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王国魔剣奇譚アイン-勇者セーマと焔の英雄-  作者: てんたくろー
第三章・ゲットオーバー『VOLCANO』
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村へ。次世代への助言

 二台の馬車が村に到着したのは、日が昇り始めて少しした早朝の頃だった。

 流れる大河のすぐ近くにあるその村は、温暖な気候と豊富な資源もあり小規模ながら様々な産業が行われている。農業に漁業、畜産業に水産業、更には郷土品の製造なども盛んで、単なる長閑な田舎村というわけでもない。

 

 囲いによって区切られている村の、ただ一つある正門へと向かう。衛兵が何人かやって来て身分を問うた。

 

「身分証明書を拝見ー……と、おや? 森の館のご主人じゃないか」

「どうも、お元気そうで何より」

 

 衛兵の一人がセーマに気付いて話しかけてくる。友人というわけではないが、村に立ち寄る度にいくらかやり取りをしている顔馴染みだ。

 

 この村は町よりも大森林に近いということもあり、頻繁に館の者たちが遊びに行っているスポットだ。日々の業務においても備品や消耗品の調達は村で依頼しており、互いに経済的なやり取りのあるお得意先でもある。

 セーマもメイドたちとの買い出しやデートの際、ここで楽しむことが多い。それゆえ衛兵と世間話をする頻度も高かった。

 

「何だ、今日は珍しく野郎連れじゃないか」

「ええ、冒険者活動でしてね、今回は」

「あー、そういやあんた冒険者だったね。わざわざこんな朝早くからご苦労なこった」

 

 他愛なくやり取りしながら、各人から受け取った冒険者証を確認する衛兵。ロベカルの冒険者証なども見るのだが、そこには当然、S級であることも示されており……彼は目を見開いて驚く。

 

「S級! しかもロベカルって、遺跡漁ってばっかりって評判の遺跡狂いじゃないか! 何十年か前、この村にしばらくいたって話だけど」

「お、よう伝わっとるのう。いかにも40年程前に数ヶ月、この辺りで遺跡調査をしとったよ」

「そうなんですか!」

 

 意外なところで縁が繋がっていたことにセーマが驚く。40年……相当古い話だ。そんな昔からこの老翁は遺跡調査や発掘に取り組んでいたのか。

 ロベカルがにこにこと笑って懐かしげに振り返った。

 

「ええ。何せわし、70年前に15歳で冒険者となって以降、ずっと遺跡にのみ関わってきましたからのう。『タイフーン』なんぞと呼ばれる前には遺跡狂いと渾名されとりましたわ、はっはっはっ!!」

「はー……すごいですね、人生を遺跡に捧げたんですか」

「長生きで、しかも元気な爺さんだなあ……」

 

 セーマと衛兵、二人して感嘆の息を漏らす。まさしく冒険者界隈の大御所たるロベカルの、年季の違いを思い知った心地だ。

 

「ま、身分証明できるんなら良いさ、入った入った」

「どうも……あ、それと今、ドロスって女性が滞在してませんか? その人に用事があって来たんですよ、今回」

「ドロスぅ? いやー、見てねえなあ。ここ数日で言うと、何かえらい怪我して町にすっ飛んでったレヴィとかいう冒険者たちくらいしか来てないぞ」

「え……」

 

 村への来訪者を全員把握している衛兵だからとドロスについて尋ねたところ、まさかの不在ということでセーマは驚いた。

 普通この辺りで何かしら、泊まりがけでの用事があるなら村の宿に滞在するだろう。それがないとなると、いきなり消息が途絶えているということになる。

 

「ふーむ。ドロスさん、まさか道中でトラブルに?」

「あるいは、事件があった現場に張り込んでいるのかも知れませぬな……あやつも亜人ですから、野宿などお手のものでしょう」

「いずれにせよ村にいない以上、俺たちもやはり、早急に現場に向かってみる必要がありますね」

 

 ロベカルと二人、今後の予定について修正を加える。村内にてドロスと合流、彼女と共にリムルヘヴンの行方を追うつもりだったが……こうなればもはや、唯一の手がかりは現場の遺跡にしかない。

 

「ともかく一旦、村に入り宿を取りましょうか。リムルヘヴンちゃんやドロスさんが今後、村に来ないとも限りませんからね」

「ですな……朝食もまだですし、まずは食と拠点を賄いましょう」

 

 

 とはいえ村へは用事があると、セーマたちは村へと入っていく。

 いきなり出鼻を挫かれたような感じになりながら、それでも一行はひとまずの拠点たる村へと到着したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さておき身分証明も終わり、村内へと入る。正門近くの厩舎にて馬車を預け、ここからは徒歩だ。

 町ほど舗装されていないが、店や民家も多く田畑も随所に見られる、セーマたち森の館の面々にはいつも通りの村の風景。

 しかしアインやソフィーリア、ラピドリーやジェシーには新鮮だったようで各々感想を言い合っていた。

 

「村に来るの初めてなんだよね、僕」

「私も……基本、町でこと足りるものね」

「くそー、さすが王国。田舎っても開拓拠点よりよっぽど発展してるじゃねえか!」

「もう、往来で叫ばないでよ! 開拓地なんだから仕方ないでしょう!?」

 

 男二人女二人、喧しい賑わいだ。対照的にセーマとメイド二人、そしてロベカルは穏やかに述べ合う。

 

「ふーむ、40年……経っても、あまり変わりませんなあ。町はかなり様変わりしとりますのに」

「40年間、村には一度も来なかったんですか?」

「若い頃は世界中の遺跡を探りに探り方々へ行っとりまして、王国南西部に腰を落ち着けたのが戦後になりますでな。実際、町にやって来たのもつい一年ちょっと前になりますよ」

 

 遠い目をして昔日に想いを馳せる。70年もの長きに渡り活躍してきた名冒険者に、セーマも感慨深いものを覚えて頷く。

 

「戦後、腰を落ち着けるにはこの辺りを置いて他にはないからのう」

「本当、のどかで穏やかねえ……うん、やっぱり私、町よりこっちの方が落ち着きます」

 

 アリスとミリアもどこかのんびりとした様子で応えた。二人とも、というよりは森の館の面々にとってはやはり、慣れ親しんだ場所なのだ。

 特にミリアは村を気に入っており、非番の日に出掛ける際には町よりも村に足繁く通う。同じサキュバスの友人がいるということもあるが、それ以上に村全体に漂う牧歌的な空気が性に合っているという点が大きい……あまり喧騒が好ましくないのだ、彼女には。

 

「たしかに……町に比べて時間の流れは遅く感じるね。のんびり心身をリフレッシュさせたい時は、町より村の方が良いかも」

「町はどうしても人の行き交いが多いですからのう。移り変わりが激しい分、落ち着きはないですな」

「そういう賑わいも個人的には好きなんですけどね……まあ時と場合です」

 

 言いながら歩く一行。常にない集団に村民たちが視線を向けてくる。いつものメイドとその主人はともかく、少年少女が三人に中年と老人が一人ずつ、それなりな武装をしているのだ……嫌でも目立つ集団だ、どうしたところで視線は集まる。

 当然セーマたちもその視線には気付いている。森の館の三人やロベカル、ラピドリーの年長組はともかく、アイン、ソフィーリア、そしてジェシーはキョロキョロと辺りを見回してそれぞれ言った。

 

「見られてるなぁ」

「この集団だし当たり前の話だけど……ちょっと気になっちゃうね」

「うう、怖いよぉ」

 

 苦笑しつつも視線を真正面から受け止めるアイン。そんな彼の隣でぴったり身を寄せて閉口した様子のソフィーリアと、更にその隣で小刻みに震えるジェシー。

 ラピドリーが娘の頭を撫でた。

 

「ジェシー、落ち着け。こういう視線には慣れないと色々と苦労するぞ」

「で、でも……」

「あまり他所から人が来ないような集落では、どうしても好奇の視線は注がれる。向こうこそ怖がっとるんじゃから、無闇に警戒してはいかんぞ」

 

 ロベカルも孫に向けてアドバイスを送る。

 地方の村や集落というのは外部から人が来ないようなところの場合、たまに来る冒険者に対して好奇や警戒の視線を送ることも多い。

 それは何故か……ロベカルがため息混じりに言った。

 

「冒険者のイメージ自体、あまり良いものとは言えんからのう。リリーナ殿や著名なS級を除けば、ゴロツキどもが好き放題やっとった時代のイメージは抜けきっとらんでな」

「外部からの情報があまり入ってこないようなところじゃ、まだまだ冒険者はやくざな稼業なのさ」

「そんなぁ……」

 

 ベテラン冒険者たちの軽い嘆きに、新人はかける言葉が見当たらない。アインやソフィーリアも、そうした現実の話を受けて難しい顔をしている。

 

 戦後間もなく国による事業となった冒険者界隈。しかしそれ以前には今よりもっと苛烈で、いい加減で、そして荒々しい連中が屯する時期が長く続いていた。

 賊寸前のような輩が多く、それゆえに冒険者絡みのトラブルも絶えなかったのだ。

 

 そうした、ふとした拍子に何をしでかすか分からないイメージが未だ付きまとっているのだと祖父と父親は説明した。

 傍らでアリスも頷く。

 

「たしかに、昔の冒険者はただのチンピラが多かったのう。わしも半世紀くらい前から10年程、リリーナと組んで冒険者やっとったが……正直依頼こなすより、わしらに舐めた口利いた同業を締め上げる方が多かった気さえするわ」

「ほう……アリス殿も冒険者でしたか」

「しかも『剣姫』のパートナーだったってのか? 何とまあ、人は見かけによらんなあ」

 

 ラピドリーが目を見開いて驚くのを、アリスは鼻を鳴らして応えた。

 一行の中では老翁と並び、当時の冒険者を知るのがこの少女だ。それゆえに先の二人と同様のアドバイスを、ジェシーに送る。

 

「まあ好奇の視線なんてのはその内、慣れて気にならなくなるもんじゃ。慣れるまでは誰かに引っ付いとけ、ジェシー嬢」

「は、はい……それじゃあ、セーマくん!」

「えっ、俺?」

 

 言うや否やぴとり、とセーマ腕に抱き付くジェシー。いくら同期相手とはいえ無防備なその振る舞いにドギマギとしていると、やはりというか案の定、ラピドリーが激怒していた。

 

「き、き、き、貴様! ジェシーから離れろ、孕んじまう!!」

「孕みませんけど!?」

「娘の前で下ネタとかお父さんサイテー!!」

「ぁぐっ!?」

 

 崩れ落ちるラピドリー。年頃の愛娘との距離感に苦慮する父親といった感じで、セーマにはどこか感じ入るところがある。

 

「うちの親父も、翔子が大きくなっていくのをこんな感じで見ていた……かも知れなかったんだなあ」

「セーマくんの、お父さん? どんな人?」

「……あー、その。優しくて、強くて、頼れる人だよ。ラピドリーさんみたいにね」

 

 たぶん。

 最後にそう胸中で呟きながらも、ジェシーに答えたセーマ。

 正直もう、何も覚えていない父親だが……もしかしたらラピドリーのような人だったかもしれないと、何やら感嘆の息を漏らして彼は笑った。

 

「さ、お遊びはそろそろおしまいにして、宿へ向かおう……朝食を向こうで食べながら、これからの話だ」

「ドロスめが姿を消しましたゆえ、こちらも改めてどうすべきかを考え直さねばいけませんからのう。ほれどら息子、遊んどらんで行くぞ」

「遊んでない! くそー、何でこんな……」

 

 ぶつくさ言いながらも立ち上がるラピドリー。

 こうして一行は、宿へと向かったのであった。

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