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王国魔剣奇譚アイン-勇者セーマと焔の英雄-  作者: てんたくろー
最終章・煌めく銀朱、明日を拓く『EVOLUTION』
106/129

後始末・そして平和な一時へ

 朝を迎え、人々も日々の営みに勤しみ始めた頃合い。村の手前にセーマ、マオ、そしてアインの三人は『テレポート』で転移してきた。

 遺跡からここまでほんの一秒もかかっていない。風化した石造りの建造物が立ち並ぶ、どこか寂しい風景から一転しての草原が広がる麗らかな風景への切り替わり。

 アインが感嘆して呟いた。

 

「やっぱり、すごいなあ……頑張れば僕にも使えますかね、『テレポート』」

「無理だな。同じ星の端末機構でも、私とお前とじゃ無限エネルギーへのアクセス権と使用可能範囲に大きな隔たりがある。最初からかくあるべしと発生した最上位端末と、特例的に現地生物に力を与えたことで発生した下位端末との差だ」

「そうですか……うーん。たしかに、僕は炎を放つしかできませんしね」

 

 きっぱりと否定されてしまい肩を落とすアイン。いつでもどこにでも行ける能力があれば、相当に便利だろうなと期待していたのだがそう甘い話はないらしかった。

 セーマが苦笑して慰める。

 

「マオみたいな何でもやらかせるのがこれ以上増えても迷惑なだけだし、良いじゃないかアインくん」

「……そうですね! 変にすごい力があるとそればっかりになっちゃいますもんね」

「言いたい放題か! 分かるけど! ったく……いいから行くぞさっさと、お腹空いたー」

 

 背筋を伸ばしながら空腹を訴え、村へと急ぐマオ。結果的に夜通し戦ったアインも空腹を覚えており、セーマと共にその後を追った。

 村はもうすぐそこだ。門も見えており、そこに馬車が二台と何名か、知り合いが待っているのが見えた。

 セーマが驚いて言う。

 

「……あれ、フィリスさんたちもいる? 何でだ」

「リリーナさんとジナさんもいますね。ロベカルさんと『クローズド・ヘヴン』のお二人も」

「爺さんとずばりゴリラコンビは途中まで行動を共にしていたが……フィリスたちはどういうわけだ? 館に何かあったのか」

 

 アインやマオも戸惑う。ロベカルやゴッホレール、カームハルトの三人に加えて、何故か森の館にいるはずのフィリス、ジナ、リリーナまでもがやって来ていた。

 まさか館に問題が発生したかと一瞬、ヒヤリとするセーマだったが……館の馬車、黒と白の双馬を目にして得心の声をあげた。

 

「ノワルとブラン! そうか、俺たちが『テレポート』で荒野を離れたから、夜明けになってあの2頭は館に戻ったんだな、俺の指示通りに。それで異常事態だと思ってあの三人が村まで来たんだ」

「セーマ様! ご無事でしたか!?」

 

 フィリスたちメイドが駆け寄ってくる。ひどく心配げな表情でセーマの前まで来ると、彼女は胸に飛び込んできた。

 

「おっと! フィリスさん」

「良かったです! 本当に……ノワルとブランだけが戻ってきて、もしや何かあったのではと!」

「それで村まで来たんだね、三人とも」

 

 フィリスを抱き止めながらジナやリリーナにも確認を取る。二人も、主の無事に安心して顔を緩ませて経緯を説明した。

 

「はい。ひとまず今回の外出での活動拠点である村に向かい、そこからご主人さんを探そうって。そしたら……」

「ロベカル殿やゴッホレール、カームハルトと鉢合わせまして。ことの事情を聞き、ひとまず待機しておりました。あるいは帰ってこられるやも、と……ご無事で何よりです、主様」

「そっか……ごめん、緊急だったからさ。ノワルとブランにも構わず転移しちゃってた」

「セーマ様がご無事でしたら良いのです……! 良かったです、本当に」

 

 心からの安堵を浮かべるメイドたちに、セーマもまた笑顔で返した。

 と、そこにロベカル、ゴッホレール、カームハルトの三人もやって来る。彼らには村で待ってもらっていたのだ。

 

「勇者殿! ご無事で何よりです」

「ロベカルさん、お疲れ様です……ほとんどアインくんが片付けてくれましたよ、あはは」

「へえ? ってことは風の魔剣士はどうなったんだいセーマさん?」

「ずーばーり! バルドーに加えてギルド長のドロスもどうなったのか、気になりますねえ」

 

 矢継ぎ早に事情を聞いてくる『クローズド・ヘヴン』の二人。魔剣騒動の解決のために王国南西部へとやって来た彼らからすれば、ことの顛末は気になるところなのだろう。

 が、ロベカルが二人を止めた。

 

「落ち着け二人とも。戦から帰って来たのじゃ、まずは身を清めて腹を満たし、落ち着いたところでそういうことは聞かんか」

「あ、それもそうだな……」

「ずーばーり! 配慮不足でした、すみません」

 

 帰って来たばかりの戦士にはひとまずの休息が必要である。その言葉に二人はおとなしく引き下がった。

 実際、セーマたちとしても落ち着きたかった……せめて村に入ってからにしたかったし、アインに至ってはボロボロの服に空腹感もある。

 マオも同様に空腹を訴えた。

 

「さっさと村入れろ、腹減ったよ私ー! 飯くれ飯ー!」

「マオ……お前もどうやら大変だったみたいだな」

「あ? まあね……『オロバ』の首領がとんでもないアホだってのが分かってげんなりしてるよ実際」

「そ、そうか」

「ど、どんなアホなんですか一体……」

 

 リリーナとジナが顔をひきつらせて呟く。マオをあからさまにうんざりさせるような輩……首領とは一体何者なのか。

 それには答えずエメラルドグリーンの少女は、アインの背中を強く叩いて笑った。

 

「ま、カスが屁理屈捏ねてやりたい放題やった結果、見事に小僧が星の端末機構として『オロバ』を潰す存在になったんだ。見世物としてはそれなりに面白かったよ、あっははは!」

「いたた……そう言われると、あの人たち結果的に自分たちの首を絞めただけなんですね、この騒動って」

「『タイムキーパー』の奴が上手いことお前に力を与えたからな。良い感じにあのワーウルフを悔しがらせられるタイミングだったよ」

 

 最終的に求めていた進化は成らず、それどころか『オロバ』に対抗する星の端末機構の発生に手を貸した形になった、この魔剣騒動の顛末。

 完全に自爆したかの組織を嘲り笑うマオに、事情の分かっていない面々は戸惑いしきりだ。

 

「星の端末機構? それに、『タイムキーパー』?」

「何だかよく分からんが……アインに何かあったようだな」 

「そこら辺も含めて色々あったんだ……アリスちゃんたちももう近くまで来てるみたいだ、合流したらひとまず身体を休めて、それから話をしようか」

「はい……そういたしますセーマ様。皆様、本当にお疲れさまでした」

 

 気配感知で遠くから、徐々にやってくる気配を察知してセーマが呟く。

 まずは風呂、それから食事。然る後に経緯を話す。もう王国南西部は平和を取り戻したのだ、何も急ぐことはない。

 そうして一行は、アリスたちを待つのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──というわけで、アインくんは『焔星剣・ヴァーミリオン』でバルドーを倒した。王国南西部の平和を、その手で取り戻したんだ」

 

 アリスと合流し、順繰りに風呂に入って汚れを落とし、各自食事を取ったり軽い睡眠を取るなどしてから、ようやく一部屋に揃っての事情説明に入ったのが昼前のことだ。

 セーマの語る一部始終に、面々は聞き入っていた。バルドーの思惑、星の端末機構として覚醒したアイン。そして発現したヴァーミリオンと『エボリューション・ドライバー』で、800年の妄執に止めを指したこと。

 

 新たな英雄の出現……『オロバ』の邪悪を食い止めるための世界からの使者として選ばれたアインを、皆が畏怖の瞳で見詰めていた。

 

「……あのワーウルフ、本当にとんでもないことを企んでいたんですね。遥か未来を、自分の理想の人間で埋めようだなんて」

「それを『タイムキーパー』なる星の端末機構が防ぎ、アインに力を渡した、か」

「とにかく無事で良かった、アイン……」

 

 ジナ、リリーナがそれぞれ感嘆し、ソフィーリアがアインを気遣った。ぴったりと寄り添う少年少女に目を細めつつ、しかしロベカルは嘆く。

 

「そして、ドロスか。『オロバ』大幹部ミシュナウムと逃げようとしたところを奴は捕まり、ミシュナウムは死んだ。むう……」

「彼女は今、最低限の手当てだけした上で動けないよう縛り上げて寝かせています。アリスちゃん、かなり念入りに壊していましたから」

「なははは……やりすぎたかのう?」

 

 医師として、ドロスを手当てしたミリアの言葉にアリスが気まずそうに笑う。何しろ全身の骨という骨を外し、少なくない部位は粉砕までさせていたのだ。

 亜人相手に逃がさないようにするためとはいえ、本当に死なないギリギリのラインを責めたのである。その時はとにかく逃がさないよう必死だったとはいえ、後になってみればいささかやりすぎだったような気はしなくもないアリスだ。

 ともあれ、とゴッホレールが言った。

 

「ギルド長の身柄は確保したんだ、後は法の裁きにかけるだけさぁね」

「ずーばーり! 保安に丸投げするのも不安ですから、私たち二人で王城まで連れて行きましょう。彼女の罪はどうあれ大きい……『豊穣王』に直接裁いていただかなくてはならないでしょう」

「そうか……そうだな。助かるよ二人とも」

 

 提案をありがたく受ける。どのみちギルド長の立場から『オロバ』に協力していたドロスは、社会的立場から見ても法の裁きを受けなければならない。

 『クローズド・ヘヴン』の二人がドロスを連行するというのであればそれが一番だろう。セーマはそう考えて、ドロスの今後は彼らに任せることとした。

 

「……さて、そうなるともう、特に何もないかな? ギルドに報告して終わりか」

「そうですのう……いやはや久々に疲れましたわ。あ、それとご主人。砕け散った風の魔剣からこんなもん拾ったんですが」

 

 肩を回して筋肉を解しつつ、アリスがセーマに渡す──風の魔剣に埋め込まれていた宝石。美しい緑に輝くそれは、炎の魔剣の宝石同様の不気味な威圧感を放っている。

 アインとリムルヘヴンによって打ち砕かれたクロードの魔剣……それでもやはり、宝石だけは傷一つなかったのだ。セーマはまじまじと見つめ、マオに渡した。

 

「炎の魔剣からも同じものが見つかったんだ……マオが研究するらしいから渡しておこう。変なことに使うなよ?」

「使うか! ったく……にしても、こうなると水のもほしいな。おい馬鹿ヴァンパイア、それよこせ」

「む……」

 

 横暴極まる命令のマオに、アインの隣に座るリムルヘヴンが、戸惑いに声をあげた。水の魔剣に手をやり、いくばくかの逡巡を経て言う。

 

「……オーナーに言われた時は、壊しても良いかと思っていたのだが。少し気が変わった、これはこのまま使いたい」

「リムルヘヴン……?」

「おいおい……そんな玩具、今後も振り回そうってのか?」

「私はまだ、この魔剣の力を引き出せていない……アインやあの死に損ないハエ野郎の境地にまで、達してみたいとあの戦いの中で思ったのだ」

 

 呆れたようなマオの声に、弱々しくもリムルヘヴンは返す。自分でも不可思議な感覚だった……魔剣の力を引き出したい、アインにも負けないようになりたいという思いが、その胸に宿っていた。

 そんな彼女の想いを感じとり、セーマとアリスはマオを止める。

 

「マオ。いくら何でも横暴だぞ?」

「すまんが勘弁したってくれんか? リムルヘヴンが成長するため、その魔剣は必要な気がしてきたのじゃ」

「……セーマくんはともかく、アリスも大概甘いよなあ」

 

 渋々とだが、マオは視線をそらした。すなわちリムルヘヴンの継続した水の魔剣の使用を認めたことになる。

 ホッと息を吐くリムルヘヴンに、アリスがその頭を優しく叩いた。

 

「分かっとると思うが、くれぐれも『オロバ』の手には渡すなよ? もしそうなってしまいそうなら、どうにかして破壊せい。最大限の譲歩じゃ、それが」

「もちろんです。そもそも奴等なぞには渡しません。返り討ちにして見せます!」

 

 息巻くリムルヘヴンにため息一つ、しかしてアリスは微笑んだ。

 

「ったく。じゃがきっと、お主の感覚は正しいよ……これからも精進するんじゃぞ、ヘヴン。アイン少年にも負けぬようにな」

「……はい! ありがとうございます、オーナー!」

 

 強い意志で頷くリムルヘヴンに、セーマも柔らかな視線を向けた。

 アインだけではない。ここにもまた、自分なりの進化を遂げようとする者がいるのだ。

 

 残る『オロバ』の幹部たちも、新しい時代を担う者たちの前に必ず敗れるだろう。そう確信してから、彼はふと、呟いた。

 

「クロードくん……俺が、彼を追い詰めてしまったのだろうか」

「セーマくん……」

 

 ジェシーも沈んだ顔で呟く。彼らにとって同期であった少年だ……邪悪に染まり、行方不明になってしまったことが悔やましい。

 彼の曾祖父とも友人であったリリーナが二人に語りかける。

 

「……彼の曾祖父ヴェガンの時代は、たしかに華やかな冒険譚も多い時代ではありました。ですが昔は昔、今は今。囚われてはならなかったのです」

「偉大な身内がいると、つい背伸びしちまうけどな……大概ろくなことにゃならねえのさ。俺にも覚えがないことはない。ジェシーも、自分のペースで行けよ」

「……はい!」

 

 父ラピドリーの教えに、娘ジェシーは素直に頷いた。S級冒険者『タイフーン』ロベカルの息子……かつては彼も、クロードのように暴走したことがあったのかもしれない。

 

「……もしかしたら、またどこかで会うこともあるかもな。その時にこそ、腹を割って話がしたいよ」

「そうですね……」

 

 リリーナと二人、頷き合う。しんみりとした想いを切り替えて、彼はわざと大きめに声をあげた。

 

「……よし! 話は纏まったな。それじゃあギルドに報告して解散しようか! 皆、本当にお疲れさまでした!!」

 

 仕切るセーマに皆が頷く。残るはギルドに報告し、それぞれの生活に戻るばかりだ。

 かくして魔剣騒動の終息が、ここに宣言されたのであった。

20時過ぎに最終話を投稿します

よろしくお願いいたします

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