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王国魔剣奇譚アイン-勇者セーマと焔の英雄-  作者: てんたくろー
第三章・ゲットオーバー『VOLCANO』
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幕開け、新たなる冒険

 ロベカル老から事情を聞いて、セーマはまずギルド長のドロスを探すことにした。調査チームのリーダー格である彼女もまたリムルヘヴンを追っており、目的が同じならば彼女からも話を聞いておくべきだと考えたためだ。

 

 とはいえ今日はもう日も暮れている。本格的に探すのは翌日のこととして、先に事務員にドロスの行き先を聞いているのが今であった。

 

「というわけで、良ければドロスさんの向かった先を教えていただければと思うのですが」

「……そうですね、分かりました。勝手に人の行き先を伝えるのは本来、やってはいけないのですが」

「そこはわしから取り成しておこう。緊急事態じゃ、やむを得ん」

 

 受け付けに座るセーマの隣、もう一人の調査チームのリーダーであるロベカルが促した。リムルヘヴンの捜索に彼も手を貸すと言い、セーマに付いているのだ。

 S級冒険者の言葉もあり、事務員は躊躇なくドロスに関しての現状を話し始めた。

 

「ありがとうございます。それでは……ギルド長は数日前から町から南にある村の方で捜索を行っています」

「村……たしか、そこの近くの遺跡でレヴィさんたちは襲われた」

「ええ。ですのでリムルヘヴンさんが下手人を追っているとすれば、きっとその辺りをうろつくはずだと」

「復讐目的ならば道理ですのう」

 

 ロベカルの言葉にセーマも頷いた。リムルヘヴンが風の魔剣士に復讐するため水の魔剣を持ち去ったのであれば、最初に向かうのは間違いなく襲われた現場だろう。

 そしてドロスもリムルヘヴンを追っているのだから、必然的にその近く、すなわち村に滞在することとなる。

 

「村、だな……明日の朝に急ぎ向かいましょう。俺とロベカルさんに、手が空いてたらアインくんとソフィーリアさん。あとリムルヘヴンちゃんを止めるのにアリスちゃんってとこかな」

「わしの方からも何人か……調査チームにもまともなのはおりますでな、腕利きを連れてきましょう」

「助かります」

 

 即先で段取りを整える。本来であれば『テレポート』を使えるマオも連れていきたいところだが、何しろロベカルがいる。戦争にも出ていた老翁のことだ、万一にでも魔王と気付かれればいらぬ揉め事になりかねない。

 

 さておき行き先と出立の時間も決まった。これからアインとソフィーリアには話を通して来てもらえるか確認するとして、ひとまず今日のところは休んで英気を養うべきだろう。

 

「俺はこれからアインくんとソフィーリアさんに説明してきます。急なことなので彼らが来るかは分かりませんが、一応」

「分かりました。それではわしも調査チームのメンバーたちに急ぎ話を通しておきますでな。明日の早朝、町の正門前にて合流しましょうぞ」

「ええ、そうしましょう。よろしくお願いします、ロベカルさん」

 

 固く握手を交わす。勇者とS級冒険者『タイフーン』ロベカルの、タッグ形成の瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──それで、アインくんたちは?」

「ああ、来てくれるよ。これでこっちは俺とアリスちゃんとアインくんにソフィーリアさんで計四人。ロベカルさんと調査チームの連中も何人か来るそうだから、結構大所帯になるな」

 

 森の館内、大会議室。

 50人を下らないメイドたちとマオ、ショーコも合わせて勢揃いした部屋において、セーマが壇上に立って説明していた。

 

 ロベカルと別れてからすぐ病院へと向かったセーマ。

 病室にて変わらずレヴィと世間話をしていたアインやソフィーリアたちに事情を話して同行を願い出たところ、

 

『任せてください! またバルドーが、罪もない人を犠牲に何かを企んでいるのなら……僕が戦います!』

『アインが行くなら私も行きます! 遠距離からの牽制なら任せてください!』

 

 ……と、二つ返事で頷かれてそのまま明日に備えて解散の運びとなった。

 まったくあの即断即決こそ、真なる英雄の持つ何よりもの強みなのだろう。ふとそんなことを思い出しつつ、セーマは館へと帰還してメイドたちに現状を説明していた。

 

「今回は大森林に比較的近い場所での行動であり、また風の魔剣が広範囲に影響を及ぼす力を持っているらしい点から……皆にはしばらく、身の安全を意識して生活してほしいんだ。万一ここめがけて竜巻だか嵐だか起こされても、とにかく自分たちの身を護れるようにね」

「周辺警備にも力を入れる。戦闘防衛班は心して業務に取り組むように」

『はっ!!』

 

 セーマの説明を受けたリリーナの指示に、戦闘防衛班に所属するメイドたちが声を揃えて答える。

 次いでアリスが言った。

 

「あー、料理班。わしはアホの回収のため館を空けるが……日常業務から非常食の管理に至るまで徹底せよ。最悪この辺りが修羅場と化すことも想定の上、メイドの一人とて餓えさせることなく栄養面での支援を心がけるんじゃぞ」

『はい!』

 

 料理班のメイドたちが答える。何を為すにしても食事の質と量は大切だ……それを踏まえての指示を、理解しないものは一人としていない。

 

「それと医療班の皆、私もご主人様に同行するのよ。留守お願いね」

「え、班長もですか?」

 

 続けてのミリアの言葉に医療班のメイドが反応した。思いもかけないことだったが、班長たるミリアは一つ頷く。

 

「そうなの。リムルヘヴンちゃんが風の魔剣士と戦ってる最中や、もしかしたら戦い終わった後に見つけ出すこともあり得るから……最悪を考えて、応急処置くらいはできるようにね。アインくんの時もそれで大事には至らなかったから」

「なるほど……分かりました! 館の皆の医療については私らに任せてください!」

 

 事情を聞いてすっかりやる気を出して医療班のメイドたちも頷く。ミリアは微笑んで彼女らに後を託した。

 そしてジナだ。頬を掻いてふにゃりと笑う。

 

「掃除洗濯班は、まあいつも通りで。こんな時だからこそいつものペースで頑張りましょう……そもそも、館にまで被害の及ばない可能性の方が高いんだし」

「あっ、こやつぶっちゃけおった」

「それは私も思うがジナよ、正直すぎんか……」

 

 はっきりと水を差す形になったジナの発言に苦笑してアリスとリリーナが応えた。

 たしかに実際のところ、大森林の奥にある館にまでちょっかいを出そうなどというのは中々に無謀な話だ。天然自然の堅固な要塞に、リリーナ手ずから鍛え上げた戦闘防衛班の警護まで付いている。

 更に言えば大森林内で揉め事を起こすこと自体がまずいのだ……樹海内には多くの亜人たちが集落を作り生活している。下手をすればそのような者たちまで敵に回してしまうリスクを、バルドーや『オロバ』の者たちが分かっていないとも思えない。

 

 とはいえせっかく一致団結していたのだ、何も今言わなくても良いだろう。そのような呆れた視線を集めるジナは肩を竦めて言った。

 

「何人かはこのくらい冷静でいないと、盛り上がりすぎて歯止め利かなくなるからね、ボクらは。普段ならリリーナさんの役目なんだけど、何か結構ノリノリだし」

「う。い、いやその……こうして皆で荒事に対処せんとする空気が、案外嫌いでなくて」

「お主、昔からそんなとこあったのう。こないだの水の魔剣での戦いの時も何かテンション高かったし……案外、根は寂しがりか?」

「からかうな!」

 

 指摘に顔を赤くしてリリーナが叫んだ。意外に祭り好きというか、協力して取り組むような状況が好きなのかもしれないとセーマも目を丸くしている。

 それに気付いてますます顔を赤らめるのを苦笑して取りなしつつ、最後にフィリスがメイドたちの総責任者として告げた。

 

「実際に何があるにせよないにせよ、我々の使命はセーマ様のお住まいであるこの館をお守りし、御方の平和平穏を守り抜くことです」

 

 メイド長の静かな、けれど忠誠に満ちた言葉が自然とメイドたちに伝播していく。

 すべてはそう、偉大なる主セーマの居城を守り、彼と共に平穏無事な生活を送る幸せな未来のために。

 

「そしてそれは私たちが無事、生き残ることも含まれるのです……如何なる時でも油断や慢心のないよう、誠心誠意業務に取り組みなさい!! セーマ様と私たちの、幸せな未来のために!!」

『はいっ!!』

 

 メイドたち全員の声が重なり……改めて森の館は一致団結して魔剣騒動へと立ち向かう意気を高めたのであった。

 

「相変わらず愛されてるねえ、セーマくん」

「本当、すごい熱気」

「マオ、翔子」

 

 少し離れた所で佇むセーマに、マオとショーコが話しかけた。かつての宿敵と最愛なる実の妹の組み合わせ……最近ではそう珍しくもない光景に、彼は応じた。

 

「二人はどうする? 何なら王城に避難していても良いんだが」

「心配性か? ジナも言ってたけど、いくら何でもこんなとこ狙う奴もいないだろ。『オロバ』は君を何より警戒してるし、下手に虎の尾を踏む真似もしないさ」

「だと良いんだが……それでも万一、館に何かありそうなら力を貸してくれ、マオ」

 

 中々最悪のパターンばかりを気にするセーマに、やれやれとマオは笑った。

 誰よりも強い癖にその実、誰よりも臆病なのだこの男は。特に家族や身内に危害が加わりかねないのならば、たとえ皆無に等しい確率をも危ぶむのだろう。

 心配性な勇者の肩を、魔王は優しく叩いて言った。

 

「任せろよ、勇者。この館は私にとっても居心地良いしな。おまけに相手が『オロバ』の馬鹿野郎どもってんなら力を貸さない理由がない」

「……ありがとう」

「ま、そんなわけでしばらくはショーコと『勇者』の研究をここでしながら、敵に備える感じかな」

「よろしくお願いします、マオさん」

 

 ショーコが頭を下げた。彼女は普段から王城にて『勇者』に絡む資料や書物を紐解いての研究を行っている。いつか元の世界に帰還するための、手がかりを少しでも探るために。

 そしてその研究にはマオも関わっている。彼女としても星の化身としての立場ゆえ、勇者に関する情報の調査は使命であるのだ。

 利害の一致からの協力関係。それがマオとショーコだった。

 

「翔子はいつものように、何も気にせず過ごしてくれれば良いよ。外出は控えてもらうけど、そこは勘弁してくれ」

「分かってるわ、兄さん。私には何の力も無いけれど……それでも、できることをやるから」

 

 自嘲気味の言葉だが、その瞳は力強い。

 兄が戦争で苦しんでいる最中にもずっと、城でただ幽閉されていた自分……ショーコはショーコで無力感を募らせる数年間を過ごしていた。

 

 それでもようやく、こうして共に過ごせるようになったのだ。過去を悔いるより未来を見据えて今、為すべきことを為す。そんな強さが彼女にはある。

 

 セーマは、そっと妹を抱きしめた。

 

「……お前はいつも、俺に勇気と力を与えてくれているよ。無力じゃないさ」

「兄さん」

「こんな世界で、あんな目に遭って……それでも生き延びてくれてありがとう。お前の存在そのものが、俺にとって救いだよ」

 

 心からの感謝。溢れんばかりの親愛の抱擁。

 数奇な運命に翻弄されてきた兄妹の絆を示すかのような姿に、さしもの皮肉屋マオも優しく見詰めるばかりであった。

 

 かくして夜は更けていく。

 陽が昇れば、いよいよ新たな戦いの幕開けであった。

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