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王国魔剣奇譚アイン-勇者セーマと焔の英雄-  作者: てんたくろー
第三章・ゲットオーバー『VOLCANO』
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ことの成り行き、新たな魔剣

 病室の中は当たり前だが清潔さが保たれており、ベッドが二つ、カーテンで仕切られて並んでいる。消毒液の匂いが鼻を刺激するのを感じつつ、セーマたちはゆっくりとベッドへ近付いた。手前のベッドからは寝息が聞こえており、ならばと奥へ向かう。

 

「……レヴィさーん」

「へ? ……え、誰? どうぞー」

 

 もしや寝てたりしたら起こすのも悪いと極力、小さな声でセーマが声をかければすぐさま元気な声が戸惑いがちに聞こえてきた。

 ゆっくりとカーテンを開ける──ベッドのシーツの中、腕に点滴を付け、頭に包帯を巻いたレヴィの姿がそこにはあった。

 

「──セーマくん!? え、何で!?」

「怪我して入院したと聞きまして……その、お加減はいかがですか?」

「え、え、あ。ちょちょ、ちょっと待って?!」

 

 いきなり現れたセーマの姿に一瞬呆然として、すぐに顔を赤くしてレヴィは手鏡で己の姿を確認した。ずっと横になっていたらしく多少、髪型が乱れているのを慌てて整えつつ、恨めしげに頬を膨らませる。

 

「うう……来るなら来るって言ってよぉ……!」

「え。いえあの、今さっき聞いて慌てて来たもので」

「うー……」

「……す、すみません何か」

 

 涙目で睨んでくるレヴィの、得も言われぬ圧力についつい謝ってしまう。ついでに言うと後ろで何やら苦笑いしているソフィーリアにもどこか、責められているような気がして気まずい。

 助け船を出すようにこほん、と咳をしてマオが割って入った。

 

「同じ女として気持ちは分からんでもないがね、セーマくんは心配して駆けつけたんだぜ。とりあえず、もっと他に言うことあるんじゃないのか?」

「う。そ、そうでした……! ごめんねセーマくん、変に八つ当たりして。お見舞いに来てくれてありがとう、皆。ご覧の通り怪我はしてるけど五体満足よ、一週間もしたら復帰できるわ」

「そうでしたか。それは不幸中の幸いです」

 

 無礼を詫び、己の現状を告げるレヴィ。言葉通り、そこまで取り返しのつかない怪我を負うことにはならなかったようでセーマはホッと息を吐いた。

 アインやソフィーリアも次いで話しかける。

 

「良かったです、そこまで酷い怪我じゃなさそうで」

「セーマさんの知り合いの冒険者さんから聞いた時は、もう怖かったですよ……この間も似たようなことがありましたから、余計に」

「アインくん、ソフィーリアちゃん……ありがとうね来てくれて。そう言えば二人とも、何だか活躍したって話じゃない」

「あ、はい! 正直、セーマさんたちのお力添えのお陰ですけど」

 

 少々の世間話。レヴィもそれなりに退屈していたのか、アインたちとの話に嬉々として応じている。

 その様子を眺めてマオと二人、セーマは言葉を交わした。

 

「どう見る?」

「どうもへったくれも、どうせ魔剣だろ? 三本目の……何本あるんだよまったく」

「スラムヴァールもさすがに明言はしてくれなかったな。そう数は用意できなかったみたいなことは言っていたが……いずれにせよ、当事者から詳しく話を聞かないと判断のしようがないか」

 

 今回もまた、『オロバ』と魔剣が関わるというのならば……今度はいかなる系統の魔剣かが鍵となるだろう。

 そう考えて、レヴィに問いかける。

 

「レヴィさん……よろしければ、ことの経緯を教えてはもらえませんか? もしかしたら魔剣……俺やアインくんたちが敵対している連中の仕業かもしれない」

「あ、たぶんその予想は当たってるわね。私らを襲ってきた奴、アインくんの持ってた剣とまるきり同じの使ってたもの」

「!」

 

 あっけらかんと答えるレヴィ。案の定だが魔剣によるものらしい攻撃を受け、こうして病院送りにされたのだろう。彼女は続けて、当時のことを振り返った。

 

「あの日……私とリムル姉妹の三人で遺跡探索に出てたのよ。南西部でも南の方、村の近くね」

「そこで襲われたんですか?」

「ええ。遺跡の中でね……屋内なのにいきなりとんでもない暴風。ものすごい勢いで飛んでくる瓦礫やら石やらに見舞われて、情けないながら私が一番先にダウンしちゃったの」

 

 自嘲気味に笑うレヴィだが、それを頷く者は一人としていない。暴風と共に瓦礫だの石や岩だのが飛んでくるなど、亜人であっても命が危うい。

 むしろそれでよく、この程度の怪我で済んだものだと感心しつつ先を促す。彼女は頷いて続けた。

 

「私はとにかく防御態勢。リムルヘヴンもリムルヘルを護りつつ的確に暴風をいなしてたわ……そしてしばらくして暴風が止み、男が現れたの」

「男?」

「仮面を付けてて面構えは分からなかったけど、あれはまだ子供ね。アインくんとそう変わらないくらいの体躯に声の若さだった」

「僕と、同じくらい……!」

 

 同年代の魔剣の使い手。その情報にアインの顔付きが変わった。英雄の覇気を秘めた、燃えるような煌めきの瞳だ。

 年の離れていたワインドとは異なる、似たような世代の少年が敵かもしれない……だからこそアインは燃えあがった。バルドーに与し命を踏みにじるのが同年代というならば、ワインド同様に半ば強制的に罪を重ねさせられているのかもしれない。

 だとしたら、この手で何としてでも止めなければならない。そんな想いを秘めた顔付きだ。

 

「……アインくん? え、すごく成長してない? 何かあった?」

「ええ、色々とまあ。すごいんですよ、彼。一気にC級になりましたし」

「ふぇっ!?」

「セーマさんだってそうじゃないですか……」

 

 そんなアインの姿が、ほんの半月程度前に会った頃とは似ても似つかずに唖然とするレヴィ。更に前代未聞の昇級劇を聞かされて喫驚の声をあげる。

 話の腰が折れているのでまあまあと取り成し、セーマは先を促した。

 

「俺たちの方の話は後でしますよ……それで、その仮面の少年は何を?」

「あ。え、ええ。奴は遺跡内の高所から私たちを見下ろして言ったの。『恨みはないが彼女のためだ、悪く思うな』って。そして」

 

 そこで一息区切り、レヴィはにわかに俯き、震えた。その時のことを思い出し、恐怖に震えたのだ。

 セーマがその手を握りしめる。思わぬ温もりに恐怖も彼岸、頬を染めて瞳を潤ませるレヴィだったが、今は伝えるべきを伝える時と切り替えて、告げる。

 

「そして──それまでとは段違いの風が、いえ台風とか嵐? とにかく爆発的な暴風が、遺跡そのものを破壊して、私たちごと吹き上げて」

「ほう? 遺跡もろともとはまた派手な真似をするな。広範囲攻撃がメインの系統だ、劣化コピーではろくに調整もできないんだろうな」

「……マオ」

 

 レヴィの話を受け、マオが言った。何かを確信したその口ぶりだ……実のところ、セーマにも大体推測は付いていた。彼女と視線を交わして予想を述べる。

 第三の魔剣、その属性。すなわち新たなる敵の操る魔法の力の正体は。

 

「『風』だな」

「そういうこと。範囲調整が大雑把な分、威力は折り紙付きだ。もしも連射も可能ってんなら、今の小僧じゃ手に負えんかもな」

「そんな……!」

 

 魔剣に組み込まれた魔法について、この世の誰よりも詳しい謂わば第一人者のマオが下した言に、ソフィーリアはすっかり動揺して顔を青ざめさせた。

 第二段階『プロミネンス・ドライバー』に至ったアインでさえ手に負えない可能性のある相手……未だ見ぬ暴風の脅威が酷く恐ろしく、愛するアインを慮る彼女は震えた。

 

「ソフィーリア」

 

 しかしそんな、不安に震える彼女を慰めるのがアインだ。その手をしっかり握りしめ、覇気と煌めきに満ちた強い瞳でソフィーリアを見詰める。

 

「アイン……」

「大丈夫! 今の僕には手に負えないかもしれないけど、それならこれから手に負えるようになれば良いんだ。何をどうしても一生勝てないなんて早々あるもんか」

「その通りだ、アインくん。君は正しい」

 

 マオの言葉にもまるで動じず、信念の強さを見せつけるアインにセーマは頷いた。たしかに話を聞く限り、風の魔剣の威力と範囲は恐るべきものがある。しかしそれが必ずしも、アインに勝ち目がないことを示すわけでもないのだ。

 

「どれだけ敵が強くても、必ず弱点や隙はある。勝てるだけの条件を整えれば必ず勝てるんだ……そもそもアインくん一人で立ち向かう必要もないからね」

「最悪、セーマくんが出張ればそれで終いだしな。『ハリケーン』でも『ストーム』でも『サイクロン』でも何でも、彼にとってはそよ風同然だし。腹立つけど」

 

 極端な話だがマオの言うことは正しい。少なくとも魔剣の使い手に関しては、形振り構わずセーマが出張ればそれで決着は付く。

 ワインドの時は不測の事態やスラムヴァールとの会談によって前線には出られなかったが、今度は直接的にアインの力になれるだろう。彼の肩を叩いて言う。

 

「マオはそういうけど、俺一人でできることなんて高が知れてる。お互いに一人きりで戦うことはないんだ、皆で力を合わせよう」

「……そう、ですね。正直、魔剣を使っての凶行は僕が止めたいのが本音ですけど、そうも言ってられませんし」

 

 少しばかり悔しげに呟くアイン。心底のところでは、魔剣を用いて悪事に走る輩は同じ魔剣使いとして自らの力で打ち倒したいという思いは強い。

 しかしそんな血気盛んな少年に、凪いだ瞳でセーマは言った。

 

「それで良いんだよ。一人で何でもやろうとしたら、最後には潰れてしまう。皆で支え合うんだ……フィオティナから聞いたなら分かるだろ? かつての俺みたいにだけは、なっちゃいけない」

 

 重い言葉だった。

 フィオティナから聞かされた、戦争中のセーマの話と照らし合わせれば分かる。たった一人で戦い抜けてしまった悲しい英雄……だからこそ、アインには二の轍を踏んで欲しくないという想い。

 

 セーマの思いやりを感じて、アインは静かに頷いた。無理はしない……皆で力を重ね、迫り来る悪をきっと打倒してみせよう。

 決意を新たにする。

 

「ん……何かよく分かんないけど、とにかく奴と戦うのね?」

「ええ。レヴィさんたちが巻き込まれたなら、もう捨て置けない。必ず落とし前は付けさせますよ」

 

 セーマの力強い言葉に、レヴィはホッとしたようだった。そして呟く。

 

「良かった。リムルヘヴンもセーマくんたちとなら、もしかしたら力を合わせるかも」

「……え? リムルヘヴンちゃん、入院してないんですか?」

「ええ、まあ……リムルヘルは隣で寝てるんだけどね」

「え」

 

 言われて隣のカーテンを開ける。銀髪の少女が眠っていた……リムルヘルだ。レヴィと違い点滴も包帯もなく、気持ち良さそうに寝言を言っている。

 

「くぴー……ぷへー……はぽーん……てりゅーん……ぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろー」

「……寝てる、のか?」

「おかしな寝息でしょ? 夜中気になると眠れなくなって困るの……と、それよりリムルヘヴンよね」

 

 寝息ですら相変わらずすっとんきょうらしいリムルヘルはさておいて、今は入院していないリムルヘヴンだ。レヴィは言いにくそうに鼻の頭を掻き、説明し始めた。

 

「いやー、その……私とリムルヘルはそれなりに負傷もしたから入院したんだけど、リムルヘヴンだけは軽傷で済んだからか、私たちを病院に運んでくれた後に奴を追いかけちゃったのよ」

「……無茶だ。現状、一人では勝てないと分かっているだろうに」

「それが……」

 

 いよいよ困ったようにレヴィが口ごもった。どうやら相当に込み入ったことになりつつあるらしいと予感しながら彼女の言を待つと、ため息と共にそれは告げられた。

 

「こないだ『タイフーン』ロベカルさんが来てね? 何か水? の魔剣を持ち出されてしまったーって言って、リムルヘヴンの行き先に心当たりがないか聞かれたの」

「な……!?」

「何ですってっ!?」

 

 リムルヘヴンによる、水の魔剣持ち出し。

 まるで予想だにしなかった事態に、セーマたちは皆、絶句したのであった。

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