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王国魔剣奇譚アイン-勇者セーマと焔の英雄-  作者: てんたくろー
第三章・ゲットオーバー『VOLCANO』
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邂逅、勇者と巨悪

 人間の歴史は、滅亡と再生を繰り返している。

 ある程度まで発展したところで大災害『魔王』による文明破壊が行われるための、謂わば予定調和であるのだが……その度に何もかもが失われるかというとそうでもない。

 

 破壊されてなお、痕跡が残るものもある。大災害を経てまったく新たに発展する文明において『遺跡』と呼ばれるそれら痕跡こそが、過去と今とを繋ぐ大きな手がかりであることに、気付く者はそうはいない。

 

「ここか、遺跡群ってのは!」

 

 村を出て更に南へ。もう少しで海が見えるか、といった位のところまで下ったところに見える、朽ち果てた建物の集まり。

 千年より前に栄えたとされる古代文明の名残……都市の構造を色濃く残した、歴史的に見ても極めて重要な遺跡に、セーマたちは辿り着いていた。

 はるか古代の建造物ながら、その形をある程度残したままの様子に彼らは感嘆の声をあげる。

 

「すごい……風化こそしてるけどしっかり原型を留めてる!」

「こ、こんなのが王国南西部にあったなんて」

「へー……内陸も面白いもんあるじゃねえか」

「わしもさすがに、この遺跡が現役だった頃にはまだ生まれとらんのう……ギリギリではあるが」

 

 思わず目的を忘れて目を輝かせる冒険者三人。それぞれ勇者、開拓者、農家の三男坊と来歴は違うがやはり浪漫への憧れは強い。このような歴史的情緒を感じさせる遺跡など、言ってしまえば大好物であった。

 紅一点のアリスもどこか感慨深げだ。未だギリギリ三桁年齢の彼女からしても遺跡はやはり遺跡だが、その分、己より年上の建築物に出会えたという謎の感動がある。

 

 ──と、そのような遺跡群において一点、やたらと目につく破壊痕があるのをセーマは見つけた。

 そう遠くはない。それなりに入り組んだ遺跡でも、歩いて10分程度だろう。そんなところに大きな穴がぽっかりと空いていた。

 

「……あれか、レヴィさんたちがいた遺跡は」

「見事にあそこだけグチャグチャだな。まさか魔剣とやらが、あんなことを?」

「炎の魔剣でも水の魔剣でもない、風の魔剣の痕跡ですか」

「リムルヘヴンはあそこにおるんじゃろうか? 先走っとらんと良いんじゃがのう」

 

 言いながら向かう。セーマやアリスの気配感知では何者の気配もありはしなかったが、それでも何かしら、敵の手がかりを掴めるかもしれない。

 恐らくは裏路地だったのだろう、複雑にうねる道を進む。まだ朝ということもあってか陽射しを眩しく感じながらも、そこまで時間はかけずに現場へと辿り着く。

 

 大穴だ……底は辛うじて見えるが、逆に言えばそれだけ深く広いことが窺える。

 

「地下があったのか……? 風の魔法でここまで地面を掘削したとも考えにくいし」

「とりあえず降りてみるか。ここで襲撃でもあったら一堪りもないけどよ」

 

 ラピドリーの提案と懸念。いずれも頷けるもので、そこから誰が降りるか、誰が見張るかの話がなされる。

 

「それなら上は僕が守ってましょうか」

「アインとか言ったか……炎の魔剣使い。信用できないわけじゃないが、それでもぺーぺーが一人きりってのもな」

「ふむ、ならばわしも少年に付いとこうかの……またきゃつらがアインを狙っとらんとも限らんし、降りるにせよ残るにせよ一人にはできん」

「それなら俺とラピドリーさんで降りるよ。二人は上で異常がないか見ていてほしい」

「『剣姫』のパートナーだった亜人の嬢ちゃんとなら、心配はないな。俺はそれで良い」

 

 結局セーマとラピドリーが穴の底へ降り、アインとアリスが上で見張りをすることとなった。

 力関係としても、まあ妥当だろうとセーマは納得できた。ラピドリーの実力は未知数だが、気配から察しても今のアインとそう変わらない。更にベテランとして経験も豊富なのだから心配はない。

 

 アインの方も、一度共闘したこともあるアリスと一緒ならば気兼ねなく魔剣の力を解放できるだろう………『プロミネンス・ドライバー』は見た目が派手なため、初見となるラピドリーを困惑させてしまうかもしれなかった。

 

「よし、それじゃあ行くぞ、セーマ」

「ええ。二人とも、上は任せた」

「はい!」

「お任せあれ、ご主人!」

 

 ラピドリーとセーマが声をあげ、アインとアリスがそれに応えた。

 そして男二人、深淵の穴へと飛び込んだのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 よし、と頷きラピドリーと共に穴へと飛び込む。落下感──10秒程してから──着地。

 思っていた以上に深い。隣のラピドリーも驚きながらもランプに火を起こし、辺りを照らしつつぼやいた。

 

「あぶねえ……! 冗談じゃねえや、鍛えてなきゃ即死もんだぞ、おい」

「大丈夫ですか? お怪我は」

「問題ねえが……戻る時は一苦労だな、こりゃ」

「戻る時は俺が抱えて飛びますから」

「野郎にしがみつくとかぞっとせんなあ」

「俺もあまり楽しくはないですけど、仕方ないですね」

 

 軽口を叩きつつ、照らされた周囲を見回す。瓦礫にまみれてはいるがいたって特徴的なものがあるわけでもない……予想外に広く深いことくらいか。手がかりを探していくつか瓦礫を撤去してみるが、やはりそれらしいものも見当たらない。

 一通り探ってみてから、二人でため息を吐く。

 

「参りましたね、ここに来て手がかりなしとは」

「どうにかギルド長を見つけるしかないな、とりあえず。遺跡の中を彷徨いてるかもしれんし、一端戻って巡ってみるか、この辺り」

「そうですね……」

 

 もしも何かしらの手がかりを手に入れられればと思い、まずは現場へとやって来たが不発。こうなれば地道に足で探すしかないかと二人で話していた、その時だ。

 

「いやはや、地道なことで頭が下がるな」

「──っ!?」

「……何だと?」

 

 深い穴の底、二人の他に誰もいるはずもないというのに響く、声。

 驚愕するラピドリーと、冷静に辺りを見るセーマ。誰もいない……いや、下だ。

 

 見れば瓦礫を隠れ蓑にしていた男が立ち上がる。ブラウンのオールバックでスーツ姿の、優男風の中年。しかし両目は不自然なまでにギラついており、アンバランスさを醸し出している。

 

「……何者だ」

「名は明かせない。昨今の人間たちはとても情報の取り扱いが上手だからね……しかし呼び名がないのも不便だ。ゆえに、こう呼んでくれたまえよ勇者セーマ」

 

 名を呼ばれ、セーマは静かに集中した。気配がなかった……先日に見た怪生物の同類だろうか、こいつも。いずれにせよ男が次に発する言葉で己の行動は決まると、静かに耳を傾ける。

 そして、男は名乗った。

 

「『首領』。『オロバ』内でもそのように呼ばれている。役職に過ぎないがそれなりに気に入っていてね、はは、は──!?」

「ヴィクティムっ!!」

 

 即座に振り下ろす。銘を叫ぶと共にセーマの空手に握られる、『救星剣ヴィクティム』。一切の躊躇も迷いもなく、間違いなく必殺の意気を込めて放たれた勇者の一撃。

 しかしてそれを、首領と名乗る男が受け止めた……手にしているのは魔剣。相変わらずの黒い刀身に、真っ白な石が埋め込まれている。

 セーマが叫んだ。

 

「『首領』だと……! 貴様が『オロバ』の!」

「いかにもその通り。遥かな昔より今に至るまで続く『オロバ』の、私こそが最高幹部。首領として統べる者である……というか、いきなりご挨拶だな」

「親玉ってのか、こいつが!?」

「親玉……ふむ、そうだな。あまりに俗な表現で新鮮だが、私こそが親玉だ」

 

 セーマの斬撃を受け止めながらやり取りする。まさかバルドーを飛び越して、いきなり『オロバ』のトップが出てくるとも思っていなかった二人は驚く。ましてやその男が、魔剣を持っているのだから二重の衝撃だ。

 

「その魔剣は……! それが風の魔剣か!?」

「うん? ……さて、どうだったか。少なくとも今こうしている君相手には、教える気にもなれないなあ」

「何……っ」

「平和的に行こうじゃないかセーマ。私は荒事が嫌いなんだ……血なんて見るだけで卒倒する。好きな食べ物の話でもしないか? 少しずつ、お互いのことを知り合うのも良いぞ、ふふふふ」

「……なら、もう良い」

 

 嘲笑を浮かべてはぐらかそうとする首領に、セーマは直感した──この男に答える意思はない。

 そもそも聞き出したところで、本当かどうか知れたものではない。おそらく嘘しかつかないだろう。この首領とやらからは、偽りの匂いしかしない。『永年、すべてを裏切っている』、そんな瞳をしていると相対したセーマは悟った。

 ゆえに。勇者の身体から、プラズマが迸る。

 

「うん……?」

「お前を殺せばそれで『オロバ』は終わりだろう……ここで死ね、塵一つも遺さずにっ!」

「──何と?!」

「うぉわあ!?」

 

 セーマの身体から放たれるエネルギー。勇者として改造された肉体が宿した無限エネルギーが、本格的に発動した──セーマの戦闘形態である。

 エネルギーの余波でラピドリーが吹き飛ばされる。壁際にまで叩き付けられ咳き込みつつ、彼は見た。紫電を放ち、圧倒的な力を視認できる程に纏わせている青年の姿……

 

「これが、勇者、ってのか!?」

「ヴィクティム、光を纏え!!」

 

 慄然と見守る中、セーマが叫んだ。

 瞬間、ヴィクティムが極光の色に輝きを放つ。セーマからヴィクティムへ、エネルギーが流れ込みその力を引き出していく。

 

 かつて魔王を倒した光。物理的な破壊力を伴う極光に輝くヴィクティムで魔剣ごと、首領を切り裂かんとセーマは意気を込めた。

 

「覚悟しろ! ヴィクティム、光を──」

「まっ待ちたまえ……! 悠長にしていて良いものかな! アインくん、連れ去られてしまったぞ?!」

「──何っ?!」

 

 そのまま首領に向けてヴィクティムを構えた矢先の言葉。焦りを多分に含んだその言葉はしかし、ハッタリとも思えない確信を含んでおり決して捨て置けない。

 セーマは気配感知で地表の二人を探り──たしかに、気配が遥か遠くに飛ばされていくのを感じた。

 

「何だ、上で何が起きている!?」

「くっ──『パーフェクトドライバー・タイプ"ディメンジョン"』!」

「!?」

 

 思いもかけない事態に発生した一瞬の動揺。その隙を突いて首領は魔剣を解放した──聞いたことのない魔法に慌てて振り向けば、首領の姿がない。

 

『ふー! やれやれ、バルドーの忠告を聞いて未完成品でも持ってきておいて良かった……君は中々、狂っているねセーマ! とりあえず殺しに来るとは、これまで見てきた生き物の中でもかなり上位の恐ろしさだ! 危うくすべてが終わってしまうところだった!』

「貴様……! ヴィクティムっ!!」

 

 激昂して、セーマはヴィクティムを大地に突き刺した。そこを起点に発生した超振動が空間を揺るがせる。

 霧化したヴァンパイアや、姿の見えないような敵に対しての攻撃だ……しかし声は何ら影響も無いように続いて響く。

 

『無駄だ、諦めたまえ……その方が私もホッとするから。いやしかし参ったな、まさかここまで足止めもできないとは。仕方ない、後はバルドーに任すか』

「何を……」

『君の恐ろしさを身を以て体感できたのは収穫だ。都合、もう何度か相対しなくてはならなさそうなのが憂鬱だが……会いたくないがまた会おう、勇者セーマ!』

 

 矢継ぎ早な独り言の後、声は消えた。

 元より気配がないため分からないが、恐らくは逃げられたのだ……してやられた。セーマは、そんな思いで戦闘形態を解除した。

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