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王国魔剣奇譚アイン-勇者セーマと焔の英雄-  作者: てんたくろー
第二章・燃え上がる『PROMINENCE』
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経緯と今後、少女の怒り

唐突ですが11月11日(日)現在、タイトル変えました!

よりしっくりいくかな?ってのに変えましたのでよろしくですー

 ギルドへの報告、及び数日後のスラムヴァールとの会談に向けて話を詰めたセーマとフィリスは、もう朝を迎えたということもあり農場へと戻ることにした。

 

 ノリスンとトラインについては後日、改めて様子を聞きに行くつもりだ。ギルドには二人のことも話してあり、治療費もひとまずギルド持ちとなるらしかったので問題はないだろう……トラインが助かればの話だが。

 

「どうにか助かっては欲しいが、こればかりはな……」

 

 道すがら溢す。今はもう農業区を歩いており、ライデルンの家も直に見えてくるだろう。

 行き掛けと同じように飛ぶのは躊躇われた──夜闇ゆえに大胆にも飛び交えたのだ。もはや明けを迎えて空から地まで万人の目に触れる頃合いとなっては、早々目立つことはしたくない。

 

 どこか硬いため息を吐くセーマに、傍らに寄り添うフィリスが心配げに声をかけた。

 

「セーマ様は最善を尽くされました。どうか御自身をお責めにならないでくださいませ」

「……そうだね。冷たいようだけど、後は彼の生命力の問題か」

 

 彼自身分かってはいたことだ……もう気にしても仕方がない。

 少なくとも自分があの場に駆け付けなければトラインもノリスンもこの世にいなかったのだ、それを考えればできる限りのことはしたと言えるだろう。

 セーマは礼を述べた。

 

「ありがとうフィリスさん、徹夜だからかちょっとナーバスになってたみたいだ」

「ハーピーの件が済めば一段落になります。落ち着き次第すぐ館に戻りましょう……もしくはもう一晩宿を借りましょうか?」

 

 提案してくるフィリスにセーマは穏やかに笑い返した。

 疲れているのはフィリスとて同じだろうに、それでも一心にセーマを案じるその姿が、ひどく愛おしい。

 

「いや、館に戻ろう。会談中のアインくんの護衛について相談もしたいからね。それが終わったらゆっくり休むよ……フィリスさんもどう?」

「あ──はい、もちろんです。慎んでお付き添いいたします」

 

 言外に滲む愛情をしっかりと受け取り、フィリスは頬を染め幸せそうに笑った。

 その顔を見るだけで何故だか活力が湧いてくる思いになり、セーマはもう一踏ん張りするかと背筋を伸ばす。

 

 やがて農場が見えてくる。

 二人は自然と、足早になるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「水の魔剣、だけじゃなくて『魔眼』!?」

「町中で殺人だなんて、そんな」

 

 アインが驚愕と共に叫び、ソフィーリアの顔が蒼白に染まる。

 ライデルン農場の休憩室に集った冒険者たちは今、セーマから一連の事態の進行について説明を受けていた。

 人数分の椅子に皆が座り、ことの成り行きが話されていく。

 

「ま、ともかく俺とスラムヴァールが数日後、一対一で話をすることになった。一般人に手出しをするなと言い聞かせたが……正直連中は、アインくんにこそ何か仕掛けてくるんじゃないかと俺は考えている」

「僕ですか……炎の魔剣で、何かをするためにですね」

「ああ。目的は分からないが、敵方は魔剣の使い手に何かを期待している。『貴重』らしい魔剣を渡してまでのことだ、そこは間違いないだろう」

 

 時間にして10分足らずの交戦とやり取りだったが、得た情報はそれなりに多い。セーマはそこから類推していくつか語っていった。

 

「分かったことはいくつかある……スラムヴァールとレンサスの他に一人、魔剣の製作者がいる。そして魔剣絡みの騒動についてはそいつが主体だ」

「その二人は違うのですか?」

 

 ミリアが相槌がてら問う。一つ頷いてセーマは答えた。

 朝の日差しが窓から室内を照らす中、彼は続ける。

 

「奴ら、自分たちのことを見学だの送迎役だのと自称していた。レンサスに至っては名前をバラされた途端、どこだか知らんが国に帰るとまで言っている。当事者の言動としては正直、あまりにやる気が感じられない」

「……つまり二人は単なるサポートでしかないってことですか」

「物言いから察するにそれ以下だな、たぶん。見学がてらちょっと手伝ってみた……くらいのスタンスだろう。それに何より、水の魔剣の持ち主に対する言動が辛辣すぎた」

 

 思い出されるのはレンサスの言動だ。水の魔剣の男に対して暴言を吐きまくっていたあの姿からは、少しの仲間意識も感じられなかった……むしろ厄介者くらいの認識だったようにさえ感じる。

 フィリスが納得したように言う。

 

「当事者というのなら、貴重な魔剣を預けた相手をもう少し丁重に扱うでしょうね……臍を曲げて魔剣ごと敵対でもされたら厄介だというのに」

「そこだ。つまりあの二人はどうでも良いと思ってるんだな、おそらく。魔剣も使い手も、更に言うなら裏で糸を引いてる同僚のことも」

「そんな……同僚っていうくらいですし、同じ組織の仲間でしょうに」

 

 アインが困惑して呟く。

 仲間でありながら無興味無関心で、むしろ足を引っ張るようですらあるスラムヴァールとレンサスの言動が、彼にはどうにも理解しがたい。

 

「何かしら目的があって行動してるのなら、少なくとも足を引っ張るなんて、そんな」

「組織なんて一枚岩じゃないのが当たり前だよ、アインくん。戦争の時も人間側に、足並みを乱す真似をする輩はいたさ……立場によって目的が違うこともあるしな」

「……」

 

 実感の篭ったセーマの言葉。

 戦争……アインもソフィーリアも、いやさ王国南西部に住まうほとんどすべての者には結局関係のなかったことだ。

 

 まるで想像もつかない地獄のごとき戦いにおいてさえ、それでも私欲を優先した者がいた──そのことがどうにも空恐ろしくなる若者たちだ。

 ともあれ、とセーマは続ける。

 

「ひとまずその同僚とやらが現状、俺たちにとってどうにかすべき敵ってことだな。スラムヴァールもレンサスも、それぞれよく分からん生物に『魔眼』なんぞ抱えてるみたいだが……そこまで気にしてられないな、今は」

「気配のない生物と、複数の魔法を使用する眼、ですか……」

 

 ミリアが呟き、震えた。思いも寄らない代物が次から次へと出てくる、そのことが不気味に思える。

 特に『魔眼』だ……転移魔法と防御魔法を使うなど、往年の魔王マオを思い出させてひどく恐ろしい。

 

「気配のない方は正直、そこまで大したことはなかったよ。初見だと面食らうが、気配感知に引っ掛からないことを除けば後は精々、戦場慣れした亜人くらいのものでしかない」

「じ、十分大したことのような」

「冒険者でも数で囲めばどうにかなり得る範疇ってことさ。魔眼の方はそうはいかない。何しろ転移が使える時点で怪生物の方よりよほどまずい代物だしな」

「どこにでも自由に行けるのなら、非常に脅威ですね……」

 

 ソフィーリアに謎の生物と魔眼についての所見を語る。セーマからしてみれば魔眼の方がより危険度が高いようではあるが、人間の身の上である彼女からすれば気配のない亜人の方が恐ろしく感じられる。

 

 転移の恐ろしさにフィリスが顎に手を当てて考え込む中、一方でアインもまた、転移魔法について少し前の記憶を思い返し不思議がっていた。

 

「転移魔法……『テレポート』って、マオさんが使ってたのと同じ?」

「ん……んー、まあ、そうだね。そっか、アインくんはこないだ荒野に行った時に体験してたものな、『テレポート』」

「魔眼と同じことができるって……魔法って何なんですか? それにマオさんって一体」

 

 ずばり聞いてくるアイン。さすがに身を以て転移を体験していた彼は誤魔化せない。

 

 マオが魔王であることはやはり伏せておきたいが、魔法についてはある程度教えておかねばならないだろう──セーマは苦慮しつつ慎重に説明する。

 

「マオから聞いた話をそのまま言うだけなんだが……魔法ってのは、この星のエネルギーを扱う特別な技能らしいんだ」

「ほ、星のエネルギー? 何かすごく、壮大なような」

「実際、壮大みたいだぞ……大概のことはできる力だからな」

 

 魔法についてはほぼ全容を伝える。細かく言えば『星の管理・運営権の一部によって行われる限定的な世界改変』であるのだが……そこまで言ったところで理解は難しいだろう。

 先を続ける。

 

「実は、マオは生まれつきその能力を使えるとある種の亜人なんだ。種族名については本人に聞いてくれ、さすがにそこはプライバシーってのがある」

「あ……は、はい。分かりました」

 

 マオについても要点は暈して明かす。嘘は言っていない……『魔王』というのは亜人としての種族名であり、発生した時点で魔法を自在に使える。

 これでも気になるようなら、後はもうマオの自己判断に任せる他ないだろう……さておいて続ける。

 

「どうにかして魔法を、生まれ持たなくても使えるようにしたくて魔剣が作られたんじゃないか。それがあいつの見解だ」

「え……それって、もしかして『ファイア・ドライバー』も魔法ってことなんですか!?」

「厳密には『ファイア』って名前だけどね。ちなみに水の魔剣の『ウォーター・ドライバー』も『ウォーター』の魔法が元になっている」

「魔法の力を引き出せる、剣……それで、魔剣」

 

 魔剣の正体に触れてソフィーリアが唖然と呟く。

 つまりは星のエネルギーを操れるだけの力が、アインの持つ炎の魔剣にはあるということになる……恐るべき代物だと、改めて実感したのだ。

 

 愕然と炎の魔剣を見る二人に、セーマは頭を掻いてわずかに吐息を漏らした。

 これでマオがかつての戦争の首魁、人間の大敵『魔王』であったことが知られた日には大騒ぎだ……なるべくならアインたちとは敵対したくないものだと、彼は祈らずにはいられない。

 

 そうでなくとも魔法を使う存在などこの世界にたった一人、魔王しかあり得ないのだ。

 今はまだ国の首脳レベルや一部の戦争経験者にしか伝わっていない事実だが、いずれ落ち着いた頃に明かされることもあるだろう。

 

 穏便に済めば良いのだがと思いつつ、彼は話を戻した。

 

「それで、今度の話し合いの時なんだが……アインくん」

「あ、はい!」

「……君には、荒野に居ておいて欲しい。戦闘になっても無関係の人を巻き込まないために」

「──ちょ、ちょっと待ってください。まさかアイン一人でですか!? というか、そんな勝手な話!!」

 

 告げるセーマに、ソフィーリアが慌てて立ち上がり反論した。

 よもやアイン一人が囮にされるのではないかと憤然と抗議してきたのだ。

 

 やはり彼女の方が怒るか──セーマはこれを予期していた。というより、薄々感付いていた推測への答え合わせができた心地だ。

 すなわちそれは、この少年少女の関係性の妙である。

 

 普段は暴走しがちなアインを制止するソフィーリア、という構図なのだが……こと異常事態や緊急事態に陥るとこの二人、役割が逆になるのである。

 途端に腹が決まるアインと、焦りと不安で落ち着かなくなるソフィーリアという風に一変するのだ。

 

 それをセーマは今回の騒動の中で見抜いていた。

 ──本当に噛み合った二人だ。

 どこかそう思いながらも、セーマはソフィーリアに向き直るのであった。

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