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王国魔剣奇譚アイン-勇者セーマと焔の英雄-  作者: てんたくろー
第二章・燃え上がる『PROMINENCE』
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『かつて』から『これから』へ、受け継がれるもの

「アイン、よろしく頼む」

「は、はい! よろしくお願いします!」

 

 準備を整えつつ声をかけてきたリリーナに、アインは緊張と共に返した。

 自分のわがままじみた願いが聞き入れられたことにより実現した『剣姫』との共闘に、今更ながら興奮しつつも不安を覚えているのだ。

 

 ワインドをこの手で止めたい、町をこの手で守りたい。

 その想いに嘘偽りなど何一つとしてありはしないが……それはそれとして大変なことを言ってしまったと後になって戦くところはある。

 そんな少年をからかうように、ストレッチなどしていたアリスが話しかける。

 

「何じゃあ? 大口叩いといてもうビビっとるんか?」

「そ、そんなことは! ただその……お三方にサポートしてもらうなんて、大それてるなと」

「安心せい、ご主人に己の意を通した時点でとんでもなく大それとるわ少年!」

 

 なはははっ! と豪快に笑うアリス。

 そもそもセーマに対して物申したこと自体、自分たち三人を小間使い扱いするよりもよほど不遜なのだ……そう諭す彼女に、アインも二の句が継げない。

 

「アリス、脅かしちゃダメだよ」

「脅かしとらんわ! むしろ感心しとるくらいじゃ……この場面で気炎を吐きよった、やるなこいつ! ってな」

「そうだね。自分の手で倒したい、守りたい……良い気迫だったよ。ご主人さんがアインくんを気にかけてらっしゃる理由、分かった気がする」

「アリスさん、ジナさん……」

 

 先程のアインの意気は、歴戦のメイドたちさえも動かすものがあった──何よりもセーマが、明らかに何かをアインに見出だした様子でいるのだ。

 メイドたちもこの新米冒険者に期待を寄せないではいられない……リリーナもまた、アインに告げる。

 

「下らないことは気にせず、今は決戦に集中しろ、アイン……『フリーズ・ドライバー』を封殺できるというお前の言、主様共々わたくしたちも信じさせてもらう」

「『剣姫』様……」

「リリーナで良い、様も不要だ。とにかく任せるぞ、若き剣士よ」

 

 そしてリリーナはアインの肩をぽん、と叩いた……柔らかな笑み。

 彼女なりの信用を感じさせて、アインは感動した。今まさに彼は、世界最高の冒険者に期待されているのだ。

 次いでアリス、ジナがその背を軽く叩く。発破をかけるように、軽く冗談目かして言う。

 

「お主が『フリーズ・ドライバー』をどうにかしとる間にわしら三人で奴を仕留める。気ぃ張れよ、アイン少年!」

「キミがどうにかしてくれなかったら、アリスやリリーナさんはともかくボクが身動き取れなくなっちゃうからね。本当に頼むよ?」

「み……皆さん……!」

 

 次々寄せられる期待、信用、信頼。

 遥か格上の、戦士としても冒険者としても偉大なる先輩たちからの激励に……アインの心が燃え上がる。

 

「アインくん」

「セーマさん……」

「人命の掛かってる状況で、こういうのもちょっとアレなんだけどさ」

 

 そして、セーマがアインの前に立つ。

 メイドたちの主……謎多き森の館の主人。

 未だ底知れないものを秘めるその青年は、アインに向けてどこか、清々しく笑って見せた。

 

「気負いすぎるな。失敗してもメイドさんたちがどうにかしてくれるんだから、後のことなんか考えずに全力を出すんだ」

「で、ですけど」

「『世のこと、すべて思い通りにいかない』」

 

 穏やかな表情、眼差し。

 どこか遠くを見つめるような、懐かしむような瞳で──

 

「『だからこそ、できる限りを尽くすんだ』……昔、戦争中に少しだけ話をした帝国皇妃からの受け売りだけどさ。その通りだと今も昔も俺は思う」

「できる、限りを……!」

「今、君がやるべき『できる限り』は、ワインドに向けてすべての力でぶつかることだ……恐れるな! 君ならできると、俺は信じる!」

 

 ──そして現在を見据えて、セーマはアインにすべてを託した。

 かつてから今へ、今からこれからへ。

 まさしく未来を背負うであろう英雄の卵に、『勇者』は切なる想いを預けたのである。

 

「任せたぞ、アインくん! 狂気に凍りついた奴の心ごと、君の炎で燃やし尽くせ!!」

「──はいっ!! 任せてください!」

 

 ことここに至り、アインにもはや迷いはない。

 

 多くを託された。

 その重みにさえ耐えて、きっと悲劇を食い止めて見せよう。

 覚悟を決めた少年の瞳は、既に英雄のみが持ち得る覇気の片鱗が見え……燃え立つ心を表すように、勇気と正義を秘めた凛々しさとなっている。

 

「アイン……」

 

 そして、ソフィーリアが彼の頬に手を当てた。

 どこか心配そうな、けれど強さも感じさせる表情。

 

「ソフィーリア」

「……負けないで。私たちの町を守って。アインならできるから。信じてるから」

「……うん。必ずやり遂げる。信じていて、ソフィーリア」

 

 言葉少なな、けれど伝わる温もり。

 最後の一押し──すべてがアインの力となり、彼は高らかに告げた。

 

「行きましょう、皆さん! マオさん、よろしくお願いします!」

「ふっ……良かろう。たまには『私』が英雄譚の手伝いをするのも悪くはないさ」

 

 マオ……『魔王』もまた、アインの心意気を認めた。

 彼とメイドたちの手を取り合わせ、その肩に触れる。

 

「じゃあ行くぞ……奴のすぐ傍に『テレポート』するが、多人数での転移は制御が難しい。いきなり目の前に現れて奇襲とはいかないから悪しからずな」

「奴が『フリーズ・ドライバー』を発動させながら移動しているのかそうでないのかは不明だが……再び凍土が発現する兆候が見られたら即座に奴を封じてくれ、アイン」

「はい……! それと、転移したらすぐ僕から離れていてください。たぶんかなり燃えて、危険なので」

 

 アインの警告。

 それを受けてマオもメイドたちも、彼の自信の根拠に遅まきながら気付いた。

 そういうことか──ならば主の期待も当然だろう。

 マオが不敵に笑う。

 

「ふっ、大きく出たな。それでは精々見物させてもらおう。セーマくん、そっちは任せた」

「ああ、任された……行ってくれ」

「──『テレポート』!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして魔法は発動し、アインとメイドたちを連れてマオは消えた。

 移動には一秒とてかからない……今頃はもう戦闘準備が始まっているだろうと予測付けつつ、残されたセーマは言った。

 

「さて、俺はこれからわずかに残っている凍土を砕いていく……何かあるといけないから一緒に来てくれ、ソフィーリアさん」

「は、はい!」

 

 頷くソフィーリア。

 そしてもう一人……ずっと黙って成り行きを見ていたスラムヴァールにも、声をかける。

 

「お前はもういい……マオ直々の魔法も体験できて満足したろ? さっさと荷造りして王国から出ていけ」

「し、辛辣ぅ……分かりましたー、ご恩情ありがたくいただきますー」

 

 きっぱりと追い出すセーマに顔を引きつらせながらも、『オロバ』大幹部の女は素直に頷き、あまつさえ礼まで言ってのける。

 こうして生き永らえ、しかも目的を果たした上で見逃してもらえるのだ……敵対的な立場にいる者としてはこれ以上ない成果だ。

 

 言われた通り、エーを回収して海路で帝国へ戻るか……と考えながら言う。

 

「……それにしても、アインくんまで『第二段階』に至りそうですねー」

「──えっ!?」

「何だ、やっぱり分かるか」

「そりゃーそうですよぉ、気配の強さが物凄いことになってましたしー」

 

 笑うスラムヴァール。セーマも頷く中、ただ一人ソフィーリアだけが混乱している。

 苦笑してセーマが説明していく。

 

「『何となく行けそうだから』だけじゃ俺だって行かせやしないさ……アインくんからただごとじゃないエネルギーが溢れていたからね。彼も進化しかけてるんだってのはすぐに分かった」

「だ、大丈夫なんでしょうか!? あ、あの男みたいになったりは」

「そこは心配ないですよー。ワインドさんが狂ったのは魔剣とか関係なくあの人の心が弱かったのが原因ですしぃ。アインくんは正しく進化するんじゃないですかねー」

「そ、そうですか……」

 

 敵側の言い分を鵜呑みにするのも危険だが、それでも気休めにはなり、ソフィーリアはため息を吐いた。

 なんだかこの子、今後も相方さんに振り回されてため息吐きそうですねーなどと考えてから、スラムヴァールは改めてセーマに向き直る。

 

「それではセーマさん、私はこれで退散いたしますー。見逃してくださりありがとうございましたぁ。もう二度と会わないことを心から祈りますぅ」

「俺もだよ……ああ『オロバ』抜けてマオの下で働くんなら別かな。四天王だっけ」

「勘弁してくださいー! それ貴方にさっくり殺される奴じゃないですかー!」

 

 まったくもう! とスラムヴァール。

 憎悪と侮蔑を秘めながらも、同時に愛嬌と親愛も秘めた不思議な女だ……彼女はそしてセーマから離れて行く。

 セーマの視界からもほぼ消えようとする間際……彼女は最後に一つ叫んでから、颯爽と逃走するのだった。

 

「最後に一つだけサービス助言ですーっ!」

「……うん? 何だ、あんな遠くから」

 

 目を丸くして耳を澄ませるセーマ。

 次の瞬間、彼は心底驚かされることとなる……スラムヴァールなりの、ちょっとした仕返しである。

 

「なるべく早めに『勇者召喚術』絡みの資料ーっ、王城から確保しといた方が良いですよぉーっ!」

「──何ぃっ!?」

 

 荒野に響く声。

 一瞬内容を把握しかねたセーマだが、すぐに理解して目を見開く。

 まったく予想外の単語が出てきた──勇者召喚術!

 

 セーマとショーコをこの世界へと引きずり込んだ元凶たる邪法を叫ぶスラムヴァールに、彼は慌てて引き留めようと声を荒げた。


「それはどう言うことだっ!? スラムヴァール!!」

「それ以上はこっちがヤバいので言えませーんっ! それではさよなら、『勇者』セーマさーんっ!」

「あっ、おいこら! ──くっ、落ち着け俺!」

 

 聞き捨てならない言葉に反応するも、スラムヴァールはすぐさま全速力でセーマから離れていく。

 遠距離斬撃で襲おうか──と一瞬考えるも、頭を振って考え直した。

 どのみち捕まえたところでスラムヴァールはあれ以上は吐かないだろう……結局『オロバ』に狙われるレベルの、決定的な情報だけは漏らさなかったらしいことからもそれは窺える。

 

「それに、凍土の方が先か。俺だって、自分を優先してまで自然を踏みにじりたくもない」

「あ、あの……『勇者召喚術』って何ですか?」

「え……あっ。いや、それは」

 

 事情を知らないソフィーリアの視線と言葉が、困る。

 どのみちアインには教えるつもりだったしその都合、ソフィーリアもセーマの身の上について知ることになるだろうが……このタイミング、この間抜けな成り行きでぽつぽつ語りだすのはあまりにも格好がつかない。

 

 どうしたものかと汗を一つ流していると、不意に気配感知に引っ掛かるものがあった。

 人間が二人、こちらにやって来ている。

 

「そ、それより! 誰か来るみたいだ、人間が二人!」

「えっ!? て、敵でしょうか!?」

「さて、どうかな!? よーし来るなら来い! さあ来い!」

 

 必要以上に張り切るセーマ。

 どうにか話を誤魔化せそうなので闖入者に感謝さえしながら、やって来るのを待ち構えると──

 

「おっ、いたいたぁ! あれだろぉ、『勇者』ってのはぁ!!」

「黒髪黒目、中肉中背……何より醸し出る強者のオーラ! ずーばーり! 彼こそ間違いなく『勇者』セーマ! 先の大戦における伝説の英雄でしょう!」

「何でそうなる!? 誰だよあんたらッ!」

 

 すべてをご破算にしてくれた二人組に、思わずそう叫ぶのであった。

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