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王国魔剣奇譚アイン-勇者セーマと焔の英雄-  作者: てんたくろー
第二章・燃え上がる『PROMINENCE』
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技術の伝承、有翼亜人捕獲法

「ハーピー、というより有翼亜人全体を相手取る時、特に気を付けなきゃいけない点は何だと思う?」

 

 農場へと向かう道すがら、セーマは問い掛けた。相手は無論アインとソフィーリアの二人だ。

 夕暮れまでには今しばらくの時間、大通りはやはり賑わっている……心なしか声を大きめに、相手に聞こえるように話しかければ、少年少女はしばし考えて答えた。

 

「空からの攻撃ですか? やっぱり敵は空」

「足下……でしょうか? 空に気を取られて転ですしんだりとか」

 

 彼らの答えは、各々の性格が見えてくるいかにも『らしい』ものだ。

 セーマは微笑み頷く。

 

「うん、二人とも正解。敵のいる空には気を付けなきゃならないし、かといってそればかりで足下を疎かにしてもいけない」

「両方気にしなくちゃって、ことですね」

「そう。でもそれだけじゃないんだな、これが」

 

 神妙に教えを受けるアインが呟く……相方の意見も取り入れた上での結論だが、セーマは悪戯げに更に付け足した。

 

「上と下も大事なのはもちろんそうだね。でももっと言えば、それらを含めた周囲の地形や状態すべてを把握しておくこと……普段から大事なんだけど、有翼亜人相手には特にそれが顕著なわけだね」

「その……何ででしょう?」

 

 ソフィーリアが尋ねる。周囲の把握が普段から大事だというのは分かるのだが、有翼亜人に相対するにあたり、こうして殊更に強調する理由が分からない。

 飛行能力を持つゆえの、通常の亜人とは違う点が関係しているのだろうか……疑問符を浮かべる彼女への答えは、至極当然と言えば当然な話である。

 

「連中だって無限に空を飛び続けられるわけじゃない。限界が来たら羽休めのために地に降り立つ」

「……あ、そうか。周囲の地形から着陸する地点を割り出せば、そこを狙えるんですね」

「その通り! 特にハーピーは体力が無くてやたらと小休止を入れたがる。狙える機会は多いよ」

 

 正答へ至ったアインの頭を撫でつつレクチャーする。

 有翼亜人、取り分けハーピーは空こそ飛べるものの滞空時間は短く高度も低い。種族レベルで体力と持久力が乏しいゆえ、少し飛んでは安全そうな場所での小休止を繰り返すのだ。

 

 つまりはそこを叩けば大したことはない──そう教えるセーマだが、実際彼の場合はそのような手順すら省く。

 空間を越えての遠距離斬撃……気配感知の範囲内ならば空でも海でも地中でもお構い無しに届く一撃で以て羽を根刮ぎ断ち斬ればそれで終わりなのだ。

 

 とはいえそのような芸当は世界広しといえどセーマだけのものであることは本人も分かっているからこそ、今のように標準化された手順を説明しているわけであった。

 

「ハーピーはどこでも休むから、降着地点の割り出しはやや面倒だけど……追い込み方は技術として確立されているから、それに沿って行えば普通に確保できるよ」

 

 あらゆる身体的特徴において亜人は優れ、人間は劣る。

 それはどうしようもないこの世界の法則なのであるが、かといって人間側に亜人への対抗策がまったく無いのかといえばそれも違う。

 

 各亜人種の特徴、生態に沿った対処法も場合によっては存在しており……脆弱だが発展速度に長けた人間たちによって、世代を越えて受け継がれる技術となっているケースも多くはないが確認されている。

 その中でも比較的簡単なものがハーピーの捕獲法なのだ……かつて教わったそれを、今度は自分が教える番だ。セーマはそう考えていた。

 

「そうなんですね……勉強になります!」

 

 にへらと笑うアイン少年。年頃のあどけない表情が整った顔立ちと合わさりまるで少女じみた笑顔だ。

 この世界って結構、美男美女が多いものなのかな……と内心で疑問に思いつつもそんなアインに笑顔を返す、セーマなのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おー、よく来てくれた!」

「おー、ずいぶん若いな! それに別嬪さんも多い!」

 

 依頼主の農場にて親子が声をあげる。

 セーマたちを迎え入れての台詞だが、何ともよく似た親子だ……中年の息子と老年の父と、二人揃って筋骨隆々だ。

 更に言えば父親の方がもちろん老けているのだが、それを加味しても血の繋がりを感じさせる顔立ちであった。

 

「『ハーピー捕獲』の依頼を受けて参りました、セーマと言います。こちらは今回の件における共同冒険者のアインとソフィーリア」

「アインです、よろしくお願いいたします!」

「ソフィーリアです。よろしくお願いします」

 

 セーマの挨拶に続き、アインとソフィーリアも挨拶を行う。

 何につけても挨拶が最初、何より大切だ……依頼主の二人も豪快に笑って挨拶をしてきた。

 

「おー、農場主のライデルンだ!」

「おー、その息子のキアシムだ! よろしくな!」

「それとこちらが付き添いのフィリスとミリアです。冒険者ではありませんが、頼りになる仲間です」

 

 そしてメイドたちの紹介も忘れない。優雅に一礼する亜人二人に驚いた依頼主たちだったが、すぐさま同じように挨拶をしてくる。

 そうして一通りの挨拶を終えたところでセーマが代表して告げた。

 

「我々は未だF級の身ではありますが、ギルドからの紹介状も頂いております。恐れ入りますがご確認の方、お願いいたします」

 

 そう言って、予めギルドから受け取っていた紹介状を渡す。

 依頼を受けてやってきた冒険者の等級というのは当然重要なもので、低級だったりすると依頼者が不安や不満を覚えてトラブルに発展することも無くはない。

 

 そういった事態を回避すべく依頼人との挨拶に際して、ギルドからの簡単な冒険者の来歴と実績、腕前などを記した紹介状がやり取りされる。これを受けて依頼者は、やってきた冒険者に対して理解と納得を得るのだ。

 

 しげしげと紹介状を眺める親子。少ししてから父親の方が、興奮したようにセーマの肩を掴んだ。

 

「おー、『出戻り』かあんた! しかもギルドの実技試験を満点で突破した凄腕って書いてあるぞ!」

「えっ!?」

 

 隣のアインが驚きの声をあげる。

 そう言えば彼は実技試験をどのように突破したのかと、ふと気になりながらセーマは頷いた。

 

「え、ええまあ。過分ながらそのようなご評価を頂いておりますね」

「おー、マジか親父!?」

「おー、マジだ息子!」

 

 やたらテンションも高くはしゃぐ親子。

 ここまで反応されるとも思わなかったため戸惑うセーマだが、気を取り直して告げる。

 

「つきましては、私ども二人がこの度の依頼に取りかかりたく思うのですが、よろしかったでしょうか」

「おー、願ってもない!」

「おー、よろしく頼むぜ冒険者さん!」

 

 どうやら紹介状の効果は覿面だったらしく、二つ返事で依頼への取り掛かりの許可を受けた。

 これで後はハーピーを見つけて捕まえるだけだ。

 

「それでは軽く状況をお聞きしたいのですが、今、お時間の方は……」

「おー、良いぞ! 来てくれ、現場で話す!」

「おー、じゃあ親父、頼む! 俺仕事に戻るわ!」

 

 詳しい説明を改めて受けようとしたところ、息子キアシムの方は父親ライデルンに任せて退室していった。

 おそらくは父親は農場主ではあるのだが、主として働くのは息子の方なのだろう……そう考えつつも農場主に付いて現場へと向かう。

  

「あ、良い景色」

「おー、そうだろ! 農業区は田んぼと畑しかないが、逆にそれが良いんだからな!」

 

 田畑が広がる土地はのどかな田舎の風景そのものだ。

 同じ町でも商業区の賑わいとは比べ物にならない程に静かで、セーマとしてはこちらの方が性に合うような気がする。

 

「落ち着きますね……」

「賑やかなのも良いですが、やはり静かな方が過ごしやすいです」

 

 フィリスとミリアもこの風景には好意的だ。亜人は総じて自然の中で生まれ育つため、人で賑わう大通りよりはこうした田畑を歩く方が余程気分が良いのだろう。

 

「うちの畑の近くじゃなくて良かったぁ」

「え、嫌なのアイン?」

「嫌じゃないけどさ、仕事してる時に身内に出くわすと何か、むず痒いというか……」

「そうなんだ……?」

 

 一方でアインは静かに安堵の息を吐いている。ソフィーリアが首をかしげる中、セーマが意外そうに反応した。

 

「アインくん、農家の出なの?」

「そうなんですよ。気楽な三男坊です、はい」

「……近いなら帰りに寄ろうか? せっかくだし」

「いやいやいやいや勘弁してくださいよう! 仕事なんですしやめときましょう!?」

「それにここからだと遠いですしね、ふふっ」

 

 面白げにソフィーリアが笑う。慌てふためくアインが可愛くて仕方ないのだ。

 それを受けて困ったように頭を掻き、アインはどうにか話題を変えようと、先程の紹介状について言及した。

 

「そ、そう言えばセーマさん、あの実技試験で満点だったんですか?」

「え? あ、ああ。いやあ、まあ……何だかそういうことになって」

「もしかして、試験管に勝てたりしたんですか……?」

「ん……うーむ」

 

 実技試験でのことを尋ねられると、セーマとしても少しばかり言葉に詰まる。

 三人いたS級冒険者の試験管の全員が匙を投げ、たまたま連れてきていたリリーナが代行としてセーマと戦った。

 こうした流れの実技試験だったのであるが……アインやソフィーリアに話すとなるといささか問題があるようにも思えるのだ。

 

 特にリリーナと戦い、あまつさえ勝ったことなど言うわけにはいかない。

 彼女は『剣姫』……最強と名高いS級冒険者なのだ。そんな存在を打ち破ったなどと漏らせば、嫌でも面倒なことになりそうな気がしてならない。

 

「その……いくらか打ち合ったらさ、本気になりそうだってんで打ち切られたんだ、うん。そう、S級が本気になりそうな程だっていうことで満点もらったんだと思うよ」

「はー……すごい……」

 

 なるべく穏当に、静かに暮らしたいセーマとしてはそれは避けたく、適当なことを呟く。

 一応本当のことも混ざっている……試験を打ち切られたのは本当だし、本気になりそうだったのも事実だ。

 

 ただ前者は戦う前に打ち切られたということと、後者は本気になりそうだったのがセーマの方だという話なだけである。

 そこを誤魔化して言えば、アインもソフィーリアも瞳を輝かせて感心していた。

 

「ま、そんな感じ。それよりほら、仕事仕事。もうすぐ現場でしょう?」

「おー、そうだな! つってもそんなに説明することもないから、楽にしといてくれ!」

「いえいえ、受けたからにはしっかりと取り組みますとも。な、アインくん」

「は、はい。もちろんです!」

 

 どうにか話をそらしたいのと心苦しさもあってか仕事に意識を向けさせる。

 懇意にしている少年少女を騙す形になってしまったが……大切なのは何より、我が身と家族の安心安寧だ。

 

 けれど、いずれは色々と隠していることを彼らに教えるかもしれない。

 その時にはどうか、受け入れてもらえると嬉しいけれど──そんなことを考えつつ、セーマは歩を進めるのであった。

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