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王国魔剣奇譚アイン-勇者セーマと焔の英雄-  作者: てんたくろー
第二章・燃え上がる『PROMINENCE』
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後始末の荒野、セーマとS級冒険者たち

 ソフィーリアに加え『クローズド・ヘヴン』の二人ゴッホレールとカームハルトを引き連れて、セーマは荒野の中へと戻ってきていた。

 『フリーズ・ドライバー』の発動地点に向かい、まだ凍結している場所があるならばそれを砕くためだ。

 

「いやすげえわ、さすがはセーマさん」

「我々もあの凍結には手を焼きましたが……セーマさんにはあんな風に砕けるものなのですねえ。ずーばーり! 感動的ですらありました」

「大袈裟な……あとさん付けいらないよ。仲間なんだろ?」

 

 心底から感嘆して唸るゴッホレールとカームハルトに、苦笑してセーマは返した。

 実際、身体能力を用いてのゴリ押しで振動を引き起こしたに過ぎない……研鑽による技術でない以上、技としては下も下だとセーマは判じている。

 

 加えて言えば友人として、仲間として縁を結んだにも関わらず未だによそよそしくさん付けなどしてくる。

 それが彼には気になって言うのだが、二人して首を横に振られてしまった。

 

「そこはそれ、そういうあだ名だと思っといてくれよセーマさん」

「ずーばーり! いかに仲間でも憧れはさん付けしますとも!」

「そんな立派なもんじゃないんだけどな、俺……」

 

 混じりけなく、セーマは呟いた。

 無理矢理改造されて妹を人質に取られ、仕方なく戦地に駆り出されることとなっただけなのだ、彼は。

 人間のためだとか平和や秩序のためだとか、腹の底ではどうでも良かった……ただショーコさえ取り戻せればそれで、他のことなど何でも良かった程だ。

 

 そんな人間を変に持ち上げて憧れるのも何やらおかしい気がするのだが──セーマよりいくらか年上らしい二人のあまりのはしゃぎ方に、変に話を拗れさせるのも良くない気もしてくる。

 結局、やれやれとため息を吐くに留め……今度はソフィーリアに声をかけるのだった。

 

「……驚かせたね、色々と」

「あ、いえ……そう、ですね」

 

 ひどく困惑したままの少女にも困ったもので、セーマは何と言ったものか考えあぐねた。

 最近知り合ったにしてもそれなりに付き合いのある人間が、その実とんでもない立ち位置の人物でした──ふざけた話だ。セーマがソフィーリアの立場ならやはり、こんな反応になると思う。

 

 この子には特に、色々不安にさせるような真似をしているなあと内心で罪悪感を抱きながらも、セーマはおずおずと呟いた。

 

「その、事情があってなるべく隠しておきたかったんだ。悪気があったわけじゃない」

「もちろん分かってます……ずっとアインのことを気にかけてくださっていたこと、私だって見てましたから」

「……ありがとう」

 

 歩み寄りを示してくれたソフィーリアの姿勢が、ひどく暖かく感じる。

 

 『勇者』で、亜人で、挙げ句には異世界から来た人間だけれど……それでもアインやソフィーリアをはじめ、仲良くしてくれる人間もいるのだ。

 それがありがたくて、セーマは小さく頭を下げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よいしょっ!」

 

 『フリーズ・ドライバー』の発動開始地点……やはりそれなりに凍結していたその場所に、特に強く拳を突き立てる。

 荒野全体が大きく揺らされて、残っていたわずかな凍土はこれにて完全に処理されたことになる。

 

 ようやく一息つけると、セーマは休憩がてら岩に腰掛け空を見た。

 太陽の位置からして、もうそろそろ夕方になる頃だろう……ちょうど昼に会食と、同じくバルドーとの戦いが始まったので、アインやメイドたちはかれこれ数時間かけて戦っていたことになるだろう。

 

「メイドさんたちはともかく、アインくんの体力が心配だな……」

「『ファイア・ドライバー』には身体が馴染んだみたいで、もうどれだけ使っても疲れないって言ってましたけど……」

 

 案ずるセーマにソフィーリアが言う。

 たしかに『ファイア・ドライバー』の行使と維持にはずいぶん慣れたみたいで、問題なく『ウォーター・ドライバー』のワインドを追い詰めたことからもその熟達は窺えよう。

 しかし問題はその先にあるのだ……空を見上げたまま呟く。

 

「『ファイア』は問題じゃなくなっても、その先にある第二段階がね……単純に考えれば消耗も激しくなっていると思えるけど」

「あっ……」

 

 うっかりと第二段階の存在を忘れていたのか、ソフィーリアはにわかに顔を青ざめさせた。

 またぞろ変に不安にならないよう、声をかけておく。

 

「大丈夫、メイドさんたちやマオもいるから滅多なことにはならないよ」

「そ……そう、ですね。『剣姫』様も一緒ですもんね」

「案外もうワインドを止め終えて、さあそろそろ戻るか、なんて──」

 

 冗談めかして言おうとした矢先だ。不意に途切れたセーマに、ソフィーリアもゴッホレールもカームハルトも不思議がった。

 

「どーしたんだよセーマさん」

「あ、いや……思ったより早かったな、と」

「……ずーばーり! 気配感知でその、アインくんたち一行の戻ってくるのを察知なさったのですね?」

「えっ!? そ、そうなんですか!?」

 

 少し考えてのカームハルトの推理は、正しい。

 さすがは『クローズド・ヘヴン』、察しの良さは頭抜けているなとセーマは笑い、告げる。

 

「今、転移する前にいたところに連中が戻ってきたよ。俺らの気配を探知したみたいで、こっちにやって来る……うん、全員無事だな」

「本当ですか!? 良かったぁ……」

 

 安心のあまり一気に脱力したのか、その場にへたり込むソフィーリア……ゴッホレールが慌てて近寄りその身を支えた。

 

「おいおいどーしたよ嬢ちゃん。気が抜けちまったか?」

「す……すみません。とりあえず終わったのかなって思うと、つい」

「ずーばーり! そのワインドとやらを追っていた彼らが戻ってきたということは、ずーばーり! 目的を達成したということでしょうからねえ」

「まあ、そうなるな」

 

 カームハルトの言葉にセーマも頷いた。

 道中、事態の成り行きについて二人にも教えていただけに理解がスムーズだ……軽く欠伸などこぼしてから彼は続けて言う。

 

「後は合流するだけ……ワインドも連行してるみたいだし、今回の件は一段落だな。皆、お疲れ様」

「あ、はい! お疲れ様です!」

「おう、お疲れ! ……つっても、あたしらは大したことしてないんだけどな」

「ずーばーり! ほぼ顔見せとか挨拶がてらみたいな感じですねえ、恐縮ながら」

 

 苦く笑う『クローズド・ヘヴン』の二人。

 どうやらレンサスを取り逃がしたことを地味に引きずっているらしい。

 やはりそこはS級冒険者、プライドの点から気にするのだろうなと思いながらも、セーマはそれを労った。

 

「こっちだってワインド一人どうにかしただけで、結局バルドーもスラムヴァールも野放しさ。あんまり気にするなよ」

「……ま、敵もさるものって奴かね」

「ずーばーり! 敵幹部を二人、王国から撤退させられただけでもひとまず勝利したと言うべきですね、これは」

「そういうこと……後はもう、バルドーを叩けば良いだけの話だからな」

 

 言いながら立ち上がる。アインたちの気配も近く……そろそろ合流できそうだった。

 

「ゴッホレール、カームハルト。事後処理は基本、そちらに任せたいんだが。どうだ?」

「ずーばーり! レンサスの身柄についてと今回の顛末、今後についての報告ですね」

「任せとけ、セーマさん。あたしらはギルドの調査チームとも連携してるしな、そっちも含めて諸々やっとくよ」

 

 言われてセーマはふと、思い出した。

 ギルドはギルドで調査チームなど組んで今回の騒動に対応していると、事務員の女から聞かされていた。

 あったなそんなの、そう言えば……呟きながらも問う。

 

「たしかS級冒険者が二人、チームを率いてるんだったか。知り合い?」

「ああ、片割れとな。カームハルトくんの師匠なのさ」

「ずーばーり! セーマさんもご存知でしょう、『タイフーン』ロベカルですとも」

「……え、ロベカルさん!? あの人が!?」

 

 思わぬ名が出てきて驚く──『タイフーン』ロベカル。

 S級冒険者の老人であり、セーマの新規冒険者登録の際、実技試験の試験官を務めた三人のうちの一人だ。

 かつての戦争にも参加しており、たまたまそこで勇者の活躍を目にし、並々ならぬ敬意を抱くようになったらしい。

 

 更に言えば少し前にも魔剣と関わりのないタイミングで行動を共にしたこともある……それを踏まえてセーマは呟いた。

 

「えぇ……こないだ会った時はそんなこと一言も」

「あ、多分その後だわ。あたしらあの爺さんと呑んでてさ」

「ずーばーり! そこでギルドの調査チームの統率を依頼されていると相談を受けたのですなあ」

「あの後かぁ……そういやアインくんのことについて軽く世間話してたなあ」

 

 もしかしたらその時のやり取りで、ロベカル老は調査チームを率いる決意を固めたのかもしれない……そこまで思い至り、セーマは頭を掻いた。

 一度、調査チームにご挨拶にでも窺おうか……そんな考えも浮かぶ。

 

「『タイフーン』ロベカル……アインも私も、実技試験の時にお世話になりました。すごく温厚で、優しくて」

「あー……あの爺さん、戦争から出戻ってきてからすっかり丸くなったもんなあ」

「ずーばーり! よほど酷いものを見たんでしょう。ずーばーり! かつては鬼そのものだったのが、今では穏和なご隠居ですから驚きです」

「……」

 

 ロベカルの変遷を語る二人に、複雑な思いのセーマ。

 少しながら聞かされていた──戦争中かの老翁は、孫くらいの歳の若者たちが多数殺されるのを目の当たりにしてしまった。

 おそらくはその時の体験が強いトラウマとなったのだろう……涙ながらに戦争を終わらせたセーマへの感謝を述べていた姿を思い返す。

 

「何があったんでしょうなあ……ずーばーり! 私を始め心配する弟子たちにもほとんど何も言ってはくれませんしねえ」

「……ま、良いじゃないか。色々あったんだろうし、ああいう酷い戦いのことは蒸し返さないに限るよ」

「それもそーさね。最近じゃあの爺さんもちょっとは元気取り戻してるし、それで良いだろうよカームハルトくん」

「そうですねえ……ずーばーり! ああまで変貌したような原因、私だって聞きたくありませんからね」

 

 あまり言及するのも、戦争の話となってしまう……変に暗くなりかねないため多少強引にでも話を打ち切ろうとすれば、ゴッホレールが知ってか知らずか乗ってきてくれた。

 カームハルトもそれに同意してくれたのでひとまずそこで話が終わり──ちょうどそのタイミングで、アインたちが遠くからやって来た。

 

「おーい! セーマさーん、ソフィーリアーっ」

「! アイン!」

「お、来た来た……それじゃあ行こうか、皆」

 

 絶妙なタイミングだと内心で喝采さえあげながらセーマが立ち上がる。

 そうしてセーマたちとアインたちは、今一度合流を果たしたのであった。

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