エルセレシアの備忘録② ファブニールとマテリア
グレイス編。書ききれなかった戦闘描写+裏設定です。どうぞーー!
「そういえば、グレイス達が相手をした龍は、真龍の中でも群を抜いて強かったそうじゃないか」
「邪竜マテリアね。真龍の中では2番目に強くて、彼女一人で世界を滅ぼせるほどの力を持っていたわ」
「…随分と詳しいな」
「あなたの巫女になってから、ウロボロスのところにも行ったでしょう?その時に膨大な知識と、それを収集するための魔法をもらったわ。頭がパンクするくらいね」
「だから、この空間には大書庫があるのか」
「えぇ。記憶なんて書物にして保管すればいいのよ。この書庫には今まで私たちが旅して来た世界の全てが詰まっているわ」
「どれだけの大きさなんだ…」
「宇宙と同じくらいじゃない?先生の世界の」
アストレアの憑依が解けたセレシアは、昔の性格に戻っていた。女優宣言もあり聖女の人格を演じる事もできるが、クラムの前では『面倒臭い』とあまりやっていない。…因みに、クラムに『聖女モード』と言われれば強制的に変わる。契約の効果である。
「随分だな。…話が逸れた。マテリアが『彼女』だと?」
「えぇ。あれはあなたが生まれた帝国の前身である、セレス王国のとある王女の成れの果てなのよ」
「…ゾッとするな」
「あ、ちなみに私は龍になる気はないから。龍神の力は纏った方が強いもの」
「そんなこと聞いてはいない。…そういえば、第1位は誰なんだ?」
「ファブニールよ」
「ファブニール?…あぁ、グレイスの」
「そう。ファブニールとマテリアは姉妹でね。ファブニールは聖王国に嫁ぎ、マテリアは王国に残った。マテリアは王国でできた伴侶を救うべく、深淵の龍神と契約をしたの」
「…契約?」
「えぇ。それによって伴侶は快進撃が出来たけど、彼女は龍になってしまった。更にだけど、伴侶はウロボロスと契約して、不老不死になっちゃったのよ」
「…それが、何か関係あるのか?」
「死ねないことに悩んだ伴侶を楽にするべく、マテリアは彼に戦いを挑んだ。…結果は相打ち。見事マテリアは、伴侶を死なせてあげることに成功したの」
「…ハッピーエンドみたいだな」
「でも、マテリアはヴリトラによって甦らされた。伴侶を救ったと言う記憶だけを抜き去られて」
「…そうすると、どうなるんだ」
「もうこの世にいない伴侶を探し、ひたすらに暴れ回る邪竜の完成よ。彼女は結局、姉によってまた殺されてしまうのだけど」
「ファブニールか。…それで、マテリアを倒すために、彼女も龍となったわけか」
「そう言うこと。でも、マテリアが暴れた原因を知った彼女はヴリトラとの縁を切り、とある小島に大空洞を作って隠居した。彼女の夫が死んでからね」
「成る程。それで三度目の目覚めが、今回だったと」
「えぇ。大幅に強くなっていたそうだけど、フローラさんとグレイスさん、そしてファブニールによって討ち滅ぼされたわ。最後にはまた復活して、ヴリトラに吸収されたけれど」
「詳しく聞かせてくれ」
「えぇ、わかったわーー」
「おおぉっ!」
グレイスの剣から黒炎が噴出し、邪竜を焼き焦がす。しかしあまり効果はなく、邪竜の反撃を受けた。
「くっ、ろくな傷も負わせられんな」
「直接攻撃でないと効果がありませんね。…ではグレイス、もう一度星になってください」
「仕方がないか。では、行くぞーー⁉︎」
「あぁ、勢いは強めておきました。…えぇ、効果はあったみたいですね」
ものすごい轟音とともに、グレイスがマテリアに突進する。その剣はかの龍に深々と突き刺さり、内部を黒炎で焼き焦がした。
「グアアアアッ!」
「くっ…!」
波動によって吹き飛ばされたグレイスを、フローラが魔法で受け止めた。
「これでダメージは入ったか」
「微々たるものですね。再生力が高すぎる。もっと高威力のものを叩き込まなければ」
「これ以上、か」
「それならば、私が引き受けよう」
銀の槍が、黒い龍を穿った。
「ファブニール」
「あぁ、こいつは私が仕留めなければ。この真槍ヴリトラでな」
「…槍か」
「あぁ。…と言っても、あれほどまでに強化されては、一人で相手取るのは不可能だ。…契約者よ、どうか手伝って欲しい」
「あぁ、勿論だ」
邪竜が復活する。前よりも早いなと、ファブニールは目を細めた。
「さて、行くか」
そう言って、ファブニールの姿が消えた。…と同時に、天から槍、否、彼女が降って来た。
「ーーふっ」
それは邪竜の頭蓋を貫き、首筋を抜け下に。そこから無数の斬撃が放たれ、マテリアに多大なるダメージを与えた。
「くっ、やはり、再生力が強すぎる」
だが、これでさえもマテリアは再生した。そして返しの一撃を放つが、ファブニールはこれをたやすく回避し、腕を切り落とした。…落ちた腕は消滅し、傷は数秒で再生したが。
「やはり、アレしかないか。…おい、契約者」
「なんだ?」
「奴を殺すには、龍殺しの武器で魔核を狙うしかない。最早私の武器では不可能のようだ。つまり」
「この剣か」
「あぁ。今、私の魔力を取り除く」
そうやってファブニールの手が触れた邪剣が眩い光を放ち、そこから白銀の剣が現れた。
「実際のところ、私も魔力で覆わなければ使用できなかった。お前ならどうだ?」
「いや、大丈夫だ。…若干軽くなったな」
「よし。それでは、それに賭けるとしようか。…安心しろ、賭博で負けたことはない」
「賭博ってな…」
「まぁ、心強いですね。グレイス、私はあなたの補助をします。男性なのですから、一撃で決めてくださいね」
「…あぁ、わかった」
この二人についていくのは、もう諦めた。グレイスは剣を高く掲げ、そこから白い焔が噴出する。
「俺の炎とは正反対だな」
「話している暇はないようだ。…私が引きつけよう」
そうやって、グレイスの準備のための時間稼ぎをするファブニール。彼女としては自分が仕留めたかったが、この様な状況で私情が優先できる性格でもなかったらしい。
「『白焔剣』と言ったところか。感覚は前と同じだ」
邪剣にそうした様に、さらに魔力を叩きつける。そうすると白い焔に黒が混ざり、次第に色がなくなっていった。
だが、もう頭上は見上げない。ありったけの魔力を叩き込み、剣を振るうだけだ。
噴出していた炎が収縮し、剣を固く覆った。背中の龍翼を模した飛行魔法陣にフローラの風が寄り添い、より高速での移動が可能となっている。
「ーー準備完了だ」
「行ってらっしゃいませ」
「よし、頼むぞーー」
距離からして、500メートル。それだけの助走距離が必要なのだ。
龍翼が巨大化する。それは莫大な推進力を生み、
「さらばだ、邪竜」
剣士を龍の心臓へ、一直線へ導くーー!
「ーーッ、グアアアアッ!」
龍が大きく息を吸う。そして、口元に巨大な魔法陣が出現し、龍の全力の一撃がグレイスを襲う。
「ーーさせません。『風星結界』」
グレイスの目の前に顕現した翠の星空が、彼に祝福を与えた。フローラが作り出しファブニールが補強した防壁は、大陸を一撃で焼きつくすほどの息吹を、完全に防いだ。
「一人では勝てんな。…そこが、貴様の敗因だ」
そのまま彼は、マテリアの魔核へ到達し、空間固定の壁を打ち破り、邪竜を滅ぼしたーー。
グレイス編。実はこんなに長かった。あとは本編に書いてあった内容に続きます。気になる方は68話あたりからどうぞ。




