才能溢れる青年
古そうな木の椅子や机が並ぶ
筆が白い紙に色を付けている
絵の具の匂いが漂う
たくさんの生徒達が黙々と人物画の絵を描いていた
しかしある1人の男子生徒は窓から見える空をボーっと見たり、たまに筆を取り、絵を描いたりを繰り返していた
他の生徒達はその主人公を横目に必死に絵を描き先生からの評価やアドバイスを待っていた
先生が歩きながら生徒達の絵を見るが
パッとしない同じ様な絵に良い評価をしない
しかしボーっとしていた男子生徒の絵を見ると先生は賞賛した
「凄いじゃないか 宮下!芸術性の感じる綺麗な絵だ!」
先生に褒められたその男子生徒は笑みを浮かべ喜んだが
周りの生徒達はボーっと描いてた宮下に
なんであいつが!と心の中で思っていた
そして全生徒が絵を描き終えると
全員の絵が教室の外の廊下に貼り出された
みな正面からや横顔の人物画の絵だったが
その中で1枚だけ後ろ姿で顔の見えないロングヘヤーの髪が綺麗な女性の絵が称賛された
「未来の女性」作者 宮下 隆
男子生徒の絵だ
たくさんの先生から才能があると褒められ喜ぶ隆
女子からは
「未来の女性だって!キモッ」
などと言われていたが隆は気にしなかった
宮下 隆は恋愛に縁が無く、勉強も運動も得意じゃないし
どちらかと言えば暗い青年だった
しかし彼には絵の才能があった
そして彼の将来の夢は画家であった
4年後
まだ少し涼しい春の頃
ある団地で
汚くてとても狭い部屋で絵を描いていた
一人の男性
髪やヒゲは伸び、不潔で老けて見える
男性は静かに夢中で絵を描いていた
ぐぅ〜
お腹のなる音だ
絵を描くのを止めて立ち上がり台所へ
ヤカンに水を入れ
火を付けた
シューッ
ヤカンから煙が上がり
男性はカップラーメンにお湯を注いだ
カップラーメンを机に置き
じっと静かに待つ
2分30秒後にアラームがあり
カップラーメンの封を剥がす
ズルルッ!
男性は30秒早めにカップラーメンを食べるのが一番好きだ
食べてる最中に麺が丁度いい硬さになるからだ
男性はカップラーメンを食べ終えると
そのゴミを台所のゴミ袋に入れた
男性の食生活は荒れていた
食事はカップ麺やコンビニ弁当が多く
添加物の多い不健康な食べ物ばかり
台所は洗い物が溜まり、ゴミ箱にはカップ麺やペットボトル・コンビニ弁当の捨てゴミで溢れていた
そうこの男性は学生の頃に才能があると賞賛された宮下 隆だが
今や才能のある人物には見えない
大人になった彼は夢を追いかける
売れない画家になっていたのだ
彼は売れない画家の自分に嫌悪感があり
絵を描いてもうまく集中出来ず失敗作ばかりそんな日常と自分にイライラしながら
お金も無いのに息抜きにと
近所のパチンコ店にもよく行くがいつも負けてばかり
何をしても駄目な自分にほとほと呆れていた
そんな日々を過ごしていると
隣の空き部屋に若い家族が引っ越してきた
自分と同い歳くらいの
ヤンチャそうな茶髪の旦那と
化粧が濃く、香水の匂いがきついギャル系の奥さん
それに6〜8歳くらいの小さい女の子の3人家族だ
ピンポーーン
ガチャ
「はい」
「隣に引っ越してきたもんです よろしく」
「あっ、どうも」
旦那さんと奥さんが挨拶にきたが
何もくれず、簡単な挨拶のみ
挨拶を終え、ドアを閉めようとする時
夫婦はこっちを見て何か言った後に笑っていた
どうせ自分の見た目や雰囲気の事でバカにしていたんだろう
自分は昔から人間付き合いがどうも苦手で人と話すのもギクシャクしている
きっと夫婦からは変人と思われてるだろうと思いながら筆を取る
そんな事を思いながら絵を描く方が
良い時もあるからだ
しかしやはり思う様な良い絵は描けない
「こんな絵じゃダメだ!」
せっかく描いた絵を破り捨てる
しばらくタバコを吸った後
「パチンコでも行くか」
と言い、また近所のパチンコ屋に来た隆
リーーチ
泡がボコボコ泡立つ
心の中で
「よし!リーチだ!泡も大きい!」
期待した隆だったが
ピ…
ハズレだ
今日も入らない、当たらない…
心の中で
「チッ、この台…潰れてるんじゃないのか?」
イライラしながらタバコを灰皿に押し付け消す
お金も無くなり
マンガコーナーの椅子に座わろうとする隆
彼はある事に気づいた
マンガコーナーにあの夫婦の子供がマンガを読んでいたのだ
「あの子は、隣の…」
よく周りを見渡すとあの夫婦がパチンコに熱中していた
「よっしゃ!当たったぞ!」
「パチンコ屋に子供連れてくるなよ、悪影響だろ。平日の昼間に何してんだか…」
そうひとりごとを言いながら
椅子に座る隆
すると夫婦の子供の少女が
マンガを開きながらもジーっとこちらを見ていたのに気付く
「なんでこっちをジッと見てるんだよ」
目を逸らす隆だったが
少女はマンガが閉じ
こっちへ近づいてきた
「な、なんだよ…」
少女はしばらく無言でしばらくしてから
「おのど…かわいた…ジュースかって」
隆は心の中で
「ハァ?なんで俺が、自分の親に買って貰えよ」と思いながらも
「ママとパパに買ってもらいな」
と優しく言ったが
少女は首を横に振るだけ
ずっと自分の目の前に立っていた
嫌になった隆はポケットに手を入れると
ちょうど130円…
少女に渡した
少女は
「ありがとう おじさん」
と言い自販機に走っていった
「お…おじさん…」
隆は席を立ち、パチンコ店を出て
団地に帰った