6話 鬱陶しい。
「--次は闘技場だ。生徒同士の決闘や実戦形式の訓練などで使う」
担任のジャック先生が、クラム達新入生に向け学園内の設備を紹介していた。
丁度闘技場に来た頃、ある生徒が先生に向かって請願した。
「早速使わせていただいていいですか、ここ。ヤツと決闘がしたい」
「…ヤツとは?」
「私のことでしょう。先日、机の下に『果たし状』のようなものが」
グレイスに向けて放たれたジャックの質問に、クラムが答える。
「まぁ、いいが。受けるのか、この勝負」
「そうですね。逃げたといわれるのも嫌なので、ここで一度手合わせしておきたいなと」
「ほう、随分と余裕そうじゃないか。まぁ、数分後にはなくなっているだろうが」
グレイスは自分の実力に、かなりの自信を持っているようだ。それに恐らく、クラムの実技を見ていなかったのだろう。相手の実力も把握できていないに違いない。
「では、早速だ。ほかの先生なら止めるだろうが、生憎私は好戦的な性格でね…両者、開始戦に移動してくれ」
クラムとグレイスが、闘技場の中央へ移動し、いくらかの距離をとって、向かい合う。
「じゃぁ、始め」
その一言で戦いは始まる。
「行くぞ! 焼き尽くせ――『黒炎槍』!!」
先に仕掛けたのはグレイスだ。十数本の黒い炎の槍を一度に作り出し、目にもとまらぬ速度でクラムへと打ち出す。
対しクラムと言えば、開始線から全く動いていない。真っ直ぐ相手の攻撃を見据え、
「詠唱、か」
何かつぶやいたかと思えば、炎の槍が全て爆ぜて、かき消されていた。
「なっ――」
「これで終わらせるのもな。もう少し強い魔法はないのか」
「クソっ、舐めやがって!」
グレイスが火球を生み出し、空へ打ち上げる。
「灰になって消えろ――『黒流星』!!」
その火球は空中で爆散し、無数の流星となってクラムに襲い掛かった。だがそれに対してもクラムは何ら動くことはなく、
「隙が大きい」
グレイスに火球を見舞い、自身は炎の防壁で無傷。実力の差を見せつけた。
(あいつに会ったからだろうか?如何も力を誇示したくなっている)
余りにも調子に乗りすぎな自分を、冷静になったクラムの頭が分析した。第一、戦場で突っ立っている馬鹿はいないだろう。
「お前相手にこれを使わされるとは…!」
その一瞬の思考が、取り返しのつかない事態を招いた。
たった一発でボロボロになったグレイスが作り出し、クラムの頭上に降臨した太陽。それが真っ直ぐに、彼に向かって落ちてくる。
(まずいな、これでは、戦場で友軍を守れない)
どうやらまだ調子に乗っているクラムが、素っ頓狂なことを考え始めた。そのまま陽は堕ち、滅びの刻が到来する。
(いや、これなら)
何やら思いついたようだ。クラムはこの戦いの中初めて手を伸ばし、銃のような形に構える。
「堕ちろ――『黒炎星』!!」
「『放射』、『包囲』」
グレイスの渾身の一撃を、か細い螺旋の炎が迎え撃つ。
「ハッ、そんなもので防げるわけが」
「――『収束』、『消滅』」
その炎は、黒き星を膜のように囲い。
次第に収束し、かの星を鎮め、ついには消え失せた。
「ふぅ…」
「甘い!」
だが、それだけでは終わらない。隙を見たのか、グレイスが黒い炎で剣を象どり、クラムに切りかかる。
しかし――
「ここらで終わりか」
「ク、ソ…」
投げ倒され地面に打ち付けられたグレイスの首元に、炎の剣が添えられる。
「勝負あったな。――勝者、クラム」
先生の審判が出るまで、グレイスは決して、負けを認めなかった。