7話 嫉妬されても困る。
「やっぱり凄いですね、クラム君。あんなに早く、正確に魔法を発動できるなんて」
「いや、それほどでも無いよ。火魔法はちょっと得意なだけなんだ」
「そうなんですか?火魔法…私の風魔法だったら、直ぐにやられてしまいそうです」
「相性的な問題もあるけどね…。風魔法にも色々な使い方があるから、一概にそうとも言えないと思うよ」
「使い方…水蒸気を風魔法でぶつける、とか?」
「そうそう、それも一つの案だ。凄いね」
「えへへ、ありがとうございます…」
邪険にすることもできず、クラムは休み時間に話しかけて来た少女と会話する。目には憧憬のようなものが見え隠れしているこの少女は、どうやら彼が喧嘩をふっかけられた原因であるらしい。
(成る程『嫉妬』か…。美徳ではないだろう、それは)
幼馴染が大事に育てていた植物にさえ軽い嫉妬を抱いていた自分を棚に上げて、クラムはこちらを睨んでくるグレイスの嫉妬心に呆れていた。
「そう言えば、名前を聞いていなかったね」
「そうですね。自己紹介は次の時間ですから。私はフローラ・フォン・モリアーナです。よろしくお願いしますね」
「クラムだ。ただの平民だが、良ければよろしくな」
(もう、『早く離れてくれ』と言いたいのだが、この人にそれを言うと、また逆効果だろうな…)
近くに寄って来たフローラを何とか離したいクラムだが、フローラは彼に興味津々らしく、中々彼のもとを去ろうとしない。そうする内にグレイスのイライラがどんどん蓄積されていく。酷い悪循環である(男子2人にとっては)。
因みにだが、このフローラも、生徒会長のアリスもかなりの美人である。しかし彼は平民と言うこともあり、何処かの皇帝のように女を囲もうとはしない。ーーというよりセレシア以外に興味がなかった(これは『約束』云々ではなく、彼の恋愛感情がセレシア1人にしか向けられていない事が原因である)。
授業の予鈴が鳴って、ようやくフローラが席へ戻る。ーー即ち、クラムの隣に。全く以って運がない。因みに、グレイスはフローラとは大分離れた席に座っていたりする。こちらも運が無いようだ。
初回の授業はガイダンスで、これから履修する事についての説明である。カーロン先生が「ここからは学園とかで学ぶんじゃ無いかな」と言った内容もしっかりと含まれており、クラムとしては満足だった(尚、待ちきれなかったクラムはカーロンにせがみ、既にこれらの内容を予習済みである)。
ガイダンスが終わると今日は解散だ。友人を作らなければならないと思ったクラムは、何を思ったのかグレイスのもとに行き、
「ちょっと来てくれ、フローラについて話がある」
とんでもない話題をグレイスに振って、彼を城下町のカフェに誘ったのだった。
(余談だが、彼の恋愛感情は異性にだけ、特にセレシアにだけ向けられているものである)