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レヴィの激励、そして動き出すギルド

 クロードが場を離れてしばらく二人で軽く呑み、軽く喋っていたセーマとアリス。

 結局レヴィがやって来たのがそろそろ夕暮れの茜が空に射すかという頃合いだった。

 

「お待たせ二人とも!」

「いえ、大丈夫ですよ。俺たちもちょっと前に着いたところですし」

 

 マオの『テレポート』のことを伏せるべく、セーマは自分たちもつい先程ここへ来たように言った。

 魔法は便利だが隠すとなると、辻褄合わせが面倒なこともある。そのことを改めて思わせられる。

 

「……ところで、リムルヘヴンとリムルヘルはどこじゃ? まさかあやつら、帰りおったか」

「そのまさかですね。『いくらオーナーがいらっしゃっても、人間どもと酒など呑めん』だそうで。リムルヘルちゃん引きずってどっか行っちゃいました」

「かーっ、何じゃそら! アホかあいつは、どんだけ拗らせとんじゃ!」

「あそこまで行くと逆にすごいなって、感心しちゃいましたよ私」

 

 呆れ果てるアリスに、レヴィも感心とも苦笑ともつかない笑みを浮かべる。

 レヴィもアリスには敬語なのだな……と思いながらも、ともあれセーマは立ち上がった。

 

「まあ、無理に呼ぶのも難ですしね。それよりレヴィさん、報告の方は今から?」

「あ、そうそう。さっさと済ませて楽しい宴会と洒落込みましょう?」

 

 レヴィはこれから、ギルドに対して依頼の報告──すなわち、かつて荒野を占拠していた賊たちの突然の失踪についての調査報告を行う。

 それに伴い、あの場にて大量の白骨を発見したセーマもまた、証言者として報告に同行することとなっていた。

 

 アリスに引き続き席を確保しておいてもらって、彼はレヴィと店を出た。

 ギルドの受付はすぐ近くだが、ふと立ち止まって不安げに先輩冒険者たる彼女に呟く。

 

「……下手すると、俺が賊どもを始末して勝手に埋めて適当なことでっち上げた、みたいに思われなくもないんですよね。今更ですけど」

 

 白骨の山に出くわし、いくら悪人たちの末路と言えど野晒しのまま捨て置くのはあまりに忍びないと、マオに葬らせたわけであるが……見ようによっては大量虐殺の証拠隠滅とでも思われかねないのではないか。

 そのようなことを案ずる彼に、レヴィは優しくその頭を撫でて答えた。

 

「大丈夫よ、セーマくん。失踪は前から言われていたことだし、昨日今日のことじゃないから誰も貴方たちが殺ったなんて思いもしないわ」

 

 そして懸念を一つずつ、消していってやる。

 この森の館の主は、案外心配性な面もあるらしい……次元の違う実力者でありながらこの自信のなさが妙にアンバランスではあるなと思いつつ、そこも魅力的かなと考えるレヴィだ。

 

「そして、白骨の広がる悲惨な光景に心を痛め、弔ってやることを選択した姿勢は……私は、冒険者として以上に人として、とても正しいし尊敬できるものだと思う」

「レヴィさん……」

「それにセーマ君に加えて『エスペロ』のオーナーや亜人殺しの新米くんまでそれを確認してるのよ。誰も貴方を疑りやしないから、あんまり気にしないこと! ね?」

 

 そう言って強めに背中を叩く。

 冒険者として、人として。正しいことをしたのなら、背筋を伸ばして胸を張るべきだ──そんなメッセージ。

 たしかに伝わるその衝撃に、セーマは照れて頭を掻いた。

 

「ありがとうございます。すみません、お気遣いいただいて」

「困った時はお互い様よ。不安なことはお姉さんに相談なさいな、少年」

「26なんですけどね、一応……」

 

 胸のつかえが取れたような安堵を感じながらも、成人男性としてはいささか情けないものを自覚して自嘲するセーマ。

 ……しかしその呟きに、ぴしりと硬直したレヴィを見て訝しんだ。

 

「レヴィさん?」

「──にじゅう、ろく? え、何が?」

「え、と年齢ですけど。こう見えて、今年で26歳になりまして」

「ひ、1つ歳上ぇっ!?」

 

 すっかり仰天の声をあげるレヴィに、今度はセーマが心配に気を遣う。

 一方レヴィ自身はそれどころではない。まるで知らなかったし、思いもよらなかったのだ……まさか目の前の、見た感じ成人するかしないかといった程度の見た目の少年が、まさか自分より1つ歳上だとは!

 

「はー……てっきり20かそこらかと。失礼しました!」

「あ、いえいえ。冒険者としてはもちろんレヴィさんの方が先輩ですし、立場は変わりませんからお気になさらず」

「そうかも知れないけど……うーん、まあケールズのバカもあれでもう30近いしねえ」

 

 かつての弟子であり、今や立派なB級冒険者として独立したケールズという名の男性冒険者の年齢を思い返しつつレヴィは呻いた。

 アインと同じくらいの歳の少年、アレクとコンビを組んでいる彼はもうじき30にもなるが、師弟という関係から年下のレヴィにも頭が上がらないのである。

 

 幅広い年齢層から構成される冒険者という職業は基本、年齢によらず職歴の長さによって上下が決まるものであるが……とはいえやはり、年下だと思っていた者が実は同年代だったという衝撃は大きい。

 ついでに言えば先程までそんな、同年代の男の頭を撫でて子供扱いしていたのだ。失礼にも程があろうとレヴィは顔を引きつらせるのであった。

 

「あー。まあ気にせず、行きましょうレヴィさん」

「うん……あの、別に敬語は」

「先輩冒険者相手にタメはちょっと……」

「そ、そっか……り、律儀で真面目だね、あはは」

 

 どことなく微妙な空気のまま、お互い曖昧に笑い合う。

 この上、自分の正体が亜人であり勇者であると……もし知られたらどうなることやら。そんなことを漠然と考えつつ、改めてセーマは受付へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギルドの受付にて。

 レヴィの報告を受け、ギルドスタッフのエリィは難しげに顔をしかめた。

 茶色い髪の、気のきつそうな目をした女スタッフだ……荒野の現状にふむと呟く。

 

「そうですか……賊がそんなことに。今度、大規模な調査団を派遣する必要があるようですね」 

「ついでだしこの際、荒野を開拓するなりしちまいなよ。放っとけばまた変な連中が溜まりだすよ」

「打診はします。あそこに人が一人もいないなど千載一遇の機会ですからね」

 

 レヴィの言葉を受け、頷く。賊が一人もいない荒野など、これまでにないことだ……ここで何かしら手を打てれば、王国南西部の危険地帯を一つ潰せるかも知れない。

 

 意気込むエリィは次いでセーマを見た。彼女もまた、セーマとは一度だけ面識がある……かつて『剣姫』リリーナを連れているところに出くわしたのだ。

 

「セーマさんも、調査と報告にご協力いただきまして誠にありがとうございます」

「あ、いえいえ」

「今回の報告に対する謝礼につきましても、いずれ担当のスタッフから話が行くかと思いますので今しばらくお待ち下さい」

「やったわね、セーマくん! 」

「どうも……それにしても、誰があんな地獄を作り上げたのか」

 

 謝礼と聞いてレヴィが朗らかに笑うも、セーマとしてはそこは重要な部分でなかったため、軽く頷くに留める。

 それよりも気になることがあった。荒野の賊を誰がああしたのか……そしてその者はどこへ行ったのかだ。

 

「賊を大勢殺し、挙げ句に葬ることもせずに雑に放置するような輩です……どのみちろくな者に思えない。一体どこへ消えたのやら」

「ギルド内にて発足した調査チームも動き始めています。S級冒険者が二人もいてチームを率いていますから、調査は向こうに任せて良いかと」

「S級二人! そりゃまたギルドも本気ねえ」

 

 エリィが明かした、魔剣に絡む一連の事件を調査するための特別チームの内情。

 まさかS級冒険者が二人もいるとは思わずにレヴィが驚けば、エリィは当然とばかりに言ってのける。

 

「これからの冒険者業界を担ってくれるはずだった若者たちを何人も潰されたんですから、この程度は当然です……ギルド長も激怒してますから、相当本気ですよ」

「ギルド長……たしかドロスさんでしたね、名前。実技試験の時にお会いしました」

 

 実技試験の際、試験管を務めた三人のS級冒険者。その中の一人にギルド長がいたことを思い返すセーマ。

 たしかドロスという名前だったなと考えているとレヴィが嫌そうな顔をして呻くのが横目に見えた。

 

「うぇ、あの魔女が……おっかないわねえ」

「そうですか? ギルドスタッフにはいつも優しい方なのですが……冒険者の方は結構、怖がる方が多いですよね。S級だからでしょうか」

「そんなことで怖がるわけないでしょ。もっと別の、薄気味の悪さがあるからよ……実際、腹の内なんざ誰にも一つも見せてないよあの魔女は」

「うーん?」

 

 言われてエリィもセーマも疑問符を浮かべた。

 エリィはこれまでの仕事の中でドロスと接してきており、非常に穏和な美女という印象ばかりを抱いている。

 逆にセーマは実技試験の時の一度きりしか会っていないし、その際にも怖さを感じることはなかった。

 そのため二人はあまりドロスに対して怖いイメージがなく、どうにもレヴィの物言いに理解を示せないのである。

 

「ベテラン冒険者なんて連中は皆、薄々察してるわよ。あの魔女はいつか何かしら、とんでもないことやらかしそうだってね。命が惜しければなるべく近付かないのが一番ってこれ、曲がりなりにも先輩からのアドバイスね」

「は、はあ……どうもです」

 

 今一、納得のいかない話ではあったが……せっかくのアドバイスだ、胸に留めておくことにするセーマ。

 さておいて報告も終わり、冒険者二人は再び酒場へと向かうべく立ち上がった。

 

「さて、七面倒なお話もそこそこに! これからは楽しい楽しい飲み会ねー!」

「今日は俺の奢りですから、ジャンジャン飲んでください」

「え、本当!?」

 

 道すがらはしゃぐレヴィに告げる。

 思えば今日は偶然の出会いながら、レヴィやリムル姉妹にも世話になった──特にアインの戦いぶりを客観的に観察できたのは非常に助かった。

 それに先程も相談に乗ってもらったりアドバイスをもらったのだし、これでせめて飲み代くらいは払わねば道理に合わないだろう。

 そのように言うセーマに、レヴィはまじまじとその顔を見つめて返した。

 

「……良いの? 遠慮しないわよ冒険者として」

「もちろん! 何でしたらケールズさんやアレクくんも呼んできてくれて良いですよ、せっかくですし。アインくんも彼女を連れてくるって話ですよ」

「あのボンクラどもを甘やかしたくないしそれは遠慮するわね。でもそっか、奢りかうふふ!!」

 

 思わぬ奢りの申し出に、すっかりレヴィは有頂天だ──冒険者たるもの、タダ酒タダ飯の類は基本的にありがたくいただくものだ。

 

 かくして二人は浮わついた空気を漂わせ、酒場へと戻っていったのである。

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