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王国魔剣奇譚アイン-勇者セーマと焔の英雄-  作者: てんたくろー
最終章・煌めく銀朱、明日を拓く『EVOLUTION』
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決着、始まりの終わり

 銀朱の刃が、天井に空いた大穴から差し込んでくる朝焼けの光を受けて輝いた。夕焼けよりも穏やかな暖色の剣は、しかし、たしかな死の予感と共にバルドーを威圧している。

 恐れと怒りに、ワーウルフは呻いた。

 

「『焔星剣・ヴァーミリオン』……だとぉっ!?」

「そうだ……星のエネルギーで出来た、星の焔の剣!」

 

 構えるアインもまた、先程までとはまるで出で立ちが変わっている。真紅のコートに手足の鎧。それらもヴァーミリオン形成時の余剰エネルギーで作られたものであるらしく、放たれるエネルギーはセーマたちにも見えていた。

 アインの背後で二人並んで勇者と魔王が呟く。

 

「『ヴァーミリオン』……自分で作り上げたのか、剣を」

「デザインは魔剣には程遠いな……『焔星剣』か、まあまあ良くできてるんじゃないかな? 少なくとも魔剣なんぞとは桁違いの力はあるみたいだが」

「ああ……この魔剣騒動で彼が手に入れたもの、その全部があれに籠っているんだ、きっと」

 

 ヴァーミリオンを評しての二人の顔は、いずれにせよ明るい。興味深げに、あるいは楽しげに完成されたアインの力を見定めている。

 そこにはアインがバルドーを相手取ることへの不安など欠片もない。確実に少年が勝つと信じている様子に、ひどく癪に障るものを覚えて気に入らず、バルドーは吼えた。

 

「舐めるなぁっ!! 星の犬に成り下がった貴様なぞもういらんっ! 殺してやる……! そのヴァーミリオンとかいう玩具も勇者も魔王もまとめて、ぶち殺してやるぅぅっ!!」

「まだやる気だよあいつ。しぶといったらないね」

「実際の状態はともかく、気迫は大したもんだろ……むしろ良く動けるくらいだ、普通もう死んでるぞあれ」

「黙れぇぇぇっ!!」

 

 恫喝の叫びをあげるワーウルフを、しかしセーマもマオもまるで意に介さない。既にアインの、星の力を得た炎によって焼き付くされた死に体の男には、口振り程の力は残っていないのだから当然であった。

 それでもよろよろとアインを睨み付け、迫るバルドーに……アインはヴァーミリオンを構える。

 

「……最後に、一つだけ礼を。お前が、貴方があの時に魔剣をくれたお陰で僕は……尊敬できる人たちと知り合い、大切なものを護る力を得られました。ありがとうございました」

「なん、だとぉっ……!?」

「だから、この技は──貴方と、そしてセーマさんたちに捧げます。形はどうあれ僕の進化を信じてくれた人たちに、この、最後の技を」

「アインくん……」

 

 言葉と共に、腰を深く落とし、ヴァーミリオンに力を込める。アインから炎が吹き上がり、そして焔星剣へと伝導していく。

 銀朱の刀身が、煌めきを増す──次第に眩い程の光を放つその切っ先を横に向け、アインは駆けた。

 

「これが僕の選んだ進化! そしてこれから歩んでいく未来を、切り開くための必殺剣ッ!!」

「ガキがぁぁぁぁっ!!」

「輝け──『エボリューション・ドライバー』ッ!!」

 

 叫び。そして振り抜かれるヴァーミリオン。

 『エボリューション・ドライバー』……アインが選んだ進化の結晶。全エネルギーを込めた焔星剣の一撃は、抵抗しようとしたバルドーの爪さえ切り裂いてそのまま、身体を上下に両断してみせた。

 

「が──あ」

「……さよなら、800年前の亡霊」

「ば、かな。俺は、そんな、ばかなぁぁぁっ……!」

 

 受け入れがたい現実への嘆きを断末魔に、二つに分かたれた身体がそれぞれ、別々の場所に堕ちた。

 斬撃の瞬間にバルドーの体内に流入した無限エネルギーが、既に事切れた身体を消滅するまで燃やし尽くしていく。

 

 この瞬間、『オロバ』大幹部にして『プロジェクト・魔剣』首謀者バルドーは完全に息絶えたのだ。

 それはつまり、魔剣騒動の終焉を意味していて。

 

「……終わった。いや、始まった、のかな」

 

 アインは、一つの区切りを噛み締めるように認めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やったな、アインくん!」

「ま、瀕死の手合いに負けるような星の力じゃないから当然だろうがね。お疲れさん、小僧」

「セーマさん、マオさん。お疲れさまでした!」

 

 労うセーマとマオに笑顔で応じ、アインはヴァーミリオンを手放した。瞬間、焔星剣と真紅のコート、両手足の鎧が焼失する。

 後はすっかりボロボロな服装のアインだけが残り、二人は目を丸くした。

 

「え。おい、ヴァーミリオンとかあのド派手な目立ちたがりコートはどこ行った?」

「目立ちたがり!? いえあの、炎のイメージなんですけど」

「まあまあ……もしかして、アインくんの体内に? 俺の武器、ヴィクティムっていうんだけどそれみたいにさ」

 

 どことなく己の扱う『救星剣・ヴィクティム』と似通った消え去り方に、ピンと来たセーマが問う。

 アインは頷いて肯定した。

 

「そうですね。『ヴァーミリオン』は焔星剣の銘でもあり、それを呼び出すためのキーワードそのものでもあり……って感じです」

「なるほど……もしかしてコートとかもセットなの?」

「ええ、まあ。星の無限エネルギーで形成されてますから相当、頑丈なはずですよ。試してませんけど」

「そりゃあ、さっきの今だしな。にしてもそうか、『ヴァーミリオン』……星の力を変換して顕現するプロセスは、まさしく魔法そのものだ。小僧、お前は新しく魔法を作ったんだな」

 

 マオの言葉に、アインは頭を掻いて照れ臭そうに笑った。まさしくその通りで、アインは星の無限エネルギーを、ヴァーミリオンとそれに付随する装備一式に変換して装着する魔法を編み出していたことになる。

 

 燃え尽きたバルドー……灰すら残さず消え果てた、わずかに痕が残るその場所を見つめて、マオは続けて言った。

 

「そして『エボリューション・ドライバー』か……中々の威力じゃないか。無限エネルギーをそのまま破壊力に転換するとは、豪快なことをする」

「狙ってやったことでもないんですけどね……」

「何にせよすごいじゃないか! アインくん、君はもう立派な英雄だな!」

「そ、そうですかね? えへへ……」

 

 我がことのように褒め称えるセーマに、アインは無邪気に頬を染めて笑う。相変わらず気に入った相手にはとことん甘い勇者を呆れた目で見つめつつ、マオはところでと告げた。

 

「こうして小僧が得物を手に入れたことで、見事に炎の魔剣が浮いたわけだが……どうする? 破壊するか?」

「ん……アインくん、元は君の持ち物だ。どうしたい? 俺としては保管しとくのでも壊すのでも、どちらでも良いけど」

「え、と。僕もう使いませんし、壊してもらって大丈夫ですよ。ああでも、結構硬いですしそれ、壊せ──」

「分かった。ヴィクティム」

 

 アインが言い終わるまでに、炎の魔剣は呆気なく最後を迎えた。放り投げられたと同時に発現したヴィクティムの、軽く振っただけの一撃で粉々に砕け散ったのだ。

 そのまますぐにヴィクティムを体内に仕舞い、セーマが問うた。

 

「え、どうかした?」

「……あ、いえ。何でもないです、はい」

 

 遠い目をしてアインは答えた。

 正直なところ──少しばかり、天狗になりかけていた。ヴァーミリオンを手にし、数多の魔法を自在に扱える今であれば、セーマとも互角以上に戦えるかもしれない、と。

 

 だが今しがたの光景は、そんな彼の末路を暗示させるかのようなものに思えて心胆を寒からしめた。

 炎の魔剣の強度は、普段使いしていた自分が一番良く知っている。間違っても素振りめいた気楽なノリで粉砕できるものではないことを、彼は理解していたのだ。

 それがセーマにかかればこの様だ。思い上がりかけていた自分を誤魔化すように曖昧な表情でいると、マオが同情して肩を叩いてきた。

 

「小僧、気の毒だが諦めが肝心だぜ?」

「マオさん……」

「そもそも星が匙を投げてる時点で、その力の一部を行使してる私らがこのインチキ野郎とまともにやりあおうなんて土台、無理な話なんだ。落ち込みすぎるなよ」

「インチキっておい、何だいきなり」

「そ、そうみたいですね……」

「アインくん!?」

 

 星の無限エネルギーを行使している者同士、対セーマという点において強いシンパシーを感じたらしいマオとアインが互いに頷き合う。

 恐ろしく不名誉な弄りを受けている気がしてならないと抗議するセーマだったが、それさえも流されてしまう。

 

 ──と、そんなセーマが、砕け散った炎の魔剣の中に異質な物を見つけた。赤く輝く宝石だ。

 手にとって見れば、それは魔剣に埋め込まれていた宝石だと分かる。

 訝しげに彼は呟いた。

 

「……これだけは傷一つないのか。何か、怪しいな」

「ふむ? どれ」

 

 興味を示したマオが、セーマの手にある宝石を覗き込んだ。燃え上がるような赤い輝きを放つその石は、美しくもありどこか禍々しくもある。

  見るからに異様な気配を放っている。マオは難しげに睨み、やがて言った。

 

「……これだけ預かって良いか? 研究したいんだけど」

「それは構わんが……危険性はないのか?」

「それを調べるための研究だろうが。心配せずともこれの調査は、王城の一室を占拠して作った研究所でやるよ。あそこの警備は信頼に値する。盗難対策や緊急時の避難もバッチリさ」

「……あんまりローランに迷惑かけないようにな」

 

 マオが言うからには何やら重大なことなのだろう……しかし館で取り扱われるのは論外であるし、さりとて王城なら良いのか? と問われるとこれも微妙なところではある。

 結局曖昧な釘だけ刺したセーマは、明け方の光こぼれる天井を見上げて呟いた。

 

「すっかり朝だな。アリスちゃんたちは村に……着いてないか、時間的に」

「皆とは、村で合流するんですか?」

「そうなってるね……さて、いつまでもここにいても仕方ないな。マオ、転移頼む」

「ん、分かった。やれやれ、慌ただしい夜中だったな」

 

 ぼやきながらマオが、セーマとアインの手を握る。『テレポート』の態勢だ……アリスたちより先に村に帰ることとなるが、ついさっき死人を出したばかりの遺跡にいつまでも居残るのも気味が悪い。

 それにようやく魔剣騒動も完全に終わったのだ。早くロベカルたちにもそれを伝えてやりたい思いもあった。

 

「じゃあ行くぜ……『テレポート』!」

 

 転移魔法が発動する。瞬間、三人の姿はかき消えた。もう村に着き、あるいは仲間たちと合流しているのだろう。

 

 残された遺跡には何もない。ただ穴の空いた天井から差す光と、微かな肉の焼けた臭いと、何ヵ所か崩れた壁が残るばかりだ。

 魔剣騒動の最終決戦の地。800年妄執に生きたワーウルフの死に場所は、こうして誰にもそれと知られぬままに変わらぬ風化に埋もれていくのであった。

19時過ぎに次話投稿します

よろしくお願いいたします

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