隣の少女
季節は真夏に入り、
蒸し暑いある日曜日の昼過ぎ
彼は部屋でタバコを吸いながら
ボーっとしていた
最近は部屋に絵の具の匂いはなく
タバコの匂いだけがして灰皿には
タバコの吸い殻がいっぱい…
ボーっとする隆だったがなにやら
隣の夫婦の部屋から声が聞こえてくる
パン、パン、
何か叩きつける様な音だ
「なんだ?」
耳を澄ませると
女性の、奥さんの声が聞こえた
「うわ!マジか」
彼が住んでいる部屋は
安い団地の部屋だった為 壁は薄く
声がよく聞こえる
「昼間からうるさいな猿かよ、周りの事も考えろよな」
少し顔を赤くして
頭をボリボリ描いた後
ベッドに寝転んで目を閉じ昼寝をしようとしたが
奥さんの声が聞こえてイライラとムラムラした隆は昼寝をやめた
深いためをつき、財布とタバコを持って近所のパチンコへ行こうとドアを開け出掛ける隆
すると団地の階段であの隣の夫婦の子供が
少女が座っていた
少女はこちらに気付くとジッと見ている
隆は戸惑いながらもジーっと見てくるので尋ねた
「ど、どうしたの?」
すると少女は
「おのどが…かわいた」
そう言ってきたので
「またか」
と思い、面倒だなと思いながらも
「お茶でもいい?」
「うん」
隆は少女を自分の部屋に入れた
夫婦の声は聞こえなくなっていた
静かだ
「はい 麦茶」
コップにお茶を入れ少女にあげる
すると少女は満面の笑みで美味しそうにお茶を飲み干す
少女はなんだか辛そうだった
しばらく無言のままだった隆と少女
「む、麦茶のおかわり…いる?」
「うん」
隆はコップにおかわりのお茶と氷を入れてあげた
少女は喜びながらお茶を飲むだけ
隆と少女に会話はなかった
しばらくすると少女は
「テレビ見ていい?」
と聞いてきたので
「いいよ」
と言うと
少女はテレビを付けて
チャンネルを色々と回すと
時代劇を見始めた
「この紋所が目に入らぬか!」
隆は渋いなと思い少し笑った
少女は夢中で見ていた
「ヒーロー!」
そう言う少女
時代劇が終わると
「ありがとう」
とだけ言い少女は部屋を出て行った
それ以来 少女はよく遊びに来る様になった
コンコンッ
「はい」
「絵のお兄ちゃん こんにちは」
「はい こんにちは」
インターホンを押さずに
ドアをノックする少女
隆はドアをノックするのは少女だけだったのですぐに誰か分かる様になった
とくに何か話したり遊んだりはしないが
少女は氷の入った冷たいお茶を飲みながら
テレビで時代劇を観るだけ
夕方になると礼だけ言い帰る少女
隆は毎日の様に少女が来るので
パチンコに行くのが減っていった
そしてそんな日常が少し幸せだった
まるで自分の子の様な感じがして…
その日の夜 隣の部屋から怒鳴り声が聞こえた
夫婦喧嘩の様だ
隆は
「うるさいな」
と思い毛布に身体を丸め就寝した