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王国魔剣奇譚アイン-勇者セーマと焔の英雄-  作者: てんたくろー
第二章・燃え上がる『PROMINENCE』
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戸惑いの少女、勇者と『クローズド・ヘヴン』

「許してくれよぉ……な、『勇者』さんよー」

「ずーばーり、貴方様がその素性を隠しているなど知らなかったのですよ『勇者』様! ずーばーり、失礼いたしましたーっ!」

「もう良いから……勇者勇者と連呼しないでくれ。セーマで良いから」

 

 未だ僅かに残る凍土へ歩いて向かいつつ、セーマはうんざりと呟いた。

 彼の周囲にて気まずそうに笑みを浮かべる二人の男女──名前も未だに聞かされないまま、謝罪ばかりを聞いている。

 不幸にも間の悪い成り行きにより、初対面ながら雰囲気は良いものとは言い難い。

 

「せ、セーマさんが戦争を終わらせた英雄……? 魔王を倒し、人間世界に平和と光を取り戻した『勇者』……?」

 

 何しろセーマの素性について何も知らなかったソフィーリアに対し、とてつもなく間抜けな成り行きでそれをバラしてくれたのだ。

 もう少しまっとうに格好のつく流れで、アイン共々知らせたかったのがセーマの意向であったものを……まさかこうまで滑稽な成り行きで知られることになるとは。

 

 死んだ目でソフィーリアをちらりと見て、引きつった顔と不自然に優しげな声でセーマは言った。

 

「あの……アインくんには、俺の方から話したいんで黙っておいて欲しいんですけどー」

「えっ!? で、でも……」

「もっとこう、良い感じの場面でね? こんな間の抜けたタイミングで言うのも、何かね?」

「は、はあ……」

 

 何やらこだわりを見せるセーマに、ソフィーリアは曖昧に頷いた。

 そもそも彼女自身、信じられないでいるのだ……この森の館の主で、アインを妙に気にかけてくれる男が、かつて人間世界そのものを救った勇者だなどと。

 

 気まずげな男女に向けて、おずおずと彼女は問い掛けた。

 

「あ、あの……本当にセーマさんはその、『勇者』というものなんですか? それに貴方たちは一体」

「そうだそうだー。いい加減名乗るくらいしろー。人の秘密ばらしといて自己紹介もできないとは言わせないぞー」

 

 至極当然な疑念を呈するソフィーリアに、半ば自棄になってセーマが同意してぶうぶうとクレームをつける。

 どうやら『勇者』に迷惑をかけてしまったらしいことに男女は頭を掻いて困りながらも、顔見合わせて言葉を交わした。

 

「うーん、迷惑なことしちゃったみたいさねぇ、カームハルトくーん」

「ずーばーり! まずは自己紹介が先でした。ずーばーり! セーマさんにお会いできた嬉しさで色々すっ飛ばしていましたね」

 

 そこで歩くセーマたちの眼前に回り込み、男女はポーズを決めた。

 何やらコンビっぽく互いにもたれ合いながら、武器であろう鉄棒に本を持ってバッチリとキメてくる。

 

 ちょっと格好いいぞこいつら……とにわかに瞳を煌めかせるセーマと、対称的に怪訝な顔付きになるソフィーリアを前に。

 人間世界にその名轟く最強集団に属する二人は名乗りをあげた。

 

「『クローズド・ヘヴン』No.9! S級冒険者『翔龍』ゴッホレール!」

「同じく『クローズド・ヘヴン』No.5! S級冒険者『凶書』カームハルト!」

「『豊穣王』ローラン殿の依頼を受け、王国南西部にて発生している魔剣動乱の鎮圧のため! ここに推参!」

「ずーばーり! 以後、お見知り置きをお願いいたしますー」

 

 前をはだけ、大きな胸を包帯など巻いているだけのラフな格好の女傑、ゴッホレール。

 スーツ姿の紳士男性、カームハルト。

 二人揃っての『クローズド・ヘヴン』としての名乗りを受けて……セーマもソフィーリアも目を見開き驚愕に声をあげた。

 

「『クローズド・ヘヴン』!? いやそれより、ローラン!?」

「『翔龍』ゴッホレールに『凶書』カームハルト……そんな、去年の冒険者名鑑にもインタビューが載ってるような超大物じゃないですか!?」

 

 それぞれ驚く点は異なるが……ゴッホレールがへにゃりと気だるげに、カームハルトが密やかに笑って答える。

 

「そっちのお嬢ちゃん、名鑑なんて良く読むねぇあんなもん……ま、とにかくそのゴッホレールさね」

「カームハルトです。ずーばーり! 信じられなければどうぞ、冒険者証です」

「ど、どうも……あわわわ、本物だ!!」

「ふっはははは! 可愛らしいお嬢ちゃんさねぇ! 落ち着きない落ち着きない、取って食いやしないよ!」

 

 受け取った冒険者証を眺め、いよいよ慌てるソフィーリア。そんな彼女を見てゲラゲラ笑うゴッホレールを横目に、セーマとカームハルトが話している。

 

「この辺り、冒険者をやっている騎士がいらっしゃるみたいでして……ずーばーり! 彼女から報告を受けた『豊穣王』が我々に依頼をして来たのですよ」

「そうだったのか……ローランめ、やるなぁ」

「そこからこの辺りのギルドと連携を取り、急ぎこちらへ参りました。ずーばーり! アインくんに対してのギルドからの護衛とは我々です。もっとも、追い詰めたはずの敵にはまんまと逃げられましたが」

 

 天を仰いでカームハルトが嘆き、ことの顛末をセーマたちに語った。

 

 現場に駆け付けた際、既に先端は開かれていた。

 何しろ亜人の群れ相手だ、参戦しても良かったのだが……ふいに霧と化していたアリスが動きを停止させられたのを見て、二人は行動を変えることにした。

 周囲を探り、怪しい者がいないかを探し始めたのだ。

 

 何もなしに霧化したヴァンパイアを停められるはずもなく、恐らくは何らかの特殊能力……報告にあった『魔眼』辺りの仕業だろうと推測しての判断だった。

 

 果たしてその判断は正しく、遠く離れた高岩の上、『魔眼』使いのレンサスがいるのを発見。

 人間の身ゆえ登るのにも苦労しつつ、どうにか少年幹部を追い詰め……しかし逃がしたのであった。

 

「ずーばーり! 敵を侮っていました。よもやほんの少しの会話から、王国が本腰を入れて動き始めたことに気付くとは……お力になれず申し訳ない」

「いやいや……あ、いえいえ。あなた方がレンサスを止めてくれたお陰でうちのアリスが助かったわけですね。ありがとうございます……それと不躾な態度、失礼いたしました」

「いえいえそんな! こちらこそそちら様の事情も考えずにとんだご迷惑を! ずーばーり! どうかお顔を上げてください!」

 

 紹介を受けてセーマは頭を下げた。

 ローランの都合してくれた心強い味方であり、あまつさえアリスが助けられていたとあっては先程のセーマの態度は失礼極まりない。

 それに対してカームハルトは仰天して恐縮し、ゴッホレールも豪気に笑って取り成した。

 

「勇者……げふげふ。セーマさん、敬語なんて使わないでおくれよ! むしろあたしらの方があんたに敬意を以て接させてほしいくらいさ!」

「カームハルトさん、ゴッホレールさん。ですが」

「どーしても気になるってんなら、あたしらと友達、仲間んなってくれよ! そしたら多少の無礼だって仲間内のことだ、ノーカンノーカン!」

 

 豪快に笑うゴッホレール。前を開けた格好といい武器であろう鉄棒といい、どうにもワイルドな豪気さを感じる。

 一方でどこか神経質さが漂う、紳士然としたカームハルトは慌てて彼女を嗜めた。

 

「ゴゴゴ、ゴッホレールさん!? ずーばーり! 厚かましいでしょう、それは!?」

「良いじゃないさねカームハルトくぅん! 憧れの勇者様とお近づきになれる、またとないチャンスさね? 逃がしてどうするよ冒険者が!」

「……憧れ?」

 

 まるで馴染みのない言葉に困惑してセーマが言う。

 カームハルトもゴッホレールも、どこか顔を赤くして照れながら答えた。

 

「ず……ずーばーり! 我々実は、貴方のその、ファンでして」

「国の上層部しかその存在の詳しくを知らない『勇者』。たった一人であらゆる戦場を駆け、何百万という亜人を打ち払い魔王を倒した救世主! かあーっ、たまんねえ!」

「『クローズド・ヘヴン』が組織されたのもずーばーり! うちのリーダーがあなたの信者だからという話もある程です」

「信者て。ていうかそんな切欠!?」

 

 やたらテンションも高く盛り上がるゴッホレールとカームハルトの二人にセーマもたじたじだ。

 

 何より『クローズド・ヘヴン』の由来が他ならぬ己にある、などと聞かされたことの衝撃が凄まじい。

 人伝に聞かされて『へー、何か秘密組織って感じで格好いいなー』と素朴な感想を抱き、少年チックな正義のヒーロー集団と思い込んでいたのだが……その源流がまさかのセーマ自身だなどと分かるはずもなかった。

 

「せ、セーマさん……あの、え。凄い、です、ね?」

「……あのう、若干引き気味になるの止めてもらえますソフィーリアさん?」

「あ、いえその、これは……何か、すごい別次元の人だったーってその、畏れ多さが」

「無いから! そういう目に見えない壁とか止めよう!?」

 

 突如として知らされた秘密の数々に、ソフィーリアは完全に気圧されてしまい彼からそそくさと後退る。

 

 信じがたいが信じざるを得ない。

 セーマは『勇者』と呼ばれた戦争の英雄であり、世界中の戦地を一人で駆け巡り、万単位の亜人を倒し、最後には敵方の首魁たる『魔王』を打ち倒して人間世界に平和の光をもたらした──まるで英雄譚の英雄そのものな男なのだ。

 

 そそくさと離れるソフィーリア。

 少し前まで決して無かった距離感にショックを受けつつ、それでもどこか仕方ないかなとセーマは自分を納得させた。

 はあ、とため息を吐き、そこで立ち止まる。

 既に凍土とかした草原の只中にあり、この辺りで良いかと場所を定めたのだ。

 

「……分かった。二人がそう言ってくれるなら、俺たちは仲間ってことで。良いかな?」

「おお! 嬉しいぜセーマさん!」

「ず、ずーばーり! 感激ですセーマさん!」

「さんもいらないさ、セーマで良い。さて、それはともかく三人とも少し離れてくれ。凍土を砕く」

 

 感動に震えるゴッホレールやカームハルト、どこか遠慮がちになってしまったソフィーリアの三人に苦笑して告げる。

 急な言葉にきょとんとする三人にいいから、と十分距離を取らせ、彼は地面に向けて拳を構えた。

 

「……凍土の開始地点から考えれば、ここを叩けば草原の凍結は収まるな。荒野の方もまだ少し残ってるだろうが、まずは、こっちからっ!」

 

 そして放つ。垂直に叩き込まれたセーマの拳が、今一度大振動を引き起こした。

 

「きゃあっ!?」

「うおおっ!?」

「ぬあ!?」

 

 突然の大地震にやはり、バランスを崩す人間三人。

 尻餅を着くなり岩にもたれるなりして揺れに耐えれば、次いで広がる光景に唖然とした。

 

「嘘……これ、さっきと同じ」

「ははは……マジかよすげえ……」

「ず、ずーばーり……これが『勇者』ですか!」

 

 砕け散り、大気に霧散する氷の欠片。

 陽の光を浴びてキラキラと輝くその光景には、凍土などどこにも残っておらず。

 

「ふう……後は荒野の方か」

 

 どこか幻想的な光景に佇むセーマの、その特異性に改めて目を剥く三人であった。

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