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王国魔剣奇譚アイン-勇者セーマと焔の英雄-  作者: てんたくろー
第二章・燃え上がる『PROMINENCE』
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砕ける凍土、スラムヴァールの思惑

 凍土と化した荒野の中。

 アインはソフィーリアと共に、『ファイア・ドライバー』の火力を以て暖を取りながら、少しずつリリーナたちと合流しようと奮闘していた。

 

「くっ……中々硬いよね、これ!」

 

 炎を纏った魔剣で氷柱を斬る。高熱の刃ゆえそれなりによく溶けてくれるが、それでも硬いものは硬い。

 諦めずにどうにか護衛のメイドたちと合流せんとする、そんな中。

 

 突如として起きる──大きな揺れ。

 

「うわああああっ!?」

「きゃあっ!? な、何? 地震っ!?」

 

 魔剣を杖代わりに地面に刺し、ソフィーリアを抱き抱えて振動に耐える。

 時間にしてそう長いものでもなかったが、それでも圧倒的な揺れだ、体感的な感覚は異様に長い。

 そんな現象が収まって周囲を見回せば、驚愕の光景が広がっていた。

 

「こ、凍ってたのが……」

「溶けて? いえ、塵になってる!?」

 

 砕けた氷の破片が、まるで雪のように宙を待ってはいるものの──すっかり元通りの荒野が広がっている。

 

 今日何度目かのあり得ない事態だ。かといって馴れはしないが、比較的落ち着いてアインは言った。

 

「と……とにかく、動きやすくはなった、うん! 行こうソフィーリア、『剣姫』様たちの所へ!」

「え? う、うん……あの、今の何だったのかとか」 

 

 ソフィーリアは未だ混乱で思考が鈍っているらしく、アインの側で不安そうに今の地震について口にする。

 いくらなんでも不可思議な現象が続きすぎる──何か思うところはないのか共感を求めたところ、アインは引き締まった表情でハッキリとそれを否定した。

 

「敵はどんなことだってしてくるし、どんなことだって起きるかもしれない……どうして、とかどうやって、を気にしても今は仕方ないよ。それよりも、その予想外を踏まえてどう動くかが大切だと僕は思う」

 

 それは数日前、アイン自身がセーマから教わったことだ。

 敵は時として予想のつかないことをしてくる……そこは仕方ない。大切なのは、それを受けて興奮することなく冷静に対処すること。

 

 枝切れを持っただけの相手に完敗してしまった苦い記憶と教えが、今はアインの力となっていた──セーマに深く感謝しつつも、ソフィーリアに向けて言う。

 

「何より今はそれどころじゃない。『剣姫』様たちと早く合流して、あの魔剣の男を町に辿り着かせないように力を合わせなくちゃ! あいつが町に着いたら、きっと大勢の人が犠牲になる!」 

「あ……そ、そうね! 私たちの町、私たちが護らなくちゃ!」

 

 ひたすらにワインドを止めることに専心するその眼差しは、今までのアインには無かった強い炎が燃えているようで……その熱が移ったのか、ソフィーリアも気を取り直して頷いた。

 

 そして砕け散る氷の舞う中、二人は走り出す。

 何があってもあの男だけは止めなければならないという、強い使命感。

 たしかな正義感に燃えて若き冒険者たちは、偉大な先達の元へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「逃げた……わたくしの奥義を受けてか」

 

 苦々しくリリーナが呻いた。アリスによるバルドー逃亡を知らされての、悔やましげな一言だ。

 完全に動き封じたと思っていただけにその衝撃は大きい。彼女は自然と、拳を握りしめていた。

 

「不甲斐ない……! いっそあの場で切り捨てていれば良かったか」

「リリーナさん、落ち着いて」

 

 激昂はせずとも声音は強い。

 そんなリリーナにセーマは声をかけ、落ち着くように促した。

 

「主様……」

「何かからくりがあるはずだ……貴女の奥義をまともに受けておいて、いくら混乱の最中だって早々逃げ切れるもんじゃない」

「そりゃあね。威力だけなら私の『切り札』に近しいものがあるんだ、加減してたからって簡単に回復なんて無理ってものだぜ」

「マオ……」

 

 主はおろかマオにまで労られ、リリーナはすぐさま気を落ち着けた。

 逃げられてしまったというのであればそれは仕方ないことと無理矢理にでも呑み込み、次いでどうするべきかを考える。

 悔やむのは終わってからで良い──まずはやるべきことを。そう立ち直る『剣姫』に頷きつつ、マオは向き直り、言った。

 

「心当たりあるだろ、吐け」

「えっ!? い、いえそのぉ……」

「脅すようで気が引けなくもないが、お前もこの状況で私らを相手にしたかないだろ? ん?」

「気が引けるならぁ、その満面の笑み止めてもらえませんか魔王様ぁ……」

 

 生き生きとした表情で脅しをかける。そんな魔王然とした姿にスラムヴァールは盛大に戦きながら周囲を見回した──当たり前だが味方はいない。

 

 ふう、と汗と共にため息を一つ吐いてから。

 スラムヴァールは渋々と話し始めた。

 

「たぶんー、アジトにでも引っ込んだんじゃないでしょうかねぇ」

「アジト……?」

「この荒野の地下、バルドーさんが王国南西部で活動するにあたっての、本拠地なんですよねー。チンピラさんたちさえ取り除けば、中々良い感じの環境ですしー」

 

 明かされる、バルドーの拠点。それを聞いてセーマには思い浮かぶものがあった。

 少し前に噂された、荒野に潜む賊たちの集団消失──そして見つかった、白骨死体の山。

 まさかと顔をしかめつつ尋ねる。

 

「このあたりにいた賊を皆殺しにしたのは、お前たちか」

「そうなりますねぇ……お前たち、というよりはバルドーさんお一人での犯行ですがー」

「あのワーウルフ、本当にろくでもない真似ばっかりしとるのう」

「情けない……誇り高きワーウルフの名を汚しやがって、駄犬がっ」

 

 伝え聞くバルドーの蛮行に呆れ返るアリスと憤慨するジナ。

 特にジナは同じワーウルフということもあり、余計に腹立たしいのだろう。

 さておきスラムヴァールは続けて言った。

 

「で、そのアジトなんですけどぉ、結構あちこちに裏口作ってたみたいなんですよねぇ。それを用いて地下に潜ったんじゃないかなー、と」

「お主は知らんのか、その裏口とやら」

 

 アリスの問いはセーマも抱いていたものだ。

 当事者でないにしろ協力者である身のスラムヴァールが、アジトの裏口を知らされていないのだろうか。

 そんな疑問に、スラムヴァールは苦笑と共に答えた。

 

「ついでで手伝ってるだけでやる気のない私に、そこまで教える程あの人も愚鈍じゃないですねぇ、さすがにぃ……罷り間違って情報が漏れたらその時点でバルドーさん、詰みですしぃ?」

「まあ口も軽いしな、お前……」

「いやーもう帰るだけですし、どうでも良いかなあーって」

「どんだけ仲間意識薄いんじゃ、お主ら」

 

 恐ろしくベラベラと口走るスラムヴァールに、聞き出した当のマオやアリスでさえ引き気味だ。

 本当にどうでも良いのだろう……バルドーも魔剣も。ひたすら生き延びて己の目的を達成するために動く、ある種の執念さえ感じる。

 無言で肩を竦めるマオを横目に、今度はセーマが問うた。

 

「正規の入り口は知ってるんだろ? 教えてもらえたりするか?」

「ん……それはちょっとぉ。そこまで露骨に裏切り行為しちゃうとー、あなた方はともかく私が『オロバ』に狙われるんですよねぇ……」

「裏切り者への粛清、か……身内意識はない癖にそういうところは厳格なんだな」

 

 よくある話ではあるが、いざ実際に聞くとどうにも悪の組織めいた連中だ。

 元いた世界の物語など思い返すセーマをよそに、スラムヴァールは勘弁してほしいと両手を合わせて哀願する。

 

「すみませんがぁ、私はこれ以上は何も言えませんねー。敵対はしませんけどぉ、味方にもなれませんってところでお願いします、許してくださいー」

「……分かった。お前はそれなりに話が分かるし、色々と喋ってくれた。こっちもこれ以上は無理に聞き出しやしないよ」

「助かりますぅ。ありがとうございます、セーマさんー」

 

 ホッとしてスラムヴァール──正直なところ、話しても構わなかったがと内心で呟く。

 『オロバ』の粛清とて、彼女の造り出した『魔人』を用いればいくらでも追い返せる話だ……それでもセーマたちに話すことを渋ったのは、彼女なりのバルドーへの最後の義理果たしである。

 

 

(色々喋っちゃいますしー、このくらいはしてあげますかぁ。バルドーさん、さよならです。ぶっちゃけ貴方みたいな果てしない馬鹿、相手にするのも面倒で嫌でしたけどぉ……『プロジェクト』への執念だけは認めてあげますねー)

 

 

 そして心中にて告げる、別れ。

 決して仲良くはない、むしろ嫌っているくらいだった男に向けて、スラムヴァールは哀悼と共に告げるのだった。

 

「いた! ──セーマさん、マオさんも!?」

 

 そんな時だ。遠くから声が上がった。

 気配感知で皆分かっていたが、振り向く──炎の魔剣の使い手アインと、そのパートナーたるソフィーリアだ。

 セーマの思惑通り、凍土が砕けて以降こちらへと戻ってきていたのである。

 

「アインくん、ソフィーリアさん! 無事みたいだな、良かった」

「お陰さまで! でも状況はまずいんです! あの水の魔剣が、突然氷を!」

「こっちもある程度は分かってる。どうやら魔剣が『進化』とやらをしたみたいだな……ひとまず落ち着いて、対策を練ろう」

 

 駆け寄って緊急性を叫ぶアインに、セーマはそう言って落ち着かせる。

 少年少女を岩に腰下ろさせて一息つくように促す。どうにも焦るアインとソフィーリアだったが、セーマが言うならばと深呼吸を繰り返した。

 

「うん、よし。二人とも、緊急事態だからこそ落ち着くんだ……焦るとろくなことにならない。この場には君たちの味方がたくさんいるんだ、皆で力を合わせよう」

「は……はい! 絶対に、あいつは止めます!」

 

 力強く頷くアイン。その姿にセーマは、少しばかり驚いた……この間とは雰囲気がどこか違う。

 明るく快活な中に、燃えるような信念の強さが見られる。

 リリーナやジナ、アリスも同様の強さを見て取ったようで目を丸くしたり微笑んだり、頷いたりもしている程だ。

  

 ワインドとの、魔剣のぶつかり合いの中で何かを得たのだろうか? ──この年頃の子は、少し見ない間にすっかり強く大きく育つ。

 

 勇者をして頼もしさを感じさせる眼差しのアイン。

 そんな彼の成長を密かな敬意と共に喜びながら、セーマは彼に告げた。

 

「良い返事だ、アインくん。それじゃ経緯を説明してくれるか? 奴と……水の魔剣士ワインドと、どうなった?」

 

 そしてアインは話し始めた。ここに至るまで……ワインドが魔剣の力を発動させるまでの経緯についてだ。

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