5話 また会えて嬉しい。
「どうして逃げる様に去ったのですか!呼ばないと来ないのですか、あなたは!」
「似合わねぇ、似合わねぇよ、その口調…」
ダメだ、笑いが止まらない。
幼少期はあんなにやんちゃだったセレシアが、たった数ヶ月揉まれただけでこれとは。大聖堂恐るべしである。お陰で頭痛も少し和らいだ。
どうもセレシアといると頭痛がする。それだけでは無く彼女との、何か繋がりのようなものも見えるのだが、それを注視すると痛みがひどくなるようだ。
クラムの心では、『彼女に会いたい』と言う欲望と(本人は気づいていないが)、『激しい頭痛』という苦痛が天秤の上で揺れている。カーロン先生が作ってくれた魔法で軽減出来ることがわかったので、きつくなって来たところで発動し、事無きを得た。
「それにしても、まるで『聖女』だな、お前」
「そう言って、照れ隠しのつもりですか?顔が赤いですよ、クラム様」
「笑いだよ笑い。クラム様ってな…」
成る程どうやら、大聖堂で読心術でも学んだのだろうか。聖女は想い人の感情を正確に読み当て、更にからかいを加える。恐らくだが、今まで散々『妹扱い』されたことへの、一種の報いだろう(クラムには全くそんな気は無く、『ほっとけない』と思いずっと側にいただけである)。
「そうですか?ふふっ」
「ーーっ」
慈母の様な微笑みを前にすると、驚くほどに美しく変貌したセレシアの姿に、クラムは圧倒されるしかなかった。
「…まぁ、あれだ。頑張れよ」
「えぇ、言われずとも。貴方が私に『声を掛けてくれる』まで、私は私を磨き続けるのみです」
「…お前、本当にセレシアか?そんな事、前のお前は言ってなかったはずだが」
「大聖堂で色々学んだのですよ。あれから色々と考えて、自分なりに結論を出しました」
会話の途中、セレシアが息を整え、クラムの手を取り、目を見据えて、『誓う』。
「私は待ちます。貴方が私に声を掛けてくれるまで。いつまでも、例えこの指輪が朽ち果てようと。貴方が来てくれる事を信じて」
「姫様気取りかよ。ーーったく。仕方がねぇなぁ。なら、俺が一目惚れするくらい、美しい女性になってみやがれ。そしたらまぁ、こっちから求婚でもなんでもしてやるよ」
「えぇ、分かりました。お任せ下さい、クラム様」
一度一目惚れした相手に、又一目惚れするなど無理な話だろう。しかし彼等はそれを承知で、この誓いを立てた。
まぁ、簡単だろう。私達ならばきっと、何千回だろうが一目惚れする筈だからーー
読心術などいらない。心はすでに通っている。
別れた後の二人の寝顔は素晴らしく幸福に満ちたものだったというが、覗けたのはセレシアの方のみで、しかも彼女の侍女一人だけであった。