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王国魔剣奇譚アイン-勇者セーマと焔の英雄-  作者: てんたくろー
第二章・燃え上がる『PROMINENCE』
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『進化』の時来たれり、燃え上がれ『プロミネンス』!

 マオの魔法『テレポート』により転移したアイン、リリーナ、ジナ、アリス。

 やはり移動は一瞬のことであり、セーマやソフィーリアがいた光景が瞬きする間もなく別の風景に変わる。

 

 草原だ──未だ凍土にはなっていない。町からは今しばらく距離のある地点であり、遥か遠くにはうっすらと今さっきまでいた荒野が見えている。

 

「あは あへあへあへあへへへへへ め り い さ」

 

 そして、狂笑。

 魔剣を片手に力なく引きずりながら、壊れた笑みにてふらふら歩いて町へと向かうワインドが少しばかり離れたところにいて、一同はすぐさま臨戦態勢に入った。

 いつ『フリーズ・ドライバー』が発動されても肉薄できるよう、体をゆっくりと霧へと変じさせながら呟く。

 

「なーるほど。ありゃあ……イカれとるのう」

「はい……それでも、メリーサさんの名前だけは呟いて」

 

 敵として相対して、まったく許すつもりも容赦する気もないアインだが……それでも、ここまで壊れ果ててなお好いた女を呼び続けるワインドの姿には、ひどくやりきれないものを抱かざるを得ない。

 冷静にジナが、ワインドの狂気を分析した。

 

「それだけ、その人があの男にとって重要な人物だってことだね」

「当のメリーサおばちゃんには、まるで相手にされてなかったのに……」

「相手方の都合はこの際関係ないんだよ……通じてなくても想いは想い。呪いみたいで薄気味悪いけどね」

 

 徐々に身体を、狼めいた形状へと『獣化』させていくジナ。

 ワーウルフである以上もちろん、彼女にもその能力は備わっている──もっともジナは獣化した己の姿があまり好きでなく、滅多なことで使おうとはしないが。

 

 と、そこでリリーナが話し合う三人を注意した。彼女は既に抜刀しており、紫電を纏っている。

 

「三人とも、そろそろ無駄口はやめろ。相手の気配も濃くなってきた。こちらに気付いて『フリーズ・ドライバー』を発動させようとしているのかもしれん」

「こちらに気付く……というよりは、知覚範囲に入ったものを軒並み凍らせようとしているんじゃないか? そら」

 

 次いでマオが推測を述べ、あまつさえ足元にあった石など拾ってワインドに向けて投げつけてみせる。

 ──瞬間、ワインドの周囲に氷柱が突き出て石を砕いていた。

 

「……ほらな。たぶん意識もほぼないから、オートカウンターに近い状態なんだよ」

「ほらな、ではない! 貴様、話をややこしくしようとするな!」

「いってぇ!?」

 

 気軽なノリで『フリーズ・ドライバー』を誘発させてしまったマオに向け、リリーナが紫電交じりのチョップを見舞った。

 頭を押さえて蹲る。エメラルドグリーンの長髪が草原に散らばる中、堕天使に向けて魔王が吼える。

 

「どーせ近付いたら発動するんだし良いだろ別に!? 大体そこのアインがどうにかするってんだから、適当にやったってどうにかしてくれるんだよきっと!」

「何だその雑な丸投げは! 開き直るにしてももう少しまともなことを言え!」

「あの、当てにしてもらえるのは嬉しいんですけど! だからと言って滅茶苦茶して欲しくもないかなと言いますか!」

 

 アインにすべてを丸投げしたがゆえの雑な言動。それに対してリリーナはおろか当のアインもたまらず叫んだ。

 目を細め、どこか優しげにアリスが語りかける。

  

「アイン少年、アイン少年や。マオ相手に真面目じゃと疲れるぞ? リリーナ見てみい、よう分かるじゃろ」

「やーい堅物、言われてるぞやーい!」

「やかましい! ええい……とにかくアイン、さっさとあの魔剣をどうにかしてしまってくれ!」

「は、はい!」

 

 何一つ懲りることなく煽りさえいれてくるマオを一喝。

 リリーナはアインを急かした……発動し始めている『フリーズ・ドライバー』をどうにかして欲しかったが、それ以上にマオの相手が面倒になったのである。

 言われてアインは他の面々よりも前に出る。

 

「あひ あひゃ あひふふ 『ふりーず・どらいばー』 ぁははははははは」

「っ」

 

 壊れた哄笑と共に広がっていく冷気。

 狂った男が、今度は草原を凍土にしようと力を発動していくのを見据え、アインは呟いた。

 

「……もう、好きにはさせない」

「ひひゃは あひゃ めりーさ めりーさあはははは」

「お前の、現実から目を逸らしたいだけのそんな氷なんか……僕が溶かしてやる」

 

 心が震える。託された多くの想い、背負った多くの命が、アインの心を燃え上がらせる。

 深呼吸を繰り返す。吸って、吐いて──身体の隅々まで空気を行き通らせるように、大きく、深く。

 次第に全身に力が入る。みなぎる気力が、心燃やす炎が、手にした魔剣に伝わっていく。

 

「暖かい……?」

 

 呟いたのはアインの後方、戦闘態勢を整えたジナだ。

 『フリーズ・ドライバー』の発現により冷えていっているはずの大気に、不思議と熱が混じるのを感じたのだ。

 

「おい……見よ、アイン少年の魔剣」

「燃えてる、だけじゃない。何だろ、稲妻?」

 

 アリスもまた呟き、ジナと共に炎の魔剣を見る。

 炎を纏うどころの話ではない。もはや吹き荒れる火炎そのものと化した魔剣に、稲妻が迸っている。

 猛る炎の周囲に発生してはバチバチ、と放電の音を放つそれを見て──リリーナとマオが、息を呑んだ。

 

「あれは、まさか」

「……馬鹿な。そんなことが」

 

 あからさまに心当たりのある反応の二人。アリスが視線で問えば、リリーナは半ば愕然と答えた。

 

「あれは、あれは主様の。『勇者』の力の発現と同じものだ」

「何じゃと!? ま、魔剣が『勇者』の!?」

 

 アリスも、横で聞いていたジナも驚く他ない。

 魔剣の放つプラズマは、まさしくセーマが『勇者』の力を以て戦う際に、余剰エネルギーとして放たれるものと同種だというのだから。

 

「魔剣よ……僕に応えろ」

 

 魔剣とは一体?

 メイドたちが疑問と共に見つめる先、アインはしかしてそれを構えた。

 倒すべきものを倒すため、護るべきものを護るため──魔剣の力を己の望む形で引き出す。

 

「溶けない氷を溶かせ。燃やせないものを燃やせ! 邪悪も狂気も浄めて払う、聖なる炎を今ここに示せっ!!」

 

 炎がいよいよ燃え上がる。余剰したエネルギーが空気中に電気として放出されていく。

 ワインドの『フリーズ・ドライバー』が発現し、今まさに凍りついていく草原。

 

 鋭利な氷柱がアインに迫る中──彼は、『進化』へと至る最後の意志を示した。

 

「僕と共に、『進化』しろっ! 炎の魔剣っ!!」

 

『FEELING-FEEDBACK"EVOLUTION"』

 

 響く魔剣の声。

 アインにはもうとっくに分かっていた……狂気の男が先んじて辿り着いた境地。

 そこにはもう、自分も踏み入れられる。

 

『2nd Phase──Assault-code please』

 

 時は来た。今こそ『進化』、果たされる時。

 新たな力を示すその声と共に、アインは叫んだ。

 

「燃え上がれ──『プロミネンス・ドライバー』ッ!!」

 

 そして、彼を中心に光が溢れ。

 凍土が一瞬にして溶け、柔らかな暖かさによって生気を取り戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 発現したアインの『2nd Phase』。

 その威はあまねく凍土を一瞬にして溶かし尽くし、あまつさえ彼の周囲に燃え盛る炎を現出させていた。

 

「うおおっ!? 熱……く、ない?」

「不思議だ……たしかに炎だが、アイン自身はおろか周囲の環境にも害を及ぼしていない」

「むしろ、暖かい……見てるとホッとするような、そんな感じです」

 

 一瞬焦るも、まるで高熱を感じずにアリスが困惑すれば、リリーナやジナも困惑してアインを見ていた。

 まるで無害だった……適度な暖気こそあるが、炎は周囲の自然には何ら害を為しておらず、ひたすらに草原を覆う凍土のみを溶かしていく。

 

「それに、あの炎……蛇、か?」

 

 そしてアイン身体から迸る炎が、何らかの巨大な生物を模していた。

 形状から蛇か、あるいは蜥蜴辺りかとリリーナが推測すれば……マオがそれに対して説明を入れた。

 

「あれは……竜だ」

「りゅう?」

「人間にも亜人にも未だ踏破できていない地域に生息している、馬鹿デカい爬虫類だよ。私の『プロミネンス』を真似ての発現だろうな、あの形なのは」

 

 『プロミネンス・ドライバー』と、その元となったであろう魔法『プロミネンス』。

 両者の共通点と差異とを見出だしながら、マオは思考を巡らせる。

 

「本来無差別なはずの『プロミネンス』の攻撃対象を制御している……? 単なる魔法の劣化コピーではない、のか?」

 

 発動した新たな能力について、マオが考える間にも……

 アインは、その威を行使していた。

 

「はあっ!!」

 

 炎と化した──そう言って良いレベルにまで燃え盛っている刀身の魔剣。

 一振りすれば、顕現された炎の竜がワインドへと向かう。

 

「えは えひ ひい ひあ」

 

 引きつった息を漏らしつつ、なおも壊れた笑みでワインドが『フリーズ・ドライバー』による冷却を行う。

 同時に発現させた特大の氷柱で炎竜を受け止めようとするも、まるで餌を食らうがごとくに呑み込まれて溶け消えていく。

 凍土も広がろうとしてはその都度、溶けていくのを見てアインは叫んだ。

 

「どうだっ!! 貴様の『フリーズ・ドライバー』はもう、僕には通用しないっ!」

「あう ひう ひ ひは」

「溶けないものを溶かす! 燃やせないものを燃やす! それがこの『プロミネンス・ドライバー』だ!! 受けてみせろ、外道っ!」

 

 意気を込めてアインは剣を振るう。

 その度に竜炎がワインドを襲い、防御のために発現する氷柱を喰らい、広がらんとする凍土を食い止めていく……アインに有利だが、それでも状況としては五分。

  

「『フリーズ・ドライバー』を相殺したい、というアインの意志に応じて発現したのか『プロミネンス・ドライバー』は……だからアインの意志による燃やす燃やさないの任意制御が利く、と?」

「中々、予想外の事態が続くが……」

 

 考察するマオを尻目に、リリーナが呟いた。

 思考を元の目的に切り替えたその瞳に迷いはない……まずは成すべきことをなす、そんな気構えだ。

 

「アインは見事にやってくれた! アリス、ジナ、行くぞ! 彼の『進化』を無駄にするな!」

「応よ! アイン少年に負けてられんでな!」

「名誉挽回、汚名返上! 今度こそ取り逃がさない!」

 

 アリスにジナも呼応して駆け出す。アインの横合いをすり抜けながらも、言葉短に彼を労う。

 

「良くやったアイン、後は任せろ!」

「引き続き奴の対処、頼むでな!」

「すぐ終わらせるから! お願いね!」

「はい! でも早めにお願いします! これ、結構消費やばくてっ!」

 

 先輩冒険者たちからの声を受け、アインも叫んだ。

 言葉の通りだ……新たな力の発現と維持で、体力が異様に削られている!

 

「奴から魔剣を取り上げてください!! そしたら、後は僕が!」

「まだ何かやるのか……分かった!」

 

 制御に手一杯、それでもなお何かをするつもりのアインにニヤリと笑い、リリーナは応えた。

 面白い少年だ、主セーマが気に入るだけのことはある……瞬間的にそう考えつつ、更に踏み込む。

 

「どうあれ奴と奴の魔剣は……!」

「分断するっ!」

 

 アリスとジナも合わせて突撃する。

 魔剣の能力を封じ込められたワインドに対して……最後の戦いが仕掛けられた。

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