8話 友人が欲しい。
「単刀直入に聞くが。お前、フローラのことが好きなのか?」
「ーーあぁそうだ。お前こそ、どうなんだ」
「悪いが、興味がない」
「ーーそうか。なら俺にも、好機があるわけだな」
「まぁ、そういうわけだ。今回呼んだ理由もそれだ」
聖王国の王都にある、とある喫茶店での会話。
隣のエレスハイム帝国にやってきた『転移者』なる者が広めた『コーヒー』なる飲料は、たった2年もしない内に聖王国にも進出して来た。
『転移者』の話は長くなるので簡潔に説明するが、要するに他の世界から次元を超えてやって来た人間の事だ。他にも武器や技術など、様々な物をこの世界へ伝えているらしい。
クラムは恥じらいもせずフローラのことが好きだと言ったグレイスに感心しながら(クラム自身は『セレシアが好きだ』とは恥じらって一回も口に出したことが無いどころか、彼女からの告白ですら理由を付けて断った超・ヘタレである)、コーヒーを口にした。どうも彼の舌に合うようで、既に5杯目である。無論ブラックだ。カフェインの異常摂取になりそうな勢いである。
クラムは今回、彼に何かとつきまとっていたフローラという女子生徒をクラスメートであるグレイスに押し付ける事で、望まぬ三角関係を解消しようとグレイスを呼んだ。なんども言うが、彼に美女を囲うという趣味は微塵たりともないのである。
「それで?条件は何だ」
「条件か?…特に付けるつもりはなかったが、そうだなーー彼女をお前が、何が何でも守る、とかはどうだ」
「何?」
「自分のせいで女性を死なせるのはごめんだ。『俺が側にいれば』などと言う自省などしたくは無い」
「大丈夫だ。昨日は不覚を取ったが、学んだことも多い。何が何でも、フローラは守ってみせる」
「その自信がどこからくるのか、俺には全くわからんがな…まぁ、頑張ってくれ」
「自信?これは自分に対しての戒めだ。いざという時に必ずや勝利を掴むためのな」
「そうか。効果的ではありそうだな。ーーそうだ、もう一つ条件がある」
「もう一つ?金か何かか?」
「いいや?俺には友人がいなくてだな。…そこで」
「あぁ成る程、了解した。どうやら俺は、お前のことを少々誤解していたようだ」
グレイスの事がかなり気に入ったクラムは、彼に向けて手を伸ばす。それをグレイスは力強く握り、
「友よ、これからよろしく頼む」
たった今ここに、『魔剣士』と『賢者』の熱き友情が幕を開けた。