。気を付けましょう」

 

 軽く身体を解しながら三人、気負いすぎるでもなく互いのコンディションを確認しあう。

 歴戦のプロフェッショナルらしい、油断とは異なる余裕のあり方だ……感心しながらもセーマは、いよいよ荒野へと馬車を走らせるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 荒野の中心部まで辿り着いてから、セーマは一旦、ノワルとブランを荒野から離れた草原地帯にて待機するよう指示した。これから広範囲に渡り攻撃を仕掛けるのだ、巻き添えにしないためのものである。

 

「夜明けまでに戻らなければ何かあったとして、森の館まで帰還してくれ。その時点で皆、異常事態に気付いて動き出すからな」

 

 聡明なる双馬は頷き返し、セーマの顔に一つ頬擦りしてから去っていく。

 気配が草原に到達するのを見計らって、彼はロベカルたちに切り出した。

 

「さて、じゃあ……始めるか。全員、俺の後ろに下がっていてくれ」

 

 その言葉に三人、セーマの背後へと移動する。今から行われる勇者の技に皆、興味津々だ。

 

「勇者の力、この目で見られるなんてずーばーり! ラッキーですねえゴッホレールさん」

「他の『クローズド・ヘヴン』の連中にも自慢できるな、カームハルトくん」

「見世物ではないぞ、二人とも……とは言えわしも正直、心が昂るところはあるのう」

 

 何やら大きな期待を抱かれているらしいことに苦笑を浮かべつつ、セーマは右手を開いて己の武器を喚び出す。

 

「『ヴィクティム』」

 

 銘を呼べば現出する、勇者の剣──救星剣ヴィクティム。普段はセーマの身体と一体化しており、有事の際にはこうして彼の力となる。

 剣が現出した瞬間、セーマの身体からエネルギーが迸った。勇者の肉体に宿る無限エネルギー……普段はヴィクティムによって拘束制御されている力が解放され、漏れ出たのだ。

 

「おお、勇者の剣! あれぞまさしく、戦場を駆け抜けた白亜の刃じゃ!」

「すげえ……どっからともなく現れたのもだけどよ、単純にセーマさんから放たれる『圧』が半端ねえ」

「ずーばーり! これが戦闘体勢に入った、勇者の姿ですね!」

 

 吹き出たエネルギーは物理的な圧力となって背後の三人にも感じられ、彼らは畏怖の声をあげる。

 ロベカルは戦争にて遠目から何度か見かけたことがあったが、ゴッホレールとカームハルトはこれが初見だ、余計に衝撃が大きい。

 しかしまだだ、と老翁は呟く。

 

「これはまだ戦闘体勢ではない……今感じとる力の圧は、剣を抜かれた勇者殿が何をせずともただ放っているだけの謂わば余剰エネルギー……これからじゃ! 備えい!」

「──ヴィクティムッ! 光を纏えっ!!」

 

 ロベカルの警告とセーマが叫ぶのはほぼ同時だった。瞬間、セーマの身体から爆発的エネルギーの奔流が天高くまで柱のごとく立ち上ぼり、余波が衝撃となって周囲を吹き飛ばす。

 

「ぬうううううっ!」

「うおわぁっ!?」

「なん、とぉっ!!」

 

 手にした杖を地面に突き刺し、それにどうにかしがみついて吹き飛ばされずに済んだロベカルではあったが……間に合わなかったかと、見事に後方に吹き飛ばされた後輩冒険者たちを見て言う。

 

「大丈夫か? 言うのが遅れたのう」

「あ、ああ……大丈夫だ爺さん」

「ず……ずーばーり! 爆風もかくやでしょう、これは!」

 

 衝撃が収まったのを見計らいどうにか立ち上がりロベカルの隣へ戻る二人。その顔は明確な驚きと唖然とした困惑が入り交じっている。無理もない……気合いを入れた程度で大の大人が二人、成す術もなく吹き飛ばされるなどと思いも寄らないことだ。

 

「だ、大丈夫か? ごめん、久々だから思ったより力んでた」

「い、いや大丈夫さね……それよりセーマさん、あんた……」

 

 当のセーマ自身、力の加減を少し誤っていたことを詫びてくるのだが、それよりもとゴッホレールはその姿に息を呑んだ。

 迸るプラズマ。立ち上っていたエネルギーの奔流がすべてその身に収まり、余剰分による放電現象を引き起こして大気中の埃を弾いて燃やし火花を散らす。

 そしてヴィクティムも……眩い極光を纏い、威圧感をたっぷりに輝いている。見ているだけで伝わる秘めた力の極大さ。

 

 予想を遥かに越える姿だった。間違いなく、存在しているだけで周囲の空間に影響を及ぼす程のエネルギーそのもの。

 しかして本人だけは常と変わらぬまま、ヴィクティムを構えて告げた。

 

「それじゃあ一発だけ……荒野をこんな形で荒らすことになり申し訳ないが、やむを得ないこととしてもらおう」

「今度は吹き飛ばされぬように備えるのじゃぞ、二人とも!」

「あ、ああ! よっしゃこい! あ、いやこっちに放つなよ、死んじゃうからな!」

「ずーばーり! 余波だけで死にかねませんけどね!」

 

 やはり杖を大地に突き刺して備えるロベカルの言に、今度こそはと二人も対応した。ゴッホレールは得物の鉄棒を突き刺してロベカルよろしくしがみつき、カームハルトは手にした本から折り畳み式の盾を取りだし、爆風避けにしつつしゃがみ備える。

 

 セーマもそれらは確認し、その上で剣を大地に突き刺す。

 未だ見えぬ荒野の地下深く、邪悪の潜むアジトに向けて……勇者に宿る無限の力、その顕現たる極光は放たれようとしていた。

 

「光を放て──ヴィクティムッ!!」

 

 そして救星剣から解き放たれた極光の放射。セーマの真下、垂直に穿たれる放熱が地下深くまで延びていく。

 そのままセーマは前方に向け……極光を放ったまま、ヴィクティムを切り上げた!

 

「ぬおおおおっ!? 大地が、大地がっ!!」

「ま……真っ二つになっていきやがる!?」

「そ、んな……!」

 

 ロベカルたちの愕然とした叫びのままだった。エネルギーを放出したまま切り上げたことにより、荒野の大地が引き裂かれたのだ。

 荒れ果てた大地はその衝撃に耐えきれず崩壊し、その崩壊さえも粒子レベルにまで分解されて無かったことになっていく。

 

 荒野の一部が、消滅する。後に残るのは一筋に長く深く延びた断裂と、その周辺に発生したクレーター。

 ──これが勇者の力。セーマの力が一部、解放された結果であった。

 

「……ふう。やっぱり、あまり良い気分にはなれない、な」

 

 極光を収め、放出していた力をひとまず内に鎮めてセーマが呟く。アジトを見つけるため、時間もないからと最も手っ取り早い手段を取りはしたが……環境を破壊してしまったことは疑うべくもない。

 苦虫を噛み潰しつつも振り返る。今しがた目の前で起き、そしてその結果として残された壮絶な光景に開いた口の塞がらない三人へと声をかける。

 

「終わりました……剥き出しになった地下から亜人の気配を多数感じ取れます。まさしくアジトを直撃したみたいですね」

「そ……そうですか。いやはや、お見事と言いますか何と言いますか」

 

 比較的早く、ロベカルが気を取り直した。やはり戦場でのセーマを、そして魔王による大規模破壊を知っている分、ある程度は予想していたのだろう。

 次いでゴッホレール、カームハルトも慌てて反応した。

 

「……す、すっげえ。いやもう、すげえなんてレベルじゃないぜセーマさん。大地を真っ二つにしちまうなんてよ」

「ず、ずーばーり! 信じられない光景です。夢でも見ているのかと思う程に」

「差し迫った事態でもなければ、こんな真似したくなかったんだけどね……これじゃ魔王と変わらない」

「あ……そっか。魔王も似たようなことしてたんだよな、おっかねえ」

 

 慄然とゴッホレールが呟いた。セーマの宿敵であった魔王マオは、これに近いことを方々でやらかしていたと多数逸話が残っている。

 

 つくづく、人間の尺度では計れない存在なのだ……勇者、そして魔王とは。

 それを心底から思い知らされて、『クローズド・ヘヴン』の二人は感嘆とも畏怖ともつかない息を漏らしたのであった。

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