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会話と推測、勇者と魔王

 幹部格メイドに魔王、そしてセーマの妹を迎えてのミーティングが終わり、その後。

 セーマはマオとショーコを自室へと迎え入れていた。この二人にのみ、追加で話しておくことがあったためだ。

 

 フィリスも付き従っている……今やセーマが一人きりで行動するなどほとんどあり得ない。常に誰かしらメイドが側に控えており、そしてフィリスは特にその頻度の高いメイドの一人であった。

 

「悪いな、呼び止めて。そんなに深刻な話じゃないから気楽にしてくれて良いよ二人とも」

「君の妹さんはともかく、私は別にシリアス気分でいるつもりはないぜ」

「私だってそんなに不安にも感じてません。だって兄さんがいますから」

 

 そう言って笑う最愛の妹、ショーコ。

 この世界に来た時と比べてすっかり大人びた少女を、どこか眩しげに見詰めて……セーマは二人をソファに座らせた。

 自らはベッドに腰かける。そしてその傍にはフィリスが控え──これで一応の話の準備が整った形だ。

 

「さて、単刀直入に言うけど。二人にはしばらく王城に行くのを控えて欲しいんだ」

 

 そして努めて軽い口調で切り出した。

 マオとショーコ……二人が今現在、館の食客として着手している事柄に対しての事実上の停止命令である。

 

 彼女らは現在、王国中心部は王都に鎮座する城にて二人でとある研究を行っている。そのために割と頻繁に館を留守にしているのだが……それに対してストップをかけたのだ。

 突然の物言いに、さしもの妹も多少は反論するだろうかと身構えるセーマだったが──

 

「うん、分かった。『魔剣』の件に目処が立つまでで良いの? 兄さん」

「う……ん? あーまあ、そうだな。どのくらいかかるか分からないけど、とりあえずはそうなるかな」

 

 ──予想外にも聞き分けも良く頷いた姿に、思わず面食らって曖昧に返した。

 

 正直なところ、反発とまでは行かずとも不満の一つくらいは言われるだろうと思っていたのだ、彼は。

 予想外の反応に若干の動揺を見せるセーマに、マオが足を組んでからかうように笑う。

 

「あれあれぇっ勇者様ぁ? 実の妹に何言われるかと緊張してたんですかぁもしかしてぇーっ?」

「何だその口調、無性に腹立つな!? ……翔子だけじゃない。お前だって何か文句あるなら言えよ、聞いてやるから」

「無いよそんなもん。あるわけ無いだろ」

 

 憮然と文句の一つでも聞いてやるかというセーマの言葉に、しかしマオは即答した。

 まったくノータイムでの返答だ。いささか目を見開く勇者に、可憐なる魔王はあっけらかんと告げる。

 

「っていうか言われなくても王城にはしばらく行かなかったよ。件の連中、王国のお偉いさんとも何やら繋がってるんだろ?」

「ああ。少なくとも国王は……『ローラン』はそう言っていた。目星も付けているようだったな」

 

 思い返してセーマは言う。

 一月程前の話だ……セーマもまた、マオやショーコと共に王都へと出向いていたのである。

 現在の王国国王ローラン・エルグスト・デア・キャニズムリズム三世との会談のためだった。

 

 そして王城を訪ねたセーマは、国王であるローランから直々に知らされたのだ。

 複数の亜人種族が一つに纏まった、『亜人連合』とでも言うべき集団が王国各地を彷徨いていること……そして国政に携わる立場にいる何者かが、その連合に影から資金援助を行っている可能性があることを。

 

 通り魔亜人が死ぬにあたり、その連中と何か繋がりがあるのではないかとセーマが質問したのはそういった事情によるものだった。

 何しろ一目見てセーマを勇者だと看破し、異常なまでに反応していたのだ……眼前に迫るアインの『ファイア・ドライバー』すら忘れる程に。

 

 元より勇者を極度に警戒していなければああはならない。

 その反応によって魔剣と亜人連合との繋がりを確信したセーマであるが、同時に意外な反応もあったことを言及する。

 

「あ、そうそう。例の通り魔なんだが、俺が連中の存在を知っていることにはひどく驚いていたよ」

 

 その言葉に、ショーコとフィリスはきょとんと首をかしげる……セーマが何を言いたいのか、分かりかねたのだ。

 そんな中ただ一人、マオだけは興味深げに反応を示してみせた。

 

「ほう? こないだの会談の折、ローランが君にしっかりとリークしていたことを知らなかったのか」

「みたいだな。少なくとも俺に気付かれていたとは思わなかったらしい」

 

 勇者に、自分たちの存在を気取られていた──そのことを心底から驚いて死んでいったようにも思える、通り魔亜人。

 その反応から窺える可能性はいくつかあった。

 

「亜人連合のパトロンとでもいうのか。王城に潜んでいる資金提供者は、もしかしたら俺とローランが一月前に面会していたことさえ、連中に伝えていない可能性も出てきたな」

「そもそもパトロンからして会談があったことを知らないなんてのは……まあ無いな。君とローランが面会するってんで、あの日は王城の上から下まで大騒ぎだったみたいだし」

「……え、そうだったっけ?」

「前から思ってたけどさあ。興味の無いことには割と無頓着なとこあるよね、君」

 

 推測の最中、突然知らなかった会談の実状を聞かされてきょとんとするセーマに、すげなくマオが言ってのけた。

 言われてみればあの時、やけに城内が騒々しかった気がする……と、忌憚無いマオの意見を心苦しく受け入れて彼は続ける。

 

「ま、まあとにかく。資金提供者と亜人連合は微妙に足並みが揃ってない可能性も出てきたわけだ、これで」

「勇者に気取られてるなんて重大事項、報告しない理由が無いからね……何がしたいか知らないが馬鹿な話だ」

 

 マオが嘲るように笑う。勇者の強さ、恐ろしさを身を以て知る彼女にとって……いかなる理由があろうと勇者に関しての情報共有を行わないなど自殺行為にしか思えない。

 

「何にせよ、パトロンと連合との間で微妙に距離がありそうなのは感じるから……その辺のことはローランに伝えてみても良いかも知れない」

「伝えに行ってやろうか?」

「いや、いい……自分で直接言いに行くさ。送迎だけ頼むよ」

 

 そう嘯くセーマ。面倒そうな口ぶりだったが顔はにわかに緩んでいた。

 友人でもある現国王にまた会える日を楽しみにする、そんな顔であった。

 

 フィリスもショーコも、話の内容にはいまいち、理解が追い付いていない様子であったが……緩んだセーマの顔に微笑む。とりあえずセーマが笑えているのなら問題がないのだろう、そういう判断だ。

 

「それで? 話はそれだけかな。そろそろ面倒くさくなってきたんだけど」

「ああ、呼び止めて悪かっ……いや、ちょっと待て。あともう一つだけあったわ」

「まだあるのかよ! 何だよもうー」

 

 あくびさえ滲ませてマオがせっつく。何しろ彼女は基本、気紛れで面倒くさがりなのだ……先程の『魔剣』へと見せた怒りもどこへやら、すっかり退屈したような姿を見せている。

 

 まるで猫を思わせるような気儘ぶりに、これも魔王の素質だろうかと苦笑いしつつセーマは応えた。

 

「週末にでも俺と一緒に荒野に行くぞ。最近、あの辺りを住みかにしていた賊たちが一斉にどこかに消えたらしい。それを調べに行く」

「何それ、依頼? 例の『魔剣』絡みかな」

「さて、そこは知らん……あと、調査にはアインくんも一緒に来てもらうことになってる」

「……ほほう」 

 

 マオは顔を上げて、セーマを見た。

 興味がある時特有の、好奇心に輝いた瞳を向けてきている──多少は彼女の興味を惹けたらしい。

 荒野の賊の行く末への興味ではないだろう。おそらくはアイン……魔剣を持つ少年も来るという点で反応したのだ。

 

「私としては、そりゃ一回はパクり野郎の面を拝むくらいしておきたかったからちょうど良いんだが……何でまたそんなことに新米を付き合わせる?」

「ついでだし彼の実力を測れればと思ってな。『ファイア・ドライバー』はたしかに強力なんだが、どうも自分の意思では使えないみたいだからよく分からないんだ」

 

 アインを誘う理由を述べていくセーマ。

 あの少年の実力を過不足なく正確に把握しておくことは非常に重要なことだ。

 彼が現在どれ程の腕前であるのかが分からなければ、不測の事態にも対処ができない可能性がある。

 実際のところ、セーマにとっては……いずこかへ消えた賊の行方よりも、よほど重大な確認事項であった。

  

「それで勇者自ら力量チェックかい……パクり野郎相手に贅沢な話だ」

「そうでもないと思うが……あとお前、アインくんのことパクり野郎とか呼ぶのをやめろ。彼は巻き込まれただけの被害者だぞ」

「何をぉ? 人の技を勝手に使ってるのは間違いないだろ!」

 

 憤然としてマオが叫ぶ。魔剣の話となると怒りが再燃するのらしかった……今度はセーマの方が面倒くさそうな表情になるのも構わず彼女は続ける。

 

「大体、何が『ファイア・ドライバー』だよ生意気な! 魔法ってのはね、この世でただ一人『魔王』にのみ許された星をも操る力なんだぞ!?」

「へーそうなんだー」

「おざなりな反応どうも! っていうかお前、ちょっとは思うところ無いのか!? 宿命の好敵手マオさんの力がパクられたのに!」

 

 力説して訴えるマオだったが、セーマは心底からどうでも良さそうに──実際どうでも良いのだが──答えた。

 

「え……いや、別に」

「冷淡か! お前ちょっと、私の『ファイア』とパクり野郎の『ファイア・ドライバー』とやらを比べてどっちが優れているのか言ってみろ!」

「何で俺が……仕方ないな、ええと?」

 

 問われてセーマは考えた──マオの用いる炎の魔法『ファイア』は、その名の通り炎を生み出す。

 威力に関して言えばアインが放った『ファイア・ドライバー』など比べるに値しない程の出力で、亜人だろうが何だろうがまともに食らえば一秒かけずに灰に成り果てるだろう。

 しかし……

 

 少しの間、『ファイア』と『ファイア・ドライバー』を比べ、その上でセーマはマオに向き合った。

 かつての好敵手は、望む答えが帰ってくるものと決め付けてすっかり期待に瞳を輝かせている。

 その表情に特に何ら思うところもなく彼は告げた。

 

「あー、『ファイア・ドライバー』の方がまだ便利そうかなと思いました。以上」

「──はぁん?!」

 

 セーマの答えに数秒置いてから……ショックのあまりに奇声をあげる、マオ。

 硬直する彼女に続けて理由を述べていく。

 

「『ファイア』は威力が無駄に高すぎる。ものの数秒かけずに何でも灰にするってやり過ぎだろどう考えても」

「な、あ。は、派手で良いだろ!?」

「お前はそれで良いんだろうけど、俺としてはなあ」

「うっ……」

 

 逐一反論されて呻くマオ。たしかに彼女の扱う『ファイア』は威力が異様に高く、しかも派手に燃え上がる。

 何かにつけ派手で大雑把な演出を好む傾向にある彼女の、性格をそのまま反映したような性能なのだ。

 

 逆にそのような見栄えなど一切気にしない、どちらかと言えば合理主義的な効率重視の気があるセーマとしては……程々な威力である『ファイア・ドライバー』の方がまだ取り回しが利きそうで便利に感じるのは当然の話であった。

 

「ていうか派手かどうかはこの際重要じゃないだろ、見世物じゃあるまいし」

「ぐぬ、ぬ」

「威力はともかく利便性で言えば、『ファイア』よりは『ファイア・ドライバー』の方が優れてると思うよ、俺は」

 

 そう締め括るセーマだが……実のところ、別に『ファイア・ドライバー』とてそこまで使い勝手が良いとは思っていない。

 そもそも得体が知れない力な時点でもう、『ファイア』共々論外なのだ。比較しろと言われたから無理矢理優劣を付けただけで、彼としてはどちらも使いたいとは思っていなかった。

 

「ま、そう目くじら立てないでくれ。アインくんはさっきも言った通り、ただ巻き込まれただけなんだ」

「……」

「ただでさえ変な亜人どもに付け狙われてるみたいなのにお前にまで睨まれるってのは気の毒だ……許してやってくれよ、魔王様?」

 

 押し黙るマオにそう告げる。

 ぶすくれとした彼女に苦笑しつつも、その場はそれで解散となった。

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