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王国魔剣奇譚アイン-勇者セーマと焔の英雄-  作者: てんたくろー
第二章・燃え上がる『PROMINENCE』
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王の手紙と新たな決意

『我が最高の友、セーマへ。

 元気にしているか? 余の方も何ら変わらぬ、忙しいが充実した日々を過ごしているよ。

 

 さて本来であれば近況や私的な事柄について書きたいところだが、今回は止めておく。

 王国南西部にて発生している、魔剣に絡む事件について書かねばならないからな。

 

 報告を受けたが、中々込み入ったことになっているようだな。

 ついてはひとまず『クローズド・ヘヴン』のゴッホレール殿、カームハルト殿に依頼をし、先に向かわせた。

 頼りになる二人だ、きっと力になってくれるだろう。

 

 また、我が王国が誇る騎士団長フィオティナをそちらへ派遣する手筈が整いつつある。

 その件について話を通したくこの文を認めた。そのつもりでいて欲しい。

 

 王国にて謎の暗躍があるならば、余としても全力を挙げてそれを阻止する所存だ。

 今度こそ、貴殿一人にすべてを背負わせたりはしない。及ばずながら、余も力を尽くそう。

 

 敬愛する我が友に向けて──ローラン・エルグスト・デア・キャニズムリズム三世』

 

「──以上です」

「やだーっ! 私フィオティナやだー! 来ないでフィオティナー! 帰ってー!!」

 

 ローランからの手紙を読み終えるや否や、マオが頭を抱えて叫び出した。

 すわ何事かと身構える事務員を宥めつつ、セーマはマオに言う。

 

「落ち着け。別にお前、何も悪いことしてないだろ今回」

「アイツ見るだけでおっかないんだよ! 何されるか知れたもんじゃない!」

「トラウマ!?」

 

 顔を青くしてフィオティナ……王国騎士団の頂点たる女騎士に恐れをなすマオに、セーマは思わず叫んだ……苦手なのは前から知っていたのだが、まさかここまでとは。

 

「フィオティナさんまで来るとなると……王国南西部はずいぶん大物揃いになりますね。ご主人さんやリリーナさんは元より、『クローズド・ヘヴン』が二人に『タイフーン』ロベカルさんに『銀鬼』と。うわ、実力者たちの揃い踏みですよ」

 

 ジナもどこか困惑して呟く。

 『銀鬼』……フィオティナの二つ名だが、それも含めればこの王国南西部にS級冒険者相当の大物たちが多数滞在することとなる。

 いくらなんでも過剰ではないかと感じるジナに、事務員が声をかけた。

 

「仰る通りですね。騎士団長……『銀鬼』フィオティナといえば、S級冒険者や『クローズド・ヘヴン』を差し置いて『世界最強の人間』と称される、間違いなく人間世界における頂点の武人」

「あいつ、そんなとこまで登り詰めてたのか……」

「ギルドとしては、冒険者でなく騎士がそう称されていることを面白く思えませんが……個人的にはファンなので、来られるというのでしたら正直、楽しみですね」

 

 にっこりと興奮気味に頬を染めて笑う事務員。

 ファンなのか……と生暖かな視線で見やるも、マオが恐々と呟くのに反応してセーマはそちらを見る。

 青ざめた顔で憮然と、エメラルドグリーンの少女は愚痴を垂れていた。

 

「戦闘力に関しては本当、そこらの亜人じゃ話にならないからな。あのゴリラ人間じゃないって、ゴリラの亜人だって絶対」

「今度会ったら言っとくわ」

「やめろ! 本当死ぬから!!」

「お、おう……」

 

 ちょっとした軽口にも本気で戦き反応するマオ。

 とりあえず、無意味にフィオティナを煽る物言いを止めれば良いのに……と思うのだが、何だかんだ慌てるマオが面白く可愛いので黙っておくセーマであった。

 

「しかし、国王陛下のご友人でしたとは……セーマさんについて知れば知る程、遠いお人に思えてきますね」

「いやいやそんな……縁あってのものですよ、彼とは。俺は至って普通の冒険者、隠居した『出戻り』です」

「その時点でもう普通には思えないんですけどね……」

 

 もはや達観的ですらある様子の事務員に、恐縮するセーマ。

 国王というのは当然だが、王国において絶対的な存在だ……特に『豊穣王』と呼ばれ、戦後世界の中心的指導者ともなっているローラン王はまさしく神にも等しいのだろう。

 

 そんな国王が友と呼ぶ男……何とも取り扱いに困るのは他ならぬセーマ自身にも分かることだ。

 ゆえに彼は曖昧に笑い、ひとまず話を変えた。

 

「……えー、と。それはともかく、あのハーピーの依頼はどうなりました? 生き残ったあの子も」

「あ、はい。ハーピーの女の子は依然として保安預かりですね。セーマさんたちは依頼遂行を果たしたということで、報酬が支払われます」

「報酬はともかく……あの子はどのくらいの罪に問われますか? 保安はどんな感じでした?」

 

 移行したのは、ハーピーの少女……ワインドによって殺された群れでただ一人生き残り、已む無く窃盗に走った女の子のその後についてだ。

 セーマたちが捕らえた後、アインとソフィーリアによって保安に引き渡されたわけだが……それからどうなったかを問えば、事務員は微笑んで言った。

 

「被害者とギルドの両方から減刑を願い出たことや、ことの発端が人間側の犯罪であることが認められたこともあり……そう重い罪には問われないでしょう。今だって名ばかり留置で、実際は保護扱いされていますし」

「そうですか……これからのこと、考えていけそうですかね」

「それは、今はまだ何とも。やはり心の傷は深いみたいですし……目の前で友人知人から家族まで全員を引き裂かれたなんて、考えただけでも辛いです」

 

 ハーピーとしては年端も行かないだろう少女を襲った惨劇に、事務員は胸を痛めて嘆いた。当たり前の日常と平穏を、最悪の形で粉々にされた少女の境遇は……人間も亜人も関係なく同情しないではいられない。

 改めてワインドと、彼を凶行に走らせたバルドーの罪の重さが感じられてセーマは難しげに眉を寄せた。

 

「やはりバルドー……アイツだけはさっさと捕まえて裁きを受けさせないといけませんね。放置しておくとまた悪質な真似をしかねない」

「ええ……そのためにも、王国南西部に戦力が集結しつつあるのです」

 

 事務員がそう締め括る。

 魔剣騒動の首謀者バルドー……かのワーウルフを追い詰める包囲網が、構築されようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さーて。報告も終わったし、あとは宿でゆっくり過ごすかぁ」

「はい、ご主人さん!」

「やれやれ、やっと一段落つくか……」

 

 ギルドへの報告も終え、いよいよやるべきことをこなしたセーマたち。

 今日はもう、大人しく宿でゆっくり休んで明日の朝帰ろうと、ギルドを出て宿へ向かい歩いていた。

 

「にしても、ローランもまめだなあ。手紙まで寄越して……今度会いに行くから、その時に礼を言っておくか」

「うん? 何か用事でもあるのか? 事件に関する報告ならもう、親切な騎士がやってるみたいだけど」

 

 マオがきょとんとして尋ねる。

 ローランのいる王城は王国南西部から遠く離れた王都にあり、それゆえ彼女の魔法頼りになるのだが……まるで聞いていない話に目を丸くしているのを見て、セーマは頷いた。

 

「ああ……スラムヴァールが去り際に、『勇者召喚術』絡みの資料を早めに確保しといた方が良い、って言ってな」

「──は?」

 

 その言葉に、マオは息まで止めて驚いた。ジナも動揺に凍り付いている。

 無理もない……スラムヴァールの口からそんな単語、出るわけもないと思い込んでいたのだから。

 たっぷり10秒ほど固まってから、再起動したマオが震える声で呟く。

 

「おい──おい、それってまさか」

「『オロバ』……なのかもな、『勇者召喚術』を王国に伝えたのは。少なくともスラムヴァールは確実に何かしら関わりがある」

「そんな……魔王だけじゃなく、勇者とも関係があったなんて」

 

 まるで思いも寄らないでいた可能性に、マオもジナもすっかり愕然としている。

 『勇者召喚術』……起源は古く数百年前、突然やって来た旅人によって王国にもたらされ、以後改良を重ねつつ魔王発生に応じて勇者を召喚してきたことがショーコの研究で判明している。

 

 言ってしまえばセーマにとっての元凶──すべてを奪った憎き術式の生みの親が、あるいは『オロバ』、あるいはスラムヴァールかもしれないのだ……考えつつも言う。

 

「前に聞いた翔子の話では、一番最初に『勇者召喚術』を持ち込んだ旅人は自らを『進化を求める者』とだけ名乗ったらしい」

「『進化』……!」

「奇しくも『オロバ』の目的と似通ったネーミングだな? 考えてみれば辻褄が合う……となればあるいは、『勇者』そのものが奴らの実験だったのかもしれない」

 

 ゾッとする話だとセーマは笑ってみせた……推論の段階だが、まるでこの世界のほとんどすべてが『オロバ』の実験場にも思えてくる。

 何もかもを裏から操っている、かもしれない組織──恐るべきその強大さ、途方もなさ。

 自然と表情を険しいものに変え、マオは呟いた。

 

「……それだけの昔から、何故『進化』を求める? それも自分たちでなく、人間のを」

「奴ら、人間を『亜人の失敗作』と認識しているらしいが……何か関係してるのかもなぁ」

 

 と、そこで一旦話を切って、セーマは驚きやら怒りに震える二人の肩を抱き寄せた。

 往来で、美少女二人を抱きしめる青年──視線は当然集まるが、構いもせずに彼は言う。

 

「とにかく、そこら辺もあってさ。王城に行きたいから送迎頼む、マオ」

「……分かった」

「あと、アインくんにも同行してもらうからよろしく。ローランと面識があった方が便利だろうし」

「あいつもかよ……仕方ない、良いだろう。それなりに見処はある奴みたいだしな」

 

 まるで気にした風でもないセーマに、一瞬だけ気の毒そうな視線をやるマオだったがすぐに頷いた。

 こうなればスラムヴァールの言うように、急ぎ王城から資料を移した方が良いかもしれない……運ぶのならば人では多い方が良い。

 そういう判断ゆえだった。

 

「すまんな……まったく。しかし変な組織がうろちょろしてるもんだな、この世界」

「君も大概変な部類の生き物だがね……にしても『オロバ』め。今後を考えればそっちも調べたいところだが」

 

 苛立たしげにマオが呟く。邪悪なるバルドーとそのバックにいる組織の、規模をはじめ情報がまるで足りていないことへの憤りだ。

 

「ご主人さんがこれまでずっと苦しんできたことの、その元凶がもしも『オロバ』なら……ボクたちメイドも総力をあげて調査します! 絶対に、絶対に許せない! 必ず構成員全員に落とし前を付けさせますから!」

 

 ジナも怒りを隠すことなく言う。恐らくは彼女に限らず森の館のメイドならば誰しもが同じように言うのだろう……主から家族も平穏も人間であることさえも奪った元凶への憎悪は、深い。

 

「『オロバ』についてもローランと情報共有しないとな……ま、今は地道に調べるのみだな」

 

 現状、とにかく『オロバ』について調べる必要がある。

 そうセーマが締め括り、今度こそ一行は宿へと向かうのであった。

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