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王国魔剣奇譚アイン-勇者セーマと焔の英雄-  作者: てんたくろー
第三章・ゲットオーバー『VOLCANO』
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激震のギルド、そして助っ人

 結論から言えば、ギルドにドロスはいなかった。やはり数日前にリムルヘヴンを追うと言って出かけたきり、戻ってきていないらしいのだ。

 特別応接室にていつもの事務員が困惑と動揺、ショックに言葉を失う中、セーマは一通りこれまでについて報告していた。


「──以上の点から、ギルド長ドロスさんの身柄を保護すべく戻ってきた次第です」

「……」

「大丈夫か? 気をしっかり持つのじゃ」

 

 顔を真っ青にしている事務員にロベカルが声をかける。無理もないとセーマには思えた……ギルド長が行方不明、それだけならまだしも敵組織『オロバ』との内通疑惑まで持ち上がっているのだ。

 次第によってはギルドの信用を根底から失墜させかねない非常事態。ロベカルに促され、やっとの思いで我に返った事務員は震える声で呟いた。

 

「わ……分かりました、状況は。も、申し訳ありませんが一旦、ギルド内で会議を」

「それは構いませんが、どのみち時間がないので俺とロベカルさんは荒野へ向かいます。ここにいない以上、考えられる居場所の第一候補はやはり、『オロバ』のアジトだ」

「捕らえられているにせよそうでないにせよ、あるいはそこにもおらぬにせよ……とりあえず確認せんことには話が進まんでな」

「あ……そ、そうですね。すみません、そうしてください。ああ、何てこと、ギルド長……」

 

 完全に動揺しきっている事務員。報告自体はせねばならないことであったが、こうなるとどうにも気の毒に思えてくる。

 ギルドぐるみという線はどうかなと考えつつ、セーマは落ち着かせようと声をかけた。

 

「すみません、このような報告となってしまい。ただ、現状ではギルド長は白とも黒とも言えません……それをたしかめるために、俺たちは行くのです」

「セーマ、さん」

「加えて魔剣士の問題もある。状況的には正直、後手です。一刻の猶予もない」

「だからこそわしらやお主らが踏ん張らねばならん。魔剣騒動に巻き込まれた若者たちのためにもな」

「ロベカルさん……」

 

 セーマと老翁の言葉は、どこまでも成すべきことを成すための気概に満ちている。いかなる場合でも最善を尽くそうとする意志と、次代を担う者たちの力になろうという決意。

 それは事務員はじめ、ギルドにて冒険者を支援する者たちも皆、持ち合わせているもので。

 

「こうした事態にこそ一致団結し、腰を据えて取り組まねばならん……ここが正念場ぞ、ギルド!!」

「! ──はいっ!」

 

 だからこそ、叱咤激励に奮起して事務員は立ち上がった。凛とした眼差しで高らかに告げる。

 

「直ちにすべてのギルド職員に現状を告げ、その上で対策を行います! 次第によってはギルド長ドロスの権限を副ギルド長に一時委譲し、今後の判断を仰ぐことも視野にいれます!」

「うむ、頼むぞ」

「よろしくお願いします」

「はい! ギルドの総力を上げてこの難局、乗りきって見せます!」

 

 力強く頷く事務員。そのまま部屋を出ていった……こうなればセーマたちも後は、『オロバ』のアジトへ乗り込むばかりである。

 残された二人、ポツリと呟いた。

 

「……少なくともギルド丸ごと『オロバ』ってわけでも、ない気がしますね」

「これであの事務員までグルじゃったら、役者への転職を薦めますな、わしならば」

「一躍トップスターですね、間違いなく」

 

 使命と責任に燃えた事務員の姿に、ギルドのある程度の潔白を確信して、二人は微笑むのであった。

 ところで、とセーマが言う。

 

「助っ人とやらはどこにいるんです? 合流次第すぐに発ちたいのですが」

「ええ、もうじき来るかと……ドロスに続けわしまで抜けた後の調査チームを仕切らせとりますでな、わしが戻ったらすぐ来るように言っとります」

「そうですか……ん、誰か来ますね。二人?」

 

 気配感知にこちらに向かってくるものを察知する。二つ……いずれも人間だ。

 足早に駆けているのかすぐ部屋の前までやって来て、ノックと共にドアが開かれた。

 

「おう爺さん! 案外早かったな!」

「ずーばーり! いきなりで恐縮ですが、あの調査チームの面々の質の悪さはどうにかならなかったのでしょうか師匠!?」

「……ゴッホレールにカームハルト!?」

 

 表れたのは見覚えのある男女……先だっての水の魔剣との決戦時、陰ながら敵幹部レンサスを撃退してくれた二人。

 世界最高峰の冒険者集団、人間世界の平和と秩序を護る国際組織『クローズド・ヘヴン』のNo.9とNo.5。『翔龍』ゴッホレールと『凶書』カームハルトである。

 二人は勢いよく入室し、ロベカルだけでなくセーマがいることにすぐさま気付いて目を剥いた。

 まさかこんなところでつい最近友人ともなった『勇者』に会うとは思っていなかったのだ。

 

「セーマさん!? え、何でここに? 爺さんに同行してたのかい!?」

「ああ、まあね。二人が調査チームの代理リーダーしていた……つまりは助っ人ですね?」

「左様ですじゃ。二人とも、すまなんだのう、急に面倒ごとを頼んで」

「それは構いませんが……ずーばーり! 師匠、助っ人とは何の話でしょう?」

 

 カームハルトが尋ねる。『師匠』という呼び方の示す通り、彼はロベカルの弟子である。ギルドの調査チームをロベカルの代行として取り仕切っていたのも、その縁あってのことなのだろう。

 さておいてロベカルは簡潔に事情を話した。風の魔剣士クロードの襲撃に先駆けて、行方不明のギルド長ドロスを確保せねばならない……そして水の魔剣士リムルヘヴンとの間にある話の齟齬についても聞いて、彼女の真意を問う。

 

 さしもの『クローズド・ヘヴン』であっても、まさかギルド長が敵組織との繋がりを疑われているとは思いもよらないことで、息を呑んでロベカルからの説明を受けていた。

 

「……そんなことになってんのか。信じたかねえけど……爺さんやセーマさんが言うんだ、疑わしいんだろうな」

「まあ、ね。もちろんまだ確定したわけでもないし、もしリムルヘヴンちゃんの方が嘘を吐いていたなら正直、そっちの方がずっと良いんだけどさ」

「ずーばーり! 水の魔剣をギルドに運んだ身としては、もちろん誰にも悟られぬよう秘密裏に持ち込んだわけですから? ずーばーり! そのリムルヘヴンとやらいう亜人が魔剣について知る由などないと断言したいところですが……うーむ」

 

 悩ましげに嘆く『クローズド・ヘヴン』の二人。セーマに頼まれて水の魔剣をギルドへと持ち帰ったのは他ならぬこの二人だ。ゆえ、リムルヘヴンどころか他の誰にもバレないよう、完璧な仕事をしたとの自負がある。

 セーマもロベカルも、この二人の魔剣の運搬に何かしら落ち度があったという風には考えていないため、そこはもちろんと頷いた。

 

「二人が魔剣を持ち運ぶ時、しっかり中身が判らないように布で包んでいたのは見てるからね。そこは大丈夫だと信じてるさ」

「そもそも持ち運ばれた時点ではあの魔剣、破損しておりましたからの……ふむ、そう考えると魔剣を修復したというドロスの知り合いの鍛冶師とやらも、途端に怪しく思えてきますな」

「ギルド長が『オロバ』だってんなら、もしかしたら向こうに持っていって直したんじゃねえのかなあ」

 

 未だブラックボックスの多い魔剣を、柄の部分が壊れていただけとはいえ元通りにして見せたこと……そこからして既におかしな話であるのだ。ゴッホレールの言は、その点について何も疑わないでいたセーマやロベカルに渋面を浮かばせるに足るものだった。

 

「あっさりと修復された時点でおかしな話と言えばおかしな話ですからね……いや本当に名匠が直したのかもしれませんが、『オロバ』の手の者が直したというのでも話が繋がってしまう」

「その場合、研究のために直すというのは建前で……実際は新たな魔剣士に再利用するためというのが目的だった線までありますな」

「ずーばーり! そしてリムルヘヴンが現れて、新たな魔剣同士のぶつかり合いのために利用された、と……あくまで可能性ですがね」

 

 考えれば考える程、ギルド長ドロスへの疑いが深まる。とはいえどこまでいっても確認しないことには疑いは疑いのままだ。

 やはり直接聞いてみないことには、何も分からない……セーマは立ち上がった。

 

「とりあえず行こう、皆。『オロバ』アジトにドロスさんがいれば保護した上でアジトを潰す。いなければそのままアジトを潰す。簡単な話だ」

「敵構成員はどうしますか? ずーばーり! 全員捕縛するとなると向こう方の数によっては手が回りませんよ?」

「そこは心配いらぬ……早い話、後のことを想えば全滅させた方が後腐れはなかろうてな」

 

 つまり、皆殺しだ。セーマもロベカルも既に『オロバ』に与する者への容赦など微塵もない。

 罪無き者に罪を背負わせ、人を人とも思わぬ非道に手を染め、あまつさえ若者を巻き込み勝手に利用する……ことここに至り、かの組織とその構成員に加える手心などあるはずもなかった。

 

「とはいえ、降参くらいは呼び掛けるけどね……抵抗するならともかく、戦意喪失した者まで殺したくはない」

「勇者殿は卓越した力量あってのものじゃが、わしらはそもそも手心なぞ加えてたら殺されるでな。腹を括れよゴッホレール、カームハルト。今よりまさに、この魔剣騒動の正念場じゃぞ」

「言うまでもないさね、任せな爺さん。へへ、腕が鳴るねえ!」

「師と、そして勇者と組んで戦える……ずーばーり! 感無量です! 『凶書』の業の冴え、とくとご覧にいれましょう!」

 

 『クローズド・ヘヴン』の二人は不敵な笑みを浮かべた……元より荒事こそが彼ら彼女らの本領。ましてや大御所や大英雄と肩を並べての共闘だ、心震えぬわけもなく。

 セーマが感心して言った。

 

「さすがは『クローズド・ヘヴン』、頼もしいことこの上ないな……よろしく頼むよ。今夜、王国南西部の『オロバ』を滅ぼす」

「応! 『翔龍』ゴッホレール! 今度こそ名に恥じねえ暴れぶり、見せてやろうじゃねえか!」

「うむうむ……わしも、久々にじゃがやってみるかの。まだまだ若いのには劣らぬことを見せてやろう……『タイフーン』かどうかは知らぬが、年の功をな」

 

 呼応するかのようにロベカルも背筋を正し、意気を発した。その道70年の冒険者、戦争にも従事していた老翁の……円熟した闘志がみなぎる。

 

 『クローズド・ヘヴン』所属のS級冒険者二人、『翔龍』ゴッホレールと『凶書』カームハルト。

 戦争にも参加した遺跡探索の大家、S級冒険者『タイフーン』ロベカル。

 そして異世界から来た改造人間、魔王を打ち倒して人間世界に救世をもたらした大英雄『勇者』セーマ。

 

 人間世界における最高峰の冒険者たちと世界最強の英雄は、こうして『オロバ』アジトへの襲撃に乗り出したのであった。

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