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王国魔剣奇譚アイン-勇者セーマと焔の英雄-  作者: てんたくろー
第二章・燃え上がる『PROMINENCE』
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合流、それぞれの名乗り

 水の魔剣絡みのすべてが収拾し、今ようやく合流を果たし落ち着いたセーマたちとアインたち。

 まずは労いだ。セーマが笑顔で戦い終えた戦士たちを出迎えた。

 

「アインくん! それに皆、お疲れ様!」

「セーマさんも、お疲れ様です!」

 

 アインが元気よく応える。

 どこかやりきった達成感を感じさせる表情だ……同時に、何か大きな壁を一つ乗り越えたような自信や強さが身体全体から放たれている。

 微笑み、セーマはその肩を叩いた。

 

「やったんだな……アインくん」

「はい! 『プロミネンス・ドライバー』……彼の氷も狂気も、燃やし尽くしました!」

「『プロミネンス・ドライバー』……! それが君の、新たなる力か!」

 

 感動と共に呟く。見事アインは、新たなるステージへと『進化』して邪悪を退けてくれた。

 『プロミネンス』……かつて魔王のそれを受けたことがある。炎の竜を自在に操る派手な魔法だった。

 恐らくは似たようなものなのだろう……そう見当を付けるセーマに、マオが肩を竦めて話しかけた。

 

「いやいや、大したもんだぜこの小僧と魔剣は」

「マオ? どういうことだ」

「ただの『プロミネンス』じゃないのさ……さっき小僧が言ったそのまま。狂った精神さえも正気に戻しやがった」

「……は?」

 

 目を丸くして、一行が連れてきたワインドを見る。

 たしかに──狂気が見られない。憔悴しきった表情で俯いているが、その表情は理知の光を、正気を湛えている。

 その意味するところを察して、セーマは震えた。

 

「せ、精神に干渉したのか……!?」

「言うまでもなく元の『プロミネンス』には無かった効果だ……魔剣の『進化』。とんでもないぞこれ、持ち主の願いに応じて魔法をカスタマイズしやがった」

「『フリーズ・ドライバー』の氷を溶かしたくて……そして、正気に戻したくて。そう願ったらこうなりました」

「何とまあ……『オロバ』の技術はそんなことまで可能なのか」

 

 想定していたよりも遥かにレベルの高い技術が用いられていた事実。

 『プロミネンス・ドライバー』の発現とそれによるワインドの確保は喜ばしいことであるが、『オロバ』の脅威度がまた一段と高まったのは喜べない、そんなセーマだった。

 

 一方でメイドたちにも声をかける。

 彼女らにも今回、アインのサポートなどと慣れないことを投げてしまったが……しっかりとやり遂げてくれた。

 

「三人もお疲れ様。ありがとう、しっかりとアインくんをサポートしてくれたね」

「いえ、主様。アインの『プロミネンス・ドライバー』あってこそです」

 

 リリーナが応える。アリスとジナも、続けて言ってきた。

 

「いやー中々やりますのう、あの少年。ご主人がお気になさる理由が分かる気がしました」

「よくやってくれましたよ本当に。ボクもうかうかしてたら追い抜かれかねませんね」

「三人がそこまで言うとは……本当によくやったんだな、アインくん」

「い、いやー! へへ、えへへへへ……」

 

 メイドたちからの高評価にアインもたまらずえへらえへらと照れ笑いする。

 多少のリップサービスもあろうが、まさしく諸手を挙げての賞賛だ。

 

 そうなって当然だしそうなるだけのこともして見せたのであるが……ソフィーリアがそんなアインに呆れて言った。

 

「もう、アイン? あんまり調子に乗っちゃ駄目なのよ? ただでさえ貴方、無茶するんだから!」

「う……は、はい。もちろん程々に照れます、はい」

「ふふ……でも、頑張ったね。格好いいよ、アイン」

「ソフィーリアぁ……」

 

 鞭と飴。叱ってから褒めるソフィーリアに、アインは溢れる愛しさを隠さず抱き付いた。

 他愛もない、子供の触れ合いだ……だからこそシンプルで大きく深い愛情が感じられて、周囲の大人たちは顔を赤くした。

 

「おーおー……年頃にしちゃピュアだが、お熱いねえ」

「ずーばーり! 純粋異性交遊ですな。ずーばーり! おじさんおばさんにはいささか目の毒です」

「何だぁ? 肌寂しいならハグしてやろうかカームハルトくぅん?」

「ずーばーり! 最期に味わうのが貴女の筋肉とか冗談じゃないのでお断りします」

 

 『クローズド・ヘヴン』の二人も微笑ましげに少年少女を眺めながら、他愛なくジョークを飛ばしあっている。

 ──と、そこにきてリリーナたちメイドが彼らを見て目を丸くしていたためセーマが紹介した。

 

「ああ、この二人はゴッホレールとカームハルト。『クローズド・ヘヴン』の、ええと?」

「No.9、『翔竜』ゴッホレールと!」

「No.5、『凶書』カームハルトです。どうぞお見知り置きを」

 

 名乗るS級冒険者二人。

 それを受けてメイドたちも各々がそれぞれの反応を示した。

 

「『クローズド・ヘヴン』……! こうして面と向かうのは初めてだな。わたくしはリリーナ。偉大なる主セーマ様のメイドが一人にして、端くれながら冒険者としての活動も行っている」

「『剣姫』リリーナ! お会いできて光栄だぜ。あんたはこの世すべての冒険者たちの憧れ、頂点だ」

「ずーばーり! どうか端くれなどと謙遜はお止めください『剣姫』殿。貴女にそう畏まられては、我々など塵芥にも等しくなってしまう」

「大袈裟な……しかし過分な評価、ありがたく頂戴しておこう。よろしく頼むゴッホレール殿、カームハルト殿」

 

 さしもの『クローズド・ヘヴン』にまで登り詰めたS級冒険者であっても、現存する最古にして最強の冒険者である『剣姫』には最大限の敬意を払っている。

 苦笑するもそれを受けとるリリーナ。こそばゆさしか感じられない評価であってもS級冒険者からの言葉だ、受け取らないでは失礼に当たる。

 

「次、ええかの? わしはアリス。リリーナ同様にこちらの、至尊なりしセーマ様にお仕えするメイドが一人じゃ。よろしくのう」

「おいおい、『エスペロの女帝』が自分の切り盛りするカジノについてはノーコメントかい?」

「今じゃもう切り盛りは身内に任せとるでな。隠居じゃ隠居、ふははは!」

「ずーばーり! 見かけによらず豪気な方ですねえ。こちらこそよろしくお願いいたします」

 

 高笑いなどしてみせるアリスにも動じず、ゴッホレールとカームハルトは対応した。

 カジノ『エスペロ』──王国経済にも著しく寄与している賭博施設を牛耳る女帝としての一面を、こうもあっけらかんと『隠居』と言い切られてはもはや笑うしかないというのもあった。

 

「最後はボクだね。初めまして『クローズド・ヘヴン』のお二方。比類無き至高の主セーマ様にすべてを捧げてお仕えするメイドの一人、ジナです」

「ジナ……『疾狼』だな、 S級になったら勧誘しようと思ってるぜ!」

「ずーばーり! 是非とも『クローズド・ヘヴン』の新メンバーに欲しい逸材ですな!」

「う……いえボクはその、森の館から離れたくなくて」

 

 露骨に嫌そうな顔をするジナ。『疾狼』として直にS級冒険者に昇格すると目されている期待の若手冒険者は、その実力もあってか『クローズド・ヘヴン』入りとも噂されている。

 当然勧誘などもあると覚悟していたのだが……いざこうして面と向かうと予想の数倍面倒くさそうだと、ジナはうんざりした。

 

 ひとまずそれぞれに挨拶を終えるメイドたち。

 ゴッホレールとカームハルトは次いでマオにも目を向け……そしてセーマに小声で話し掛けた。

 

「な、なあセーマさんよ。あれってアレだろ、魔王だろ?」

「ん……ローランから聞いてるのか?」

「ええ……ずーばーり、前から生きていることは掴んでいましたが、今回の件で貴方の下に身を寄せていることを知った次第でして」

「どう接したもんか、よぉ……話しかけるのも何か、腰が引けてさ」

 

 声音は緊張と不安、そして恐怖とわずかながら憎悪が含まれている。

 やはり戦争の首魁相手には良い感情など抱けないのだろう……セーマは理解を示すように二人の肩を叩き、笑って言った。

 

「無理に接する必要はないさ、二人とも……色々あって今じゃマオも俺の身内なんだが、だからと言ってあいつのやらかしたことが人間から見て許せることじゃないってのは分かってる。遣りづらいなら反応しなくて良いんだ」

「……正直、ありがてえ。一体全体どうしたもんかと困ってたんだ」

「ずーばーり、奴を匿う意図からしてよく分かりませんが……他ならぬ貴方のやることです、そこについては異論は挟みますまい」

「ありがとう」

 

 中々納得いかないだろうに、それでも二人はひとまず、理解して頷いたようだった。

 彼らからすれば決して許しがたい怨敵であるのは違いないのだが、勇者への敬意からそれを抑えてくれているのだろう──感謝を込めて、セーマは頭を下げる。

 

 それに笑い返すことで応え……二人は最後にアインへと視線を向けた。

 

「そんで、今回の主役がこの少年かい」

「ずーばーり! この魔剣騒動の中核に位置する少年ですね。初めましてアインくん、『クローズド・ヘヴン』のゴッホレールとカームハルトと申します」

 

 興味津々に眺めつつ名を名乗る。

 今回、この魔剣に絡む一連の事件において……ある意味ではセーマよりも重要な立ち位置にいるのがこの少年だと、既に二人は承知していた。

 

 そもそも今まさに、水の魔剣を用いて悪辣を為していた男を鎮圧してみせたのが、アインの力もあってのことと言う。

 立ち位置のことがなくとも戦士に対する礼儀として、彼らは名乗りをあげたのだ。

 

「あ……あ、アインです! F級の、その、見習いです! よよ、よろしくお願いいたします!」

「固くなりなさんなってぇ。聞いたぜ、あんた大変なのに良くやってるそうじゃないか」

「ずーばーり! その歳で町一つ救うなど大したものです。もっと自信を持って良いと思いますよ、私は」

「そ、そんな……僕は、メイドの皆さんのお陰で」

 

 照れつつも、それでもメイドたちのサポートあってだと述べる。

 実際のところ、『プロミネンス・ドライバー』だけでは『フリーズ・ドライバー』を封殺できても、その後の決定打に欠けていたことだろう。

 やはり、皆で掴み取った勝利なのだ──そうアインが答えれば、ゴッホレールもカームハルトも、うんうんと頷くのであった。

 

「さすが、セーマさんのお気に入りってだけはあるなあカームハルトくーん」

「ずーばーり! 素晴らしい心構えですねえ。君もいつかS級冒険者となった暁にはずーばーり! 『クローズド・ヘヴン』に勧誘したいものですなあ」

「あ、ありがとうございます」

 

 何やら気に入られたらしいアインが、恐縮しつつも応える。

 そんな少年のおっかなびっくりな姿に、今だ俯くワインドを除き皆が微笑むのであった。

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