69話 死にまくれば神になれる、らしい。
「…そろそろか」
998回。今までにクラムが死亡した回数である。アリシアの件も含めると、実に999回。
もう、何ヶ月立ったかもわからないほど、ひたすらに戦い続けた。…圧倒出来るのでは?と思うかもしれないが、炎魔法の悉くを炎龍に無効化されたクラムは、他の属性の魔法を使わざるを得ず、五属性を完全に封じられたクラムには、最早聖属性魔法しか頼るものがなかった。
ようやく互角に戦えるようになったのだが、どうにもこれではダメらしい。
『後一回だ、龍神。あと一度の死で、汝は真なる神へと成る』
『あと一度、か。もう殺されるのはごめんだが』
『力は満ちた。後はお前が、自らの人としての命を捧げるのみ』
「…最後は、自殺か」
と言いつつ、剣を心臓に当てるクラム。
「セレシア。必ず戻してくれよ…」
そして勢いよく、最後の生を捨てた。
クラムの背中に浮かんでいた翼のような物が消え、背中から本物の、8対の翼が生えた。
そして、彼が周囲に満ちる力を吸収し始める。五龍は彼に向かって、自らの力を明け渡した。
そして、彼を包んでいた黄金の球体のような結界が膨張して消え、中から新たなる『神』が現れた。
『新たなる龍神よ。その力をもって、世界に救済を』
神の姿が消えた。同時に龍の姿も消え、彼らは1本の神の剣となって、神に寄り添うのであった。
「やっぱりさすがだなぁ、ヘイロウ」
「空間無しでこれとは、いよいよ化け物だな、ボス」
立て続けにやって来た龍を討ち取った彼らは、その亡骸の上で会話に勤しんでいた。龍狩りの狩人に転向したほうがいいのでは?と思うほどの手際の良さであった。
「さて、他はどうなってるかな?」
「この程度ならば、他も大丈夫だろうーー」
「やるじゃない、セレシア」
「お姉様こそですよ」
アストレア姉妹の方も大丈夫だったようだ。
「おい、お前らー。…無事か」
「えぇ、お陰様で」
「良かった。今回は被害が全くないからな。聖王も満足しておられるだろうさ」
「…あの親父が満足しようがどうでもいいんだけど」
「皇子様も喜んでくれるのではないかな?」
「それもそうだね!」
「クラム様、大丈夫でしょうか。ーー⁉︎」
「ん?どうしたの?」
「…エルフレア様。聖女が作った『巫剣』について、詳しくお聞かせ願えますか」
「なるほどな。わかった、ついて来てくれ」
「はい」
「…ん?どうしたの?セレシア?」
尤も、何かありそうだが。
「まぁ、こんな感じですかね」
「…すごいですね」
「いえいえ。クラムに比べたら全然ですよ」
ヨミが動きを止め、バールが仕留める。彼らは良いコンビネーションで、見事龍を討ち果たした。
「…兄さんは、特別ですから」
「そうですか」
「…はい」
彼らはしばらく、クラムについて話し合っていた。
「ふぅ。…助かった、ファブニール、フローラ」
「いや、元々私が仕留めるべきだった敵だ。例には及ばん」
十二体のうち最強の龍である、邪竜マテリアを相手取ることとなったフローラとグレイス。当然ながら苦戦するが、ファブニールの助けを経てなんとか討伐に成功した。
「攻撃補助も防御も任せるとは。私から言いだしたとは言え、貴方はイノシシですか」
「作戦だから仕方がないだろう。そうでもしないと仕留めきれなかった」
「…まぁいいです。最近クローゼットの中身が貧相に見えましたので、貴方が豪華にしてくださるのならば、許して差し上げても構いませんよ」
「…マリアス家の財政が破綻するからやめてくれ」
いつも通りの二人を、ファブニールが微笑ましく見ている。だが彼女だけはどうしても、これで終わる気がしなかった。
まさしくそれは、図星だった。
消滅した筈の真龍達が一斉に復活する。そして巨大な大穴から、巨大な龍がもう一体、漆黒の闇と共に顕現した。
「龍神、ヴリトラ」
ファブニールが珍しく驚愕する。
「まずい、新たなる龍神はまだーー」
『我が同胞はどこですか。隠さずに答えなさい、人の子よ』
空が夜に、いや闇に染まる。それでいて何処か視界は晴れ渡り、グレイス達は不気味な感覚を味わされていた。
「五体の龍とともに、異界へと消えたよ」
『そうですか、ならば、都合がいい』
大空を覆っていた闇が、大地にも伸び始める。
『世界を闇に染めてから、彼の覚醒を待つとしましょうか』
結界の中には、闇の侵食はない。彼らは復活した真龍に向け、戸惑いながらも剣を向けたーー。
『その必要はない。今、ここに降臨した』
だが、その声によって、両者の動きは止まった。不思議なことに、それは大陸中の総てが、耳にした言葉だった。
『来ましたか、龍神』
『貴方もそうだろうに、ヴリトラ』
『えぇ、そうですね。さて、私も久しぶりの現世です。少しばかり世界を闇で覆っても構いませんよね?これでないと私は、数分もこの世界にいられないのです』
『…いや、我ら龍神というものは、そう簡単に現世にいて良いものではない。ウロボロスの様に隠居するのが吉と言うものだ』
『新米だと言うのに、よく言いますね…。よろしい。では、早速ですが呑ませて頂きます』
そうやって、新たに現れた『翼の生えた、龍の甲冑を着た様な巨大な騎士』の下に闇が迫る。それを彼は、
『…無駄だ』
いとも容易く吹き飛ばす。
『…ならば』
自身の眷龍から魔力を吸い上げ、巨大な波動を放つヴリトラ。その一撃は神を殺し、世界に終焉を告げるに相応しいものだった。
『…この程度か?』
それすらも軽々と、剣で受け止めてみせる騎士。ヴリトラもそれには驚愕し、
『…⁉︎ウロボロスですら、この一撃を受けて無傷ではいられなかったと言うのに』
『そもそも貴方の一撃は未完成だ。全13体の眷龍のうち、力を完全に引き出せたのはたった7体だったのだから』
『そう言う、ことですか』
『それに、だ。貴方と私では、力の強さが圧倒的に違う』
『…くっ』
人から龍神へ昇華したクラムは、体内で女神の魔力と龍の魔力を融合させ、莫大な力を得ることができる。対し龍から龍神へ昇華したヴリトラは神の力を『持っている』だけで、融合することはできていないのだ。
『深淵に帰れ、ヴリトラよ。この現世に、貴方の居場所はない』
『貴方も、そう言うのですか…!』
闇が覚醒する。さらに強く全てを覆ったそれは、結界を破壊し7体の龍を全員飲み込んでいった。グレイスなどは騎士が張った結界のおかげで無事である。
『好きなだけ暴れろ。…これが最後だ』
『消えなさい、生意気な新米ーー!』
闇が、巨大な槍と化す。
それは一直線に騎士へと向かい、
『…七天開闢』
火、氷、風、雷、土、光、そして命属性による、虹色の光。 騎士の剣から放たれた七色の光によって切り裂かれ、ヴリトラもまた、それによって滅ぼされるのだったーー。
ものすごい急ぎ足。多分改稿により改善されると思うけど、とりま完結させたいでござる。




