約束2
18時頃
コンコンッ
「ん?誰だこんな時間に…」
ドアを開けるとかほが立っていた
「どうしたの?こんな時間に?」
無言のかほ
顔が赤く元気が無い
隆は尋ねた
「どうしたの?」
するとかほは倒れ込んだ
かほを抱き抱える隆
「えっ!すごい熱があるじゃないか!?」
隆はかほをベッドに寝かせて
一生懸命に看病した
タオルを何度も変えて
雑炊も作ってあげた
その甲斐もあってか熱は下がり
かほは少し元気になった
「あ、ありがとう」
「今日は来なかったから心配したよ
でもこんな熱もあるのに無茶したらダメじゃないか家で寝てなきゃ」
しかしかほは涙を浮かべながら隆に言った
「お兄ちゃん…助けて」
その悲痛な叫びを聞いた隆は何かあったと気付いた
その時 隣からあの音と喘ぎ声が聞こえた
「自分の子供がこんな熱出してるのに…」
隆は拳を強く握りしめた
「あっ!そうだ、ねぇ かほちゃん これプレゼントの絵」
隆が描いた絵には
自分が描かれていた
「あ!ありがとうおにいちゃん!!」
かほは心から喜んだ
両親からぞんざいな扱いを受ける自分に
絵を描いてくれた、看病してくれた優しい隆に
「もう おとうさん・おかあさんの居る所に帰りたくない!わたしおにいちゃんの子供になる!」
そう言うかほに戸惑う隆
しかし以前から虐待を聞いていたし
今日熱があるかほに関心がない両親を知り隆は考えた
しかし勇気が出ない何も出来ない自分
少し震えながらも必死に考え
しばらくしてからかほに尋ねた
「ねぇかほちゃん、もしお父さん・お母さんと二度と会えなくなったら嫌?」
かほは首を大きく横に振った
そして
「あのふたりなんかだいっ…きらい!!もうあいたくなんかない!!」
と大声で答えた
それを聞いた隆は決心した
この子を助けようと
そして隆はどこかへ電話をかけた後にかほにこう言った
「かほちゃん!よく聞いてね
お兄ちゃんは出掛けるけど
お茶を飲んでテレビを観て待っててね
お兄ちゃんがかほちゃんを助けてあげる
お父さんお母さんに会えなくなるかも知れないけど許してね」
そういいかほの頭を撫でる隆
「うん」
うなずくかほを見て
隆は笑顔で笑い、手を振った
しばらくして
隆は隣の夫婦の部屋に立ち
インターホンを押した
「はい どなた?こんな時間に…」
乱れた髪をかきわけながら出てきた母親
しばらく何も言えなかった隆
イライラする母親
「あの 何か!?」
子供が出て行って居ないのに気にしない母親の姿を見て
「あ、あの!子供さんが居ないのに
心配しないんですか?そ、それに声とか音とか、と、とても迷惑です。」
「はぁ?何盗み聞きしてるの?キモッ!
それにかほはずっと部屋にいるわよ」
「か、かほちゃんは今 うちの部屋にいます
高熱を出してました」
話をしているとタンクトップ姿の父親が出てきた
「なんだ?どうした?」
「こ、この人が」
「はい!何かご用すか?」
眉間にシワを寄せてガンを飛ばしながら
横暴に聞く迫力のある父親
「あ、あの!子供を虐待してますよね?」
「はっ!?うちは教育を厳しくしてるだけなんで!」
玄関を閉めようとする父親
「あ、あざが出来るぐらい厳しくしてるんですか?」
「あっ!?なんか文句あんの!?」
「貴方達は自分の子供を大切に思ってないんですか!?
虐待したり、高熱を出しても何もしない、
子供がどこに居るかも分かっていない
それでも親ですか!」
隆がそう強く言い放つと
父親は胸ぐら掴んで顔を近づけてきた
「喧嘩売ってんの!?」
「は、離して下さい。」
そう言うが顔を思いっきり殴られる隆
倒れ込む隆を見て
「ダサっ」
母親はそう言い
父親は笑いながらドアを閉めようとした
その時
「待ちなさい!」
警察官や沢山の人達が現れた
警察官は父親の手を取り
「ちょっと話を聞かしてもらいましょうか」
「あ?」
「私達は家庭センターの者です、貴方達に虐待の疑いがありますので調べさせて頂きます。」
何が起きたか分からない父親は暴れた
「暴行罪の現行犯と公務執行妨害で20時08分逮捕!」
父親を取り押さえる警察官達
父親は倒れたまま隆に向かって
「お前か!?なんなんだお前は!?お前には関係ないだろうが!!殺してやる!殺してやるぞ!覚えとけ覚悟てろよ!!」
「ちょっとやめて下さい」
どうしたらいいかわからない母親は泣くだけだった
隆は両親の元へ訪れる前に
家庭センターと警察へ連絡し、両者に話をして見えない所で待機してもらってたのだ
全て隆が考えた作戦だった
父親は隆への暴行罪の現行犯と公務執行妨害で逮捕され、母親も事情聴取の為に
2人はパトカーへ乗せられ連行された
その時、かほは部屋から出てきて隆の元へ行き隆の後ろから隠れる様に両親の最後を見つめた
警察官に連れて行かれる両親を見て
かほは小さい手で隆の手を握った
事情聴取では
父親はDVや虐待なんかしていないと否認し
子供なんか作るんじゃなかったとだけ言ったそうだ
母親は父親が自分と娘のかほに対してDV・虐待を行なっていた事を告白した
なぜ止めなかった、誰にも相談しなかったと尋ねられると
矛先が自分に向くのを恐れて
黙って見ていた
娘に対して愛情が無かった
自分に子育てなんか無理だったと言ったそうだ
だいぶ精神的に病んだいたそうだ
これを聞いて
もう両親に子育ては無理だろうと
離れて暮らす事に決まった
両親は離婚し
父親は刑務所へ
母親は精神科へ
かほは施設で暮らす事に決まった
施設へ行く日
一台の車がハザードランプを光らせ
かほが乗るのを待っていた
隆はかほの両肩を掴み
「かほちゃん ゴメンね お父さんとお母さんにはもう会えないけど
でももうこれで殴られたりする事もないんだよ
怖がる事もないんだよ
これからは施設でお友達と暮らすんだよ」
しばらく黙っていたかほだったが
涙目になり
隆にギュッと抱きついて
「おにいちゃん ありがとう!」
涙を流しながら感謝をするかほ
「かほ おとなになったら たかしにいちゃんのおよめさんになるね!」
その言葉に涙目になった隆
「ねぇ かほちゃん かほちゃんのかほの漢字教えてくれないかな?」
「うん、なつの夏に、ふねのほで帆!
夏帆って書くんだよ」
「そうか夏帆だね、君のことは忘れないからね」
「うん!わたしもたかしおにいちゃんのことはわすれないよ!やくそく、おぼえていてね」
そして夏帆は車の後部座席に乗り込んだ
車は右指示器を出し
走り出した
車が走り出した後も
後部座席から手を振る夏帆
隆も手を大きく振った
ずっと手を振る2人
そして車が見えなくなって
隆は肩の荷が取れた様に膝から崩れ落ちた
そこへ家庭センターの職員や団地の他の住民から
拍手を受けて
家庭センターの人から
「あんた 勇気ある優しい人だよ あの子を助け出した事を誇りに持ちな」
そう言われ
夏帆との何気ない思い出を思い出し
少し寂しそうな顔をした隆だった…