57話 埒があかない。
バトる回。ちょっと異次元。
「ご主人様」
「アリシアか。屋敷は大丈夫か?」
「はい、万事滞りなく」
「よかった。…これは前の」
「結界です。ある一定の距離を通り越すと反対側から戻ってくる、謂わば球体のような空間です」
「成る程…。ありがとう、これなら周辺被害も気にせずに済む」
「はい、ご存分に。調子に乗っているお母様など叩きのめして下さい」
「それは酷いんじゃないかな娘よ。少しはこっちの応援をしてくれ」
「頑張ってください」
「なんだかなぁ…」
結局、アリシアの作り出した世界で決闘というか、喧嘩というか、まぁそんなものが行われることになった。ちなみにヘイロウも見学するらしい。
「先手はあげるよ」
「いえ、結構です」
「そうかい…では」
そう言って右手を上げ、エルフレアは指をパチンと鳴らす。 彼女のその動作に呼応して、超高速の隕石群がクラムに降り注いだ。
「あれま、無傷か」
ただ、当たり前のように撃墜される。おまけにいつのまにか、エルフレアの右手が吹き飛んでいた。
「こっちは重症と」
… と言い終わった後には右手は衣服ごと復活していたが。彼女は次だ次、と一面の空に星を輝かせる。
「じゃぁ、これはどうかな?」
現在のこの世界の時刻は夜。満面の星空である。
そこに瞬く無数の星々。億や兆など優に超えるそれらが、
「ほいっと」
クラムに向かって墜落する。岩石惑星な限定などではなく、惑星だろうが恒星だろうが御構い無し。星空の総てが彼を襲った。
中には、太陽よりも大きな星もあった。ここからは全く見えないような星も落ちて来た。エルフレアの魔法により、現在この世界に存在する星が、たった数十秒で消費され消えて無くなった。物理限界を超越した速度で飛来する無数の星々は、その終焉とともに少年を葬り去る…。
「本当に空から、星が消えましたね…。太陽も無くなってしまった。この世界は冷え込みそうだ」
「いやいや、君の母親も流石にこれではダメージを与えられたのだがな…。無傷か」
「手数があればいいと言うものではないでしょう。何かがぶつかった程度で傷などつきませんよ」
訳がなく。結果的に空から星が消え、大地が凄まじい砕け方をしただけで、他はなんの変化もない。恐竜時代のような凍結は、落ちてきた恒星によって阻止された。…そう言えば、只今の気温は計測不能である。とっくにヘイロウとアリシアは別空間へ避難していた。
「…あいつら、化け物だな」
「そうですね。計測不可能な距離にある星を、『総ての星を堕とす』という概念の元強制的に呼び寄せ、時間加速により物理的速度限界を大幅に超越する。お母様のあの魔法はきっと、クラム君でも真似できないでしょう」
「あんなのを真似されたらたまらん。…しかし、あれをどうやって、無傷で防ぐのやら」
「ご主人様は防いでなどおりません。『回避』と『防御』の概念を、お母様の魔法によって奪われているので」
「…は?じゃぁ、アレを素で耐えて、かすり傷負わないと言うのか、あいつは」
「そうでしょうね。恐らく次元断絶でも切断できない、絶対の耐性をお持ちなのでしょう。…ご主人様にダメージを負わせられる存在が、果たしてこの世界に幾ついるのやら」
「…あぁ、わかった。つまりあいつはとっくに、俺らの『常識外』の存在なんだな」
「そう考えていただいて結構です」
当たり前のように兄貴分から人外認定されているクラムだが、恒星の落下をノーガードなのに無傷で凌ぐ人間など存在しないだろう。
「とりあえず太陽だけは復活させておきます。…どうやら魔法の撃ち合いではどうにもならなそうですね」「らしいな。お互いこのままではずっと無傷だ。お前は喰らっても効かないし、私は発動中の魔法を消せるし」
「となると、接近戦ですね」
「あぁ。怪物同士の戦いは結局、ここに落ち着く。ただの『殴り合い』にな」
クラムが炎でショーテルのような剣を、エルフレアが空間転移で槍のような杖を構える。
「なんだ、その件の形状は?」
「ここにあった剣を色々試してみて、これが一番良いなと思いまして」
「あぁ成る程。こっちは剣槍みたいなものだから、リーチはこっちの方が上か」
「手数はこっちの方が上ですね。…まぁ、やっぱり多ければ良いと言うわけではないですが」
エルフレアの杖の先端から、魔力で形取られた剣が現出し、杖が剣槍へと変わる。
「では今度は、こちらから」
「あぁ、いつでも来てくれ」
結局のところ、エルフレアは只、難癖つけて戦いたかっただけであり、クラムも珍しく、正面衝突を望んでいただけなのだが、そんなことは完全に、彼らの頭からは消えて無くなっていた。
剣が唸る…などと言うことすらなく。
手が動いたかのように見えた瞬間には、エルフレアには千を超える斬撃が迫っていた。
それを軽々と全て打ち払った彼女は、お返しとばかりに全霊の一撃をクラムへ。剣で受け止めた後威力を逃した彼の背後で、先程の爆発など比にならない程の衝撃が発生した。
だが、それで終わるはずもなく。クラムの叩きつけるような一撃を受け止めたエルフレアと共に、地面が著しく陥没する。そのまま圧を高め、体制が崩れた瞬間に切り飛ばす。逆らわずに吹き飛んだエルフレアは、コンマ1秒足らずでクラムの背後から接近してきた。
突撃を受け止めるクラム。二人は一旦距離を取り、
「これじゃぁ決着がつかないじゃないか!」
「そうですね。…このままでは千日手だ」
完全に行き止まりなこの勝負を嘆いた。…のだが、そこに救世主が現れた。
「ん?念話か。…はいはい。戻って来いって?あぁはい、わかりましたよー」
「…しょうもない終わりかたですね」
「まぁな。取り敢えず私の負けってことで。逃げるの私だし」
「引き分けですね。どちらにも決定打がなかった」
聖王からの呼び出しがあったようで、エルフレアは帰還することになった。戦いはここに終わった、否、中断を余儀なくされた。
因みにこの段階での勝負では、途方もない時間のあとクラムが勝利できるのだが、そんなことをしている暇は、彼らにはなかったのだったーー。
アリシア「正直、この世界も崩壊する危険性がありました。ここで終わってよかったかもしれません」
ヘイロウ「世界の崩壊による消滅、か。あいつらを殺せる手段など、それしかないのではないか」
アリシア「ここの崩壊によって、ですか?その世界の住人でない存在は、崩壊直前に元の世界に戻されるので、不可能ですね」
ヘイロウ「…。」




