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王国魔剣奇譚アイン-勇者セーマと焔の英雄-  作者: てんたくろー
最終章・煌めく銀朱、明日を拓く『EVOLUTION』
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託されたもの、無限なりし星の力

 炎を纏った拳が、バルドーの顔面に突き刺さる。これまでの殴り合いとは桁違いのダメージと衝撃が、狂ったワーウルフを吹き飛ばした。

 

「何だ、とぉおおぉぉっ!?」

「……で、出た。使えた、『ファイア・ドライバー』、いや『インペトゥスファイア・ドライバー』!」

 

 燃える拳を見つめて呟く。不思議なことにまるで火傷のない己の身に、しかしアインは納得した。

 『声』から得た力を、深呼吸と共に引き出していく。身体が軽い──体力が急速に回復していくのを感じる。

 

 呻き声をあげてバルドーが身を起こす。焼け爛れたその顔は、困惑に歪んでいた。

 

「ば、かな……! 『インペトゥスファイア・ドライバー』だと!? き、君は今、炎の魔剣は持っていないっ!!」

 

 その言葉は正しい。炎の魔剣はクロード戦後、他ならぬバルドー自身によって奪われ……ミシュナウムの手に渡っていた。

 だというのになぜ、アインは魔剣の力を行使している? 何故、全身から炎を巻き起こし、あまつさえ炎を拳に纏うなど魔剣でも不可能な芸当を見せている?

 

「その力は何だ!? あり得ない、そんな超常の力は、私の望んだ進化ではない!」

「お前じゃない。僕自身が望んだ進化だ……!」

「抜かせぇぇぇっ!!」

 

 激昂してバルドーが飛び掛かる。高く飛んだその男を冷静に見据えて、アインはまたも力を行使した。

 

「『オクトプロミネンス・ドライバー』!!」

 

 そして現れる炎の竜──1匹だけではない、8匹! 同時に顕現した8つの炎竜が、次々とバルドーに襲いかかる。

 

「ぐああああっあああっ!?」

「まだだ! 『イグニスボルケーノ・ドライバー』ッ!!」

 

 次いで放たれる名に呼応して地下から吹き上がるマグマ。それもいくつもの溶岩が、柱のように天井まで突き抜けてはるか空へと立ち上っていく。

 その内の一つを受け、バルドーは絶叫した。

 

「うぎゃああああああっ!? 何だ、何なんだこれはぁっ!?」

「よし、一通り使える……! 体力も減ってない! これが、これが……!」

 

 全身をマグマに焼かれ、地上に落ちるバルドー。一旦力を抑えて己の体調を確認するアインは、炎の魔剣を振るっていた時よりも格段にコンディションが良いことを自覚して叫んだ。

 

「これがっ! 『星のエネルギー』なのか!!」

「──星のエネルギーだと?」

「えっ?」

 

 驚く声はバルドーからあがったものではなく、アインは驚いて振り向いた。

 遺跡の入り口に、男女が立っている。黒髪黒目、どこにでもいるような顔立ちの中肉中背の青年と、エメラルドグリーンの長髪が地面に垂れるまで伸びている美しい少女。

 アインにとっては見慣れた顔だ。

 

「セーマさん、マオさん!」

「アインくん!」

 

 二人──勇者セーマと魔王マオは、急ぎアインの元へと駆け寄った。

 セーマがアインの手を取り、安堵して笑う。

 

「良かった、間に合った!」

「っていうか普通に圧倒してるじゃないか……その力はどういうことだよ小僧? 何でお前から星の無限エネルギーが感じられるんだ?」

「あ、はは……いやその、何と言いますか」

「星の無限エネルギー? ……マオと同じ!?」

 

 即座にアインに宿る力を看破したマオが戸惑いも露に問えば、セーマも目を見開いて驚く。何しろ炎の魔剣のない、まったくただの人間のはずなのだ、アインは。

 それが何故、無限エネルギーを宿しているのか……そして何故、バルドーは既に瀕死の状態で倒れ伏しているのか。

 到着して早々深まる謎の数々に、アインは穏やかに、どこか照れ笑いなど浮かべて答えた。

 

「ええと、実は……今日、宿屋で『星の意志』さんたちと接触しまして。いえ、ついさっき思い出したんですが」

「『星の意志』!?」

「ええ……? 同類じゃん、やだなぁ……」

 

 驚愕するセーマと嫌そうな顔をするマオ。そしてアインは、その時のことを話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こんにちはアイン。わたしたちは星の意志。この星の端末機構が一つ』

 

 ──あの時。魔剣を見つめ、意識だけは彼方へと飛ばされていたアインは、上下左右のない光と闇の空間にいた。

 波のように揺蕩う感覚がひどく心地良い、そんな空間だ……そこに聞こえてきた声に、少年は素直な気持ちで耳を傾けていた。

 

『時間もあまりない。単刀直入に言うが、君に星の力を受け取ってほしい。かの者たちから、この世界を守るために』

「星……の力? 僕に? いやそんな、無理ですよちょっと」

 

 戸惑いながらも、アインはごく当たり前のようにそれを拒否した。得体の知れない力など、魔剣だけでも手一杯だ。

 

『君にとっても悪い話ではないさ……いくつかメリットを挙げよう』

「え。はあ……」

 

 しかし『星の意志』とやらはそんなアインの消極的姿勢にも動じず、穏やかに声をかけていく。

 いくつかあるというメリットを、声は告げていった。

 

『一つ目。君も分かっているだろうが、今のままではあの風の魔剣士に勝てない可能性も大いにある』

「えぇ? それは……」

『水の魔剣士も魔剣の出力で押し負けるかもしれない。二人がかりで勝てないともなれば、そんな時に状況を打開できる力はあるべきだろう?』

「……うーん。そりゃあ、あればあったに越したことないですけど」

 

 薄々考えていたことを指摘され、アインは呻いた。

 クロードの『ハリケーン・ドライバー』は、リムルヘヴンと二人組んで挑んだとしても勝てるかどうかは怪しい……それは認めざるを得ない事実だ。

 次に、声は更なる理由を挙げる。

 

『二つ目。あのバルドー……おそらくは君を狙っている。最悪の場合、君にどうしようもなく大変な事態が起きかねない。それを防ぐためにも力を受け入れてほしいんだ。世界の未来のためにもね』

「……え、そんな大変なこと!?」

 

 世界の未来だなどと、思わぬ話の広がり方に驚く。バルドーは一体、何を企んでいるのか。

 そして声は言った。

 

『最後に。わたしたちはかの者たちを、オロバを断じて捨て置けない。君も、かの者たちにこれ以上、好き勝手はされたくない。そうだね?』

「はい……そうですね。それは、はい」

『だからこそ、力を受け取ってほしい……今この王国南西部で、星の力を扱えるだけの器となる可能性があるのはアイン、魔剣の力をすべて引き出しつつある君だけなんだ』

 

 どこか懇願するような声。かの者たち……『オロバ』への怒りと哀しみと、それゆえの使命感をも含んだ声音が、アインの胸を不思議と打つ。

 器が何のことかは分からないが少年はそれをも踏まえ、少し考えてから……やがて頷いた。

 

「そういうことなら。ええ僕だって、あの『オロバ』の奴らは許せないですし」

『ありがとう……ここに同意は結ばれた。わたしたちはアイン、君を新たなる星の端末機構、世界からの使者と認めてこの力を授ける』

「……あ、はい」

 

 良く分からない単語が並び曖昧に頷く。するとすぐに、光と闇の空間の何処かから銀朱の光がアインの身体へと入っていく。

 痛みはない。それでも自分の中に何かが入っている、という感覚はあり、アインは顔を歪ませた。

 声が聞こえる。

 

『……これで、君に星のエネルギーは宿った。わたしたちは少しばかり、君の中で眠っておこう。君の器が完成し、君が力を望むその時まで君の記憶も封印しておく。かの者たちに気取られてはまずいからね』

「分かりました。それじゃあよろしくお願いします」

『こちらこそ。アイン……君の人生に、幸多からんことを。それじゃ、またね 』

「はい、はい……それじゃ」

 

 声の従うままに頷けば、次第に世界が朧になっていく。何となく、夢が覚める瞬間ってこんな感じなのだろうかと曖昧な脳で考えながら……

 その時のアインは、ひとまずの眠りについたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……とまあ、こんな成り行きで今、こうして魔剣もなしに戦えてまして」

「何とまあ、そんなことが……」

「うーん」

 

 アインから一通り、星のエネルギーを得るに至った経緯と現在に至るまでのバルドーとの成り行きを説明され、セーマとマオは曖昧な表情で顔を見合わせていた。

 結果的に言えば極めてファインプレーなのではあるが、それにしたって押し売りめいてはいないかというセーマの視線に、気まずげにマオが言う。

 

「『そいつ』が絡んでるってことは、星にとって連中の企みは相当まずい事態なんだろうね……実際小僧は危うく、何万年か後の人類にとっての祖先になりかねなかったわけだし」

「それがまずいかどうかはさておき、『そいつ』?」

 

 アインの遺伝子が脅かされそうになったという事態には、さしものセーマもマオもその狂気にうすら寒いものを覚えたのであるが……さしあたりマオがいう『そいつ』が気になる。

 促せば少女は嫌そうな顔をして答えた。

 

「『タイムキーパー』……この星の端末の中でもそいつは、特に世界の正常な発展を管理していてね。人間が正規の手順を踏まずに変な進化を遂げて、しかもいずれは増殖していくとか冗談じゃないんだろうさ」

「もうちょっとで僕、未来を滅茶苦茶にしちゃうところだったんですね……」

「気の遠くなるような先の話だがね。にしても、まさか小僧が後輩になるとは」

 

 やれやれと肩を竦めるマオ。目を丸くしてアインが尋ねた。

 

「後輩って、僕がですか? っていうかマオさんが魔王だったことにまず驚きなんですけど」

「魔法を使う時点で気付けっての……改めて名乗るぜ? 元『魔王』マオだ。人間世界の異常発達に対する抑止者、すなわち戦争による間引きを行ってのバランス調整を役割とする、星の最上位端末機構の一つだよ」

 

 優雅に一礼するマオ。しかしアインの表情は優れない。当然である……多くの人間を死に至らしめた大戦争の首謀者がマオであり、しかもその実、星が遣わした使者だというのだから。

 

「間引き……あの戦争は、星による間引きだったんですか」

「人間の感覚から善悪を問うなよ。星にとってそんな尺度は関係ないんだからな……誰も彼も生き抜くのに必死なんだ、星だってそうだよ」

「……そう、ですね」

 

 神妙にアインは頷く。マオの言葉に、正しさと、反発と……それでもやはり、理解を示してしまう。

 その表情に軽く笑って、魔王は話を切り替えた。

 

「お前はそうだな……人間に異常発達をもたらす者の粛清を担う特例的下位端末機構、さしずめ『英雄』あたりかな? まあ特殊な形での端末化だから人並みに生きて人並みに死ねるだろ、たぶん。あー何だったらそこの勇者も倒して良いぞ、倒せるもんならな」

「えぇっ!? 僕がセーマさんを!?」

「おい何で俺だ!?」

 

 いきなり飛び火した話題にセーマが叫ぶ。アインもとんでもないも戦くのをよそに、マオは元魔王として憎々しげに語った。

   

「毎度毎回、魔王の仕事を邪魔するお前ら勇者だって、星からすれば『オロバ』と変わりないんだからな!? 今代の君の場合、もう星にもどうにもできないくらい強すぎるから放置せざるを得ないだけで!」

「そんなに!?」

「いやいやそんな人に勝てるわけないじゃないですか先輩っ!?」

 

 あんまりな言い種に困惑するセーマとアイン。特にアインなど、星でさえお手上げ状態だというセーマの恐ろしさを再認識した上での無茶振りに全力で拒否の意を示している。

 

「──なる、ほど。星の、干渉が……あったのか」

「っ! バルドー!」

 

 あらぬ方向からの声に、三人が振り向く。

 バルドーだ。全身を焼け焦がした、見るも無惨な姿でなお、憎悪を隠さずアインを睨み付けている。

 生きているのがおかしい程の状態でしかし、ワーウルフは吼えた。

 

「何故だぁ……っ! 何故邪魔をする、何故人間に手を貸すっ!! 魔王は、星は、人間の敵ではないのかっ!?」

 

 まったく思いもしなかった、星によるアインへの、人間へのバックアップ。

 それがどうしようもなく理不尽、かつ意味不明に思えるバルドーに……マオが不敵に笑った。

明日17時から1~2時間おきに、最終話まで投稿します

最後までどうか、よろしくお願いいたします

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