61話 お披露目らしい。
「案外、反応が薄いですね」
「そうでもない。山の様に祝辞が送られてきたぞ」
「完全に予知していましたね」
「当たり前だ。そのために噂を流したのだから」
結局のところ、帝国ではクラムの正体に『やっぱりか』という反応が多かった。聖王国の方といえば、まぁ、そういう事もあるよねと、若き日の聖王を知る人物は皆、納得していた。…それでいいのか聖王よ。
聖女が嫁に出るなどということはどうなのか、という意見が出るかとも思われたが、相手が主神アストレアの選定者だ。むしろ貰い手がそこくらいしかないだろうと、国民の意見は大方一致したそうだ。
まぁ、セレシアの聖女という役目上、暫くは婚約という形に収まりそうだ。クラムはほっと息をついて、いつも通りの帝都を見下ろした。
「と言うわけで、帰ってよろしいですね?」
「あぁ。アカネが帰してくれるかはわからないが」
「そうですね。…では、失礼します」
だから早めに退避しようとしたのだが、そこは残念、ヨミとアカネに捕まってしまった。
「クラム、せっかくまた会えたのだから、ゆっくり話をしましょう?」
「兄さん、私もお話し、したいな」
「…はぁ、わかりましたよ」
そう言って彼は、辛うじて言えそうな自分の経験をつぎはぎして、聞こえのいい話を数時間ほど、女性陣に披露する羽目になった。
「おう、皇子。割と早かったな」
「お陰様で。ボス。お変わりない様で何よりです」
「傷つく様なことなんてしてないからな」
「戦場に行って傷つかないなんて聞いたことがありませんよ」
「それをお前が言うか」
「…いえ、やはり何でもありません」
「そうか」
ボスは魔法が使えない。…と言うより、使わない。
彼は自分の周囲の魔法の一切を無効化する『無法空間』の使い手である。彼の前では魔法銃は意味を成さず、よってこの世界の戦場では、彼の能力は絶大な威力を発揮する。世の中に出回っているものなど、99%が魔法銃だ。実銃などほぼ、ここにしか無いだろう。
「まぁあれだ。お前が皇子とわかった以上、これからは前線に出てもらうからな。流れ弾が当たっても悔やむなよ」
「了解しました。いい加減真正面から戦いたくなってきたところです」
「あぁ、お前の仕事は俺が引き受けておく。…心配するな、俺は虐殺なんてしなくても、目標を達成できる」
その方法、是非教えて欲しいものである。
「さて、件の皇子が戦場に出れば一体どうなるかな?これは見ものだぞ」
「そうだな。そろそろ前線に出てもいい頃だと思っていた。…行ってこい、クラム」
「はい、了解しました」
その数日後。内乱の真っ只中に例の皇子が出現したことに周囲は驚愕し、内乱は徐々に鎮圧されていくこととなる。…仕事が無くなるのではとクラムは気にしたが、心配するなとボスに言われたので、そのことは頭から放り出す事にした。




